How was "60 Minute IPA"—the beer that revolutionized the concept of IPAs in the 1990s—created by Dogfish Head?

1990年代後半のアメリカ。 クラフトビールは、まだ現在のような巨大な市場ではなかった。

IPAも、今のように「クラフトビールならIPAがある」という時代ではない。

そんな時代に、デラウェア州で小さなブルワリーを始めた男がいた。 Sam Calagione(サム・カラジョーネ)。

https://gearjunkie.com/podcast/dogfish-head-founder-sam-calagione-podcast

彼が掲げたのは、最初から少し変わった思想だった。 “Off-centered ales for off-centered people.” 人と同じことをするのではなく、ビールの常識そのものを疑ってみる。 それがDogfish Headだった。

1999年。 彼の思想を象徴するビールが誕生する。

Dogfish Head 60 Minute IPA Beer

しかし、今回の主役はその弟分ともいえる、 60 Minute IPAだ。 実は、このビールはDogfish Headが最初から「代表商品」として設計したものではない。 その誕生の背景には、ひとつの奇妙な発明があった。

⸻ 1995年、アメリカで最も小さなブルワリー Dogfish Headが創業したのは1995年。 場所はデラウェア州Rehoboth Beach。 Sam Calagioneは、当時まだ20代。 しかもDogfish Headは、開業当初「America’s smallest commercial brewery」と呼ばれるほど小さかった。

Samは、普通のビールをつくるつもりがなかった。

レストランの片隅に設置された小さな醸造設備。 そこでSamは、普通のビールをつくるつもりがなかった。 Chicory Stout。 Raison D’Etre。 Aprihop。 メープルシロップ、レーズン、チコリ、コーヒーなど、当時としてはかなり大胆な原料をビールに使った。 1990年代後半のクラフトビール界では、こうした発想は必ずしも歓迎されたわけではなかった。 Sam自身、1995〜99年頃は、珍しい原料を使うことで他のブルワーやクラフトビール愛好家から批判されることもあったと振り返っている。 つまりDogfish Headは、最初から「売れるビール」をつくっていたわけではない。 売れるかどうかより、まだ誰もやっていないことをやる。 それがDogfish Headの出発点だった。

「もっとホップを入れたい。でも、苦すぎるビールにはしたくない」とSamは考えた。

そして、ホップに向き合う 1990年代後半。 SamはIPAにも興味を持ち始める。 しかし、ひとつの問題があった。 ホップをたくさん入れたい。 でも、ただ大量に入れればいいわけではない。 一般的なIPAでは、煮沸の早い段階でホップを入れて苦味をつくり、後半に入れて香りを加える。 ところがSamは、 「もっとホップを入れたい。でも、苦すぎるビールにはしたくない」

 そこで生まれたのが、Dogfish Headを代表する技術になる、 Continuous Hopping(連続ホッピング) だった。

Continuous Hopping(連続ホッピング) が誕生した。

⸻ きっかけは、料理番組だった ある日、Samがテレビの料理番組を見ていた。 料理人がスープをつくっている。 そこで胡椒を一気に入れるのではなく、 少しずつ、少しずつ加えていく。 そのほうが、スープ全体に複雑な風味が重なっていく。 それを見たSamは考えた。 「これをホップでやったらどうなる?」 ホ ップを最初と最後に大量投入するのではなく、 煮沸している間ずっと、少しずつ入れていく。 そうすれば、強烈なホップキャラクターを持ちながら、単純に苦いだけではないIPAがつくれるのではないか。 実験が始まった。

この小さな発明が、後のIPAの歴史を変えることになる。

画像はイメージ

⸻ そして登場した「ホップ投入マシン」 ここからがDogfish Headらしい。 普通のブルワリーなら、専用の機械をつくる。 しかしDogfish Headが使ったのは、 中古の電動サッカーゲーム。 Salvation Armyで見つけた古いテーブル型の振動サッカーゲームを購入。 それを醸造釜の上に固定。 穴を開けたプラスチックのバケツにホップを入れ、振動によって少量ずつホップが落ちる仕組みにした。 もちろん、ダクトテープも使った。 つまり、 サッカーゲーム+バケツ+ダクトテープ。 これがDogfish Head最初のContinuous Hopping Machineだった。 今なら笑ってしまうような装置だ。 しかし、この小さな発明が、後のIPAの歴史を変えることになる。

1999年 〈90 Minute IPA〉の誕生

こうして1999年に誕生したのが、 90 Minute IPA。 名前の「90」は、90分間の煮沸中ずっとホップを投入し続けることから来ている。 結果は、 ABV 9% IBU 90 という強烈なビール。 当時としては、とんでもないIPAだった。 しかし面白いのは、Sam自身も最初は、 「こんなビール、誰が飲むんだ?」 と思っていたことだ。 1999年当時、IPAはまだアメリカのトップ10スタイルにも入っていなかった。 つまり、今のような「IPAなら売れる」という市場ではなかった。

