Transporter Beer Magazine|ベルギービールの過去・現在・未来 ベルギービールの強みは何か。

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長い歴史。修道院に伝わる醸造技術。ランビックやグーズの複雑な発酵。セゾンの地域性。ステラ・アルトワ(Stella Artois)のような世界的ブランド。そして、小さな国の中に共存する多様なビール文化。 どれも、簡単につくり出せるものではない。 しかし、これらの強みを持っているからといって、未来が約束されているわけではない。 ベルギーのビール市場では、国内消費が長期的に減少している。2025年の国内消費は前年比3.2%減で、過去10年間では約20%の減少となった。醸造所の数も2024年末の411から、2025年末には395へと減少したと報告されている。 一方、業界は設備や品質、持続可能性、新商品の開発などへの投資を続けている。ベルギー醸造家連盟によれば、2025年の業界投資額は2億1,300万ユーロに達した。 市場が縮小しているからといって、ビール文化そのものが終わるわけではない。 むしろ、これまでのやり方だけでは十分ではなくなったとき、伝統をどのように未来へつなぐかが問われる。

正式名称:ベルギー王国/Kingdom of Belgium 首都:ブリュッセル/Brussels

伝統は、保存するだけでは残らない 修道院ビールやランビック、セゾンのようなビールには、長い時間をかけて形成されてきた背景がある。

https://www.flandersconventionbureau.com/venues/de-hoorn

その歴史や技術を守ることは重要だ。 しかし、伝統を守るということは、過去とまったく同じ状態を維持することだけなのだろうか。 伝統的な製法を守っていても、それを支える人がいなくなれば、継承は難しくなる。醸造に必要な設備や原材料を維持するには資金が必要だ。販売先が減れば、生産を続けることも難しくなる。 伝統を未来につなぐためには、造り続けられる仕組みと、飲み続けてもらえる市場の両方が必要になる。 これは、特定のスタイルだけの問題ではない。 修道院ビールも、ランビックも、セゾンも、そして日常的に飲まれるラガーも、それぞれ異なる課題を抱えながら、未来の消費者と向き合っていくことになる。 クラフトビールは、伝統を壊すためにあるのではない 現代のクラフトビールは、伝統的なビール文化と対立するものとして語られることがある。 新しいホップを使う。発酵方法を変える。異なる原材料を組み合わせる。大胆な味を追求する。 そうした挑戦は、クラフトビールのおもしろさのひとつだ。

伝統と革新を対立させるだけでは、ビールの可能性を狭めてしまう。

伝統的な醸造所が、新しい世代の消費者に向けて商品や伝え方を変えることもできる。新しい醸造所が、歴史あるスタイルを研究し、現代の技術で再解釈することもできる。 大切なのは、古いか新しいかという区別ではない。 なぜそのビールを造るのか。どのような価値を届けたいのか。そして、その価値を誰に理解してもらいたいのか。 ベルギーのビール文化は、修道院、農村、都市のカフェ、世界市場へと、さまざまな接点を通じて受け継がれてきた。 これからも、伝統の価値を守りながら、その魅力を新しい人々へ届ける工夫が求められるはずだ。 ブランドの未来を左右するのは、飲む人との接点 第2部で触れたように、スーパーマーケットと専門店では、出会えるビールも、選ぶときの意識も異なる。 この違いは、未来のマーケティングを考えるうえでも重要になる。 すでにベルギービールの知識を持つ人には、醸造方法や熟成、地域性といった深い情報が価値になるだろう。

一方、ベルギービールをほとんど知らない人にとっては、もっと身近な情報が必要かもしれない。 「修道院で造られてきたビールです」と伝えるだけでは、飲む理由が見つからない人もいる。 しかし、「食事と合わせるとどう楽しめるのか」「普段飲んでいるビールと何が違うのか」「どんな香りや味わいがあるのか」という情報があれば、興味を持つきっかけになるかもしれない。 そのうえで、興味を持った人がさらに深く学べる情報を用意する。 最初の接点では、わかりやすく。興味が深まった段階では、より専門的に。 こうした段階的な情報発信は、伝統的なビールの価値を薄めることではない。むしろ、その価値にたどり着く人を増やすための工夫である。 日本のクラフトビール市場に何を伝えられるか 私は、ベルギーで見た風景を日本のクラフトビール市場にも重ねて考える。 日本では、クラフトビールの認知度を高めようと、多くの醸造所がSNSやイベント、飲食店、専門店などを通じて情報を発信している。 その一方で、ビールの造り手が伝えたいことと、消費者が知りたいことが、必ずしも一致しているとは限らない。 造り手は原材料や製法、スタイルの定義について詳しく説明したい。

