What is the mindset of a brewery launched in the U.S. in 2025? Shifting from "scaling up" to "deepening the experience"—the management strategy of a new-generation brewery.

08 Oct 2026 vol.329
アメリカのクラフトビール業界は、決して好調とは言えない。
2025年、アメリカのクラフトブルワリーは9,578軒。前年から2.9%減少し、新規開業は300軒。一方で閉業は481軒に達した。クラフトビールの生産量も2025年は前年比4%減少している。
つまり今のアメリカは、「ブルワリーを始めれば成長できる」という時代ではない。
それでも、新しいブルワリーは生まれている。
そして面白いのは、その新しいブルワリーの多くが、かつてのアメリカン・クラフトビールのように「大量に造る」「広域に流通させる」「店舗を増やす」という方向を目指していないことだ。
むしろ逆。
小さく始める。専門性を尖らせる。地域に深く入る。ビール以外の価値をつくる。
Brewers Associationによれば、2015年には新規開業ブルワリーの33%が流通型のモデルだった。しかし2025年には9%まで低下。一方で、ブリューパブは44%、タップルーム型は46%まで増えている。
アメリカの新世代ブルワリーは、規模を追うのではなく、「自分たちが何者なのか」を明確にする方向へ進んでいる。
その象徴として、2025年以降にスタートした5つのブルワリーを見てみたい。
いまさら聞けない「ブリューパブとタップルームの違い?」
Brewpub:厨房(キッチン)と客席が併設された飲食店
Taproom:醸造所(ブルワリー)と直結しているビール提供スペース
01 Shelton Brewing「ブルワー自身」がブランドになる

Shelton Brewing
Address: 585 Wall St, Beaumont, TX 77701
2025年3月にスタートしたShelton Brewing。その中心人物はChris Shelton。
Toppling Goliathや海外ブルワリー、Whole Foods Brewingなどで経験を積んできたブルワーで、特にホップを大量に使ったビールの技術と知識で知られている。2025年の開業後は「Hopzy Ales」と呼ぶホップフォワードなビールを次々とリリースし、短期間で注目を集めた。
ここで重要なのは、Shelton Brewingが「新しいブルワリーだから注目された」のではないということ。
Chris Sheltonというブルワー自身に、すでに市場価値があった。これは日本ではまだ十分に成立していないモデルかもしれない。
日本では「○○ブルワリーのビール」というブランドはあっても、「○○というブルワーだから飲みたい」というところまで個人の名前がブランド化されているケースは多くない。
しかしアメリカでは、ブルワーのキャリアそのものがブランドになる。
「どこで造っていたのか」「誰とビールを造ってきたのか」「何が得意なのか」それ自体が購入理由になる。
つまり、新しいブルワリーを始めるために必要なのは、必ずしも巨大な設備ではない。「この人が造るなら飲みたい」という信用そのものが、資産になる。
02 Geisthaus Brewing Company「全部やる」を捨てて、ラガーだけをやる

Geisthaus Brewing Company
Web
Address: 9584 Micron Ave, Sacramento, CA 95827
Phone: +19163994380
Sacramentoで2025年2月にスタートしたGeisthaus Brewing Company。
このブルワリーの最大の特徴は、極めてシンプルだ。
ラガーを造る。以上。
ピルスナー、ヘレス、デュンケル、フェストビア、ケルシュ系など、ラガーという大きなカテゴリーの中で掘り下げていく。2025年にはGABFでKellerbier部門のゴールドを獲得するなど、新規ブルワリーとして早くから評価を受けた
現在のラインナップを見ても、Landbier、Helles、Munich Dunkel、Festbier、German Pils、Italian Pils、West Coast Pilsなど、ラガーを軸にしながら細かな違いを追求している。(Geisthaus Brewing Co)
ここには、今のクラフトビール市場に対する一つの答えがある。「何でも造れる」は、必ずしも強みではない。
IPAも造る。スタウトも造る。サワーも造る。季節商品も造る。コラボもやる。一見すると商品数が多い方が売れそうに見える。
しかし、消費者からすると、「このブルワリーは何が得意なのか?」が分からなくなる。
Geisthausは逆だ。
ラガーのことなら、このブルワリー。この一点を強烈に打ち出している。日本のブルワリーにも、これは大きなヒントになる。商品数を増やす前に、「自分たちは何屋なのか?」を決める。
クラフトビール市場が成熟すればするほど、専門性は武器になる。
03 Keeping Together ビールを売るのではなく、「場所」をつくる

