Why can’t Japanese craft beer scientifically define "delicious"? Is it acceptable to ship a product simply because the brewer says it tastes good?

16 September 2026 vol.298
当たり前のようにつかっていないか?根拠のない「美味しい」

クラフトビールの世界では、よく「美味しい」という言葉が使われる。 「このIPA、めちゃくちゃ美味しい」 「今回の仕込みはかなりいい」 「前回より香りが出ている」 ブルワーも、営業も、飲食店も、消費者も、毎日のようにこの言葉を使う。 しかし、ここで一つ疑問がある。 その“美味しい”は、誰にとっての美味しいなのか。 そして、 その美味しさを、次のロットでも再現できるのか? 実は、ここに日本のクラフトビールがまだ十分に踏み込めていない領域がある。 それが、Sensory Analysis――官能評価だ。
ensory Analysis――官能評価だ。

⸻ 「美味しい」は、品質管理ではない ブルワーがビールを飲んで、 「問題ない」 と言う。 これは大切な判断だ。 しかし、それだけでは品質管理とは言えない。 なぜなら、人間の味覚や嗅覚には大きな個人差があるからだ。 例えば、ある香味成分を強く感じる人もいれば、ほとんど感じない人もいる。 実際、Brewers Journalが紹介する最新のSensory Testingの記事では、マスターブルワーであっても特定の香味成分を感じ取れない可能性が指摘されている。だからこそ、一人のブルワーではなく、複数人によるSensory Panelが重要になる。
つまり、 「ブルワーが問題ないと言った」 ことと、 「そのビールに問題がない」 ことは、同じではない。 ここを混同してはいけない。
⸻ マスターブルワー=マスターテイスターではない これは、かなり重要な話だ。 日本では、 「このビールのことはブルワーが一番わかっている」 という考え方が強い。 もちろん、ブルワーは醸造について誰よりも詳しい。 原料も知っている。 仕込みも知っている。 発酵も知っている。 ホップも知っている。 だからこそ、自分が造ったビールを最も理解している。 しかし、 「醸造技術に優れていること」と「すべての香味を感じ取れること」は別問題だ。 Brewers Journalの記事でも、元マスターブルワーのPhil Douglasが、ヘッドブルワーが特定の香味を感じ取れなければ、その問題が醸造所内で見逃される可能性を指摘している。 だから必要なのは、 「一番舌のいい人を探すこと」ではない。 「複数の人間の感覚を、同じ基準で使えるようにすること」 なのだ。
「オフフレーバー=悪」でもない
ここも、クラフトビールを理解するうえで非常に面白い。 例えばフェノール(別名を石炭酸とも言います) クローブやアニスのような香りを感じさせる成分は、Lagerでは好ましくない場合がある。
しかし、Weizenのようなビールでは、むしろ特徴として評価される。 つまり、 香味成分そのものが「良い」「悪い」なのではない。 重要なのは、 どのビールに、どの濃度で存在しているか。 ということだ。 これはクラフトビールにとって非常に重要な考え方だ。 「この香りがあるから欠陥」 ではない。 「この商品が目指している味に対して、その香りは適切なのか?」 なのである。
⸻ IPAは「ホップが強ければいい」のか? 例えばIPA。
最近のクラフトビールでは、
「めちゃくちゃトロピカル」
「ジューシー」
「ホップ爆発」 という表現が当たり前になった。
しかし、 ホップの香りが強い=美味しい ではない。
香味成分は相互作用する。 最近の研究でも、チオールなどの濃度を単純に上げればトロピカルな香りが強くなるわけではなく、エステルやテルペノイドなど他の香気成分との組み合わせが官能評価に大きく影響することが示されている。 つまり、 「成分を増やす」ことと「美味しくする」ことは違う。 これはクラフトビールメーカーが、これからもっと理解しなければならない部分だ。
「美味しい」を数字にできるのか? できる。
もちろん、ビールの美味しさを一つの数字にすることはできない。 しかし、 香り、味、ボディ、苦味、酸味、炭酸、後味、オフフレーバーなどを項目ごとに評価することはできる。 そして、そのデータをロットごとに残していく。
例えば、
Batch #001 Tropical 8 Citrus 7 Bitterness 6 Body 5 Oxidation 1 Diacetyl 0 Sulfur 0 そして次のロット。
Batch #002
Tropical 6 Citrus 5 Bitterness 7 Body 5 Oxidation 2 Diacetyl 0 Sulfur 0 すると、 「なんとなく今回ちょっと違う」 ではなく、 「前回よりトロピカル感が落ちている」 という会話ができる。 これが、 “感覚の共有”から“データとしての品質管理”への移行 だ。
そして重要なのが“感覚の共有”から“データとしての品質管理”への移行だ
⸻ そして重要なのが「営業も飲む」こと
