日々考えていること

日々考えていること West Coast Style その2

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その2は造りのお話です。

COEDOというか、植竹はWest Coast Styleが最も得意とするカテゴリーです。

定番で造っていないのに不思議なもんですが。

これは明らかにサンディエゴのブルワリーからの影響を受けての事です。サンディエゴのIPAばっかり飲んでいたので、自然とこうなりました。それからBallast Pointとのコラボが決定打となったと思います。

West to East IPAに始まり、Hoppy WInd Session Ale、Imperial IPAなどなど、アメリカンスタイルのビールは全部West Coastな仕上がりになっているはずです。その前に作ったBelgian IPAもサンディエゴのBelgian IPAに影響されて造ったので、West Coastの流れを汲んでいます。

最近では伽羅もWest Coastな雰囲気だという噂です・・・。

 

とにかくホップを沢山使うというのはWest Coast Styleの基本中の基本なのですが、実はそれだけではWest Coast足りえないのです。今やアメリカ全土どころか、ヨーロッパや日本でもホップの強烈なビールが造られていますが、いったい何が違うんでしょうね。

 

日本だけに限定されて話ではないと思うのですが、ビールの本にはよくこんな事が書かれています。

「高いIBUを支える為にはビールのボディも強くしなければならない」

West Coast Styleではこの定石を無視します。ボディなんか不要です。

苦いビールの何が悪いの?ホップ大好きだから苦ければ苦いほど、アロマが強烈であればあるほど良い、というのがWest Coast Styleの考え方です。

そもそもカラメル感や甘味というのはビールのボディを構成する一要素でしかなくて・・・あ~この辺のお話もちゃんと書きたいんです・・・。またそのうち。

 

ですからビールの仕上がりも徹底的にドライにします。

麦芽の配合やマッシングの温度、酵母の選定もドライに仕上げる事を前提に決めてゆきます。

 

ヨーロッパからの影響が強いアメリカ東海岸やもちろん日本でも、高いIBUのビールを造る時はカラメルモルトでボディをつけようとする傾向があるようです。ヨーロッパのビールはそもそもカラメルモルトを多用する傾向にあるので、その影響もあるのでしょう。

カラメルモルトを沢山使ったビールがどうなるかというと、色は濃く、甘く、カラメリックな仕上がりとなります。

IPAであれば甘くて苦いビールとなる訳です。

West Coast Styleを造る場合はとにかく甘味を切らなければなりません。したがってカラメルモルトを殆ど使用しません。

事実サンディエゴのIPAは非常に色が薄いはずです。

 

話がややそれますが高温多湿の日本にはドライなWest Coast Style IPAが非常に合うと思うんです。

ベタベタと蒸し暑い日には甘苦いIPAより、ドライでパリッと苦くシトラスの香りが爽やかなIPAを飲みたくなりませんか?

日本でもサンディエゴのビールが大人気なのは気候のせいもあるのかな、と思ってます。

 

話を戻しましょう。

私の場合はカラメルモルトは色の薄いものを、上限5%までの使用に留めます。

IBUが高いからと言ってボディを補うということは特に考えません。

ベースモルトの他に使用するモルトはWheatやMunich程度ですが、味わいに深みを与える為にこれだけで充分です。

 

マッシングの時の温度も62℃-65℃の範囲です。

低温でじっくり糖化させ、醗酵度の高い麦汁を造りだします。基本IPAを造る時はマッシュアウトもしません。

これはロイターリング中にもβアミラーゼをガツガツ働かせてとにかく醗酵度の高い麦汁を造るためです。

昨年見てきたサンディエゴのブルワリーでは、そもそもマッシュタンに昇温機構を持っていない設備が多かったです。いわゆるワン・ステップ・インフュージョンでの仕込みで充分だということです。

逆に必然的にマッシュアウトがなくなるので、結果ドライな仕上がりになっているかなと。

 

それから水ももちろん重要です。

そもそもIPAやペールエールなど、ホップの強いビールを造るのに軟水は向いていません。

というか、ジャーマンピルスナーですら本当はやや硬水の方が向いていると思っています。

という訳でIPAを造るときにはCacl2やCaSo4を使用してしっかりと水質調整をしてあげましょう。硬度だけではなくアルカリ度もしっかりと下げなくてはいけません。もちろん仕込み水だけではなく、スパージングの水にも気を使いましょう。

 

続いてイースト。

これはもう、健康なイーストを使用するということに尽きます。

基本はAmerican Ale Yeastと呼ばれる醗酵度が高く、クリーンな味わいのビールを醸し出すイーストを使用する事ですがEnglish Yeastを使用しているカリフォルニアのブルワリーも沢山ありますので、そこはあまり気にしなくていいと思います。

健康なイーストを使用して適切な管理をしてあげれば必然的に醗酵度は高くなり、綺麗な味わいとなります。

 

そしてWest Coast Styleの名物Hop Bombです。

当然のことながらガンガンドライホッピングを行います。

現在のWest Coast Style IPAの最低ドライホッピング量は500g/HLと言われています。

1klに換算すると5kgのドライホッピングが最低量ですね。

Double IPAになると750g/HLが最低量です。

御参考までに、昨年発売したImperial IPAは1100g/HLドライホッピングしています。

 

最後に最重要なことを。

徹底して雑味を切る事です。

代表的なオフフレーバーはもちろん、通常はオフフレーバーとみなされないものも徹底して排除しなければなりません。

ホップが強いからマスクされるのではなく、ホップを大量に使用するので通常であれば問題にならないホップの雑味が非常に強調されてしまうのです。

如何にして綺麗にホップの美味しい所だけ引き出すか。

それがWest Coast Styleたらしめる重要なファクターです。

どうしてもホップのキャラクターばかりが注目されてしまいますが、サンディエゴのブルワリーの根底にあるのは綺麗な味わいという事を忘れてはいけません。

どこまでいっても丁寧なビール造りが基本です。

 

ビールのスタイルというのは時間と共に変化していくのが普通です。

アメリカンスタイルがWest Coast StyleとEast Coast Styleに細分されてきたように、今後ますます多様に進化していくことでしょう。

2回に渡ってWest Coast Styleについて書いてみましたが、これは現時点での私の解釈です。きっと1年後にはまた違うことを考えていると思います。その時はまたその時点での考え方を書き散らかしてみます。

 

それではWest Coast Style IPAを美味しく飲みましょう!Cheers!

