
17September 2026 vol.300

「日本らしいビールを作ろう。」
日本のクラフトビール業界で、何度この言葉を聞いただろう。

柚子。山椒。抹茶。桃。梅。米。味噌。

日本酒とのコラボ。もちろん、面白い。海外の人にとっても、日本らしさはわかりやすい。
でも、ちょっと待ってほしい。
本当にそれが、日本のクラフトビールが世界で評価されるための答えなのだろうか。
僕は、少し違うと思っている。
5.0のビールは「日本らしい」のか?
Untappdが2025年に発表した「5.0評価のチェックイン数ランキング」を見ると、それがよくわかる。
1位はRussian River Brewing CompanyのPliny the Elder。5.0チェックインは9,677件。
Pliny for President (プライニー フォー プレジデント,「Plinyを大統領に!」) は 2020 年のアメリカ大統領選挙の年に初めてつくられた (D)IPAで 今年が 2 回目のリリースとなる。President (大統領)が名前に入っている様に、4 年に一度の大統領選挙がある年のみにリリースされる貴重なビール

2位はThe AlchemistのHeady Topper。5,841件。
3位はYuengling Traditional Lager。 5,773件。
その後にZombie Dust、Two Hearted、Westvleteren 12、Duvel、Augustiner Lagerbier Hell、Focal Banger、Juliusが続く。
ここで一つ、奇妙なことに気づく。「変わったビール」がほとんどない。
PlinyはDouble IPA。
Heady TopperもDouble IPA。
Two HeartedはAmerican IPA。
Zombie DustはAmerican Pale Ale。
AugustinerはHelles。
DuvelはBelgian Strong Golden Ale。
つまり、世界中のビールファンが5.0をつけているのは、「珍しいから」ではない。「圧倒的に美味しいから」なのだ。
「日本らしさ」とは?ではなく『世界らしさ』ではどう?
日本のブルワリーが海外を意識すると、どうしても「日本らしさ」を探し始める。
柚子を入れる。山椒を入れる。米を使う。日本茶を使う。

それ自体は悪くない。
問題は、「日本らしい原料を入れれば、日本のビールになる」という発想だ。
例えばアメリカのクラフトビールを考えてみる。
Pliny the Elderを飲んで、「アメリカだから美味しい」とは誰も言わない。
Heady Topperもそうだ。「バーモント州だから美味しい」のではない。ホップの使い方。
苦味。香り。ボディ。温度。鮮度。そして、飲んだ瞬間のインパクト。それらが全部ひとつになっているから、世界中の人が評価する。
日本が作るべきなのは「Japanese Beer」ではない

ここで、少し乱暴なことを言いたい。
日本のブルワリーは、「Japanese Beerを作ろう」としすぎているのではないか?
そうではなく、「世界一美味しいBeerを、日本で作る」くらいでいい。
その結果、「これ、どこのビール?」「日本です。」となればいい。
日本料理だって同じだ。
寿司は、「外国人向けの日本食」 として世界に広がったわけではない。
日本で積み重ねられた技術と文化が、世界に受け入れられた。
クラフトビールも同じでいい。
「日本のホップ」をもっと信じていい

日本が本当に世界で勝負できる可能性があるとしたら、僕は国産ホップに注目したい。
ただし、「国産ホップを使いました」というだけでは弱い。
重要なのは、「この香りは日本のホップだから出る」というところまで行くことだ。

2024 T-90 PELLETS
Alpha Acid 6.1%
アメリカにはCascadeがある。
Centennialがある。
Citraがある。
Mosaicがある。
ニュージーランドにはNelson Sauvinがある。
オーストラリアにはGalaxyがある。
では、日本には何があるのか。「日本産です」というラベルではなく、世界のブルワーが名前を覚えるホップ。そこまで育てる必要がある。
そして、日本の水はもっと評価されていい

もう一つ、日本がもっと評価していいものがある。
水だ。
ビールの90%以上は水。なのに、クラフトビールの話になるとホップや麦芽ばかりが注目される。
日本には軟水の地域が多い。
もちろん地域によって硬度は違う。
だからこそ、その水をどう設計し、どうスタイルに合わせるか。
ここにも日本の醸造技術がある。
「日本の水だから美味しい」ではなく、「このビールには、この水が必要だった」というところまで突き詰める。
「寿司に合うビール」だけでは弱い。もっと攻めていい。

