What Do 5-Star Beers Tell Us? 15 Years of Craft Beer Revealed by Untappd’s “2025 5.0 Ranking”

1 September 2026 vol.256
9月 長月(ながづき)菊月(きくづき)紅葉月(もみじづき)夜長月(よながづき)寝覚月(ねざめづ き) & September 。9月の満月は、英語圏やアメリカの先住民の文化においてハーベストムー ン(Harvest Moon/収穫月)やコーンムーン(Corn Moon/トウモロコシ月)と呼ばれています。
クラフトビールを飲んでいて、一度は使ったことがある人も多いだろう。 「Untappd」。

2010年、Greg AvolaとTim Matherによって始まったこのアプリは、クラフトビールを飲んだ記録を残し、友人と共有するというシンプルなサービスからスタートした。 スマートフォンが急速に普及し始めた時代。 FacebookやInstagramなど、SNSが生活の中に入り始めたタイミングで、「ビールを飲んだ」 という体験そのものを記録する場所が生まれた。 それから15年。 Untappdは、世界最大級のクラフトビールのデジタルプラットフォームへと成長した。
そして2025年。 そのUntappdで「5.0」という最高評価をつけられた回数を調べると、非常に興味深いランキングが見えてくる。
1位 「Pliny the Elder」by Russian River Brewing Company
1位はRussian River Brewing Companyの「Pliny the Elder」。

2025年の5つ星チェックインは、なんと9,677件。
2位のHeady Topperが5,841件なので、圧倒的な数字だ。
Pliny the Elderは、いまではアメリカンクラフトビールを象徴する存在だが、その誕生は1990年代半ばまで遡る。
当時、Vinnie CilurzoがBlind Pig Brewingで働いていた時代に生まれたDouble IPAの発想が、後のPliny the Elderにつながっていく。

Amarillo、Centennial、CTZ、Simcoe。 パイン、樹脂、シトラス。 そしてドライなフィニッシュ。 現在ではDouble IPAというカテゴリー自体が珍しくない。 しかし、Pliny the Elderが登場した当時、それはまだ「新しいビール」だった。 つまり、この5.0という評価は、単純に「2025年に美味しかった」という話ではない。 クラフトビールの歴史そのものが評価されている。
2位「 Heady Topper」 by The Alchemist
2位は、The Alchemistの「Heady Topper」。 5,841件。

The Alchemist Heady Topper
こちらもアメリカンクラフトビール史を語るうえで欠かせないビールだ。
興味深いのは、Heady Topperが最初から「世界的なビール」だったわけではないこと。
John Kimmichが醸造したHeady Topperは、当初The の小さなブルーパブでドラフト提供されるローカルビールだった。

むしろ、限られた場所でしか飲めないことが、その価値を高めていった。
そして2011年。 ハリケーン・アイリーン(Hurricane Irene)による洪水でThe Alchemistのパブが営業できなくなる。 そこでKimmichは、Heady Topperの缶詰を始める。 結果的に、この決断がクラフトビール史を変えた。 「飲めないから飲みたい」。 「どこでも買えないから欲しい」。 そしてSNSが、その希少性をさらに増幅させた。 Heady Topperは、ビールそのものだけでなく、 「手に入れること」まで含めて体験になる という、現在のクラフトビール文化を象徴する存在になった。
3位 「Traditional Lager」 by Yuengling Brewery
3位にYuengling Lager ここで少し意外な名前が出てくる。

3位は、Yuengling Breweryの「Traditional Lager」。 5,773件。
IPAでもHazy IPAでもない。 アメリカ最古の現役ブルワリーとして知られるYuenglingの、非常にクラシックなAmber Lagerだ。 これは、このランキングで最も重要なポイントかもしれない。 なぜなら、 クラフトビールファンが、必ずしも「新しいビール」だけを評価しているわけではない ことを示してい るからだ。
少しトースティー。 少しロースティー。 ClusterとCascade。 そして、飲みやすい。 派手なホップ爆発ではない。 しかし、ちゃんとビールらしい。 「ビールはビールらしくていい」。 そんな価値観も、2025年の5つ星ランキングには存在している。
4位 「Zombie Dust」 by 3 Floyds Brewing

