
23 JUNE 2026 vol.131
新鮮な情報を 最高の鮮度で毎朝更新
毎朝の更新時刻は毎朝9時が基本、モーニングビールの代わりにどうぞ。
Fresh information, updated daily with the highest quality. Updates are typically at 9 AM every morning. Enjoy it instead of your morning beer.
クラフトビール革命前夜 まだ聖地はなかった。
25年前、20代だった私はニューヨーク・ブルックリンのベッドフォード地区に1か月ほど滞在していた。

今では世界中のクラフトビールファンが訪れる街となったブルックリンだが、当時はまだ「クラフトビールの聖地」と呼ばれる前夜だったように思う。
毎日のように通ったのは、Brooklyn Brewery。
IPA全盛期が訪れる前の時代。私が飲んでいたのは決まってブルックリンラガーだった。

派手さはない。
だが、モルトの旨味とホップの苦味が見事に調和したその一杯は、「ビールはこんなに豊かな飲み物だったのか」と教えてくれた。
あの頃の私にとって、クラフトビールとはスタイルではなく、人との出会いそのものだった。
そんな記憶の中心にあるのが、創業間もない頃のSixpoint Breweryだ。

まだ知名度も高くなかった時代、私は「工場に行けばビールが飲めるだろう」という今思えばかなり無邪気な発想で、アポイントも取らずにブルワリーを訪ねた。
すると彼らは笑顔で迎え入れてくれた。
ブルワリーを案内してくれただけでなく、スタッフ同士で開催していたボトルシェア会にも参加させてくれた。
そこで初めて知ったのが、当時まだ日本ではほとんど名前も聞かなかったコロラドのOskar Blues Breweryだった。

「缶クラフトビールなんてありえない」
そんな時代に、彼らは未来の話をしていた。
今思えば、あの夜がアメリカのクラフトビールに本気でのめり込む入口だったのかもしれない。
そして彼らから教えてもらったのが、ニューヨークの名店、Blind Tiger Ale Houseだった。

当時の私は、ほぼ毎日のようにそこへ通った。
カウンターに座れば、隣にいる常連客が自然と話しかけてくる。
「今日はこのビールが最高だ」
「あのビールは前の方が良かった」
「このスープにはこのビールを合わせろ」

そんな会話が延々と続く。
It wasn't in the textbooks, it was all on the counter.
今でいうペアリングの知識も、スタイルの理解も、すべては教科書ではなくカウンターの上で学んだ。
そこで飲んだビールは今でも鮮明に覚えている。
Victory Brewing Companyのモンキーシリーズ。おそらく「Golden Monkey」だったと思う。

初めてベルジャンスタイルの強烈な個性に衝撃を受けた。
Stone BrewingのIPA。

今では当たり前になった強烈なホップの苦味も、当時は未知の味だった。
Allagash Brewing Companyのホワイト。

ベルギービールへの入口となった一杯。
そしてDogfish Head Craft Breweryの60 Minute IPAと90 Minute IPA。

ホップを連続投入するという発想そのものが革新的だった。
振り返れば、当時飲んでいたビールの中には姿を消したものもある。
ブランドは残っていてもレシピが変わったものもある。
買収され、かつての面影を失ったブルワリーもある。
だが一方で、驚くことに今再び評価され始めているビールもある。
派手なヘイジーIPAやパストリースタウト(Pastry Stout/甘くて濃くてリッチな、お菓子のような味わいのスタウトの総称)が市場を席巻した時代を経て、クラフトビールの世界はいま原点回帰の流れを見せている。
ラガー。
ウェストコーストIPA。
ベルジャンスタイル。
そしてバランスを重視したクラシックなエール。
私たちが25年前に感動したビールたちが、再び脚光を浴び始めているのだ。
流行は巡る。しかし、本当に良いビールは消えない
流行は巡る。
しかし、本当に良いビールは消えない。
あの頃、ブルックリンのカウンターで常連客たちが語っていた言葉を今なら理解できる気がする。

「流行るビールと、残るビールは違う。」
25年経った今でも飲み続けられているビールには理由がある。
それは単なるブランド力ではない。
人の記憶に残る味だからだ。
時代を超えて飲み継がれる一杯の価値を伝えていきたい。
Transporterは常に新しいビールを追いかけてきた。
しかし同時に、時代を超えて飲み継がれる一杯の価値も伝えていきたい。
なぜならクラフトビールの本当の魅力は、流行ではなく記憶の中にあるからだ。
そして私にとって、その原点は25年前のブルックリンにもあるかもしれない。

この「TAJI JARNAL」とマークされているテキストは 本誌編集長田嶋伸浩が執筆しております。

【略歴】
2013年よりクラフトビール専門誌『TRANSPORTER BEER MAGAZINE』発行人となる。
2017年ベルギー発修道院ビール『CHIMAY』と契約、ジャパンマーケテングを担当。その後もクラフトビール業界において幅広く活動、会社顧問商品開発、店舗開発,コンサルティング、ブランドプロデユース、デザイン、広告、関連の仕事を数多く行なっている。
2018年伊勢角屋麦酒顧問就任
2019年FAR YEAST BREWINGアドバイザリー就任
2021年鎌倉ビール顧問就任
FAR YEAST BREWING TOKYO 店舗開発
伊勢角屋麦酒 八重洲店・新宿店・新橋店 店舗開発
株式会社なんつね飲食部門オリジナルビール企画店舗監修
BLACK TIDE BREWING 合同会社 代表社員
株式会社FUKUOKA CRAFT 代表取締役
株式会社ライフコーポレーションでのオリジナルビール企画、デザイン。
スーパーマッケット オオゼキでのオリジナルビール企画
株式会社RETTY でのクラフトビールイベント企画。
株式会社日テレ7でのオリジナルビール企画、アドバイザリー。
※写真や資料の引用についてはその引用先を明確にして、細心の注意を持って情報を取り扱っていますが、不備な点等 ございましたら何なりとご一報ください。訂正、又は削除致します。