 

January 28th, 2014 ビアスタイル, 日々考えていること

日々考えていること West Coast Style その1

今日はビアスタイルについて考えてみます。

 

みんな大好きIPAですが、近年のメインストリームはイングリッシュスタイルではなく、アメリカンスタイルになっていることは誰も否定できないと思います。

IPAだけではなく、ペールエールやヴァイツェンなどもアメリカンスタイルの影響を強く受けるようになっているのではないでしょうか。

ドイツでもアメリカ原産のCascadeというホップが栽培され始めたり、いわゆる”C”のキャラクターを持つ新品種が開発されたりと、アメリカンスタイルの流れは世界に広まりつつあります。

簡単にアメリカンスタイルというものをご説明すると、アメリカ産のホップを使ったビールとなりますが、現在はもう少し解釈が柔軟で、アメリカンホップでなくてもアメリカンなキャラクターがあればアメリカンスタイルに分類されているような気がします。例えばニュージランドのネルソン・ソーヴィンやオーストラリアのギャラクシーなどを使用したビールは、明らかにアメリカンスタイルに分類されているように思います。

 

さらに視点を広げると、ドイツ産、ヨーロッパ産のホップを使った物でも、その使い方がアメリカ的であればアメリカンスタイルと見なされている場合があります。

代表的な物ですとAnchor BrewingのAnchor Steamなんかです。Anchor SteamはNorthern Brewerというイギリス原産のホップのシングルホップエールです。

まぁ、Northern Brewerはイギリスに留まらずドイツ、ベルギー、そしてアメリカでも栽培されていますから、Anchor社が使用しているホップがアメリカ産である可能性もありますが・・・。ていうか恐らくアメリカ産ですが。

 

さて、そんなアメリカンスタイルのビールですが、一口にアメリカンスタイルといっても現在はもうちょっと細分化しているのをご存知ですか?

特にIPAにおいて顕著なのですが、West Coast Style、East Coast Styleという風に分けられる事があります。

訳せば西海岸スタイル、東海岸スタイルとなりますが、つまりアメリカ国内の東と西で造られるIPAには、明らかに異なる特徴があるという訳です。その差が割と大きいので、最近は区別される事が多くなってきました。

噂によると、ビアスタイルガイドラインにWest Coast Style IPAとEast Coast Style IPAが別けて載せる?という議論が出ているくらい差は大きいです。

アメリカといっても広いですから、その土地の歴史的や地理や文化的な影響を受け、独自の物が出来上がっていくというのはごくごく自然な流れです。

今回はそんなアメリカンスタイルの中でも、私の最も好きで、造るのが得意なWest Coast Styleに絞って解説してみたいと思います。

 

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West Coast Styleと聞いて多くの方が思い浮かべるブルワリーはここではないでしょうか?

ご存知サンディエゴの雄、Green Flash Brewingです。

何しろフラグシップビールの名前はWest Coast IPAですからね。

彼らが初めてWest Coast StyleのIPAを生み出したという訳ではないのですが、その味わいのインパクトから今やWest Coast Styleの代名詞となっています。

 

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それからPort BrewingのWipeout IPAや、Ale SmithのIPA Yule Smith Summer辺りのビールも代表的なWest Coast Styleですね。Three Floydsはちょっと違いますが。

 

ここまで登場したビールを見て頂ければ大体分かるかと思いますが、West Coast Styleはとにかくホップのキャラクターが強いのが特徴です。

そして使用されるホップはいわゆる”C”のキャラクターを持つホップです。

具体的にはCascade、Centennial、Citra、Clombus、Chinookなどなど。命名する時に意識しているのかは分かりませんが、Cの文字を持つホップはシトラスのキャラクターを持つ物が多いのです。

それからSimcoe、Amarillo、Mosaic、Sorachi Aceなんかも良く使用されます。共通しているのはシトラスのキャラクターですね。

 

そもそもは北カリフォルニアのSierra Nevada BrewingがWest Coast Styleの元祖とされていますが、現在はサンディエゴのブルワリーがWest Coast Styleの中心となっているのではないでしょうか。

もちろんStone BrewingやBallast Point Brewing、Coronado BrewingのIPAもWest Coast Styleです。

ある意味でアメリカンスタイルの確立とWest Coast Styleの確立はSierra NevadaとCascadeというホップが成し遂げたと言っても過言ではないのですが、そのあたりの詳細はSierra NevadaのWebに書いてありますので読んでみてください。

偉大な先駆者に乾杯!

