|ベルギービールの過去・現在・未来 ベルギーのビールを知るために、どこへ行けばいいのだろうか。

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有名な醸造所を訪れる。修道院の歴史を学ぶ。ビアカフェで何種類ものビールを飲み比べる。専門店で希少なボトルを探す。 ビール好きがベルギーを訪れるなら、そうした場所を巡ることを考えるだろう。 私も、Chimayとの契約を通じて日本でマーケティングに携わり、研修でブリュッセルを訪れたとき、ベルギービールの奥深さをもっと知りたいと考えていた。 しかし、現地での経験から、もうひとつ見ておかなければならない場所があると感じた。 それは、スーパーマーケットだ。 なぜなら、専門店や有名なビアカフェは、ビールに関心を持つ人が意識的に訪れる場所だからである。一方、スーパーマーケットは、そこで暮らす人々が日常的に食料品や飲み物を購入する場所だ。 その国のビール文化を知るためには、特別なビールがどこで飲めるかだけでなく、日常の買い物で何が選ばれているのかを見る必要がある。 スーパーマーケットで見た、もうひとつのベルギービール ブリュッセルでスーパーマーケットを訪れたとき、私が目にしたのは、ヒューガルデンやレフ、そしてステラ・アルトワなど、比較的規模の大きなブランドを中心とするビール売り場だった。

修道院ビールも一部には見られたが、私が日本で思い描いていたような、ベルギーの多種多様なビールがずらりと並ぶ売り場とは印象が違った。 もちろん、これは私が訪れた店舗での経験であり、すべてのスーパーマーケットに共通する状況だと断言することはできない。店舗の規模や立地、時期によって品ぞろえは変わる。 それでも、その売り場を見たことには意味があった。 日本ではベルギービールという言葉から、修道院ビールやランビック、グーズ、セゾンといった個性的なスタイルを連想することが多い。ビール好きにとっては、そうした商品こそがベルギーの魅力を象徴している。 しかし、日常の買い物では、必ずしもそのようなビールが中心になるわけではない。 消費者は、毎回ビールの歴史や醸造方法を調べてから商品を選ぶわけではない。価格、飲み慣れた味、ブランドへの信頼、買いやすさ、食事との相性など、さまざまな要素から商品を選ぶ。 そこにあるのは、ビールを深く研究するための選択ではなく、生活の中で自然に行われる選択だ。

1070年、最初の修道士達が南部イタリアからこの地にやってきたのがこの修道院始まりです。

Rochefort

私にとって、この違いは大きな発見だった。 専門店に行くと、景色は一変した 一方、ビール専門店を訪れると、状況は大きく変わった。 修道院ビールをはじめ、さまざまなベルギービールが並び、普段の買い物とは違う選択肢が広がっていた。 同じ国の中でも、販売する場所が変わるだけで、目に入るビールの世界は大きく変わる。 スーパーマーケットには日常のビールがあり、専門店には、より幅広い嗜好や知識に応えるビールがある。 もちろん、専門店で買う人がすべて熱心なビールマニアというわけではない。贈答用や特別な日のために買う人もいるだろう。 それでも、専門店には、商品を選ぶこと自体を楽しむ文化がある。 このことは、クラフトビールのマーケティングを考えるうえで重要だ。 同じ商品でも、どこで販売するかによって、消費者が期待する価値は変わる。

日常の買い物の中で手に取ってもらうのか、専門的な知識を持つ販売員から説明を受けて選んでもらうのか。飲食店で料理と一緒に楽しんでもらうのか。 販売場所は、単に商品を置くための場所ではない。 そのビールを、どのような存在として消費者に認識してもらうかを決める、マーケティングの一部なのである。 カフェで飲まれるビール、ビール好きが探すビール ブリュッセルのカフェでも、私が感じたのは、日常的に親しまれている大規模ブランドの存在感だった。 修道院ビールを扱う店もある。しかし、私が訪れたカフェでは、ステラ・アルトワなどのピルスナー系ブランドが目につき、ランビックを気軽に見かける機会は限られていた。 この経験から、ベルギーのビール文化には、日常的に飲まれるビールと、積極的に探して楽しむビールという、異なる接点があるのではないかと考えた。 私が訪れた店には、ベルギーの人々ももちろん来ていた。だが、そこには日本でクラフトビール好きが専門店や個性的なビアバーを訪れるときに近い感覚もあった。 特別な銘柄を探す。知らなかった味に出会う。

