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藤田こういちのベルギービール新書 5 -(ベルギービールの)真骨頂ランビックとその未来-

TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.19(2018)

2022年 11月 14日 10時 03分 投稿 305 Views

ランビックは一度その魅力を知ってしまうと離れられなく なってしまいます。私もその1人でランビックが大好きです。 今回はベルギービールの真骨頂とも言うべきランビックを取り 上げます。まず、ランビックについての知識を深めたい方は日本に素晴らしい本があります。山本高之氏の著書その名も「ランビック」ご興味ある方は是非お求めください。この本にはラ ンビックに関する歴史や、醸造に関するテクニカルな知識、あ らゆるランビックの情報が詰め込まれています。今後これに勝 る書籍は出ないだろうと思います。ですので、今回は本当に触 りと私の体験も踏まえて書きますので、少しでも興味を持って もらえたら嬉しいです。

ランビックを簡単に説明しますと、、、簡単には言い表せません、奥が深すぎて。

まず最初に皆さんが誤解している部分かもしれないのですが、 現在ランビックは特別な存在として、ある種カリスマ的なビー ルになっていますが、その昔、ピルスナーなどのビールに台 頭される前はごく日常の飲み物だったということです。僕が大 好きなビアカフェの一つに、ブリュッセル中心から40 分くらいバスを走らせたところにある、In de Verzekering tegen de Grote Dorst があります。ここは日曜日しか営業していません。 佇まいもさることながら世界中からビアギークが集まることで も有名なカフェです、しかしその反面、目の前の教会で日曜日 のミサが終わるとおじさま、おばさまがカフェに流れ込んでき ます。また地元の方と思われる人もそれぞれ思い思いにランビックを飲んでいるのです。機会があればぜひ訪れてみることをお すすめします。

ランビックの大きな特徴はブリュッセル近郊のパヨッテンラントと呼ばれる、ゼンヌ川を中心とした周辺地域で、野生酵母 やマイクロフローラ(微生物、細菌群)を使用して、造られる 酸っぱいビールです。小麦を使用すること、古いホップを使う ことも特徴です。酸味を主とするランビックには苦味ではなく、 腐敗を防ぐためのホップの防腐作用のみが必要というわけです。 ランビックがなぜこの地域で作られているのか、それは不明と いうことなのですが、この地域でしか結果的に良いランビック が作ることができず、この地域の名物になったということが有 力だそう。実際には、この地域以外にもクールシップ(開放型 の冷却槽)や野生酵母を使用してビールを醸造しているブリュ ワリーがベルギーにもありますし、第一次世界大戦前は、ブ リュッセルを囲む今よりも広い地域にたくさんの醸造所があっ たそうです。

 そのスタイルも野生酵母を取り込みオーク樽熟成させたままのストレートランビックや、異なる年代のランビックをブレン

ドしたグーズ、フルーツの代表的なものではさくらんぼの1種クリークが有名ですが、他のフルーツを使用したものもあります。ランビックをいくつかのブリュワリーから購入して、ブレンドするランビックブレンダーもいます。元々のランビックの原酒は醸造所ごとに味わいは違いますし、また熟成させる樽によっても、熟成期間によっても様々に味わいを変化させます。さらにボトリング後もその変化は10 年、20 年と続いていきます。

 私は恐れ多くもベルギービールの普及に貢献した人に送られる、ベルギービール名誉騎士 La Chevalerie du Fourquet des Brasseurs(マッシュフォークの騎士の意)の称号をベルギービール醸造所組合(Belgian Brewers)から授与されることになり、ベルギーでのセレモニーに出席したのですが、Boon醸造所のフランクブーン氏に騎士のメダルをいただきました。ランビックの醸造所であるBoon 醸造所のトップが、Belgian Brewers の会長であること自体すごいことだと思うのですが、授与式のスピーチの際感銘を受けたのが、ブーン氏はクラフトビールという言葉を多用し、もっとベルギークオリティを誇りに思い、世界に発信すべき、世界に出ていくべきだと語っていました。私はフランクブーン氏がいなければランビック、またベルギービール全体がここまで世界的に認められていたかと考えると疑問に思いますし、最近のご活躍も目覚ましいものがあります。

 ランビックの特にクラシックな酸味の強いものに限って言えば、世界的なクラフトビールの盛り上がりとともにアメリカを中心に、ヨーロッパ各地でも人気がでて、再度認められるようになりました。ある意味、復活させてもらったとも思っています。今やランビックの雄Cantillon さえもかつて経営の危機に晒されていたと聞きますし、残念ながら廃業をしてしまったところもたくさんあります。

