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藤田こういちのベルギービール新書 7 -ベルギー出張 珍道中? 【前編】-

TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.21(2019)

2022年 11月 14日 10時 03分 投稿 203 Views

 先日1週間ほどベルギーに行く機会があり、いくつかの醸造所を訪れました。ブラッセルズの直輸入している醸造所が多いので少し宣伝じみてしまいますが、僕がベルギーでどういう仕事、行動をしているのか包み隠さずに書いてみようと思います。ベルギーに行くとよくあることや、毎回何かしらのパプニングも起こりますので、その辺りも含めて。楽しそうですよね、とよく言われるのですが、遊びに行っているわけではありません。でも楽しんではいます、笑。

 日本から約14 時間かけてブリュッセル空港に夕方到着。ここは数年前痛ましい事件が起こった場所です。今は警備こそ厳しいですが、何事もなかったようになっています。今でもあの時にテロに屈しないと行動したベルギーの方々の勇気は忘れません。ブリュッセル中央駅から宿まではバスで移動。今回は中心部から少し離れたB & B です。かなり安め。オーナーさんはあまり英語が得意ではなくて、何十個も鍵が入っている箱からガチャガチャと探し、OK ! OK! ナンバー3!と渡された鍵。おそらく3階のことを言っていたのですが、ベルギーではよくある鍵が調子悪いパターン・・・開かない。天井が高いので3階と言っても、5 階分くらい登ります、何度か往復し本当にあっているか鍵を確認。エレベーターなしなので一苦労です。とりあえずなんとかドアを開け(その後も何度も開けるのに苦戦しました)荷物を置き早速ビアカフェを散策。今日はほどほどにして明日に備えます。


Day 1

 農場を持つ家族経営の醸造所ホフテンドルマールへ。お父さんのアンドレさんはイベントのため不在でしたが、ファーマーのドリーとブリュワーのジェフ兄弟が迎えてくれました。ここでは主に新しいサワー系のビールを多くテイスティング。どれも素晴らしい味わい。飲んで話していると何がおすすめなのか、どんなビールを作りたいかなど方向性がわかってきます。ここでは原料はできる限り農場で取れたものを使います。海外とのコラボレーションも積極的に行なっているのも興味深い。途中、お姉さんのお子さん4 人がランチを食べに帰ってくるというので、ご一緒することに。パンとチーズとハム、いくつかのジャム。シンプルなランチ。子供たちは美味しそうに食べていました。みんな可愛かったな。空手の真似とかしたりして、そんなコミュニケーションも楽しいひと時です。

外観、後ろには広大な畑が。若く意欲にあふれるブリュワーのジェフ。

賑やかなランチタイム、楽しく、美味しくいただきました。もちろんビールも一緒に。不運にも火事にみわまれてから大変な時期もあったようですが、現在は品質も安定し軌道に乗って来ているようでひと安心です。あとはジェフがテストで造っていたミード(蜂蜜酒)が美味しかった!

 そのあと一つ素晴らしい醸造所に行ったのですが、そこは秘密。これからはベルギーでもクールシップ(開放型の麦汁冷却槽)を持つブリュワリーが増えていくのではないかなと。

醸造所内、家族の写真

 ブリュッセルに戻り、ボトルショップのモルトアタックを視察。ベルギービールに関してはアルティザナルなこだわりの品揃え。さらにイギリス、オランダ、北欧、他のヨーロッパのクラフトビールも多く揃えています。ベルギーでは珍しくグラウラーでも購入できますし、店内で飲むこともできます。ベルギー以外のビールはブリュワリーから直接買っているものもあるそうで、私の大好きなイギリスのカーネルのビールの品揃えには驚き。オーナーさんとビールを飲みながらしばし情報交換、ベルギービールシーンもやはりここ数年で変化が激しいようです。次はブリュッセルでは外せないビアバーのムーデルランビック。ここはほぼ毎回きますが、最近はランビックはもちろんベルギービール以外のクラフトビールにも力を入れ始めています。今回はイタリアのビールフェアをやっていました。ここにくると最先端のトレンドがわかる気がします。最後は明日の英気を養うためにデュポン醸造所の樽生が常設のレストランへ。友人が働いているのですが残念ながらバケーション中で会えず。