店員や仲間とビールの話をする。普段とは違う一杯を楽しむ。 そうした楽しみ方は、ベルギーだけに存在するものではない。 だからこそ、ベルギーのビール文化を理解する際には、「ベルギー人なら、みんな珍しいベルギービールを日常的に飲んでいる」というイメージから離れる必要がある。 ビールの生産国であることと、その国のすべての人が多様なビールスタイルを日常的に楽しんでいることは、同じではないのだ。 日本市場でChimayを売るという経験 日本でChimayのマーケティングに携わっていたとき、商品を知ってもらうことの難しさを感じていた。 歴史がある。修道院との関係がある。醸造に独自の伝統がある。そして、実際に飲めば、その個性を感じられる。 しかし、それらを説明するだけで、商品が売れるとは限らない。 そもそも、消費者がその商品を知らなければ、売り場で選択肢に入ることもない。商品を知っていても、価格が高いと感じれば手を伸ばさないかもしれない。飲んだことがなければ、味の違いを想像できないこともある。

2025年のベルギー国内ビール消費量は前年比3.2%減少、飲食店などの業務用市場は4.1%減、小売市場も2.6%減。輸出も前年比4.8%減少した。

そのため、マーケティングには、商品の背景を伝えることと、実際に飲んでもらう機会をつくることの両方が必要になる。 例えば、修道院の歴史を紹介するだけでなく、どんな料理と合うのか、どんな場面で飲むと楽しいのか、ほかのビールと何が違うのかを伝える。 専門店だけでなく、飲食店やイベントを通じて新しい接点をつくる。 商品を理解している人に向けて深い情報を発信する一方で、まだ知らない人には、もっとわかりやすい入り口を用意する。 こうした取り組みは、ベルギービールに限らず、クラフトビール全体に共通する課題だろう。 伝統があることと、売れることは別の問題 ベルギービールの歴史や多様性は、世界に向けて発信できる大きな資産だ。 しかし、その価値を持っていることと、現代の市場で消費者に選ばれることは別の問題である。 ベルギー醸造家連盟の報告によると、2025年のベルギー国内ビール消費量は前年比3.2%減少した。飲食店などの業務用市場では4.1%減、小売市場でも2.6%減となった。輸出も前年比4.8%減少している。 この数字は、ベルギービールの文化的価値が失われたことを意味しない。しかし、歴史や知名度だけでは、市場の変化を乗り越えられないことを考える材料にはなる。

世界に誇れるビールを造ることと同時に、そのビールを日常の中で選んでもらうことを考え続ける。

人々の飲酒習慣は変わる。価格への意識も変わる。酒類以外の選択肢も増える。若い世代が、以前と同じ頻度でビールを飲むとは限らない。 そうした変化の中で、醸造家やブランドが考えるべきことは、伝統をどう説明するかだけではない。 誰に飲んでもらいたいのか。どのような場所で出会ってほしいのか。何をきっかけに、もう一度手に取ってもらうのか。 その問いを考え続けることが必要になる。 ベルギーを訪れた経験は、私にひとつの視点を与えてくれた。 世界に誇れるビールを造ることと、そのビールを日常の中で選んでもらうこと。その間には、マーケティングという仕事がある。 そして、その仕事は、商品の歴史を語るだけでは終わらない。 伝統を守りながら、変わり続ける消費者とどう向き合うのか。 それが、ベルギービールの未来を考えるうえでも重要なテーマになる。

次回、第3部。ベルギービールの未来は、伝統を守ることだけではない。

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