transporter

藤田こういちのベルギービール新書 12 -意識して飲むということ-

TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.26(2020)

2022年 11月 14日 10時 03分 投稿 193 Views

 私たちは職業柄、ビールをテイスティングする機会がとても多いです。ブラッセルズでは新しいビールや開栓した樽生などは必ずお客様に提供する前にテイスティングをするように伝えています。が、実はこれ、私がブラッセルズに勤務してまもない頃、忙しさにかまけて新しいビールのテイスティングをしていないまま当時の社長(ブラッセルズの創業者)に出してしまい、こっぴどく叱られたことでもありました。今から考えると当たり前のことなのですが。。。

 私たちお店のスタッフはビールに点数をつける訳ではありません。ですがオフフレーバーを探すような飲み方になってしまうと、どうしてもそこばかりが気になってしまい、本来のビールの楽しみ方をなくしてしまうような気もするので、そこはなんというかネガティブな方向にはならないように気をつけています。しかし、せっかく醸造家が想いを込めて作ったビール、ただゴクゴクと飲み干してしまうだけでは勿体無い。

 以前にも書いたかもしれませんが、ベルギーのブリュワー達と話しているとよく聞く話があります。良いビールを造るためには、掃除、良いモルトを使うこと、などなど。そして口を揃えていうのが「バランス」。バランスの良いビールは飲み飽せずにグラスを空にすることができるのだと。いつのまにかグラスが空になっているのが良いビールなんだよと。確かにそうですよね。

 先日、あるイベントの中、品評会で上位に残ったビールを一度に飲み比べることができる機会がありました。なかなかない貴重な機会なので、約30 ~ 40 種くらいはあったであろうビールを2周くらいはテイスティングしたと思います。提供されている状態も違うし、好みの問題もありますし、甲乙つけがたいものですが、やはり美味しいと思ったビールは印象に残るもの。その後の話の中で、どのビールが印象に残った?美味しかった?という会話の中で、何も出てこない人もいたのですが、せっかくの機会なのに、ただ飲んでいるだけでは意味がないですし、何も残らない。ここでも思いました、せっかくのビールが勿体無い。提供する私たちがビールに飽きてしまうことは絶対にあってはいけないですし、改めて意識して飲むことでビールが楽しく、より美味しく飲めるなと感じました。

 ある醸造所にお邪魔した際には、スタウトの通常のバージョンとコニャックバレルで熟成して2 ヶ月が過ぎたものを飲ませていただく機会がありました。まだ2ヶ月だからそんなに味が出ていないとブリュワーの方は言ってましたが、それぞれ単品で飲んだらわからないかもしれないわずかなニュアンス。確かにほんのりですが、バレルエイジのほうがフレーバーが豊か。おそらくですが言われて感覚を集中したから、その違いに気づけたのかもしれません。

 ブラッセルズの30 周年記念ビールをベルギーのBRUSSELS BEER PROJECT(以下BBP)で醸造してもらう時に、ブラッセルズのお客さんも好きな人が多く、自分も大好きな「セゾン」をベースに造ろうというところから話が始まり、何かお祝いっぽいものがいいよね、とアイデアを出し合いました。最終的にお祝いのイメージから3種類の花を使うことになったのですが、重要視したのはやはりバランスでした。セゾンビールの良さを邪魔しないように、ほんのり、でもわかるように花を加えること。何度か実験を繰り返して完成しましたが、とても美味しいビールになりました。

 ネーミングの選考の際に最後まで残ったのが Soleil Levant ソレイユヴァン(登る太陽、朝日)とPetit Geisha プチゲイシャだったので、もちろん前者にしました(笑)ちなみに2020 年のソレイユルヴァンはセゾンではなくゴーゼになりましたが!この辺りの話はまた別の機会に。

 BBP のセバスチャンがあるインタビューで「クラフトビールのセカンドウェーブは、バランスのとれたビールが流行ってきたと思う。それはまるでベルギービールのよう」と、言っていてすごく納得できました。出来上がったビールはほんのりですが、花が香り、飲んでみてもその独特なフレーバー、花のニュアンスが感じられました。確かに日本でもファーストウェーブはホップを全面に出したインパクトあるビールが多かったような気がします。それも自由なクラフトビール、悪くはないですが、バランスされた中にある絶妙なニュアンスを汲み取るのもなかなか面白いものです。

 ベルギーではあまり見ませんが、最近ではホップの種類を公開しているビールも増えてきました。数種類のホップを使っているビールがどのホップを使っているかを当てるのは相当難しいと思いますが、ホップによってフレーバーが違うのでそのあたりも知って飲んでみると本当に奥深いです。SMASH(シングルモルト&シングルホップ)や普通のシングルホップも面白い試みですよね。

 ベルギービールに関していえば、スパイスやハーブ、フルーツなどの副原料を使ったビールも多くありますし、ベルギー独特のカテゴリーもあって違いがとてもわかりやすいです。ベルギービールにはビールによってほとんど専用グラスがあり、なかなか揃えるのも大変だと思います。個人的なオススメは足のついたワイングラスのような、できれば先が少しすぼまったグラスでビールを半分くらいまで入れて飲むこと。香りもグラスにこもります。あとは少しだけ意識をして、色、香り、味わいを感じてみてください。いつもとは少し違ったビールになるかもしれませんよ。

 今回はベルギービールという枠からは外れたかもしれませんが、少しビールを意識して飲んでみてはいかがでしょうか、というご提案でした。乾杯!

 

藤田 孝一
Koichi Fujita
セゾンデュポンなど数多くのベルギー ビールを輸入するブラッセルズ株式会社 取締役
【Facebook】 https://www.facebook.com/brussels.jp/
【Beer Bar BRUSSELS】 http://www.brussels.co.jp/
【輸入部オンラインカタログ】 https://www.brussels-import.com/
     

その他の記事