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AMERICAN BEER COLUMN #6 -「どうなる?アメリカクラフトビール2017」-

TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.13(2017)

2022年 11月 14日 10時 03分 投稿 336 Views
アメリカクラフトビール業界の先行きという今回のお題。それを肌で感じ、日本のビールファンの方々にその風をお伝えしようと家族でアメリカに移住をした私には願っても無いお題だ。アメリカでもここ最近は情報が錯綜する毎日でニュースから目が離せない。先日アメリカでのビール売上上位のブルックリンブルワリーが日本販売用としてキリンとの協力体制を敷かれることを発表し「大手」キリンをよく知るアメリカクラフトビール業界でも大きな話題となったことも記憶に新しい。2017 年の一つの事項としては間違いなく「大手」キリンが日本におけるアメリカクラフトビールシーンに一石を投じる手法やその世界観をどのように演出していくのか?それは弊社のような「小さな」輸入業者としてもとても楽しみな展開だと考える。

なにはともあれミーティング

 アメリカの年度の考え方は1 月から始まり12 月を年度末。各ブルワリーは毎年9 月半ばを過ぎると翌年のビジネスプランや商品計画などをアメリカ国内外のディストリビューター(卸業者・輸入業者も含まれる)に説明やプレゼンを行うことが多い。ピークは10 月中旬から11 月下旬。弊社取引ブルワリーは規模の大小にかなりの差があるものの、大きなブルワリーだと各社1 − 2 名ずつ数百人規模でのビジネスミーティングが行われる。例えば、New Belgium は大学の大講堂でカラフルな照明を使いながらの講義形式。途中のサンプルテイスティングやビュッフェ形式のフードも女性トップらしい細やかな気遣い。

 一方でArrogant(傲慢さ)がウリのStone Brewing は数部屋同時進行で「バレルエイジング商品展開について」や「品質管理について」といった様々なテーマに分かれた小規模セミナーを開催し、全体時間では舞台装置と映像をふんだんに使ったエンターテインメント色やインパクトも強くブルワリーの個性や方向性が色濃く映る。内容は本年のアメリカクラフトビール業界全体の商品傾向、売上傾向を分析した上でのブリュワリー売上実績の総括(まだ残り2−3ヶ月ほど残っていたとしても!)から始まり、地域ごとのデータ、成績優秀なディストリビューターの表彰など。その後に翌年のブルワリー方針や商品計画、限定企画などが提示される。私達ディストリビューター側にとっても来年が待ち遠しくなるエキサイティングなミーティング時間であることは間違いない。

地元コロラド州立大学敷地内に2017 年に完成する巨大なスタジアム。そこに併設されるNew Belgium のビアスタンド計画もミーティングで発表された。

アメリカクラフトビールの販売は国内激戦

 まだまだ成長しているアメリカクラフトビール市場。飲食店、小売店、コンビニに至るまで、そのジャンルや規模に関わらず既にほとんどの店にクラフトビールが導入されていることはこのコラムでも何度も取り上げている通り。実際に渡米されたら誰もが感じる点だろう。現在ブリュワリー数はブルワーズアソシエーションに登録されているだけで4000 社以上。各社が生産する商品はコア商品だけでなく季節限定やプレミアムランクまでバラエティーが増え、商品数にして数万種類。たとえ多くの飲食店が100 タップあったとしてもそのタップを取れるのは数百分の1の確率。100 種類が棚に並べられる大型小売店でもその棚取り競争は同様に熾烈だ。もちろん市場はますます大きくなっており、ビール販売量におけるクラフトビールの占める割合は日本がおよそ1%に留まるのに比べ、アメリカは11%を超え未だに伸びている状態。とはいえ国内マーケットのキャパシティとしては飽和状態。小売店の棚争いでいかにスペースを確保するか、という策から出された「バラエティーに富んだ品揃え」が目を引いた2016 年に比べ、大多数のブルワリーの2017 年計画分析を踏まえると「個性豊かでありつつブルワリー渾身の実力商品に絞る品揃え」になると予想される。幾多のバラエティーよりも渾身の質ある商品。これこそまさに消費者には嬉しい声のはず!

アメリカクラフトビールの海外躍進

 アメリカクラフトビールの販売量トップはもちろんアメリカ国内。アメリカ以外での販売は地理的にも近いカナダは容易に想像がつくが、実は業界にとって非常に大きなウェートを占めているのがスウェーデン。各ブルワリーがこぞって輸出量を伸ばしアメリカ国外での大きなマーケットとして確固たる地位を築いているスウェーデンは2017 年も引き続きアメリカクラフトビールの輸出というカテゴリーにいては目が離せない。もちろんアジアも明らかに伸びており、日本以外の注目マーケットとしては台湾、上海、香港。各社、今後の成長戦略における伸びしろとして輸出事業を重要視している。