 

その2へ続く。

 

January 24th, 2014 ビアスタイル, 日々考えていること

日々考えていること スパージング

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今日はスパージングについて書いてみようと思います。

スパージングについては書く事が沢山あるので、恐らく今回だけではなく何回か書くことになると思います。

 

まず初めに「スパージングってなに?」という疑問にお答えします。

仕込みの第一段階として、粉砕した麦芽とお湯を混ぜマッシュという状態にし、糖化を行います。

糖化の終了したマッシュはロイタータンとよばれる容器に移され、麦汁と麦芽の外殻を分離する為のを濾過します。

マッシュタンとロイタータンを兼ねているものもあり、この場合はマッシュの移動はありません。

 

麦汁を濾過するとき、最初に得られる麦汁、つまり仕込み水に麦芽のエキスが溶けた物がいわゆる一番麦汁と呼ばれるものです。某K社では一番搾りなんて呼ばれるようですが。

一番麦汁を絞り終わったあとの麦芽の外殻の層(グレインベッド)にはまだ沢山の糖分が残っていますから、ここにお湯をかけてあげてグレインベッドに残った糖分を回収してあげます。

このお湯をかけてあげる工程をスパージングと呼ぶのです。

なお、スパージングによって得られる麦汁は二番麦汁と呼ばれます。さらにもう一度スパージングを行った後の麦汁は三番麦汁とスパージングの回数によって麦汁の番は増えて行きます。

100回スパージングを行ったあとの麦汁は101番麦汁ですね。

 

ここまで解説したスパージングの方法はバッチ・スパージングと呼ばれる方法です。

濾過を進めて行くと、麦汁の液面が徐々下がってゆきます。するとグレインベッドの表面が見えてくるので、そのタイミングでスパージングを行う方法です。

画像イメージはこちらを参照してください。

バッチ・スパージングは明確に一番麦汁、二番麦汁と区切る事が出来ます。

 

もう一つのスパージングの方法はフライ・スパージング、または コンティニュース・スパージングと呼ばれる方法です。

コンティニュース continuous  つまり、連続したスパージングです。

麦汁を濾過するスピードとスパージング量を合わせ、常に一定量の麦汁をキープする方法です。

スパージングの切れ目がありませので、一番麦汁、二番麦汁といった区切りもありません。

 

という様に、同じ湯をかけて糖分を回収する方法にも2通りの方法があるのです。

日本で多くのブルワリーが採用している方法はバッチ・スパージングです。COEDOもバッチ・スパージングです。

 

それぞれにメリット、デメリットがあります。

まず設備について。

これはバッチ・スパージングの方がより簡素な設備で行えます。液面が下がってきたら所定量のお湯をかけるだけですから。ストップウォッチでもあれば一定の量を散布することができます。

対して搾りの流量とお湯を散布する流量を一定にしなければならないフライ・スパージングでは流入、流出、両方に流量計が必要となってしまいます。

 

続いてロイターリングの手間。

フライ・スパージングの方が手間いらずです。

一度流量調整だけしてしまえば終わるまで放っておけます。対してバッチ・スパージングはスパージングのタイミングを見極める為、基本的にはロイター中は張り付いていなければなりません。

 

最後に麦汁の品質。

ややフライ・スパージングの方が優秀なようです。

諸説あるようですが、バッチ・スパージングの方がタンニンの溶出が多いとか。

理由はやや難解なので割愛させていただきます。

これは比べた事がないので何とも言えませんが・・・。

 

こんな感じでそれぞれに良い所、悪い所があるのですが、方法だけではなく、散布するお湯の質や温度なんかも麦汁品質への影響が大なので、一概にどちらが優れているとは言えません。

 

さて、少し話は逸れますが、なんとなーく「一番麦汁!」と聞くと凄そうなイメージが湧くかと思いますが、これはいわば言葉遊びです。

通常の一番麦汁はポリフェノールの量が少なく、綺麗な味わいであることは間違いないのですが、フライ・スパージングの場合は、そもそも一番、二番という区切りがありません。

そして鋭い方はお気づきになったかもしれませんが、一番麦汁はいくらでも増やせるのです。

仕込み水の量を増やしたり、糖化中にお湯をマッシュに足してしまえば、それだけ一番麦汁の量を増やす事が出来てしまいます。厳密に言えば仕込み水の量を増やして一番麦汁を沢山取る事と、スパージングを行って麦汁を回収することは麦汁の成分的にやや意味合いが異なるのですが、基本的にはお湯を足すのが早いか遅いかの違いだけです。

ですからひとくくりに一番麦汁だから良い、二番麦汁だから駄目、という訳では全くないと覚えておいてくださいね。

 

ちなみにNorth Islandさんとのコラボレーションで仕込んだThe 1stですが、このビールは正しく一番麦汁だけで造られたビールです。一番麦汁=1st wortだけを使っていることが1stの名前の由来のひとつでもあります。

それから昨年造ったImperial IPAもほぼ一番麦汁だけで造っています。正確に言えば4バッチ仕込んで、1バッチ目だけスパージングを行いました。諸事情でその後はすべて一番麦汁だけです。

 

