It is by no means the case that the culture of drinking is disappearing from society, but the desire to get drunk is a thing of the past.

09 September 2026 vol.277

「最近、ビールを飲まなくなった」
アメリカのバーやレストランで、そんな人が珍しくなくなってきた。 でも、彼らは「飲み会」に来なくなったわけではない。
同じテーブルに座り、同じ音楽を聴き、同じ料理を食べ、そして何かを手に持って乾杯する。 ただ、そのグラスに入っているものがビールやワインではない。 いまアメリカで広がっている「Cali Sober」というライフスタイルは、そんな新しい飲酒文化を象徴している。
アルコールを飲まず、代わりに大麻(カンナビス)

「飲まない」と「何も飲まない」は違う Cali Soberを簡単に説明すると、アルコールを飲まず、代わりに大麻(カンナビス/cannabis)を選択肢として残すライフスタイルだ。 もちろん、これは医学的な「断酒」や、すべての嗜好品を断つ完全なソバーとは違う。 むしろ重要なのは、 「酔うことをやめても、飲むという行為はやめない」 という考え方だ。 アメリカでは、飲酒をしない人が増えている。 Gallupの長期調査でも、アルコールを飲むアメリカ人の割合は長期的に低下しており、現在は調査史上でも低い水準にある。

カリフォルニア・ソバー(California Sober)」とは、アルコールやハードドラッグ(覚醒剤やコカインなど)を断つ一方で、大麻(マリファナ)やサイケデリックスなどの使用は続けるライフスタイルや減酒・減薬の考え方を指します
決して、社会から「飲む」という文化が消えているわけではないが、「酔うこと」はもういらない

ここが面白い。 人はバーに行く。 友人と集まる。 スポーツ観戦をする。 パーティーをする。 そして、やっぱり何かを飲む。 つまり変わっているのは「飲むこと」ではなく、 「何を飲むのか」なのだ。
「二日酔いしない」が価値になる これまでアルコール飲料は、 「美味しい」 「楽しい」 「酔える」 という価値で語られてきた。 しかし、若い世代を中心に、そこへ別の価値基準が入ってきた。 「翌日に残らない」 「カロリーを抑えたい」 「睡眠を邪魔したくない」 「仕事やスポーツに影響させたくない」 「でも、友達との時間は楽しみたい」 この需要に対して、ノンアルコールビールやモクテルだけではなく、CBD、THC、機能性成分を使った飲料などが次々と登場している。
「アルコールの代替品」から「アルコールとは別の価値を持った飲料」へ価値観が変化していることを見逃してはならない

つまり飲料市場では、 「アルコールの代替品」から「アルコールとは別の価値を持った飲料」へ カテゴリーそのものが変わり始めている。 ⸻ そして登場した「THC飲料」 Cali Soberを語るうえで欠かせないのがTHC飲料(※)だ。 アメリカでは、これまで大麻といえば「吸う」イメージが強かった。 しかし現在は、それが缶やボトルになっている。 見た目はハードセルツァーとほとんど変わらない。 冷蔵庫から取り出して、プシュッと開ける。 グラスに注ぐ。 あるいは缶のまま飲む。 この「飲料としての大麻」という発想が、従来とは違う消費者を取り込んでいる。 特に注目したいのは、THC飲料が単なる「大麻版アルコール」ではないことだ。
(※)THC飲料とは、大麻の主要な精神作用成分である「THC(テトラヒドロカンナビノール)」を配合した飲料のことです
「吸う」より「飲む」飲料としての大麻「THC飲料」