Keeping Together Brewery and Beverage Garden
Web
Address: 2908 Rufina St, Santa Fe, NM 87507
Santa FeのKeeping Togetherは、さらに面白い。
創業者はAverie Swanson。
2019年にChicagoで始まったブランドを、夫でありビジネスパートナーのPat FaheyとともにSanta Feへ移し、2025年に常設の拠点をオープンした。かつて植物園芸に使われていた温室を改装し、ブルワリーとBeverage Gardenを組み合わせた空間をつくっている。
ここでは、ビールだけを売っているわけではない。
場所。空間。食。コミュニティ。ノンアルコール飲料。地域とのつながり。
それらを含めて「Keeping Together」という体験をつくっている。つまり、ブルワリー=醸造設備という発想から、ブルワリー=人が集まる理由へ変わっている。
2026年3月のWashington Postの記事でも、Keeping Togetherや後述するGood Pressure Brewingなど、新世代ブルワリーが「ビールだけではない第三の場所」をつくろとしていることが紹介されている。
ここは日本のブルワリーにとっても重要だ。タップルームをつくれば人が来る時代は終わった。「なぜ、わざわざここに来るのか?」その答えを、ビール以外にも用意しなければならない。
04 Good Pressure Brewing「まず需要をつくる」。設備は、その後

Good Pressure Brewing Co.
Web
Address: 7559 Mission Gorge Rd, San Diego, CA 92120
Phone: +16193106608
San Diegoで2025年12月にオープンしたGood Pressure Brewing。
創業者のErik FowlerとShannon Fowlerは、最初から巨大な設備を入れて大量生産することを選ばなかった。
むしろ、地域で売れる量を見ながら小さく始める。Erik Fowlerは、「大量の生産能力を先に持って、それから需要をつくるのではなく、まず需要をつくりたい」という考え方を示している。当初は自店と近隣5マイル程度のバーへの販売を中心とする規模を想定している。
これは、日本のブルワリー経営にもかなり重要な考え方だ。日本では、「タンクを増やせば売上が増える」「生産量を増やせば利益が増える」と考えがちだ。
しかし、売れないビールを大量に造ることほど危険なものはない。
設備投資には、設備費 ▶︎減価償却▶︎人件費▶︎原材料▶︎保管▶︎物流▶︎営業がついてくる。
つまり、生産能力を増やすことは、同時に固定費と販売責任を増やすことでもある。Good Pressureの発想は逆。売れる場所を先につくる。
そして、その需要に合わせて設備を考える。これは「小さいブルワリーだから仕方なくやっている」のではない。現在のアメリカでは、むしろ合理的な経営戦略になりつつある。
05 Eckhart Beer Co.ラガー+ビアホールという「古くて新しい」モデル