Day 2

 ナミュールの駅まで電車で向かいサンフーヤン醸造所のピエールと待ち合わせ。ベルギーはよくあるのですが、電車は遅れたり、出発ホームが変わるのは当たり前、稀に突然運休になったりもします。ですので電車で地方の醸造所を回るのはなかなか大変なのですが、ピエールが今日のドライバーを引き受けてくれました、ありがたい。2 日目はベルギー南部ワロン地方が中心です。

 最初は自分の原点ともいうべき、デュポン醸造所へ。オーナーのオリビエも顔を出してくれて、エクスポートマネージャー、グストと醸造所を見学。直火のボイリングタンクが実際に動いているところを初めてみることができて感動!そのあとはランチミーティングで近くの直営のビアカフェ、ラフォルジに。樽生のビールはフレッシュで美味しいです、でも若いんですね。同じ銘柄でもボトルだと味が異なることもしばしば。やはりベルギービールはしっかり瓶内2次熟成されたボトルも美味しいことを再確認。(10 回目くらいの再確認かも)

直火のボイリングタン、ボトリングライン

 デュポンにはセラーがたくさんあり、必ずそのセラーでの熟成を経て出荷されます。昔聞いたオリビエの忘れられない言葉があります。セラーにはどのくらい熟成させて置くの?との質問に「それはビールができるまでだよ」と。忙しい中でも品質を一番に考え、急かされて出荷するようなことは決してしないとのことです。

セラー内、必ずここを経て出荷される

 次はベルギーでも珍しい女性醸造家ナタリーが営むアベイデロック醸造所へ。フランス国境まですぐ近くです。フラッグシップのアベイデロックはブラウンタイプで濃厚なビール、普通は醸造所のスタンダードはブロンドビールが多い中、これも珍しい。ナタリーのビールはモルトをたくさん使い、様々なスパイスも使い唯一無二の味わいを造りだします。通常ベルギービールは瓶内二次熟成を促すためにボトリングの時に新しい酵母と少量の砂糖を入れることがセオリーなのですが、一切の糖類を使わずにボトルコンディションしています。ラベルも一新し、新しい展開も考えているようで、現在直営のビアカフェがある場所に小さな体験型の醸造所を作り、ナタリーがレシピを一緒に考えて一緒にビールを造れるとのこと。そのビールは出来上がったあともちろんブリュワリーで飲むことができます。楽しみです。

オーナーブリュワー、ナタリーとジョージ
ふくよかな味わいのビール、新ラベル達

 その後は今日の最後サンフーヤン醸造所へ、オーナーのドミニクさんにも少しの時間でしたが会うことができました。サンフーヤン醸造所は最新の設備を導入していますが、昔の設備も博物館のようにして残してあります。歴史を感じられると同時に伝統的なベルギーにありながらもチャレンジをし続けている素晴らしい醸造所です。

 その後はピエールお気に入りのレストランで食事をしながら、今後の輸入計画、日本でのプロモーションについて綿密な打ち合わせ。ここで最初に飲んだサンフーヤンのビールがたまたま賞味期限の違うロットで出てきたので、全然違うね、なんて言いながらテイスティング。同じ銘柄でも一期一会です。ローカルなレストランに日本人がくるなんて珍しいのでしょうが、皆さん優しく話しかけてくれて、いろいろな話をしながら夜は更けていきました。

地下の商談もできるバー
サンフーヤン醸造所のピエール

Day 3

 朝早くブリュッセルを出て約1 時間半、ベルギー北西部イゼゲムに位置するボムブリュワリーへ。ベルギーの東から大きく西へ移転をしてオーナーのバートとは2年ぶりの再会です。彼はいくつかの素晴らしいブリュワリーで経験を積み、ブリュワーとしても設備の設計者としても活躍しています。そこでの経験から、今はモルトを自ら焙煎することを思い立ち、特注の機械でモルトを焙煎しビールを造っています。煎りたての麦芽を食べさせもらったのですが、香りも良くすごく美味しい!新鮮なものを使うとビールの風味にも影響するそうです。ラインナップも増え、バレルがかなり多くありました。今後が楽しみなブリュワリーです。しかし午前中からの試飲もなかなかハード。。。でも美味しいビールは美味しい、なぜかスルスルと飲めてしまうんです。