なんだか上手くまとめられませんでしたが、今回は簡単なスパージングのお話でした。

それではまた次回。

January 21st, 2014 日々考えていること

日々考えていること モルトの粉砕 その2

__     今回ははじめに、いかにして「我儘な粉砕」を実現するかを解説したいと思います。 我儘な粉砕というのは「殻皮は大きく、胚乳は小さく」というある意味矛盾する粉砕です。   まず粉砕方法は大きく3つに分けられます。 乾式粉砕、湿式粉砕、微粉末粉砕の3つです。 正確にいうと湿式粉砕はさらに加湿と湿式に分けられるのですが今回はまとめています。   このうち微粉末粉砕というのは平たいはなし殻皮諸共、粉微塵に粉砕する方法です。 あれ?と思った方、するどい。そう、粉末になるまで粉砕してしまうとロイター方式で麦汁濾過ができないのです。 つまりロイター方式以外での麦汁濾過方法があるということです。これはロイターのお話のときに詳しく。 今回はロイター式での麦汁濾過を前提として話を進めているので、微粉末粉砕のことには触れません。 まぁ、微粉末粉砕だと表面積が最大になりますから、糖化効率が他の粉砕方式よりかなり高く…(以下略)   続いて乾式粉砕です。 これは単純に麦芽をそのまま粉砕する方法です。シンプル。 対して湿式粉砕というのは、麦芽にやや水分を含ませてから粉砕する方法です。 詳しい解説をする前に、まず麦芽の粉砕機(以下モルトミル)の写真をご覧ください。   3       COEDOで実際に使用しているモルトミルの写真です。 中央に見える2つのローラーが回転し、押しつぶすようにモルトを粉砕していきます。 ローラー間の幅は調整でき、隙間の大きさによって粉砕の具合が変わります。   余談ですがこの隙間の調整が高難易度で、目盛なんかないので 隙間の大きさを計る謎の道具と手の感覚で調整していきます。結構職人技だと思います。   話が逸れましたが、乾式粉砕と湿式粉砕を比べてみましょう。 モルトをそのまま粉砕する乾式粉砕では、モルトの殻皮が乾燥していますから脆い状態です。 力が加わると割れてしまい、殻皮が細かくなりやすい粉砕方式と言えます。 これを回避するために、多段ローラー式の粉砕機があります。 先ほどの写真は2ローラー式の粉砕機ですが、4ローラーや6ローラーのものもあります。 上の段から徐々にローラーの隙間を細かくなるように調整し、複数回に分けて粉砕することで殻皮を大きく残し、胚乳を細かく粉砕することが可能となります。なんとなくイメージできますか?   対する湿式ですが、粉砕する前に麦芽に少し水分を含ませ殻皮をしなやかな状態にします。 すると粉砕ローラーを通過するときに、殻皮が砕けず、胚乳のみ押しつぶされるような形で粉砕されます。 ちょうど枝豆をさやからプチっと出すときのようなイメージです。   COEDOでは通常乾式で麦芽の粉砕を行っていますが、試しで湿式に調整したことがあります。 約600キロのモルトに霧吹きで水分を加えながら粉砕するという、苦行としか思えない人力湿式粉砕でしたが、効果は歴然でした。あまりの違いに驚いたことを覚えています。 濾過もスムーズ、収量も申し分なしと良い事づくめでしたが、最大の問題は手間でした。 現実的には霧吹きを粉砕の度にシューシューする訳にもいかず、現在は乾式で粉砕しています。 いつか比較の写真を載せる為にもう一度トライしましょう。   当然のことながら、ちゃんと湿式粉砕ようのモルトミルがあって インラインで水分調整してくれるようになっているんですよ。 人力湿式粉砕なんていうことは普通やりません。   さて、こんな風に書くと2ローラー乾式粉砕がダメダメなように思えてしまうかもしれませんが きちんとモルトミルを調整できていれば、全く問題なく良好な粉砕が行えます。 冒頭の写真をみてください。粉砕された麦芽の写真ですが大きな殻皮(Husk)、中くらいの粗粒(Grits)、そして粉末(Flour)と別れているのが分かるかと思います。 これをそれぞれ適切な割合になるように粉砕機を調整することが重要です。 細かすぎても、粗すぎても良くありません。 どの程度の割合が最適かというのは麦汁濾過の方式や仕込むビールによって異なるので一概には申し上げられないのですが、大体 Hust 15%、Grits 75%、Flour 10% あたりを目安にします。   ちなみにCOEDOでは、標準よりもやや粗めに粉砕を行っています。 その理由は殻皮の表面積を減らすことと、ロイター時間の短縮を狙ってのことです。 前回述べたように、殻皮からはポリフェノールなど雑味の原因となる物質が溶出するのです。 溶出は表面積が大きい、つまり殻皮が細かいほど、また湯に浸かっている時間が長いほど進みます。 例えるならお茶と一緒です。 茶葉を細かく砕き、長時間お湯に晒せば渋味が強いお茶になることが想像できるでしょう。   粗く粉砕することで表面積を少なくし、ロイターも早くなるという二重の効果で 殻皮からの雑味成分の溶出を最小限におさえています。 これも綺麗な味のビールを造るテクニックの一つです。   しかし先に述べたように、粉砕が粗いと収量がどうしても下がってしまうのです。 これはもう如何ともしがたいので、気にしない事にしています。 収量を犠牲にして、そのぶん綺麗な麦汁を得ているのです。ヒュー!贅沢!!   いかがですか?粉砕の重要性を分かっていただけたでしょうか? 実際には使用する麦芽の種類や、ロットの違いによって麦芽の粒の大きさは異なります。 日々微調整をしながら適切な粉砕を行うことが、良い仕込みの第一歩です。   仕込み方や原材料の種類に比べ、触れられる機会の少ない事柄ですが 知っていても特に得はしません。ナンパのネタにも使えません。 でも今までよりちょっとだけ、ビールへの愛着が増すかもしれません。   それではまた次回をお楽しみに。

December 17th, 2013 モルト, 日々考えていること

日々考えていること モルトの粉砕 その1

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モルトの粉砕という、超が付くほどニッチな話題に触れてみたいと思います。

この話題、1回で書ききるはずが、あまりにも長くなってしまったので2回に別けたいと思います。

 

改めてご説明する必要もないと思いますが、主なビールの原料は麦です。漢字で書くと麦酒ですしね。

正確に言えば「麦芽化した二条大麦」となります。

小麦や麦芽化していない麦、六条大麦も使われますが、メインは殆ど麦芽化した二条大麦です。

 

さて、この大麦ですがなんと1万年前にはすでに人の手によって栽培されていたそうです。

永らく主食として重宝されてきましたが、現代では小麦にその座を奪われています。

詳しいお話は割愛いたしますが、小麦と違い大麦はグルテンを形成しないので

加工性に乏しく、麺類、パン等に加工しまくれる小麦の方が現代のニーズにマッチしているというわけです。

現代においては、ビールの原料や飼料としての用途がほとんどのようです。

 