⸻ ところが、90 Minuteが売れてしまった 90 Minute IPAは、当初大きな瓶に詰められた。 ラベルには、サーカスの見世物のような「鼻に釘を打つ男」の古い写真。 「これほどホップが強烈だ」ということを、ビールの味だけではなく、ラベルでも表現した。 そして、クラフトビールの熱心なファンたちの間で話題になる。

さらにEsquire誌が90 Minute IPAをAmerica’s best IPAとして紹介。 一気に人気が広がった。 Dogfish Headにとって、これは大きな転換点だった。 1996〜99年、独立した生産ブルワリーは赤字が続いていた。 珍しい原料を使ったビールは製造コストも高く、価格も高くなる。 ところが1999年、Midas Touchと90 Minute IPAが売れ始める。 Dogfish Headの経営そのものが上向いていった。

素晴らしいビールだが、毎日飲むには重い。 そこでDogfish Headは考える。 「同じContinuous Hoppingを使って、もう少し飲みやすいIPAをつくれないか?」

ここで「60 Minute」が生まれる しかし、90 Minuteにはひとつ問題があった。 強すぎる。 9%。 90 IBU。 素晴らしいビールだが、毎日飲むには重い。 そこでDogfish Headは考える。 「同じContinuous Hoppingを使って、もう少し飲みやすいIPAをつくれないか?」 90分ではなく、 60分。 ホップを60分間、連続して投入する。 そこから生まれたのが、 60 Minute IPA だった。 面白いのは、60 Minute IPAは90 Minute IPAより後に生まれたということ。 一般的には、 60 → 90 → 120 と進化したように思える。 しかし実際は、 90 Minute → 60 Minute → 120 Minute という順番だった。 Dogfish Head自身も、90 Minuteをつくり始めてから2〜3年後に60 Minuteを醸造したと説明している。

「60分の連続ホッピングから生まれたIPA」と説明するほうが歴史的には重要だ。

⸻ 「60」という数字には、もう一つ意味がある 60 Minute IPAは名前だけではない。 初期のコンセプトでは、 60分間の連続ホッピング。 そして、 約6%ABV。 約60 IBU。 つまり、 60分、6%、60 IBU。 この分かりやすさも、ビールのキャラクターになった。 ただし現在の製品スペックは時代によって調整されており、数字を絶対的な固定値として扱うより、「60分の連続ホッピングから生まれたIPA」と説明するほうが歴史的には重要だ。

⸻ 60 Minuteが革命だった理由 90 Minute IPAは、クラフトビールマニアを驚かせた。 しかし60 Minute IPAには、別の力があった。 飲みやすい。 ホップの香りがある。 苦味もある。 でも、90 Minuteほどアルコールが強くない。 そして、Continuous Hoppingによって、 「ホップが強いのに、苦味だけが前面に出ない」 というバランスを狙った。 Samは後に、少量のホップを連続的に投入することで、強いホップフレーバーを持ちながら、苦味が長く残りすぎないビールになると説明している。 これは、後のIPA文化を考える上でも重要な発想だった

「IPAは苦いビール」から「ホップを楽しむビール」へ

1990年代のIPA。 ホップ=苦味。 そんなイメージが強かった。 Dogfish Headがやったのは、 ホップ=苦味だけではない ということを、プロセスそのものから考え直すことだった。 ホップをいつ入れるのか。 どのくらい入れるのか。 どんな速度で入れるのか。 それによって、同じホップでも結果が変わる。 これは料理にも似ている。 塩を最初に全部入れるのか。 少しずつ加えるのか。 最後に加えるのか。 Dogfish Headは、ビールを「レシピ」だけではなく、 プロセスそのものから再設計した。 ⸻ 2000年代、IPAの時代が始まる 2000年代に入ると、アメリカのクラフトビール市場は急速にホップへ向かっていく。 Double IPA。 Imperial IPA。 West Coast IPA。 そして後にはHazy IPA。 現在、IPAはクラフトビールを代表するスタイルになった。 その流れの中でDogfish Headは、90 Minute、60 Minute、そして120 Minuteという「Minute IPA」のシリーズを展開していく。 60 Minuteはその中でも、最も日常的に飲めるポジションを獲得した。 90 Minuteが、 「こんなIPAがあるのか」 という驚きを与えたとすれば、 60 Minuteは、 「こんなIPAなら毎日飲める」 という入口になった。

