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加地争論 KACHI SOURON!! -第二回「樽返却から見る常識・非常識」-

TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.9(2016)

2022年 08月 10日 11時 39分 投稿 305 Views
始めに
今回は樽返却についてのマナーをとり上げたい。が、むしろ今回の内容がマナー違反しているのでは? と言われそうな表現や画像がある事をあらかじめお詫び致したい。しかし、 百聞は一見にしかず。読んで、見て、造り手と売り手の間にある現実を目の当たりにして欲しいと思う。

 日本において基本的にビール樽と呼ばれているモノのが「ケグ」と言う名前だという事を知っているだろうか? このステンレスで出来た樽がなければ売り手でドラフトビール(俗にいう樽生)を飲む事は出来ないと言っても過言ではない。そして我々が売っているモノは樽の中に入っているビールであって樽そのものではない。樽はあくまでただの入れ物であり、造り手から売り手へレンタルしているものである事を念頭に入れておいて欲しい。

 TRANSPORTER 読者の中にはクラフトビールに関する情報にアンテナを張り、開栓情報、イベント、コミュニティー、ブルワーの行動を追いかけている方も多くいると思われるが、SNS などで我々造り手側からのこんな悲鳴を目にしたことがあるのではないだろうか?
「樽が足りない!!! 早期返却求む!!!」
「送り状直接貼って返って来た・・・(涙)」

これらは私自身も幾度となく警鐘を鳴らしているビール業界における造り手と売り手の間に存在する根深い問題なのだ・・・。

 各々の会社によって売買条件は異なるものの、使い捨てである「パブケグ」や「キーケグ」で無い限り、そのレンタルされた容器は使用後に速やか、且つ綺麗な状態で返すのが借りた側のマナーであり義務であると私は考えている。当然だが、売り手側の事情も十分に考慮しなければならない事も当然ある。

 例えばTAP や樽が中々空かず返却予定が遅れた。コストダウンの為返却時に複数の樽を1括りにして返送する。よく見ると汚れたままの樽などなど・・・。実際の話としてこういった形で返却されているのが現状であり、造り手側も返却する本数・期間・状態などが許容範囲であれば目をつむる事が殆どである。

 しかしながら、それ以外にも樽の確保(熟成にまわすケース等)、納品から1年以上も経っての返却といった厳密な売買契約上成立しているならば問題の無い事が連絡も無く行われてしまう事も多い。また、返却方法についても目を疑う様な酷い有様で返却されることもしばしば。中には返却されないケースさえある。無論、発送側から返却方法や条件などを明示しないケースも大きな問題だがいくらなんでも

人としてマナーや常識というものがあるのではないだろうか?

■樽の返却

 返却遅れは造り手の樽不足を生み、樽不足となればビールを樽詰め出来ずタンクが空かず次のビールが仕込め無い。仕込みが出来なければ生産量が減り売上も減る、市場へまわすビールも減ってしまう。当社にとっては本免許獲得の為の生産量不足にもつながる死活問題であり樽返却の遅れは負のスパイラルの元凶と言える。

 「樽を買い増せば良いじゃないか?」

 確かに目先の解決にはなるだろう。しかし安い物では無いので次から次へと簡単に買い増せる訳ではないし、当社のように手狭なスペースでは置き場にも困る。

■返却方法

先程も述べたが樽はあくまでレンタル、貸したものに勝手にシールを貼られたり、汚して返されたら誰だって嫌だし怒る。樽に直接送り状やテープを貼られて(A)、それを剥がすのに何分も何時間も時間をかけ、薬品などを使えばコストだってかさむ。誰も幸せにならない。しかしながらこの問題に関して言えば、返却時に取扱店側では無く、運送会社がテープや送り状を貼るケースもあるのでタチが悪い。しかし、この件については発送者が運送会社に注意を促すなどの防衛策を講じてもらう事で防げる場合もある。

無残にも直接はりつけられ剥がしきれなかった送り状

それ以外のケースでは、樽を連結する際のバンドが運送時に切れ、その養生の為に運送ドライバーが粘着テープで樽同士を括り付けるケース(B)が多くみられる。このような事態が起こらないよう、切れにくいバンドで結束した後、シールやテープを直接貼られないよう、ラップなどで樽を覆う(C) 事が現状では理想の返却法ではないかと思う。

B.運送会社による勝手な養生 C.最近徐々にこのような返送をしてくれるお客様が増えてきました

■洗浄不足

 樽が汚れているケースは色々な意味で残念でならない。ビールは提供してしまえばそれで終わりなのだろうか? (D)、(E) のようなカビだらけの酷い状態で返却されると、正直そのお店には二度と自分の造ったビールを提供したくないといつも悲しくなる。そして店舗のストックスペースやヘッド、ライン、グラスの衛生状態に至るまで心配になるし、そのような店に自分たちが精魂込めて造ったクラフトビールと言う口に入る嗜好品を扱って欲しく無いとまで思ってしまう。返却されて来た樽は洗って次を詰めるので、もしかしたらこれを読んでいるあなたの飲んだビールはこの樽に詰められたものかもしれない・・・。しっかりと洗浄された樽だとしても想像するだけでゾッとするのではないだろうか? 後に起こるこんな事にも気が行かない人がクラフトビールを売っているとは信じがたいものだ。

D.カビてしまったカプラー口 E.ケグの周りがカビている場合も・・・

 加地争論ではこちら側の一方的な意見をぶつけている。

 このコラムを執筆するにあたりビール業界の問題を知ってもらう事による意見の交換が重要であるが、それぞれの考え方、状況、立場もあり簡単に解決出来る問題では無いのは明白だ。しかしながら造り手側は取扱いに関する取り決めを明示しすること。売り手もそれに対して異論があればハッキリと議論しお互いの利益の為に徹底的に話し合う事が最終的に自社の利益や日本のクラフトビール業界の発展につながると思っている。こんな事を記事にしたのは、このTRANSPORTERというフリーマガジンを置いている場所の関係者ならば、これを必ず読んでくれるだろう。そしてこのような根深い問題を知れば、 解決策を模索してくれるだろうと願ったからだ。 大事な事なのでもう一度書こうと思う。

◎樽は早く返して下さい。>>>> 会社がつぶれます。
◎シールは貼らないで下さい。>>>> 洗うのが大変で時間の無駄です。
◎綺麗に返して下さい。>>>> 人として常識を疑います。

長々と書きましたが今回言いたかったのはたったこの3つ。 意見があれば是非とも直接届けて欲しい。

加地 真人
MAKOTO KACHI
留学先のカナダにてクラフトビールに出会い開眼。帰国後、木曽路ビールに入社。2014年よりY.MARKET BREWING の醸造長に就任、醸造開始から一躍人気ブルワリーとなる
     

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