広がる品質管理思考

クラフトブルワリーが成長し大きくなると生産量が増え 販路が広がり多くのお店で販売されて認知度も売り上げも 上がる。その副作用が「品質管理能力の低下」である。急 成長に両手をあげて喜んでいるのは一瞬で、店頭やタップ 状況まで目が行き届かず、手も回らず、図らずも大都市圏 以外のマーケットではEnjoy By(推奨賞味期限)を過ぎて も店頭に置かれていたり、3 週間以上タップに繋がったま まの樽があることも。(もちろん劣化しており、残念ながら テイストは全く違うものに。)そういった商品の多くは売れ 行きの芳しくないブランドだったりすることも多々あるが、 前述したように販売側としては商品が売れて回転すること がプライオリティなので売れる商品を貴重なスペースに入 れ、売れ行きのよくないビールは味わいが劣化してしまう のでリピートするお客様もなくなり自然と棚やタップからな くなっていく。

昨年、今年にかけてブルワリーが開催するディストリ ビューター向けのミーティングでも「品質管理」という発 言が多く見られ、ブルワリーがより一層重要視しているこ とを実感。結局ブランドを守るものはその品質。品質がビー ルの価値を決める。いくら美味しい状態のビールを作って 出荷しても、その先で劣化した味を提供してしまうとお客 様は二度とその商品に戻ることはない。最近、数社立て続 けにクラフトブルワリーがオフフレーバーやコンタミネー ション(汚染)による劣化した商品に対して「リコール」 し商品回収となるニュースも発表されている。看板商品や 大々的な告知をした限定商品だった場合には、その対処に 要する金額もブルワリーにとっては大きな代償となる。た だブルワリーにとってはその事態を放置してブランド価値 を損なうよりも、リコールを 発表してでも商品を回収し、 誠意ある対応として適切に対 処をすることのほうが危機管 理の面からもブランドの価値 がダウンするリスクを最小限 にとどめられると考えられる。  品質重視のSierra Nevada Brewing のブランド大使 ス ティーブ グロスマン氏は「シ エラネバダは現在、アメリカ 国内は至るところで販売して いるし、ヨーロッパやアジア 諸国へも輸出をしているが、 日本で飲むシエラネバダビー ルはアメリカ国内やどこよりも秀逸だ。他の外国にもアメ リカのディストリビューターにも伝授したい。ブルワリーレ ストランで飲む味と比べても驚くほど同じレベルで保たれ ていて美味しい」と来日時のメディア取材で回答している。 品質管理はアメリカ国内でもよくテーマに上がる非常に深 刻な課題だからこそ、取り扱いをするディストリビューター、 海外においては輸入業者やその先のディストリビューター と共にブルワリー側が取り組まなければならないテーマと して2017 年の各社のミーティングで「Quality First 品質管理重視」は多くのブルワリーから最重要課題として掲げられている。日本では現在多くの飲食店、販売店で冷蔵管理、冷蔵庫販売をしていることが多く、そういった意味からも日本で飲むクラフトビールは非常に良い状態で飲めているのでご安心を!

商品傾向のキーワードは「フルーツ」と「キレ」と「濃厚」

 今まで季節限定に多かったフルーツ系商品が2017 年に拡大路線を発表しているブルワリーが多くなっている。すでに大手だとBallast Point Brewing「グレープフルーツスカルピン」は言わずと知れたグレープフルーツ。NewBelgium Brewing「シトラデリック」ではタンジェリンオレンジ。小さなブリュワリーからもDenver Brewing「プリンセスヤムヤム(ラズベリーケルシュ)」なども続々登場。Stone Brewing に至ってはブリュワリーの究極ラインでもある「Enjoy By シリーズ」にて発売された「タンジェリンIPA(10.31.16)」でもタンジェリンが使われるなど、この流れは2017 年にはより一層拡大していくと予想される。

 さらに、テイストもフルーツを使っているからといって「甘い」「女性向け」といった文言よりも「キレ」のある味わいが多いのも特徴的。ここでは個別の2017 年ラインナップを公表することはできないが、様々なラインナップで消費者を楽しませてくれる予定になっているのでお楽しみに。

 一方で濃厚で芳醇なラインナップも充実すると予想される。ウィスキーやジンのバレルを使ったエイジングシリーズは各社が数年前からあたためつづけてきており、2017 年には少しずつそれが表舞台に登場していきそうだ。こちらもファンにはたまらないはず。

ますます増える缶商品!

今ではすっかり定着しつつある缶商品。ぞくぞくとボト ルから缶に移行するブランドが増加中。12 オンス(355ml) だけでなく、大型の缶もアメリカでは続々と発売されてい る。ご存知の通り、缶はいろいろな品質保持の観点からも 満点の商品であるに加え360 度の告知ができる優れもの。 アメリカらしい個性あふれるデザインも含め、これから缶 の動向には要注目。

2016 年に引き続き、アメリカクラフトビール旋風吹き荒れるはずの2017 年。さらに沢山の美味しいビールと出会えますように、乾杯!
大平朱美akemiohira
( 株) ナガノトレーディング代表取締役
アメリカビール冷蔵管理輸入のパイオニア。アメリカ食文化情報発信基地として横浜関内に直営店Antenna America を運営。カリフォルニア在住。
     

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