How should craft beer business owners leverage the liquor tax reform?

30 September 2026 vol.333
さあ 明日から10月。オクトーバーフェスの10月 酒税改正の10月
「安くなったから値下げ」では、あまりにももったいない。
「クラフトビールにとって追い風だ」は正しいのか?
2026年10月1日、ビール系飲料の酒税が一本化される。 ビールについては、これまでの1kLあたり181,000円から155,000円へ。1Lあたり26円、350mlなら9.1円、500mlなら13円、単純計算で酒税負担が軽くなる。 このニュースを聞いて、 「クラフトビールにとって追い風だ」 という声が出るのは当然だろう。 しかし、ブルワリー経営者にとって重要なのは、税金がいくら下がるかではない。 「その分を、どう使うのか」 である。 酒税改正は、すべてのブルワリーに同じように利益をもたらすわけではない。 そして、もし「税金が下がったから、その分だけ価格を下げよう」という結論だけで終わってしまうなら、今回の制度変更を経営に活かしたとは言いにくい。
350ml缶なら、単純計算で1本9.1円。その9.1円をどうするのか。

⸻ まず「9.1円」を見てみる 350ml缶なら、単純計算で1本9.1円。 1本だけなら、大きな金額には感じない。 しかし、年間20万Lを製造するブルワリーなら約520万円。 年間50万Lなら約1,300万円。 年間100万Lなら約2,600万円。 もちろん、実際の影響額は製品構成や課税区分、出荷数量などによって変わる。 それでも、ブルワリー経営者が無視できない金額になることは間違いない。 では、そのお金をどうするのか。 ここからが経営の話になる。
① まず「値下げ」しないという選択肢を考える。 酒税が下がった、 だから「販売価格も下げる」は正解ではない。
これは非常に分かりやすい。 しかし、私はここで一度考える必要があると思う。 「クラフトビールは、本当にその9円を値下げする必要があるのか?」 クラフトビールは、大手メーカーの商品と同じ製造条件ではない。 小規模生産。 高い原材料費。 小ロットによる調達コスト。 設備投資。 人件費。 物流。 営業コスト。 それらを考えれば、9円の酒税減少分をそのまま販売価格に反映することが、必ずしも正解とは限らない。 むしろ、 価格を維持して、会社に残す。 これも立派な経営判断だ。
② その利益を「会社の体力」に変える
クラフトビール業界では、売上はあっても利益が残らないという会社も少なくない。 売上を伸ばす。 設備を増やす。 人を雇う。 商品数を増やす。 イベントに出る。 営業する。 それでも、最後に利益が残らない。 これでは会社は成長できない。 酒税改正によって生まれる余力を、まずは利益として残す。 借入金を返す。 運転資金を厚くする。 設備投資のための資金を作る。 これは派手ではない。 しかし、ブルワリー経営にとって非常に重要な選択肢だ。
③ 「ビールを造る会社」から「売れる会社」へ投資する
もう一つ、重要なのが販売だ。 クラフトビール業界では、 「良いビールを造れば売れる」 という考え方がまだ強い。 しかし、現実はそんなに簡単ではない。
良いビールを造る▶︎ 知ってもらう▶︎飲んでもらう▶︎もう一度買ってもらう▶︎店に置いてもらう▶︎スーパーで手に取ってもらう▶︎ECで購入してもらう。
ここまでやって、初めて売上になる。 つまり、これからのブルワリーには、 醸造能力だけではなく販売能力が必要になる。 酒税によって生まれた余力を、営業担当者の採用やマーケティング、EC、商品開発、販促に使う。 これは「値下げ」よりも、長期的な成長につながる可能性がある。
④ ブルワーに投資する。酒税改正による余力を人材に戻すという考え方もある。
クラフトビールは、結局「人」の産業でもある。 レシピを作る。 仕込みをする。 発酵を管理する。 品質を確認する。 新商品を開発する。 設備をメンテナンスする。 これらを担うのは人間だ。 しかし、人材育成には時間がかかる。 1年、2年働いただけで、すべての技術を身につけられるわけではない。 だからこそ、酒税改正による余力を人材に戻すという考え方もある。 給与。 教育。 海外研修。 他ブルワリーとの交流。 品質管理。 醸造設備の勉強。 こうした投資は、すぐに売上になるとは限らない。 しかし、5年後、10年後の会社を作るのは、こうした人材だ。
⑤ 「品質」に戻す もう一つ、クラフトビールだからこそ考えたい。
品質への投資だ。 ホップ。 麦芽。 酵母。 水。 発酵管理。 温度管理。 酸化対策。 パッケージング。 物流。 ビールは「レシピ」だけでは完成しない。 同じレシピでも、設備と管理によって味は変わる。 酒税によって生まれた数円を、原材料や品質管理に戻す。 その結果、 「以前より明らかに美味しくなった」 と思ってもらえるなら、それは価格競争とは違う形で消費者に還元することになる。
⑥ 価格を下げるのではなく「価値」を上げる 。
クラフトビール業界が考えるべきなのは、 「いくら安くできるか」ではなく、「いくらの価値を作れるか」 ではないだろうか。 例えば500円の缶を490円にする。 それも一つの戦略だ。 しかし、 500円の商品を、 「このビールだから500円払う」 と思ってもらえる商品にする。 こちらも一つの戦略だ。 ブルワリーのストーリー。 地域とのつながり。 原材料。 醸造方法。 パッケージ。 飲食店とのペアリング。 イベント。 限定性。 ブランド。 価格を下げることだけが「消費者への還元」ではない。
⑦ 「値上げできる会社」を作る
そして、今回の酒税改正を考えるうえで、最も重要なのはここかもしれない。 値上げできる会社を作ること。 原材料が上がった。 物流費が上がった。 人件費が上がった。 電気代が上がった。 それでも価格を上げられない。 これは、経営として非常に苦しい。 価格を上げられないということは、 「その商品の価値を価格に反映できていない」 ということでもある。 もちろん、市場には価格の上限がある。 しかし、だからこそ、 「なぜこの価格なのか」 を説明できる商品を作る必要がある。
⑧ スーパーに売るなら「スーパー仕様」を考える
今後、クラフトビールの販路としてスーパーはさらに重要になる。 ただし、ここでも単純に、 「スーパーに置いてもらえば売れる」 とは考えない方がいい。 スーパーでは、回転率が重要になる。 価格も重要になる。 パッケージも重要になる。 リピートも重要になる。 だから、 「クラフトビールだから高くてもいい」 ではなく、 スーパーで売れるクラフトビールとは何なのか を考える必要がある。 今回の酒税改正で生まれた余力を、営業・物流・パッケージ・販促に投資する。 これも一つの使い方になる。
⑨ 20万Lのブルワリーなら、520万円。どう使う?
例えば年間20万Lのブルワリー。 酒税差額を単純計算すると約520万円。 この520万円を、 「全部値下げ」 するのか。 それとも、 「設備200万円」 「人材150万円」 「営業・販促100万円」 「利益70万円」 というように配分するのか。 もちろん、これは一例にすぎない。 会社によって正解は違う。 しかし重要なのは、 酒税改正によるメリットを、経営戦略として配分すること。 ただ価格を下げて終わらせないことだ。
⑩ 50万Lのブルワリーなら、1,300万円になる
年間50万Lなら、単純計算で約1,300万円。 ここまで来ると、経営への影響はさらに大きい。 新しいタンクを導入する。 缶詰設備を改善する。 品質管理設備を強化する。 営業担当を増やす。 ブルワーを育成する。 新しいブランドを立ち上げる。 海外への輸出を検討する。 直営店を強化する。 ECを作り込む。 選択肢は一気に増える。 つまり、 税制変更を「値下げ」で終わらせるのか、「成長投資」に変えるのか。 ここに経営者の判断がある。
酒税改正を「利益改善」ではなく「経営改善」に使う
今回の改正で重要なのは、 「年間○○万円得をする」 という計算だけではない。 そのお金によって、 会社のどこを改善するのか。 そこまで考える必要がある。 営業が弱い会社なら営業。 商品力が弱いなら品質。 人が足りないなら採用。 設備が古いなら設備。 利益が残らないなら財務。 ブランドが弱いならマーケティング。 つまり、 酒税改正による余力を、自社の一番弱い部分に投資する。 これが経営者にとって一つの考え方になる。
「9.1円」をどう見るか ? 350ml缶1本の9.1円の減税分。

