
2 July 2026 vol.142
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今、クラフトビールは「作品化」と「日常化」の狭間に立っている。

Hazy IPAブーム、
限定醸造競争、
ラガー回帰、

そして“ネオクラシックIPA”の復権——。
消費者の裾野が広がる一方で、クラフトビールは「作品化」と「日常化」の狭間に立っている。
今回の対談では、ビアパブの最前線を知る城戸氏と、ブルワリーとして品質と再現性を追求する坂井氏、そして司会・田嶋が、“売れるビール”と“良いビール”の違いから、これからのクラフトビール文化までを深く掘り下げた。
そこから見えてきたのは、単なる流行ではない、“文化としてのクラフトビール”の姿だった。

クラフトビールの“聖地”麦酒倶楽部ポパイ2代目代表取締役の城戸弘隆さん

株式会社FUJI PREMIUM BREWINGの代表取締役 坂井 修文(のぶふみ)さん

司会はTransporter編集長 田島伸浩
Where is craft beer headed now?
The Hazy IPA boom, the race for limited-edition brews, the return to lagers, and the resurgence of "Neo-Classic IPAs"—
As the consumer base expands, craft beer finds itself poised between being treated as an "artistic creation" and becoming a part of everyday life.
In this discussion, Mr. Kido—who is at the forefront of the beer pub scene—and Mr. Sakai—a brewer dedicated to quality and consistency—joined moderator Tajima to delve deeply into topics ranging from the distinction between "beer that sells" and "good beer" to the future of craft beer culture.
What emerged from the conversation was a vision of craft beer not merely as a trend, but as a genuine culture
『“売れるビール”と“良いビール”は同じなのか?』 田島
“スタッフが薦めやすい”が、売れる理由になる
まず最初に聞きたいのは、「今ビアパブは何を求めているのか」という部分です。(田嶋)
特に、“売れるビール”と“良いビール”は同じなのか——。
城戸さんはどう考えていますか
僕は、多くのお客さんって、まだクラフトビールを完全には理解していないと思ってるんですよ。(城戸)
例えば、「ベルジャンホワイト」や「ピルスナー」って名前は知っている。でも、“それがどういうビールなのか”まで理解している人は少ない。
『実際に、お客様は〈ブルワリー名〉でなく、〈スタイル〉で注文することが多いんです。』城戸
だから実際には、ブルワリー名じゃなく、“スタイル”で選ばれていることが多いんです。
お客さんが「飲みやすいビールありますか?」って聞いた時、スタッフが「じゃあベルジャンホワイトですね」って薦める。
『“売れるビール”って、スタッフが薦めやすいビールなんですよ。』城戸
つまり、“売れるビール”って、スタッフが薦めやすいビールなんですよ。

もちろん、薦めるためには一定以上の品質が必要になる。
だから、“売れるビール=良いビール”というのも、あながち間違いじゃないと思っています。
“売れないけど素晴らしいビール”は確実に存在する(城戸)
ただ一方で、“売れないけど、本当に良いビール”っていうのもあるんですよ。
例えばストロングエールやバレルエイジ系。
大量には売れない。でも、素晴らしいビールが本当に多い。
最近はインポーターも、「売れないから」という理由で、そういうビールをあまり入れなくなりました。
でも、僕らはずっと「入れてほしい」と言い続けている。
需要は少ないかもしれない。でも、“売れない=価値がない”ではないということは、伝え続けたいですね。
IPA一強時代は終わったのか?
Hazy IPAブームの、その先へ
『最近はIPA以外の人気も戻ってきている印象があります。』田島
最近はIPA以外の人気も戻ってきている印象があります。
“IPAばかり飲む人”は減ってきていますか?
田嶋『“IPAばかり飲む人”は減ってきていますか?』 城戸 『減りました。理由は単純で、クラフトビールの裾野が広がったからです。」
「減りました。理由は単純で、クラフトビールの裾野が広がったから。」
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減ったと思いますね。(城戸)
理由は単純で、クラフトビールの裾野が広がったから。
以前は“IPA好きのコア層”が中心だった。でも今はライトユーザーも増えて、“とにかくIPA”という時代ではなくなってきた。
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坂井
うちもIPAはそこまで多くないですね。
セッションIPAを含めても、全体の2〜3割くらい。
やっぱりクラシックなレギュラービールの需要は強いですし、うちはラガー系が得意なので、自然とそこが中心になっています。
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「派手さ」より「日常性」
クラフトビールは今、“驚き”だけではなく、“日常的に飲めるか”が問われ始めている。
クラフトビールは今、“驚き”だけではなく、“日常的に飲めるか”が問われ始めている。
Hazy IPAやスムージービールが市場を席巻した一方で、今再び注目されているのは、ラガーやペールエール、ウェストコーストIPAといった“骨格のあるビール”だ。
一度派手な方向へ振れた市場が、再び“飲み続けられるビール”へ戻り始めている。
『文化を作るのか、ブームを作るのか?』 城戸
「文化を作るのか、ブームを作るのか」
“限定ビール競争”への違和感
今、シーズナルばかり作るブルワリーが増えすぎてると思うんですよ。
“1回作って終わり”のビールですね。
もちろん刺激としては面白い。でも、そればかりになると、“文化”じゃなくて“ブーム”を作ってるだけになる。
本来は、一つのビールを何度もブラッシュアップして、磨き上げていくものだと思うんです。
そしてお客さんに「やっぱりあのビールだよね」って思ってもらえる。
僕は、その積み重ねこそが“文化”だと思っています。
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“無意識にグラスが空になる”ビール
僕にとって良いビールって、“無意識にグラスが空になるビール”なんですよ。(城戸)