5つ星チェックインは3,872件。
2010年に登場したこのAmerican Pale Aleは、Citraというホップをほぼ単独で使用したSMaSH系のビールとして知られている。
オレンジ。 タンジェリン。 クレメンタイン。 そして6.2%ABV。 現在ではCitraを使ったビールなどいくらでもある。 しかしZombie Dustが登場した2010年前後、Citraはまだ新しい存在だった。 つまりZombie Dustは、 「新しいホップを、どうビールにするか」 という時代の答えだった。
5位 「Two Hearted」 by Two Hearted Bell’s Brewery

3,281件。 このビールもまた、Centennialホップ100%という極めてシンプルな設計を持つ。
1997年に最初は冬季限定として登場し、2003年から通年販売になった。 現在ではBell’sの代表的なビール。 そして2017年には、Zymurgy Magazineの読者投票で「Best Beer in America」においてPliny the Elderを破った。 ここにも共通点がある。 複雑だから評価されたわけではない。 一つのホップを、徹底的に突き詰めた。 それが長い時間をかけて「クラシック」になった。
6位 「Westvleteren 12」 by Trappist Westvleteren 12

5つ星は3,135件。 このビールだけは、アメリカンクラフトビールとは少し文脈が違う。
希少性。 修道院。 限られた生産量。 そして、なかなか手に入らないこと。 つまりここでも、 「飲むこと」そのものが体験になる。 という構造が見える。
7位 「Duvel」by Duvel Moortgat

5つ星は2,681件。 一見するとシンプルなBelgian Strong Golden Aleだが、その製造には長い時間と細かな工程が必要になる。 発酵。 熟成。 低温管理。 瓶内二次発酵。 さらに熟成。 派手なホップや特殊な副原料ではない。 むしろ、 「基本を極限まで突き詰める」 という価値観だ。
8位 「Lagerbier Hell」by Augustiner-Bräu

5つ星は2,601件。
ミュンヘンの伝統的なHellesだ。 クリーン。 クリスプ。 少しモルティ。 そして、とにかく飲みやすい。 ここでもIPA一辺倒ではないことがわかる。 むしろ2020年代後半に向かうクラフトビール市場では、 Lagerの再評価 が進んでいる。 これは日本のクラフトビール市場を考えるうえでも非常に重要なポイントだ。
9位 「 Focal Banger」 by The Alchemist

5つ星は2,459件。
CitraとMosaic。 トロピカルフルーツ。 グレープフルーツ。 パイナップル。 そして90 IBU。 Heady Topperの影に隠れがちだが、こちらもアメリカンIPAを代表する存在だ。
10位、「Julius」 by Tree House Brewing Company