大麦は堅い殻皮を持っているのですが、そのまま食べると口当たりが悪く

殻皮を取り除く事が大麦を食する上で重要な工程となります。

これはもちろんビールにも当てはまり、殻皮を取り除くためのロイターという工程があります。

さて、ここからいよいよ本日の本題、粉砕に触れて行きます。

 

仕込みの一番最初の工程、粉砕。

文字に起こせば「麦芽を細かく砕く」という単純なことなのですが、非常に重要な工程なのです。

 

そもそもなぜ粉砕をしなければいけないのでしょうか。

主な理由を簡単に述べると麦汁を造る為です。当たり前ですけどね。

先ほど述べたように大麦は堅い殻皮をもっていますので、そのままお湯に浸しても酵素や澱粉が含まれる肝心の殻皮内部の胚乳部がお湯に触れないので、酵素が働かず、エキス分が抽出されないのです。

ビールの元となる麦汁を造る為に粉砕は必須の工程というわけです。

しかし、ただ粉砕すればいいというものでもないのです。

 

粉砕された麦芽はマッシュタンでお湯と混ぜられ、お粥のような状態(以下マッシュ)になります。

お湯に浸される事によって酵素が働き、麦芽中の各種成分の分解や、澱粉が酵素の作用により糖へと変換されていきます。これらは仕込みの主な目的ですが、今回の話題に関連して重要なのは、粉砕された麦芽は殻皮ごとお湯に放たれるということです。

ぶっちゃけてしまうと、麦芽の殻皮ってのはビールには不要なのです。

むしろ渋味、酸味などの雑味の原因になり、あまり長時間お湯につけておいてもいい事はありません。

そこで糖化が終わったら速やかに殻皮と麦汁を別ける必要があるのです。この工程がロイターです。

 

 

 

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こちらはその麦汁と殻皮を分ける工程で使用するロイタータンの写真です。

見ての通り、底にスリットの入った板が敷いてありますが、これはロイタータンの底から少し浮かせてあり、二重底のような構造になっています。スリットは殻皮が抜けない程度の細かな幅です。

ここへマッシュを入れるとどうなるでしょうか・・・?

ご想像通り、殻が板の上につもり層を形成します。この層を(Grain bed)グレインベッドと呼びます。

麦汁は液体ですからグレイベッドとロイター板のスリットを抜けて下へ落ちて行きます。

その過程でより細かな粒子やタンパク質なども濾過されて、クリアな麦汁が得られるわけです。

なんとなくロイターの原理はご理解いただけましたか?

ロイターにも語る事が山ほどありますので詳細はまた今度書くとして、重要なのはグレインベッドです。

 

なんとなく想像がつくと思うのですが、麦芽を粉砕する際に

殻皮まで粉々になるほど細かく粉砕してしまうと、ロイターの時にどうなるでしょう?

形成されるグレインベッドは非常に密なものとなり、麦汁がスムーズに通り抜けられません。

こうなるとロイターの時間は増大し、麦汁の酸化、殻皮から不要な成分の溶出、収量の低減、ブルワーの帰宅時間が遅くなる、「毎晩毎晩夜中まで仕事して、家族と仕事どっちが大切なの!?」、「もうあなたにはついていけけません。離婚してください。」というようにビールの味に悪影響を及ぼすに留まらず、夫婦間の危機を引き起こすなど、デメリットが沢山です。

また、あまりに細かすぎるとスリットの間を抜けてしまい、そもそもグレインベッドを形成できません。

 

では逆に、殻皮が大きく残るように粗く粉砕したらどうなるでしょう。

先ほど述べたように粉砕の非常に大きな意義はお湯と触れさせ糖化を進行させることなのですが

粉砕が粗すぎると胚乳部分も大きなまま残ってしまい、お湯と触れる表面積が少なくなってしまいます。

そうなると上手く糖化が進行せず、得られる麦汁が少なくなってしまうのです。

また、グレインベッドが粗くなりすぎ、本来濾過したい成分まで麦汁と共に抜けてきてしまい、綺麗な麦汁が得られにくいというデメリットもあります。

 

以上の様な理由からビール醸造においては

「殻皮は大きく、内部の胚乳は細かく」粉砕するのがもっとも都合が良いのです。

そうすれば、糖化効率はバッチリ、ロイターも早く、高収率、家庭円満と良い事づくめです。

「美味い、早い、安い」みたいな。ちょっと違うか。

とにかく家庭の平和の為にもそんな我儘な粉砕をしたいのです。

 

その2へ続く

December 13th, 2013 モルト, 日々考えていること

日々考えていること 人間には造れません

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我々ブルワーはたまに「ビールを造ってます」なんて言っちゃいますが

そんなのは大ウソで、実際にビールを造っているのは酵母です。

 

酵母は糖を食べて、ビールになくてはならない炭酸ガスとアルコールをつくり出します。

アルコールも炭酸ガスも酵母が生命活動を行う上での廃棄物なのですが、古来より人間はこの酵母の生命活動を上手く利用してお酒を醸してきました。

要するに糖を食べて、アルコールを造って、という営みは酵母にとってはただの生命活動であって、酵母自身は「美味しいビールを造ろう」なんて考えちゃいない訳です。当たり前のことですが。

ですから良いビールを造る為には、人間が酵母の声を聞いてやらなければなりません。

 

クラフトビールにおいては(最近は大手もこの傾向がありますが)新しいホップや製法に注目が集まりがちです。

しかし酵母に注目が集まる事ってのはそう多くない気がします。

これは飲む側だけのお話ではなく、ブルワーも。

 

ビールの4大原料の内、唯一生命活動を続けている原料は酵母。

他の原料よりはるかに繊細に、丁寧に、確実に付き合わなければいけないはずなのに

どういう訳か「ただ入れれば良い」というレベルで止まっている状況が多々見受けられます。

 

アルコールや華やかなエステルや造ってくれるのはもちろんのこと

大半のオフフレーバーをレストしてくれるのも酵母の働きだったりします。

オフフレーバーが無いというビールとして(というより食品として)まず目指すべき完成度に達するためには

どれだけ酵母と仲良く付き合えるか、ということが重要なんです。

 

酵母の生菌率、ピッチングする量、転用するタイミング

エアレーション量、醗酵温度、増殖量、タンクから抜くタイミングなどなどなどなど…..