Sensory Panel(食品や飲料の味・香り・食感を評価する人々のグループ)というと、 主に「ブルワーと品質管理担当者だけでやればいい」 と思うかもしれない。 むしろ逆だ。 営業も飲む。 タップルームのスタッフも飲む。 商品管理も飲む。 マーケティングも飲む。 経営者も飲む。
Brewers Journalの記事でも、ブルワーだけではなく営業、タップルームなど醸造所以外のスタッフを含めたパネルの重要性が語られている。 なぜか。 ビールは醸造所で終わらないからだ。 タンクから樽へ。 缶へ。 トラックへ。 倉庫へ。 飲食店へ。 そして消費者のグラスへ。 その途中で味は変化する。 だから、 「工場で美味しかった」だけでは意味がない。
最高傑作が店で飲んだら、 「あれ?」 となる
⸻ 最高傑作が、店では別のビールになっている クラフトビールでは、特にIPAでこの問題が大きい。 醸造所では、 「最高の出来!」 だった。 ところが数週間後、店で飲んだら、 「あれ?」 となる。
酸化。 温度管理。物流。 光。 ディスペンス。樽の状態。 サーバー。 グラス。
様々な要素が関係する。 だから本当に強いブルワリーは、 「出荷した時点の品質」だけではなく、「消費者が飲む時点の品質」まで見る。 例えばCloudwaterは、缶に「Freshest Flavour Before」という考え方を導入し、最もフレッシュな状態を保てる目安を明示している。醸造所のSensory Panelを通過したビールが、その後どのように変化していくかまで考えているわけだ。
いつまでも「職人の勘」から抜け出せない味の保証
⸻ 日本のクラフトビールがExcel経営なら、味覚も「職人の勘」から抜け出せない ここが日本のクラフトビール業界の問題だと思う。 日本のブルワリーは、 販売管理はExcel。 在庫もExcel。 原価計算もExcel。 そして品質管理は……ブルワーの舌。 これでは、会社が大きくなった時に限界が来る。 50KLなら、それでもなんとかなる。 100KL。 150KL。 300KL。 500KL。 そして複数拠点。 ここまで来ると、 「あのブルワーが飲んでOKと言ったから大丈夫」 では会社としての品質保証にならない。
⸻ 本当に必要なのは「Sensory Panel」 では、日本のブルワリーは何をすればいいのか。 難しいことから始める必要はない。 まずは、 5〜8人のSensory Panelを作る。 ブルワーだけではなく、 * ブルワー * 品質管理 * 営業 * 商品管理 * タップルーム * マーケティング * 経営 から選ぶ。 そして週1回、20〜30分。 同じビールを飲む。 ただし、 「美味しいですか?」とは聞かない。 聞くのは、 「香りは?」 「苦味は?」 「ボディは?」 「酸化感は?」 「硫黄系は?」 「ダイアセチルは?」 「前回のロットと比べてどうか?」 そして、 「この商品の設計思想に合っているか?」 を評価する。
⸻ 「好き」と「品質」を分ける ここが最も重要だ。 ある人がIPAを飲んで、 「苦すぎる。嫌い」 と言った。 これは、その人の嗜好だ。 一方、 「設計値より苦味が高い」 というのは品質評価だ。 この二つを混ぜてはいけない。 クラフトビールは嗜好品だから、 好き嫌いはなくならない。 だからこそ、 「好き嫌い」と「品質」を分離する。 これが科学的なSensory Analysisの入り口になる。
「美味しい」を再現できる会社が強い
⸻ 「美味しい」を再現できる会社が強い クラフトビールの魅力は、 毎回違うこと。 季節によって違う。 ホップによって違う。 酵母によって違う。 ブルワーによって違う。 それもクラフトビールの面白さだ。 だから、 全部を均一化しろ という話ではない。
むしろ逆。 個性を残したまま、 「狙った味を狙った通りに造れる」 ことが重要なのだ。 それは大量生産ビールだけの考え方ではない。 クラフトビールこそ必要な考え方だ。
「職人の舌」から「会社の舌」へ
これから日本のクラフトビール業界で重要になるのは、 設備の大きさでもない。 ホップの量でもない。 派手なコラボでもない。 もちろん、それらも重要だ。
しかし、その先にあるのは、 品質を再現できる組織を作れるか。 だと思う。 ブルワー一人の才能に依存する会社から、 チーム全員で味を理解する会社へ。 「美味しい」という感覚を、 言葉にする。 共有する。 記録する。 分析する。 そして、次の仕込みにフィードバックする。 それができれば、 クラフトビールはもう一段、成熟する。
その「美味しさ」をもう一度作れるか?
⸻ 「美味しい」は感性だ。 しかし、 「なぜ美味しいのか?」は、科学できる。 そして、 「その美味しさをもう一度作れるか?」は、経営の問題だ。

次の10年に必要なのは、 「どうやって、その味を再現し続けるか」。
日本のクラフトビールは、これまで「何を造るか」に多くの情熱を注いできた。
次の10年に必要なのは、 「どうやって、その味を再現し続けるか」。 なのかもしれない。 ブルワーの舌から、Sensory Panelへ。 日本のクラフトビールは、そろそろ「美味しい」を科学する時代に入っている。

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