5つ星は2,171件。
マンゴー。 ピーチ。 パッションフルーツ。 そしてTree Houseらしい、柔らかくクリーミーな口当たり。 New England IPAの歴史を語るうえで欠かせないビールの一つだ。
10本を並べると、見えてくる 意外な景色
ここまでランキングを見ると、あることに気づく。
2025年のUntappd「5.0」は、 新しいビールだけではない。
むしろ、 Pliny the Elder。 Heady Topper。 Two Hearted。 Zombie Dust。 Duvel。 Westvleteren 12。 Augustiner。 Julius。
そこには、それぞれの時代を代表する「クラシック」が並んでいる。
そしてもう一つ。 IPAだけでもない。 Double IPA。 American IPA。 Pale Ale。 Amber Lager。 Helles。 Belgian Strong Golden Ale。 Belgian Quadrupel。 スタイルもバラバラだ。
記憶に残るのは「味」以上のクラフトビールがもたらす「体験」
では、彼らに共通しているものは何なのか。
「新しさ」より「記憶に残ること」 僕は、このランキングを見ていて一つの共通点を感じる。 それは、 「そのビールを飲んだこと自体が記憶に残る」 ということだ。
Pliny the Elderを初めて飲んだ。
Heady Topperを初めて飲んだ。
Westvleteren 12をようやく飲めた。
初めてTree Houseに行った。
初めてAugustinerをミュンヘンで飲んだ。
こうした体験は、単なる「味」の評価ではない。
場所。 人。 歴史。 希少性。 ストーリー。 そして、その時代。 それらすべてが一杯のビールに重なっている。
⸻ Untappdが記録しているのは「味」だけではない Untappdは、ビールの点数を記録するアプリだ。 しかし15年という時間を振り返ると、そこに残っているのは単純な味のランキングだけではない。 クラフトビールがどのように世界へ広がったのか。 どんなホップが流行したのか。 どのブルワリーが文化をつくったのか。 そして、消費者が何を「特別な一杯」と考えてきたのか。 それらが、チェックインという小さな記録の積み重ねとして残っている。 言ってしまえばUntappdは、 クラフトビールの集合記憶 なのかもしれない。
「10年後も飲まれていること」の難しさ
⸻ そして2025年、クラシックが強い このランキングで僕が一番面白いと思ったのはここだ。
クラフトビールは「新しいものを作り続ける産業」だと思われがちだ。
新しいホップ。
新しい酵母。
新しいスタイル。
新しい原料。
新しいパッケージ。
しかし、2025年に5つ星を集めているビールを見ると、そこには20年、30年近く飲み続けられているビールがたくさんある。
つまりクラフトビールにとって、本当に難しいのは、 「一度話題になること」ではなく、「10年後も飲まれていること」 なのではないだろうか。
「20年後に〈5.0〉をつけてくれるビールを、今つくれているか?」
⸻ 日本のクラフトビールに必要なのは「次のPliny」なのか? 日本のブルワリーが海外を目指すとき、 「日本らしい原料を使おう」 「新しいスタイルを作ろう」 「SNSで話題になるビールを作ろう」 という発想になりやすい。 もちろん、それも重要だ。
でも、このランキングを見ると別の問いが浮かんでくる。
「20年後に誰かが5.0をつけてくれるビールを、今つくれているか?」
Pliny the Elderは1990年代から続いている。 Two Heartedも1990年代。 Heady Topperも2000年代初頭。 Zombie Dustも2010年。 彼らは、その時代の流行に乗っただけではない。 結果として、 「その時代を象徴する味」 になった。
本当のクラフトビールの価値は点数では測れない

⸻ クラフトビールの価値は、点数では測れない Untappdの5.0は面白い。 数字としてわかりやすい。 しかし、本当に価値があるのは、その数字の裏側にある。 9,677人がPliny the Elderに5.0をつけた。
それは、9,677回の「美味しい」だけではない。
その人がどこで飲んだのか。
誰と飲んだのか。
そのビールをどうやって手に入れたのか。
初めて飲んだのか。
何度目だったのか。
そして、その一杯を10年後にも覚えているのか。
クラフトビールという文化が成熟するほど、 「新しい」から「記憶に残る」へ。 価値の基準も変わっていく。 Untappdの15年と、2025年の5つ星ランキングは、そのことを静かに教えてくれている。
そして日本のブルワリーにとって本当に目指すべきなのは、 「今日、5.0を取るビール」ではなく、 「20年後にも5.0をつけたくなるビール」 なのかもしれない

「TAJI JARNAL」とマークされているテキストは 本誌編集長田嶋伸浩が執筆しております。
【略歴】 田嶋伸浩

2013年よりクラフトビール専門誌『TRANSPORTER BEER MAGAZINE』発行人となる。
2017年ベルギー発修道院ビール『CHIMAY』と契約、ジャパンマーケテングを担当。その後もクラフトビール業界において幅広く活動、会社顧問商品開発、店舗開発,コンサルティング、ブランドプロデユース、デザイン、広告、関連の仕事を数多く行なっている。
2018年伊勢角屋麦酒顧問就任
2019年FAR YEAST BREWINGアドバイザリー就任
2021年鎌倉ビール顧問就任
FAR YEAST BREWING TOKYO 店舗開発
伊勢角屋麦酒 八重洲店・新宿店・新橋店 店舗開発
株式会社なんつね飲食部門オリジナルビール企画店舗監修
BLACK TIDE BREWING 合同会社 代表社員
株式会社FUKUOKA CRAFT 代表取締役
株式会社ライフコーポレーションでのオリジナルビール企画、デザイン。
スーパーマッケット オオゼキでのオリジナルビール企画
株式会社RETTY でのクラフトビールイベント企画。
株式会社日テレ7でのオリジナルビール企画、アドバイザリー。
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