考えなければいけないこと、やらなければいけないことは山ほどあるのです。

 

いま酵母がどういう状況にあるのか、何をしてほしいのか、感じ取るのがブルワー腕の見せ所。

我々の仕事は「ビールを造ること」ではなく「ビールを造ってくれる酵母の面倒をみること」です。

でも酵母をコントロールするなんて考えてはいけません。

どうやって上手く付き合っていくか、という考え方をしなければ嫌われてしまいます。

 

酵母好みの食事を用意し、ご機嫌を伺って、清潔に環境を整え、時にはちょっとプレゼントをしてみたりして、酵母が活き活きと快適に生活できるように尽くせば、その恩返しはきっと、この上なく美味しいビールであるはずです。

付き合っているパートナーが酵母に嫉妬するようになったら、ブルワーとして一人前ですかね。

さあさあ酵母に尽くそうじゃありませんか。美味しいビールを飲む為に。

November 26th, 2013 日々考えていること, 酵母

日々考えている事 農作物ですから

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この写真はとあるワイナリーで見学させていただいた葡萄畑。

 

自分たちで原料を育てたり加工したりしているブルワリーもあるにはありますが、ビールの醸造者の多くはすでに加工された原料を使用してビールを醸造しています。

一方でワインの醸造者は自分たちでブドウを育てることが第一歩であり、むしろ第一歩どころかワイン造りの大部分は葡萄作りと言われたりもします。

 

果汁を買ってきて醗酵させるだけ、というワイナリーもある事は承知していますが、それについての是非を述べられる達場ではないので今回はスルーしてください!お話の本題でもないでの!

 

この違いは小さなことのように感じますが、大きな違いだと感じた出来ごとが最近ありました。

 

ワインの醸造者達は畑に足を運び、いつでも葡萄の様子を見ているので、自分達がワインを造る為の原料は「農作物」だと、常に意識せざるを得ない環境にあるのです。

農作物ですから、年によって良し悪しがありますし収穫できる量も品質もバラバラ。

これはもちろんホップや麦だって同じ事なのですが、加工された原料をメールや電話で注文して購入している我々(少なくとも植竹個人)は「原料は農作物である」という意識がやや希薄なのです。

 

これが差がとてもとても大きな違い。

 

実は今年はヨーロッパ産のホップが大不作なのです。品種によっては収穫量が例年の50%程度。

幸いにして我々は必要な量をきちんと確保できたものの、もし必要な量の半分しか手に入らなかったら、と考えると・・・。

農作物ですから、こういうことがあるというのは当然で、頭では分かっているつもりでした。

しかしいざ直面してみると大慌て。分かっているつもりになっていただけでしたね。

 

COEDOでは非常に沢山の種類のホップや麦芽を使用していますが、それはこういう事態を想定してのことでもあるのです。

 

原料の調達をひとつだけの国や地域、使用する原料を1種類だけ、というように限定してしまうと、それがダメになった瞬間全てがダメになってしまいます。品質が悪いならまだ良い方で、最悪原料が無くてビールが造れない!という事態も考えられますよね。

恐い恐い

使用する原料の種類を少なくすれば、在庫管理も発注も楽ちんなんですがね。

 

沢山の種類のホップを使っていれば、その中のどれかがダメでも、他のホップで補うこともできます。

そうすることで品質を限りなくベストの状態に近づけることが出来るかもしれませんし、もしかしたら、怪我の功名でさらに良いホップの組み合わせが見つかるかも。

そんな事を考えて、なるべく複数の種類のホップを使うようにしているのです。

 

また、複数のホップを使う事によって味わいや香りに深みを出すことも利点の一つです。

味、香りのレイヤーを重ねてゆくという考え方。そのうちブログに書きましょうね。

 

ただし不可の部分を、どんな原料を使って、どうやって補うか。

これはもう、ブルワーのセンスです。沢山の原料に触れて経験を積むしかない。

 

多様な原料を組み合わせ、自由なイメージで味わいを造りだせる。

これが他のお酒にはない、ビールの良さです。

 

ですから新しい品種のホップが出てくるとついつい買っちゃうんです。

そうこうしている内にCOEDOのホップ保管庫は、もはや植竹以外「何がどれくらいあるのか」把握出来ない状態になり果ててしまいましたとさ。

 

ただのホップマニアでは?という疑惑もぬぐい去れませんがね。

November 5th, 2013 日々考えていること

日々考えていること 意味を知ることの重要性

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こんな事を書くと同業の方に叱られてしまうかもしれませんが

実はビールって、結構簡単に作れてしまうってご存知ですか?

