Passing on 40 years of experience to the next generation: Harvey’s choice to “carry on the tradition.”

ビールの味を守るということは、レシピを守ることだけではない。

ビールの味を守るということは、レシピを守ることだけではない。

そこにあるのは、酵母の扱い、仕込みの判断、発酵の見極め、そして長い年月をかけて蓄積された「経験」だ。

英国・サセックスを代表する老舗ブルワリー、Harvey’s(創業1790年)では今、その経験が次の世代へと引き継がれようとしている。

© 2026 Harvey & Son (Lewes) Ltd. Site design by O&G

40年間、ヘッドブルワーを務めてきたMiles Jennerが、Head Brewerの職を退き、Production Directorへと役割を変えることになった。

ただし、醸造から離れるわけではない。

今後もJoint Managing Directorを務めながら生産部門を率い、次世代のブルワーたちがシニアポジションへ進んでいくのを支える。そして何より、Harvey’sが長年培ってきた独自の醸造文化を次の世代へ伝えていく。

これは、単なる人事ではない。

40年間、醸造の中心にいた人間が、自分自身の後継者を育てるためにポジションを変える。

左から SUSSEX BEST BITTER MINI-KEG/SUSSEX BEST BITTER/ow Alcohol Sussex Best Bitter

40年間、醸造の中心にいた人間が、自分自身の後継者を育てるためにポジションを変える。

40年間、醸造の中心にいた人間が、自分自身の後継者を育てるためにポジションを変える。

そこに、Harvey’sというブルワリーの「伝統」に対する考え方が見えてくる。

新しいHead Brewer、Peter Yarlett

新たにHead Brewerに就任するのはPeter Yarlett。

彼とHarvey’sの関係は、1995年のホリデージョブから始まった。

当時はUniversity of Exeterで化学を学ぶ学生。休暇のたびにHarvey’sで働き、卒業後にはギャップイヤーを過ごした。

その後、Heriot-Watt UniversityでBrewing and Distillingの修士課程へ進み、MeantimeやHogs Backなどでブルワーとして経験を積む。

そして7年後、Harvey’sへThird Brewerとして戻ってきた。

2010年にはSecond Brewerへ昇格。

そして今回、Head Brewerへ。

つまりYarlettにとって今回の就任は、新しいブルワリーへ移ることでも、外部から招聘された人間が突然トップに立つことでもない。

Harvey’sを知り、Harvey’sを離れ、外の世界を経験し、そしてHarvey’sへ戻ってきたブルワーが、その醸造を次の時代へ引き継ぐ。

そのキャリアそのものが、Harvey’sの歴史の一部になっている。

Second BrewerにはHenry Kirk

Second Brewerに昇格したHenry Kirkもまた、Harvey’sとの縁は深い。

2012年、Heriot-Watt Universityで醸造・蒸留を学んでいた彼は、実習先としてHarvey’sを経験した。

卒業後はロンドンへ戻り、Fuller’sでProduction Brewerとして6年間勤務。

その後、Fuller’sによるDark Star Breweryの買収をきっかけにサセックスへ移り、Partridge GreenでHead Brewerを務めた。

しかし、ブルワリーの閉鎖によってその道は一度途切れる。

Hand Brew Co.で働いていたところ、Harvey’sの醸造チームから再び声がかかった。

いわば“帰還”である。

Harvey’sで経験を積み、外のブルワリーで別の技術や文化を学び、そしてまたHarvey’sへ戻る。

Peter YarlettとHenry Kirk。

二人のキャリアには共通しているものがある。

伝統の中だけで育つのではなく、一度外へ出て、外の世界を知ったうえで戻ってくること。

それは、40年間、醸造の中心にいた人間が、自分自身の後継者を育てるためにポジションを変える。かもしれない。

そして、8代目のCameron Elder

もう一人、今回の新体制で非常に興味深い存在がCameron Elderだ。

彼はHarvey’sの創業者John Harveyの8代目の子孫。

幼い頃からHarvey’sを知り、学生時代には休暇を利用してブルワリーで働いていた。

Edinburgh Universityでは機械工学を学び、その後Heriot-Watt UniversityでBrewing and Distillingの修士号を取得。

さらにBelhaven、Timothy Taylor’s、Joseph Holt’sといった英国を代表するブルワリーで経験を積み、Harvey’sの醸造チームへ加わった。

彼の存在は象徴的だ。

Harvey’sの創業者の血を引きながら、Harvey’sだけでキャリアを完結させているわけではない。

家族の歴史と、現代の醸造技術。その両方を持っている。

それが、これからのHarvey’sをつくる一人になる。

「伝統を守る」とは、変わらないことではない

Miles Jennerは今回の世代交代について、継続性を確保しながらイノベーションを促すことが目的だったと語っている。

この言葉は、Harvey’sの現在をよく表している。

伝統的なブルワリーにとって、世代交代は大きなリスクでもある。

Harveys Brewery

長年守ってきた味が変わってしまうかもしれない。

しかし、変わらないことだけが伝統を守る方法ではない。

むしろ、次の世代が自分たちの時代の技術や価値観を持ち込める余白を残すことこそ、伝統を未来へつなぐ方法なのだろう。

40年間Head Brewerを務めたMiles Jennerが、次のHead Brewerを育てる側へ回る。

Miles Jenner© 2026 Harvey & Son (Lewes) Ltd. Site design by O&G

そして、そのポジションを引き継ぐPeter Yarlettを中心に、Henry Kirk、Cameron Elderという異なるキャリアを持つブルワーたちがチームを形成する。

そこには、過去を切り捨てる「世代交代」ではなく、過去を背負いながら未来へ進む「継承」がある。

ビールは、タンクの中だけではつくられない。

人から人へ、技術から技術へ、そして言葉では説明しきれない経験から経験へ。

そうやって、ひとつのブルワリーの味は受け継がれていく。

40年の経験を、次の世代へ。

Harvey’sが今回選んだのは、伝統を守るために立ち止まることではない。

伝統を未来へ走らせるための、新しいバトンタッチなのだ。

本日のおまけ動画 Harveys Brewery Tour

この「TAJI JARNAL」とマークされているテキストは 本誌編集長田嶋伸浩が執筆しております。

【略歴】 田嶋伸浩

2013年よりクラフトビール専門誌『TRANSPORTER BEER MAGAZINE』発行人となる。
2017年ベルギー発修道院ビール『CHIMAY』と契約、ジャパンマーケテングを担当。その後もクラフトビール業界において幅広く活動、会社顧問商品開発、店舗開発,コンサルティング、ブランドプロデユース、デザイン、広告、関連の仕事を数多く行なっている。
2018年伊勢角屋麦酒顧問就任

2019年FAR YEAST BREWINGアドバイザリー就任
2021年鎌倉ビール顧問就任
FAR YEAST BREWING TOKYO 店舗開発
伊勢角屋麦酒 八重洲店・新宿店・新橋店 店舗開発
株式会社なんつね飲食部門オリジナルビール企画店舗監修
BLACK TIDE BREWING 合同会社 代表社員
株式会社FUKUOKA CRAFT 代表取締役
株式会社ライフコーポレーションでのオリジナルビール企画、デザイン。
スーパーマッケット オオゼキでのオリジナルビール企画
株式会社RETTY でのクラフトビールイベント企画。
株式会社日テレ7でのオリジナルビール企画、アドバイザリー。

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