低用量の商品が増え、味や炭酸、パッケージ、飲むシーンまで含めて、普通の飲料として設計されている。 5mg程度の低用量から始められる商品もあり、初心者を意識した市場づくりも進んでいる。 ⸻ 「一杯」という単位が変わる ここで、クラフトビール業界にとって非常に重要なポイントがある。 これまでバーで「一杯」と言えば、ほとんどの場合アルコールだった。 ビール一杯。 IPA一杯。 ワイン一杯。 カクテル一杯。 しかし、これからは違うかもしれない。 「一杯=アルコール」ではなくなる。 THC飲料。 ノンアルコールビール。 CBD飲料。 機能性飲料。 低アルコール。 モクテル。 そして、まだ名前の付いていない新しいカテゴリー。 バーの冷蔵庫には、これらが横並びになる可能性がある。 そうなると、クラフトビールも「アルコール飲料」という大きなカテゴリーの中だけで競争している場合ではない。 競争相手は、別のビールだけではなくなる。
「酔わせる」から「体験をつくる」が描くクラフトビールの未来
クラフトビールが長い時間をかけて作ってきたものは、実はアルコールだけではない。 香り。 苦味。 酸味。 炭酸。 グラス。 サービング。 パッケージ。 ブルワリーのストーリー。 そして、そのビールを誰とどこで飲むのか。 つまりクラフトビールの本質には、もともと「体験」がある。 だからこそ、アルコールを飲まない人が増えたとしても、クラフトビールに可能性がないとは思わない。 むしろ逆だ。 これまでクラフトビールが培ってきた、 「飲み物を楽しむ文化」 そのものが、次の時代に必要になるかもしれない。 ⸻ では、ビールはどうするのか? ここからが、クラフトビール業界にとって一番難しい問題だ。 「アルコールが飲めない人向けにノンアルを作ればいい」 そんな単純な話ではない。 消費者が求めているのは、必ずしも「ビールからアルコールだけを抜いたもの」ではないからだ。 重要なのは、 「その人が、なぜその飲み物を選ぶのか」 ということ。 IPAを飲む理由は、酔いたいからだけではない。 香りが好きだから。 苦味が好きだから。 そのブルワリーが好きだから。 友達と乾杯したいから。 新しいものを試したいから。 だから、これからのクラフトビールには「アルコール度数0%」という数字以上に、飲む理由をつくることが求められる。
「飲まない人」を客にできるか これはバーにとっても大きなテーマになる。
これまでは、 「ビールを飲む人」 「ワインを飲む人」 「カクテルを飲む人」 という分類だった。
これからは、 「アルコールを飲む人」 「今日は飲まない人」 「普段は飲まない人」 「少しだけ飲む人」 という分類になっていく。 同じテーブルに、 IPAを飲む人。 ノンアルIPAを飲む人。 THC飲料を飲む人。 ソーダを飲む人。 水を飲む人。 そんな光景が普通になる。 そのとき、店側が考えなければいけないのは、 「アルコールを何杯売るか」ではなく、「一つのテーブルから何種類の飲み物を選んでもらえるか」 なのかもしれない。 ⸻ 「Cali Sober」は日本にも来るのか? 日本では、アメリカのようなTHC飲料市場がそのまま成立するとは考えにくい。 法規制も違う。 文化も違う。 大麻に対する社会的な認識もまったく違う。
だから、「アメリカでTHC飲料が伸びているから、日本でも同じことが起きる」と考えるのは危険だ。 しかし、その背景にある消費者の変化は、日本にも無関係ではない。 「お酒を飲まない」 「でも飲み会には行く」 「健康には気をつけたい」 「翌日に残したくない」 「それでも美味しいものを飲みたい」 この需要は、日本でも確実に存在している。 だから日本で注目すべきなのは、THCそのものではなく、 「アルコールがなくても、飲む理由をどうつくるのか」 という問いだと思う。 ⸻ 酒の未来は「酒がなくなること」ではない Cali Soberが教えてくれるのは、酒が終わるという話ではない。 むしろ、 「酒だけが飲み物の中心だった時代が終わる」 ということだ。
ビールはなくならない。 ワインもなくならない。 クラフトビールもなくならない。
「人が集まる場所で、どんな飲み物を提供すれば、その時間をもっと豊かにできるのか」
でも、その横に別の選択肢が増えていく。 そして消費者は、その日の気分や体調、翌日の予定によって選ぶ。 今日はIPA。 明日はノンアル。 週末はワイン。 そして、今日は何か別のもの。 そんな飲み方が当たり前になる。 クラフトビール業界が考えるべきなのは、 「どうすればもっと酒を飲んでもらえるか」 だけではない。 むしろ、 「人が集まる場所で、どんな飲み物を提供すれば、その時間をもっと豊かにできるのか」 ということなのだと思う。 Cali Soberは、その問いをアメリカから投げかけている。 そしてその答えは、THC飲料だけではない。 これからの「飲む」という行為そのものの中にある。
Today's Bonus Track
「Cali Sober with pepper」は、アメリカのレゲエ・ロックバンド Bumpin Uglies(バンピン・アグリーズ) が、同じくレゲエ・ロックバンドの Pepper(ペッパー) をゲストに迎えて2021年に発表した楽曲 『Cali Sober (feat. Pepper)』 のことです。

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