Eckhart Beer Co.
Web
Address: 545 Johnson Ave, Brooklyn, NY 11237
Phone: +17188211946
BrooklynのEckhart Beer Co.も面白い。
ブランド自体は2022年からスタートしているが、2025年9月にBushwickで新しいブルワリーとビアホールを開業した。中心にあるのは、ドイツやチェコなどヨーロッパの伝統的なビールスタイル。
Helles。German Pils。Czech Pale。Czech Amber。Dark Lager。Kölsch。Baltic Porter。
そして、それを飲ませる場所として大きなビアホールをつくる。伝統的なラガースタイルだけでなく、醸造工程へのこだわり、ビアホールの空間、料理まで含めた体験を評価している。ここで興味深いのは、「クラフトビール=新しいもの」ではないということだ。
むしろ、古典に戻っている。ただし、昔のコピーではない。
伝統的なスタイルを現代的な品質で造り、それを現代的な空間で飲ませる。つまり、伝統×品質×空間という組み合わせだ。
5軒に共通するもの 「何でもやる」という発想から離れていること。
Shelton Brewing。
Geisthaus。
Keeping Together。
Good Pressure。
Eckhart。
一見すると、まったく違う。
ホップ。ラガー。ファームハウス。コミュニティ。ビアホール。
しかし、経営という視点で見ると共通点がある。
それは、「何でもやる」という発想から離れていること。
Sheltonは「ブルワー」。
Geisthausは「ラガー」。
Keeping Togetherは「場所」。
Good Pressureは「地域」。
Eckhartは「伝統的ビール+ビアホール」。
それぞれに、明確な「理由」がある。
⸻
アメリカは「大きくする」から「濃くする」へ
かつてのアメリカンクラフトビールには、「生産量を増やす」「州をまたいで販売する」「缶をスーパーに並べる」「ディストリビューションを拡大する」という成長モデルがあった。もちろん、そのモデルがなくなったわけではない。
しかし、今の新規開業ブルワリーの中心ではなくなっている。
Brewers Associationの2026年の分析では、2025年の新規開業は流通型より、タップルームやブリューパブといったオンサイト型が圧倒的に多い。2025年に開業したブルワリーの構成は、流通型9%、ブリューパブ44%、タップルーム46%だった。(Brewers Association)
これは単なる「小規模化」ではない。ビジネスモデルの変更だ。ビールを遠くへ運ぶことで売上をつくる。
そのモデルから、人を店に呼び、そこで飲んでもらい、食べてもらい、体験してもらう。というモデルへ。言い換えれば、「Beer Business」から「Hospitality Business」へ。
⸻
日本のブルワリーは、どう見るべきか
このアメリカの変化を、日本のブルワリーがそのままコピーする必要はない。
日本には日本の流通構造があり、酒税、卸、飲食店、スーパー、コンビニという独自の市場がある。しかし、考え方は参考になる。
例えば、「年間何KL造るか?」から考えるのではなく、「誰が、なぜ、このビールを飲みに来るのか?」から逆算する。設備を増やす前に顧客を増やす。
商品数を増やす前に得意分野をつくる。卸先を増やす前に自社で売れる場所をつくる。新商品を出す前にブランドの理由をつくる。そして何より、「ビール以外に何を売れるのか?」を考える。
空間なのか。食なのか。音楽なのか。イベントなのか。地域なのか。コミュニティなのか。ブルワー自身なのか。
「良いビールを造れば売れる」は、もう経営戦略ではない
これは少し厳しく言いたい。「良いビールを造れば、お客さんが来てくれる」これは、ブルワーの思想としては正しい。
しかし、経営戦略としては弱い。良いビールは、もはやスタートラインだからだ。
2025年以降にスタートしたアメリカのブルワリーを見ていると、
ビールの品質+もう一つの理由を持っている。
Sheltonにはブルワー自身がいる。
Geisthausにはラガーという専門性がある。
Keeping Togetherには場所がある。
Good Pressureには地域がある。
Eckhartには伝統とビアホールがある。
だからこそ、消費者はそのブルワリーを覚える。
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日本のクラフトビールに必要なのは「規模」ではなく「理由」かもしれないこれからブルワリーを始める人に、「何KL造る予定ですか?」と聞くことは簡単だ。しかし本当に聞くべきなのは、「なぜ、あなたのブルワリーに人は来るんですか?」ではないだろうか。
100KLでもいい。50KLでもいい。10KLでもいい。重要なのは、生産量ではない。
その量を売り切る理由があるかどうか。
アメリカで2025年以降に生まれたブルワリーを見ていると、そこに一つの方向性が見える。大きくする。ではなく、濃くする。広く売る。ではなく、深く選ばれる。ビールだけを売る。ではなく、
ビールを中心にした「理由」を売る。
クラフトビール市場が成熟した今、ブルワリー経営に必要なのは、もしかすると「もっと造ること」ではない。「なぜ、あなたから買うのか」を、もっと明確にすることなのかもしれない。

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