ESB、Mild、Handpump(炭酸ガスを使わず、手動のレバー操作による真空状態で樽(カスク)からビールを汲み上げる伝統的なビールサーバー)。

いま、もう一度飲んでみたいビール。

クラフトビールの世界は、ずいぶん変わった。IPAがあり、NE IPAがあり、Hazy IPAがあり、DDH、Cold IPA、Sour、Pastry……。

次々に新しいスタイルが登場し、「次は何が来るんだろう?」とワクワクしながらビールを選ぶ。今のクラフトビールは、そんな時代だ。

でも、最近ふと思う。昔、あんなに飲んでいたビールは、どこへ行ったんだろう?

ESB。Mild Ale。

English Pale Ale。

そして、Handpumpから注がれるCask Ale。(無濾過・非加熱で樽(カスク)に詰められ、店舗(パブなど)の地下や保管庫で二次発酵をさせた英国の伝統的な生ビール)

https://maltheads.net/free/realale

クラフトビールを飲み始めた頃の人なら、一度は耳にしたことがあるジャンルではないだろうか。

2008年くらいか、僕自身、当時は中目黒のTAP roomで、よくHandpumpのビールを飲んでいた。

今のように、どこへ行ってもHazy IPAが何種類も並んでいる時代ではない。むしろ、「今日はイギリス系を飲もう」という選択肢が、当たり前のようにあった。あの頃のクラフトビールには、今とは違う魅があった。

「苦い」だけではない、Bitterという文化イギリスのPub文化には、長いCask Aleの歴史がある。

18世紀末には、地下のCaskからビールをカウンターまで引き上げるためのBeer Engine、いわゆるHandpumpが登場した。1797年にはJoseph BramahがBeer Engineの特許を取得している。

Joseph Bramah

そして20世紀に入り、MildやBitter、Pale Aleなどが英国のPub文化を支えていった。

Mildはもともと幅広い意味を持つ言葉だったが、19世紀後半には、比較的低アルコールでホップを抑えた、若く飲むためのベーシックなドラフトエールを指すようになった。

そこに、もう少しホップを効かせたPale Aleが登場し、飲み手から「Bitter」と呼ばれるようになっていった。つまり、Mild → Bitter → Pale Aleという世界は、今のクラフトビールから見ると「昔のビール」に見えるかもしれない。

でも実は、今のクラフトビールにつながる重要な歴史でもある。

ESB(Extra Special Bitter)

そしてESBがある。名前だけ聞くと、かなり古い。

でも、このビールにはクラフトビール史を語るうえで面白いエピソードがある。

Fuller’sのESBは、1970年代後半からCAMRAのChampion Beer of Britainで何度も評価され、最初の7年間でFuller’sは4度トップ賞を獲得。

Champion Beer of Britain

そのうち3回がESBだった。つまりESBは、「昔のビール」ではなく、かつて“クラフトビール的な価値”を持って評価されたビールでもある。

そして、同じFuller’sを代表するLondon Pride。

Fuller, Smith & Turner PLC (フラーズ社) は、1845年にジョン・バード・フラー、ヘンリー・スミス、ジョン・ターナーの共同経営により設立されました。

現在のABVは4.1%。

強烈なホップでもない。Hazyでもない。でも、何杯でも飲める。食事にも合わせられる。Pubでゆっくり飲める。

この「何杯でも飲める」という価値は、今のクラフトビールでは意外と貴重なのかもしれない。

Handpumpという「飲み方」

そして、もう一つ忘れてはいけないのがHandpumpだ。タップから勢いよくビールを注ぐのではない。ハンドルを引く。ゆっくりビールがグラスに入ってくる。泡の状態を見る。温度を見る。そして飲む。

この一連の動作そのものが、ビール文化になっている。英国ではHandpumpは、長い間Cask Aleを象徴する存在だった。

だからこそ、2024年には大手メーカーがKegビールをHandpumpから提供する「Fresh Ale」を展開した際、CAMRAが「HandpumpがCaskの象徴として認識されていることを混乱させる」と問題視した。

Handpumpには意味がある。単なる「注ぎ方」ではない。文化そのものなのだ。

Handpumpは、なぜ消えていったのか?

答えは一つではない。クラフトビールが進化したから。もっと強い香り。もっと大量のホップ。もっと分かりやすい個性。

そして、アメリカのクラフトビール革命によってIPAが世界的なスタイルになった。

IPAは現在のクラフトビールを語るうえで欠かせない存在になっている。英国でも一度忘れられかけたIPAが、クラフトビールの復興を牽引する存在になったとCAMRAは説明している。
そして日本でも、 IPA→ Double IPA→ Hazy IPA → Double Hazy さらに強烈なホップという進化を楽しんできた。それは間違いなくクラフトビールの大きな魅力だ。

では、その先は?

⸻「強い個性」の次に来るもの? 僕は最近、ここが面白いと思っている。

クラフトビールは、「どれだけ個性的か」を追求してきた。でも、次に求められるのは、「どれだけ飲み続けられるか」なのではないか。

3.5%。4%。4.5%。5%。強くない。でも美味しい。

料理に合う。会話を邪魔しない。もう一杯飲みたくなる。そして、もう一度同じ店に行きたくなる。これって、実はすごく強いビールなのではないだろうか。

オールドスクールは、古いのか?

英国のCask Aleは決して過去の遺産だけではない。

SIBAの2024年の報告では、加盟する独立醸造所のCask Beerの醸造量比率が前年の53%から63%に増加している。CAMRAも、消費者がCask Aleへの関心を失っていないという見方を紹介している。

もちろん、英国と日本では市場も文化も違う。だから、「イギリスで飲まれているから、日本でも流行る」という単純な話ではない。それでも、「オールドスクールには、もう一度考える価値がある」とは言えるのではないだろうか。

そして、気になる。今、日本でHandpumpを見かけることは少ない。ESBを飲める場所も多くはない。Mildに至っては、さらに少ない。でも、もし今、クラフトビール好きがHandpumpから注がれる4%前後のEnglish Aleを飲んだら?Hazy IPAを飲み慣れた人が、温度のあるCask Aleを飲んだら?

「なんだこれ。地味だな」と思うのか。それとも、「……これ、いいじゃん」となるのか。ここが気になる。もしかすると、クラフトビールの次の流れは、「新しいビール」ではなく、
「もう一度飲み直すビール」なのかもしれない。

⸻次回は、「オールドスクールは、本当に復活するのか?」を考えてみたい。

ESB。Mild。English Pale Ale。Handpump。

そして、3〜4%台のSessionableなビール。なぜ今、これらがもう一度面白くなる可能性があるのか。日本のお店で受け入れられるのか。若いクラフトビールファンは飲むのか。そして、Handpumpは、日本で“次のクラフトビール”になれるのか。

後編では、そこをもう少し踏み込んで考えてみたい。オールドスクールは、復活するのか。

それとも、僕たちがただ昔を懐かしんでいるだけなのか。答えは、まだ分からない

いまさら聞けないオールドスクール(Old School

伝統的な製法や古き良き古典的なスタイル、またはそれを再現したクラフトビールのことです。麦芽(モルト)の香ばしい甘味やしっかりとした苦味、松やハーブのような落ち着いたアロマを大切にしています。

 

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