Will craft beer really benefit from the unification of liquor taxes on October 1st?

29 September 2026 vol.331
税金より怖いのは、値付けを変えられない業界体質だ。
「酒税法改正」、認知率は全体で39%、ノンアルビールユーザーでは64%

「酒税が一本化される。クラフトビールにとって追い風になる。」
2026年10月、ビール系飲料の酒税率が一本化される。
このニュースを受けて、クラフトビール業界では「クラフトビールにとってプラスになる」という論調が目立つ。確かに、これまで発泡酒や新ジャンルとの税率差を意識して価格を設定してきた商品にとって、税制上の条件が変わることは大きな変化だ。
しかし、ここで一度立ち止まりたい。
酒税が変わったからといって、本当にクラフトビールは儲かるのだろうか?そして、もっと重要なのは、「税金が下がった分を、誰が取るのか?」という問題だ。
ブルワリーなのか?卸なのか?小売なのか?それとも消費者なのか。
「税金が下がる=利益が増える」ではないことを改めて認識する
クラフトビールを造っている側からすると、ビールの価格は酒税だけで決まっているわけではない。
麦芽、ホップ、酵母。電気、ガス、水。缶、ラベル、段ボール。人件費。設備投資。物流費。
さらに、ここ数年は原材料やエネルギー、物流コストも上昇している。
つまり、酒税が数円単位で変わったとしても、ブルワリーが抱えているコスト全体から見れば、それだけで経営環境が劇的に改善するわけではない。
むしろ問題は、その「数円」をどう使うかだ。値下げするのか?利益として残すのか?原材料に戻すのか?設備投資に使うのか?人材に還元するのか?
ここにブルワリーの経営判断が出る。
クラフトビールは、なぜ値上げが苦手なのか?
今回の酒税改正を考えるうえで、もっと根深い問題がある。
それが、クラフトビール業界の「値付け」だ。
クラフトビールは、大手ビールメーカーと同じ商品ではない。生産量も違う。原材料も違う。製造効率も違う。販売数量も違う。
しかし、店頭に並んだ瞬間、「このビール、いくら?」という単純な価格比較になってしまう。
ここでクラフト側が弱気になる。「高いと思われたくない」「他社より高くできない」
「飲食店から値上げすると売れなくなると言われる」「小売に入るには、この価格じゃないと厳しい」そんな声が積み重なり、いつの間にか、「売れる価格」に合わせることが、「適正な価格」を考えることより優先される。
酒税より怖いのは「安くしなければ売れない」という思い込み
クラフトビールに必要なのは、単純な値下げではない。むしろ必要なのは、「なぜこの価格なのか」を説明できることではないだろうか。
例えば、同じ350mlの缶でも、年間数十万KLを生産するメーカーと、数十KL、数百KLのブルワリーでは製造コストがまったく違う。
それを同じ尺度で「高い・安い」と比較すること自体に無理がある。問題は高いことではない。高い理由を消費者に伝えられているか。
そして、その価格に見合う商品体験を提供できているか。ここが重要になる。
酒税改正で「値下げ競争」が始まったらどうなるのか?

仮に酒税の変更によってブルワリー側に一定のコストメリットが生まれたとする。
そこで、「税金が安くなったので販売価格を下げます」というブルワリーが増えたらどうなるだろう。一時的には消費者にとってメリットがある。しかし、それが業界全体に広がれば、今度は価格競争が始まる。
A社が500円。
B社が480円。
C社が450円。
「うちも下げなければ売れない」となれば、最終的にはブルワリー自身の利益を削ることになる。クラフトビールは大量生産によってコストを下げるビジネスモデルではない。価格を下げれば下げるほど、経営の余裕は失われる。
そして、その余裕がなくなれば、新しい設備を買えない。人を採用できない。人材を育てられない。新商品の開発ができない。品質管理への投資ができない。結果として、クラフトビールそのものの魅力が弱くなる可能性がある。
この酒税での「数円」をどう使うかでブルワリーの未来が変わるだろう

だからこそ、今回の酒税改正を単純に「得」「損」で考えるべきではない。重要なのは、税制変更によって生まれた余地を、ブルワリーがどう使うのか。
例えば、
① 値下げする「販売量を増やすための戦略」。ただし、価格競争に巻き込まれるリスクもある。
② 利益として残す 「財務体質を改善する」。借入返済や運転資金の確保にもつながる。
③ 原材料に戻す「ホップ、麦芽、酵母などへの投資を増やし、品質を上げる」。
④ 人材に投資する「ブルワーの育成、営業、マーケティングなどに資金を回す」。
⑤ 販売力に投資する「営業、EC、イベント、飲食店との取り組みなど、売る力を強化する」。
どれが正解という話ではない。重要なのは、「安くする」以外にも選択肢があることを業界が認識することだ。
本当に“得”をするのは「クラフトビール」ではなく「売る力のある会社」かもしれない
今回の改正を考えるうえで、もう一つ重要なのが販売量だ。酒税の影響は、基本的に販売数量に比例する。
つまり、年間数万本しか売れないブルワリーと、数百万本を販売するブルワリーでは、同じ「1本あたりの税率変更」でも経営へのインパクトはまったく違う。さらに、スーパー、コンビニ、EC、飲食店、直営店など、販路によって利益構造も変わる。そう考えると、今回の酒税改正で恩恵を受けるのは、「クラフトビール」というカテゴリーそのものではなく、一定の生産量を持ち、適正な価格で販売し、利益を残せるブルワリーなのかもしれない。
「良いビールを造れば売れる」と言った認識は捨てるべき
クラフトビール業界では、長い間、「美味しいビールを造る」ことが最も重要だと考えられてきた。もちろん、それは間違いではない。しかし、ブルワリーは製造業であり、同時に商売でもある。美味しいビールを造る。
適正な価格をつける。その価格の理由を伝える。売る場所をつくる。飲んでもらう。もう一度買ってもらう。このサイクルを作らなければ、会社は続かない。酒税が変わっても、ここは変わらない。
酒税改正は「チャンス」なのか?答えはまだ 。
酒税が一本化されたからといって、自動的にクラフトビール業界が成長するわけではない。むしろ今回の改正は、各ブルワリーに、「あなたは、その数円をどう使いますか?」と問いかけているようにも見える。
値下げするのか?
利益を残すのか?
品質に戻すのか?
人材に投資するのか?
販売力を強化するのか?
ここで経営判断が分かれる。そしてもう一つ。クラフトビールは、いつまで「安く売る理由」を探し続けるのか。
クラフトビールが大手ビールと違う価値を持つのであれば、その価値に見合った価格を設定することも、ブルワリーの仕事ではないだろうか。酒税の一本化は、クラフトビールを安くするための制度ではない。少なくとも業界側は、そう捉えるだけではもったいない。今回の改正をきっかけに考えるべきなのは、
「いくら安くできるか」ではなく、「本当はいくらで売るべきなのか」。
酒税よりも、こちらの問いのほうが、クラフトビール業界にとってはずっと重い。そして、その答えを出すのは税制ではない。ブルワリー自身だ。

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