 本当にすごいなと思うのは、欧米ではランビックに匹敵するような、サワーエールが次々に登場しています。しかもKoelschip クールシップと呼ばれるランビックさながらの開放型の冷却槽を使い、さらには木樽で熟成された年代の異なるものをブレンドする。非常に手間と時間のかかる工程ですが、これ無しには良いものはできません。これには感服ですし、ベルギーの醸造家たちも喜んでいるのではないでしょうか。ランビックにリスペクトがなければ、好きでなければ絶対に造れない、愛情があるからこそこういうビールが造れるのだと思います。日本ではまだまだ認知度も低いですが、最近ではゴーゼやベルリナーヴァイセ等の酸味のあるビールを作る醸造所も増えてきました。気候的に日本で醸造するのは難しいとか色々あるとは思うのですが、ランビックに引けを取らないようなビールが出てきて欲しいですし、もっとランビックやサワーエールが認知されて欲しいと願います。

 ランビックとは少し方向が違うかもしれませんが、クールシップを持っている醸造所もありますし、野生酵母を使用したビール造りに挑戦している醸造所もあります。バレルエイジさせたり、ブレタノマイセス酵母を使用したビールもちらほら出てきていますね。飲み手としても本当に楽しみです。

 ランビックを飲んだことがない方もまだいるのではないでしょうか。その際には一歩踏み込んで、昔ながらのOude な、酸味の強いものをぜひ試してみてください。甘さが添加されているものは、もちろん需要もあり現在でも販売されていて人気な一面はありますが、やはり飲むべきは伝統的なそれ、酸味の強いものです。もちろん万人受けするとは思いません。ですが、もしかしたらあなたを虜にしてしまう可能性を秘めていますよ。Cantillon は博物館として醸造所を開放していて、ブリュッセルの中心に位置していますので、アクセスも良いです。ベルギーに行くならマストな場所です。カリスマ的な人気の3Fonteinen は醸造所の近くのレストランも良いですし、最近できたランビックの貯蔵施設lambik-O-droom は必見です。私が大好きなGirardin は醸造所まで行きましたが、中は見せてもらえませんでした。でもそれでいいんです。想像をはるかに超えた大きさだったLindemans、惚れ込んで数年がかりで輸入できたランビックブレンダーTilquin、また野性味のある味が忘れられず再輸入できることになったHanssens、突然の訪問にも関わらずくまなく見学させてくれたOud Beersel、そしてランビックに多大なる貢献をしているBoon、どこもそれぞれに特徴がありそれぞれに素晴らしかったです。

訪問したことはないですが、非常に希少かつクオリティの 高いDe cam、日本人醸造家、今井礼欧氏が欧和のランビッ クシリーズで使用するDe Troch、大好きなビアカフェの一 つ、アラベカスで提供されるランビックを作ることでも有名なTimmermans、ブリュッセルにビアカフェもあるMort Subite、 また最近ではBelgoo やBokkereyder など新鋭も出てきていま す。ランビックも他のベルギービール同様、日々変化、進化しています。

2年に一度Toer de Geuze というランビックの醸造所、ブ レンダリーが開放されるお祭りがあります、次は2019 年。バ スツアー等も企画されていますので、興味がある方は是非参加 されてみてはいかがでしょうか。 3Fonteinen のlambik-O-droom の裏の広大な畑にはこの地の固 有種スカルベーククリークの苗 木がたくさん植えられていました、確か7年後の収穫だそうで す。Tilquin もようやく醸造量 を増やせるところまできました。 Cantillon から始まり、最近Boon やLindemans、Oud Beersel の 国をまたいだコラボーレーションも記憶に新しいところです。

もし初めて本格的な酸っぱい グーズを飲む際はぜひブラッセ ルズ輸入のグーズティルカンを 飲んでみてください、ブレンダー のピエールは色々な人に飲んで もらいたいと一生懸命造ってい ます。非常に繊細な味わいのグー ズです。すみません宣伝じみて、 笑。でも本当に美味しいですから。ランビックの未来、まだまだ明るいと思います。飲まないと人生損しますね。

実は名誉騎士の授与式の際、ブレタノマイセスを使用したビー ルという点では共通点があるオルヴァルのブリュマスター、ア ン=フランソワさんがメダルのプレゼンターだったのですが、 壇上に上がっている5 名ほどの左側から順番にアンさんがメ ダルをかけてくれて、頬を合わせる挨拶のキス。オルヴァル大 ファンな私は、まさかアンさんと!と、緊張の面持ちでその時 を待っていたのですが、なかなか進まないことに気をきかせた のか、颯爽と右側から現れたフランクブーン氏にメダルを唯一 かけていただき、「えーーーーっ!」とコケそうになったの覚え ています。残念ながら私、一番に先に呼ばれていたので一番右 側に立っていたのです。でも尊敬するブーンさんからメダルを いただけて本当に光 栄な思いでした、本 当ですよ、笑。でも アン=フランソワさんとはちゃっかり写真撮ってもらっちゃいましたが。

 

藤田 孝一 Koichi Fujita
セゾンデュポンなど数多くのベルギー ビールを輸入するブラッセルズ株式会社 取締役
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【Beer Bar BRUSSELS】 http://www.brussels.co.jp/
【輸入部オンラインカタログ】 http://www.brussels.co.jp/import-c/
     

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