「あれ、もうなくなってる。もう一杯飲もう」
そう思わせるビール。
あるいは数日後に、「あの時のビール、また飲みたいな」って思い出してもらえるビール。
それが、本当に良いビールなんじゃないかなと思います。

「骨格」がなければ、文化は残らない
Hazy IPAしか作れないブルワリー問題(城戸)
城戸『本当に美味しいペールエールを作れるブルワリーは、Hazy IPAを作っても美味しいんです。でも逆は難しい、、、』
Hazy IPAしか作ってないブルワリーに、「じゃあペールエール作ってみて」って言うと、意外とできない
土台がないんですよね。
うちはまず、ペールエールとIPAをちゃんと作れるようにしよう、というところから始めました。

坂井『うちはまず、ペールエールとIPAをちゃんと作れるようにしよう、というところから始めました。』
レシピを何度も変えて、積み重ねて、ようやく安定してきた。
骨格を作ってから肉付けしていく。
やっぱりそこが大事だと思います。
海外と日本、何が違うのか?
「日本には“少年野球”がない」
日本と海外の差って、やっぱり“歴史”なんですよ。
あと、日本はホームブルーイングが認められていない。
つまり、“練習”ができない国なんです。
アメリカでは、趣味で何年も作ってきた人がブルワリーを始める。
でも日本は、昨日までIT企業にいた人が、明日からブルワーになることもある。
よく言うんですけど、日本のクラフトビールって、“少年野球がないまま、いきなりプロ野球”なんですよ。

アメリカのビールは、なぜ強いのか
ブラインドで飲んでも分かります。(城戸)
「このレベル、日本ではまだ難しいな」っていうビールは、やっぱりアメリカだったりする。
もちろん、日本に入ってくる時点で厳選されてる部分もあると思います。
でも、それを差し引いても、向こうのクオリティは高い。
輸入されて多少劣化していても、「これで劣化してるの?」って思うくらい美味しいものがありますからね。
やっぱり経験値の差は大きいと思います。(坂井)
「苦味」と「渋み」は違う
いまさら聞けない“渋み”を“苦味”の違い
「苦味」と「渋味」は、それぞれ異なる性質を持ちながら、味の複雑な風味を形成する上で欠かせない要素です。
「渋味」は爽やかな味わいであり、「苦味」は旨味や甘みを引き立て、後味のキレを良くする役割も果たしています。
“トップノートだけ派手”な時代
※「TOP NOTE」一番初めに感じる香り
今のクラフトビールって、トップノートだけ派手なものが多いんですよ。(城戸)
香りはすごい。飲んだ瞬間もいい。
でも、飲み込んだ後のアフターテイストが美味しくない。
“渋み”を“苦味”だと思ってる人が、本当に多い。
でも、良いIPAって、最後まで綺麗なんですよ。
「パブとブルワリーは、一緒に作るもの」
フィードバックで怒るブルワリー
味の感想を伝えると、「うちはそんなビール作ってない」って怒るブルワリー、結構あるんですよ。
でも、工場で飲む味と、パブで提供される味って違う。
タップから出てきて、初めて完成形なんです。
だから、本当はブルワー自身がパブで飲むべきだと思う。
ビールって、“造って終わり”じゃないんですよ。
“綺麗なビール”を作る富士プレミアム
田島『城戸さんから見て、富士プレミアムのビールはどう映っていますか?』
一言で言うと、“綺麗”ですね。(城戸)
大手ビールより一歩上。
でも、尖りすぎたクラフトでもない。
ちょうどその間にいる感じ。
例えばピルスナーなら、もっとホップを効かせて“イタリアンピルスナー”寄りにしても面白いと思うし、ベルジャンホワイトももっと濁らせてもいい。
でも、そういう発想って、パブと一緒に話すから見えてくる部分もあるんですよ。
対談の終わりに見えた現在地 クラフトビールは今、“派手さ”から“本質”へ戻ろうとしている。
クラフトビールは今、“派手さ”から“本質”へ戻ろうとしている。
限定競争、SNS映え、希少価値——。
それらを否定するわけではない。
しかし今回の対談で繰り返し語られたのは、“飲み続けられるビール”の重要性だった。
「無意識にグラスが空になるビール」
「また飲みたいと思い出されるビール」
「骨格のあるビール」
それは、単なる流行ではなく、“文化”として残るための条件なのかもしれない。
クラフトビールは今、次のフェーズへ向かおうとしている。 坂井 健太郎|富士プレミアムブルーイング

坂井 健太郎|富士プレミアムブルーイング
静岡県・富士市を拠点に醸造を行う「富士プレミアムブルーイング」のブルワー。
派手さよりも“再現性”と“綺麗な味わい”を重視し、分析や微生物管理を徹底した品質設計を行う。ラガーやベルジャンホワイトなど、日常に寄り添うクラシックスタイルに定評があり、「骨格のあるビール」を追求し続けている。近年はパブとの対話を通じた新しいビール作りにも積極的に取り組む。


日本クラフトビール黎明期から国内外のビールシーンを見続けてきた存在で、鋭いテイスティング能力と豊富な知識に定評がある。流行だけに流されず、“何杯でも飲みたくなるビール”を重視し、クラシックスタイルやストロングエール、バレルエイジビールの魅力を発信。パブとブルワリーをつなぐキーパーソンとして、現場目線からクラフトビール文化を見つめ続けている。
R.I.P
「麦酒倶楽部ポパイ」の創業者で、昨年11月9日に73歳で亡くなった青木辰男さんをしのぶ会が今年1月25日、同店で行われた。当日は全国からゆかりの深い醸造家や飲食店関係者、常連客ら約200人が参列し、青木さんに花を手向けた。

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