技術的な情報は重要だ。それが商品の品質や個性を理解する手がかりになる。 ただし、情報を届ける順番は考える必要がある。

しかし、飲み手が最初に知りたいのは、「おいしいのか」「どんな味なのか」「どこで飲めるのか」ということかもしれない。 もちろん、技術的な情報は重要だ。それが商品の品質や個性を理解する手がかりになる。 ただし、情報を届ける順番は考える必要がある。 まず飲んでみたいと思ってもらう。その後、背景を知ってもらう。そして、もう一度飲みたい、別のスタイルも試したいと思ってもらう。 その流れをつくることができれば、クラフトビールは専門的な趣味の枠を超え、もっと多くの人の日常に入っていける可能性がある。 ベルギーの経験から学べるのは、すべての人をビールマニアにする必要はないということだ。 日常的に飲む人もいれば、特別な銘柄を探す人もいる。気軽に楽しみたい人もいれば、醸造の細部まで知りたい人もいる。 それぞれの飲み方が共存できることが、豊かなビール文化につながるのではないだろうか。 輸出だけでは、ビール文化は完成しない ベルギーのビール産業は、海外市場でも大きな存在感を持っている。ベルギー醸造家連盟の報告では、2025年も生産量の約70%が輸出向けとされている。 世界に商品を届けることは、ブランドを成長させる重要な手段だ。

日本でChimayのようなビールを紹介することも、ベルギーの醸造文化を知ってもらう機会になる。 しかし、輸出先で商品が知られることと、国内でその文化が次の世代に受け継がれることは、別の課題である。 海外で高く評価されるビールであっても、地元の人々が飲む機会を失えば、日常とのつながりは弱くなるかもしれない。 逆に、国内で広く飲まれているビールであっても、その背景や文化が海外の人々に伝わっていなければ、国を代表する魅力として理解されないこともある。 だからこそ、国内市場と海外市場の両方を考える必要がある。 海外には、その土地ならではの文化や製法を伝える。国内では、日常の暮らしの中でビールを楽しむ機会をつくる。 その両方があってこそ、ビールは単なる輸出商品ではなく、地域や国の文化を伝える存在になっていく。 ベルギービールの未来は、ベルギーの人々の暮らしの中にある ブリュッセルのスーパーマーケットで見たビール売り場。専門店に並ぶ修道院ビール。カフェで目にした日常的なブランド。 私が訪れた場所で感じたのは、ベルギービールの世界が、外から想像していたものよりもずっと多層的だったということだ。 世界中のビールファンが憧れるビールがある。 日々の暮らしの中で選ばれるビールがある。 そして、限られた人が深く掘り下げて楽しむビールもある。 どれかひとつが本物で、ほかが偽物ということではない。 それぞれが異なる役割を持ち、異なる消費者とつながっている。 ベルギービールの未来を考えるとき、私たちは、歴史ある銘柄を守ることだけを目標にするべきではないだろう。

伝統を守ること。新しい挑戦を続けること。そして、飲み手との接点をつくること。 この三つは、別々の目標ではない。

そのビールを誰が飲んでいるのか。誰がまだ知らないのか。どうすれば、これまで接点のなかった人に興味を持ってもらえるのか。 そうした問いを、醸造家も、販売する人も、メディアも考え続ける必要がある。 ビールの価値は、造られた瞬間に完成するわけではない。 飲み手がその味を知り、背景を理解し、自分の生活の中に取り入れることで、初めて社会の中で生き続ける。 伝統を守ること。新しい挑戦を続けること。そして、飲み手との接点をつくること。 この三つは、別々の目標ではない。 ビール文化を未来へつなぐために、同時に取り組むべきことなのだ。 ベルギーでの経験は、私にベルギービールの魅力を再確認させてくれた。同時に、マーケティングとは、すでにある価値を説明することだけではなく、その価値と人々が出会う機会をつくることなのだと考えるきっかけにもなった。 ベルギービールから、日本のクラフトビールが学べることはまだ多い。 そして、それはベルギーの歴史をそのまま日本に持ち込むことではない。 自分たちの土地、自分たちの飲み手、自分たちのビール文化を理解し、未来へつなげることだ。 ビールの未来は、醸造所の中だけにあるのではない。ビールを飲む人々の暮らしの中にある

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