⸻ そしてDogfish Headの「変なビール」が普通になっていく Dogfish Headの面白さは、IPAだけではない。

Chicory Stout。

Raison D’Etre。

Aprihop。

Midas Touch。

さまざまな食材を使う。 スタイルを混ぜる。 ビールとワインの境界を越える。 当時は、 「なぜそんなことをするのか」 と言われた。 しかし、20年後。 Pastry Stout。 Fruited Sour。 Barrel Aged。 Wine Hybrid。 Culinary Beer。 そんなカテゴリーが普通になった。

Dogfish Headが1990年代にやっていたことは、後のクラフトビール業界が進んでいく方向を先に試していたとも言える。 ⸻ 60 Minute IPAは「完成品」ではなく、思想だった ここが一番重要だと思う。 60 Minute IPAを、 「有名なIPA」 として紹介するだけでは、Dogfish Headの面白さは伝わらない。 このビールが残したものは、レシピではない。 「こうすればもっと面白くなるんじゃないか?」 という発想だ。

料理番組を見て、 「ホップも少しずつ入れたら?」 と考える。 中古ショップで見つけたサッカーゲームを、 「これ、醸造に使えるんじゃない?」 と考える。 周囲から笑われても試す。 壊れたら、またつくる。 そして、その結果をビールとして市場に出す。 それがDogfish Headだった。 ⸻ 1999年という「まだ早かった時代」 いま、IPAは世界中で飲まれている。 だから1999年という年の意味を忘れてしまう。 当時は、 IPAはまだメジャーではなかった。 まして、 9%のImperial IPA。 90 IBU。 連続ホッピング。 そんなビールが大量に売れる市場ではなかった。 それでもDogfish Headはつくった。 なぜなら、 「市場が求めているから」 ではなく、 「自分たちが飲んでみたいから」 だった。 そして、それが後から市場をつくった。

1995年から2005年。 Dogfish Headが変えたもの

1995年:デラウェア州の小さな brewpubとしてスタート。

1996年:生産ブルワリーを開設。

1990年代後半:珍しい原料を使った「Off-centered ales」を次々とつくる。

1999年:90 Minute IPA誕生。 Continuous Hoppingという新しい発想が形になる。 その後、 60 Minute IPA誕生。

そして2000年代:IPAそのものがアメリカのクラフトビールを代表するスタイルへと成長していく。 Dogfish Headは、その変化の中心にいた。

「60分」という名前に込められたもの 60 Minute IPAを飲むとき、 「なぜ60なんだろう?」 と考える人は少ない。 でも、その数字にはDogfish Headの歴史が詰まっている。 60分。 少しずつホップを入れ続ける。 その結果、 強烈なホップキャラクター。 しかし、ただ苦いだけではない。 そして約6%のアルコール。 つまり、 飲みやすさと革新性の両立。 これは、Dogfish Headが1990年代からずっと追い続けていたテーマだった。

⸻ クラフトビールは「変なこと」をやるところから始まった 現在のクラフトビールは巨大な市場になった。 IPAは世界中で飲まれている。 しかし、その原点には、 「そんなことをビールでやるの?」 と言われた人たちがいる。 Dogfish Headもその一つだった。 Sam Calagioneは、1995年の創業時から「Off-centered and innovative beers」を目指していた。

Dogfish Headは創業から31年。 60 Minute IPAは、もはや「変わったビール」ではない。 むしろ、アメリカンクラフトIPAのクラシックになった。

Grateful Dead Juicy Pale Ale

その思想が、 Chicory Stoutになり、 Raison D’Etreになり、 90 Minute IPAになり、 そして60 Minute IPAになった。そして、現在 2026年。 Dogfish Headは創業から31年。 60 Minute IPAは、もはや「変わったビール」ではない。 むしろ、アメリカンクラフトIPAのクラシックになった。

しかし、そこには少し皮肉がある。 かつて常識を壊したビールが、今では新しい常識になっている。 これこそ、クラフトビールの歴史なのかもしれない。 誰かが常識を疑う。 誰かが「そんなビール売れない」と言われる。 誰かが中古のサッカーゲームを醸造設備にしてしまう。 そして、その「ありえない」が、10年後には普通になる。

60 Minute IPAは、単なるIPAではない。 それは、 「ビールに正解なんてない」 というDogfish Headの思想を、グラスの中に閉じ込めたようなビールだ。

1999年。 IPAがまだ主役ではなかった時代。 Sam Calagioneは、ホップを少しずつ入れ続けた。 その小さな実験が、やがてアメリカのIPA文化を変えていく。 そして今も、60 Minute IPAを飲めば、 1990年代のあの頃のDogfish Headが見えてくる。

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