 

葡萄の出来がそのまま味に反映されるワインや

複数の微生物が関わり、非常に複雑な工程を経て醸される日本酒と比べると

ビールは非常にシステマチックに造られるお酒だと言えます。

 

私はビール造りは「お菓子作り」と例えるのですが

「量は正確に!」とか「時間、温度を決められた通り!」と、とにかく緻密に造るお酒なのです。

条件を決めてしまえばオートメーションでサクサクッと造れてしまいます。

(注:これは造りのお話です。レシピ作成や仕上げはまた別のお話。)

事実、大きなブルワリーでの仕込みなんて殆どコンピューター制御です。

それが良いか、悪いか、または味に影響するかという議論はまたの機会に譲るとして

そういった事実を踏まえて今日のお話に移りたいと思います。

 

緻密に時間や温度を調整して仕込みをすると申し上げましたが

普通、これらのプログラムはレシピに書いてあるのです。

例えば

50℃でマッシュインして、65℃で60分糖化、その後76℃に昇温して糖化終了

と、こんな具合です。

日によって温度や時間が違う、というのはあまりないと思います。

 

温度や時間の意味を理解していなくても仕込みはできます。

時間と温度が決められている以上、誰が仕込みをしても同じ結果となるはずです。

ところが現実はそうじゃない。毎回仕上がってくるビールの味は違うのです。

 

例えば「このビールはしっかりキレるビールにしよう」と考えてレシピを書いたとします。

しっかりとキレる麦芽を選択し、糖化はキレる温度帯でじっくりと時間をかけて。

レシピに書かれていることにはきちんと意味があってその数字になっているはず。

 

しかしレシピに書かれる情報なんていうのは、造りの中での極々一部でしかありません。

実際にはレシピに書かれていない膨大な工程があってビールになるわけですから

重要なのはレシピに書かれた数字を読むだけではなく、その意味を読み取ること。

その意味が分かっていればレシピに書かれていない工程でも

自然と狙った通りの仕上がりとなるように行動するはずです。

さっきの例で言えば 「しっかりキレるように、活性の高い酵母を使おう」 とかね。

 

同じレシピで仕込みをしても、人によって、日によって

さらに言えばブルワリーによって差がでるのはこのへんが原因かもしれません。

 

当然のことながらその意図を読み取る為には膨大な知識のバックグラウンドが必要ですから

どこまでいっても勉強、勉強。終わりはありません。

 

緻密に造られるビールにおいて、ほんの少しだけ人の感性が介入できる隙。

そこをどう埋めていくかがブルワーの感性であり腕の見せ所。

そしてクラフトビールに人間味を与えられる重要なポイントなのではないでしょうか。

だからこそ意味を知っている事が重要。

 

ちなみに、前にも少し書きましたが植竹のビール造りは

そういった隙の埋め方を事前に徹底的に決めてしまうというやりかたです。

後輩たちよ、君たちの感性を介入させる隙はなかなか見つからないぞ!

 

なんとなくまとまりませんが、今回はこんなお話でした。

October 25th, 2013 日々考えていること

日々考えていること 渋と苦の境界 その2

__

 

苦味に影響を与える麦汁のプロフィールとは、具体的には硫酸カルシウムの溶解量、そして麦汁のpHです。

硫酸カルシウムの作用については醸造用水の事を書く際に譲るとして、今回はpHに注目しましょう。

 

pHとは難しく書くと水溶液中の水素イオン濃度を示す値です。

簡単に言えば水溶液が酸性か、アルカリ性かを示す値。

pHが低ければ酸性、高ければアルカリ性を示しています。

 

ビール造りにおいてpHは最も重要な計測項目のひとつです。

仕込み時はもちろん、発酵中もpHを計測することによって様々な情報を得られるのです。

もちろん苦味や渋味との関係も大きく、煮沸時の麦汁のpHが高いとα酸の異性化効率は良いのですが、Co-Humloneが抽出されやすく荒い苦味が出やすくなり、低ければ異性化効率は悪いもののCo-Humloneの抽出が抑えられクリーンな苦味が得られます。

 

麦汁のpHの調整方法は色々とあります。乳酸、リン酸、クエン酸などの酸を添加したり、CaCl2やCaSo4の添加、サワーモルトの使用などなど。詳しくはまたの機会に。

 

ビタリングホップを投入するのはもちろん煮沸工程ですが、麦汁を煮沸すると酸性メラノイジンの形成や、Ca、Mgイオンによってアルカリ性のリン酸が除去されるので、結果pHが徐々に低下していきます。

端的に言えば煮沸工程後半の方が麦汁のpHが低くなるのです。

つまり理論上は、煮沸前半にホップを投入するよりも後半に投入した方が麦汁のpHが低い為Co-Humloneの溶出が抑えられ、クリーンな苦味が得られることになります。

ただし、当然長時間煮沸した方が苦味の利用効率は良いので、ブルワーは利用効率と苦味の質を見極めながらホップを投入するタイミングを決定する訳です。

 

以前ご紹介したHop Burstという技術ですが、強力なホップのアロマやフレーバーを得る以外にもいくつかの利点があると申し上げました。その利点の一つが煮沸後期の低いpHなのです。

改めてご紹介するとHop Burstとは、煮沸初期にはホップをまったく投入せず、終了間際に大量のホップを投入して香りと苦味を得るホップの投入方法ですが、強力なアロマやフレーバーを得る以外に実はクリーンな苦味が得られるという利点もあるのです。

 

まとまめると

*苦味と渋味はしっかりと区別すべき

*クリーンな苦味を得る為にはCo-Humlone含有量の少ないホップを選択する

*荒い苦味をもたらすCo-Humloneの溶出を抑えた方がクリーンな苦味となる

*その為には麦汁のpHを下げる為の調整をしたり、ホップ投入のタイミングを考慮する

 

こんな感じです。

 

しかしながら、前回の最後に書いたように

ビールのスタイルによってはクリーンな苦味 = 良い という訳でもなかったりするのです。

 

これはただの個人的な意見なのですが、ドイツのPilsなどはむしろやや荒い苦味こそが特徴であると思えてならないのです。ボヘミアンスタイルよりホッピーなジャーマンスタイルのピルスナーですが、このスタイルにおいては荒い苦味も決して不快ではなく、むしろボディを形成する要素になっているような・・・。