消費者からすれば小さな数字だ。 しかし、ブルワリーにとっては、年間生産量を掛ければ数百万円になる。 そして、その数百万円は、 値下げすれば市場に戻る。 利益に残せば会社に残る。 投資すれば未来に変わる。 ここが面白いところだ。 酒税改正そのものがブルワリーを成長させてくれるわけではない。 改正によって生まれた余力を、どう経営に使うか。 そこが問われている。
⸻ クラフトビール経営者が考えるべき5つの質問 酒税改正を前に、経営者が考えるべきことは、意外とシンプルだ。
1.酒税改正で、自社には年間いくらの余力が生まれるのか?
2.そのお金を、本当に値下げに使う必要があるのか?
3.自社が今、一番弱い部分はどこなのか?
4.その余力を、3年後の売上・利益につながる投資にできないか?
5.自社の商品は、「安いから買う」のではなく「この価格でも買いたい」と思ってもらえる商品になっているか? この5つを考えるだけでも、酒税改正の見え方は変わってくる。
酒税が変わる。経営者も意識を変えるべきなのかもしれない。

酒税一本化は、クラフトビール業界にとって確かに一つの変化だ。 しかし、それだけで業界が良くなるわけではない。
税金が下がる。 原価が少し下がる。 そこで価格を下げる。 それだけでは、また価格競争に戻ってしまう。 むしろ今回の改正を、 「自社の経営を一段上げるための原資」 として考えてみる。 値下げではなく、利益。 利益ではなく、投資。 投資によって品質を上げる。 人を育てる。 販売力を高める。 ブランドを強くする。 そして、最終的には、 「安いから売れる会社」ではなく、「価値があるから適正な価格で売れる会社」 を目指す。 クラフトビールにとって、本当の勝負は酒税が変わった10月1日から始まるのかもしれない。 9.1円。 その小さな数字を、 値下げで終わらせるのか。 利益にするのか。 未来への投資に変えるのか。 酒税改正をどう使うのか。 それを決めるのは、税制ではない。 ブルワリー経営者自身だ。

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