バレルがかなり増えている。特注のモルト焙煎機。

 続いてグラゼントールン醸造所、ブリューマスター、ジェフの仙人のような外見にみんな驚きますが、笑。学校の先生もされていたり、ビールの本を執筆していたりと多才な方です。セゾンビールがもともと大好きでデュポン醸造所の影響を大きく受けています。そんなジェフ、ディルクの二人が造るビールは秀逸。初めてお邪魔した時に日本に友人がいると、見せてくれた名刺はなんと現ベルギー大使、びっくりしました。大使のご出身がここアールスト。特徴はボイリングタンクからビールを移動させる際に、ホップがたっぷり入った小さなプールのようなところに麦汁を通す、彼がいう独特のレイトホッピングの手法をとり、ホップの選び方にもこだわっています。使用するホップはそのオリジナルとなる土地のものを選んで買っているとのこと。例えばザーツならばチェコというように。これは最近ベルギー産のホップを使おうという団体や動きもある中、それとは違うこだわりが感じられます。リリース予定のテストビールを、多分まだ若いと思うよ、と一緒にテイスティングしたのですが、思ったよりもよかったようで、笑、もうそろそろ出荷してもいいんじゃないかというような話になっていました。そしてこの醸造所の唯一の精密機器でブレインだとみんなが笑う手のひら大ほどの古いデジタルタイマー。2 年前に行った時と同じものでした。

ジェフと精密機械のタイマー
ブリュワーのジェフとディルク

 この日の最後はこの夏来日してくれたドゥドクトルヴァンドゥコールナール醸造所。位置するバールレ=ヘルトフは来るのに時間はかかりますが素晴らしいロケーション。オランダの中にあるベルギーの飛び地なので国境が街中の至る所にあり、時にはお店や家の中に国境があったりするのです。来るたびに地下のセラーにバレルが増えています。ワイン、ウイスキー、ジュネバ、ポート、まだリリース前の秘蔵ビールもありました。ビール造りの様々な発想、ネーミングやラベルのセンスも素晴らしくて、ビールは楽しくて自由だということを教えてくれる醸造所です。

3 年樽熟成させたビール
タップルームのボトルを使ったランプ 。オーナーブリュワーのロナルドとロブ

 地元で評判のレストランでミーティング兼食事をした後はさらに地元のバーへ。もちろんここでもビールです。観光では決して来られないであろうローカルな場所で、地元の人たちと乾杯できるのは本当に嬉しいです。夜はその近くに泊まったので、今回の旅で初めてのホテルの朝食。平日だったので、他に宿泊客はいないように見えましたが、笑。ベルギーはパンやチーズなどの乳製品、ハムなどがすごく美味しいんです、だいたい朝から食べ過ぎてしまいます。

 ベルギーは日本から近くありませんので、どういう場所で、どういう人が作っているのか見てもらいたいですし、その醸造所、ビールのコンセプトやストーリー等も知ってもらいたいという想いがあります。実際に訪れて見て話すことで、その醸造所の特性や人柄も見えますし、乾杯してビールを飲みかわせば、言葉なんか多少できなくても一気に距離が縮まります。そこも一つビールの魅力(魔力?)なんだと思います。だからまたベルギーに行きたくなるのかな。日本や日本人に対してすごく好意的な人が多いということも、いつもベルギーに行くと感じることです。日本人であることをありがたく思う瞬間でもあります。

続きはまた次号で。

藤田 孝一
Koichi Fujita
セゾンデュポンなど数多くのベルギー ビールを輸入するブラッセルズ株式会社 取締役
【Facebook】 https://www.facebook.com/brussels.jp/
【Beer Bar BRUSSELS】 http://www.brussels.co.jp/
【輸入部オンラインカタログ】 https://www.brussels-import.com/
     

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