日本の強みは「素材」だけじゃない
さらに言えば、日本の強みは食文化だ。
ただし、「寿司に合うビール」だけでは弱い。もっと攻めていい。
焼き鳥。天ぷら。蕎麦。鰻。ラーメン。発酵食品。魚。出汁。漬物。
日本には、世界でもかなり特殊な「食と飲み物」の文化がある。
ここにクラフトビールをぶつける。
例えば、
出汁とHelles。
焼き鳥とWest Coast IPA。
蕎麦とSaison。
刺身とDry Lager。
「日本食に合うビール」という言い方ではなく、「この料理には、このビールしかない」というところまで作る。
ただの「珍しいビール」は、一度飲んで終わる
ここはクラフトビール業界にとって重要だ。
珍しいビールはSNSで話題になる。
写真も撮られる。記事にもなる。でも、それだけでは「名作」にはならない。
一度飲んで、「面白い!」で終わるビールと、一度飲んで、「もう一杯ください」と言われるビールは違う。
さらに、「また飲みたい」になり、「誰かに飲ませたい」になり、「日本に行ったら絶対飲みたい」になる。
そして10年後、「あのビール、まだある?」となる。
Pliny the ElderやHeady Topperが強いのは、そこだ。
「Untappd 5.0」を目標にしてはいけない

ここも矛盾しているようだが重要だ。
Untappdで5.0を取ることを目標にすると、たぶん5.0のビールは作れない。
なぜなら、5.0は結果だからだ。目的ではない。
ブルワーがやるべきことは、「どうしたら5.0になるか」ではなく、「どうしたら、このビールをもう一度飲みたくなるか」を考えること。
5.0は、その結果として付いてくる。
日本には「世界一」がまだ少なすぎる
日本のクラフトビールは、技術的にはかなり高いところまで来ている。
設備もある。原料も手に入る。醸造家もいる。海外のスタイルも理解している。海外ブルワリーとのコラボも増え交流が増えた。
それでも、「世界中のビール好きが、その名前を知っている日本のビール」は、まだ圧倒的に少ない。
これは、技術の問題だけではないと思う。むしろ、「何を作るのか」の問題だ。
「日本一」ではなく「世界の定番」を作る
日本のクラフトビールが次のステージへ行くなら、「日本で一番美味しいIPA」ではなく、「世界で一番飲まれているIPAの一つ」を狙ってもいい。
そのためには、日本らしさを足すことより、世界の基準を理解すること。そのうえで、日本にしかないものを一つだけ入れる。
あるいは、何も入れない。
20年後に残っているか?
2025年のUntappdランキングを見て、一番考えさせられるのはここだ。
Pliny the Elder。
Heady Topper。

Two Hearted。
Duvel。
Westvleteren。
どれも「昨日できたビール」ではない。クラフトビールの世界では、〈新しい=価値がある〉という時代が長く続いた。
でも、そろそろ変わっていい。新しいビールを作る。
話題になる。▶︎ 売れる。▶︎ それも重要。
しかし、本当に難しいのは、「10年後も売れていること」。「20年後も飲まれていること」。
そして、次の世代のブルワーが、「このビールを飲んで、醸造家になりたいと思った」と言ってくれること。
日本のクラフトビールは、まだ「歴史の途中」にいる
だから僕は、「日本らしいビールを作ろう」という言葉より、「日本から、世界のクラシックを一本作ろう」と言いたい。
柚子でもいい。山椒でもいい。ホップだけでもいい。LagerでもIPAでもいい。
大切なのは、日本の素材を使ったことではない。その一杯が、誰かの記憶に残るかどうか。
「日本で飲んだ、あのビール」ではなく、「世界で飲んだ、あのビールが日本のビールだった」と言わせる。
そこまで行けば、「日本らしさ」を説明する必要はない。ビールそのものが、日本を語ってくれる。
それが、本当の意味での「Japanese Craft Beer」なのだと思う。

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