単にクリーンな苦味を目指すだけではなく、スタイルによって苦味の質を使い分けられればブルワーとしてのレベルがひとつ上がるかな、とか考えて最近は色々試しています。

 

苦味はビールにとっては必要不可欠な要素で、ビールを魅力的なお酒たらしめる重要なファクターでありますが、その質によってビールの良し悪しが決まってしまう非常に繊細な要素でもあります。

雑味の少ないビール造りを信念とする自分としては、はやり苦味の質には徹底的にこだわりたいのです。

ですからレシピを書く際は、まず、いかにして渋味を抑えるかということを考えるのです。

 

今回は内容がマニアックすぎて誰が喜ぶのか全くわかりませんが、とにかく書いてみました。

苦味と渋味について考えながらビールを飲んでみると、楽しみが増えるかどうかはわかりませんが、少しブルワーの苦労が垣間見えるかもしれませんね。

次回はもうちょい楽しい内容にしたいと思います。

 

それでは。

October 15th, 2013 日々考えていること

日々考えていること 渋と苦の境界 その1

__

 

 

今回はちょっとマニアックなお話です。

今までも充分マニアックだったと思うんですが、さらにディープなお話。

 

タイトル通り、渋味と苦味についてです。今回も長いので2回に分けて書きます。

さて、いきなり質問です。あなたは渋味と苦味の区別ついてますか?

何を言っているんだ?と突っ込まれてしまうかもしれませんが、なかなかどうしてこれは非常に奥深い、かつ重要な問題なのです。

 

人間は基本的な5つの味覚を感知できると言われています。

それは甘味、酸味、塩味、旨味、そして苦味の5つ。

あれ?と思われた方、するどい。そう、問題の渋味が含まれていない。

渋味は味覚ではなく、感覚なのです。同様に辛味も味覚ではなく感覚だと言われています。

 

しかもややこしい事に、生理学的には渋味と苦味は同一のものとされているのです。

これは苦味、渋みを感じさせる作用が同一だからなのですが

具体的には、タンニンなどのタンパク質を変性させる作用を持った物質が

口腔内のタンパク質と結合し、変性させる作用が苦味や渋味という味覚を生み出すからです。

そんなこんなで苦味、渋味、えぐ味なんかを”収斂味”としてまとめたりもします。

 

ところが人間は渋味と苦味を明らかに区別して味わっているのです。

もちろん程度の差はあれど、濃いお茶は「苦い」ではなく「渋い」と表現する事が多いのではないでしょうか。

コーヒーにおいても渋いではなく、苦いと表現される事が多いと思います。

明らかに区別されていますよね。

 

味覚、感覚を文字で表現したり、人に伝えたりするのは非常に難しいのですが

植竹の感覚として

 

不快に感じるほど長く強く舌に残る収斂味 を渋味。

キレ良くサッと消える、爽快感のある収斂味 を苦味として捉えています。

 

もちろんこの表現には「ビールにおいては」という前置きがつくことを先にお断りしておきます。

 

さて、そんな境界があいまいな渋味と苦味ですが

ビールにおいて重要視されるのは渋味ではなく、やはり苦味なのです。

口の中に長く残る渋味は、次の一口を進みづらくし、ドリンカビリティを著しく下げます。

特にIBUの高いIPAやImperial IPAにおいては渋味というのは代表的な雑味になってしまいます。

我々ブルワーは渋味を抑え、いかに綺麗な苦味を得るかということに心を砕いています。

もちろん私も雑味の少ない綺麗な味わいのビールを造るために、渋みを抑える努力を色々しています。

 

 

当然の事なら大部分の渋味、苦味の元となるのはホップなのですが

(もちろん麦芽由来の渋味や苦味もあるのですが、今回はホップのお話に留めます)

注目すべきはホップに含まれるCo-Humuloneという物質です。

ホップに含まれるというか、α酸として括られる物質の内のひとつなのですが

Co-Humuloneは不快な荒い苦味をビールにもたらすを考えられています。

 

ではここでホップのプロフィールを比較してみましょう。

まずはアメリカンホップの代表格Cascadeです。

 

Alpha Acids        4.5 – 7.0%

Beta Acids         4.5 – 7.0%

Co-Humulone    33 – 40%

 

続いて植竹が良く使う大好きなSimcoe。

 

Alpha Acids        12.0 – 14.0%

Beta Acids         4.0 – 5.0%

Co-Humulone    15 – 20%

 

注目すべき数値はもちろんCo-Humuloneです。

これはα酸中、Co-Humuloneがどのくらいの割合含まれているか示す数値です。

先ほど申し上げたように、Co-Humuloneは荒い苦味をビールにもたらすとされているので

同じIBUをビールに与えようとした場合、Cascadeを使用した方がCo-Humuloneが多くなり

結果荒い苦味となる、ということが想像される訳です。

 

どのブルワーも同じだと思いますが、植竹はまず綺麗な苦味を得るためのビタリング用ホップを選ぶ場合、プロフィールのCo-Humuloneをチェックします。

もちろんCo-Humuloneの値が低いホップの品種ををビタリング用途に選択することが多いです。

 

じゃあとにかくCo-Humulone値の低いホップを使えばいいんでしょ?綺麗な苦味になるんでしょ?

と思われた方。半分正解。でも完璧ではありません。

 

たしかにCo-Humulone値の低いホップを使用することは、綺麗な苦味を得るための第一段階なのですが

実はα酸の異性化は麦汁のプロフィールによって大きく変わるのです。

さらに言ってしまえば、ビールのスタイルによっては必ずしも 綺麗な苦味 = 美味い! となるわけでもなかったり。

 

その2へ続く。

October 11th, 2013 日々考えていること

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