
2 September 2026 vol.260


2023年 、初めてvon Trapp Brewingを訪れた。

正直に言えば、その頃の自分にとってvon Trappは、まだ「知る人ぞ知るブルワリー」だった。 クラフトビールの世界で名前を聞くなら、Other Half、Tree House、Trillium、Hill Farmstead……。そんなブルワリーのほうが圧倒的に目立っていた。
ところが、von Trappでビールを飲んでみる。
「うまい。」
派手ではない。 強烈なホップを浴びせてくるわけでもない。
SNSで写真を撮りたくなるような、分かりやすい“クラフトビール感”とも少し違う。 でも、もう一杯飲みたくなる。 Pilsner、Helles、Vienna、Dunkel。
2026 年 von Trappと、あのOther Half Brewingがコラボレーションした。
クラシックなラガーを中心に、きれいに仕上げている。 そのとき感じたのは、 「このブルワリー、もっと評価されてもいいんじゃないか」 ということだった。
そして2026年。 そんなvon Trappと、あのOther Half Brewingがコラボレーションした。
von Trappが公式に発表しているのは、Other HalfとのDry-Hopped Pale Ale。
ViennaとPilsnerモルトをベースに、Chinook、Centennial、Nectaronを使用。
ABVは5.6%、IBUは35。グレープフルーツ、樹脂、オレンジピール、焼きたてのパンのような香りを持ち、苦味とドライなフィニッシュを合わせたビールだ。 ここで、ちょっと立ち止まりたい。
これは単純に、 「Other Halfが、まだ有名ではなかったvon Trappを見つけた」 という話なのだろうか?
僕は、少し違うと思う。
⸻ Other Halfとvon Trapp。

一見すると、かなり遠い。 Other Halfは、現代アメリカのIPAを象徴するブルワリーのひとつ。 実際、現在のOther Halfのビール一覧を見ると、235 種類のうちIPA系が圧倒的に多く、Imperial IPA、Triple IPA、Oat Cream IPA、Hazy IPAなどが並ぶ。

一方のvon Trappは、オーストリア系のルーツを持つブルワリー。
Pilsner、Helles、Vienna、Dunkel。 いわば、 Old World × New World Lager × IPA 伝統 × 現代 という関係だ。 だから今回のコラボで面白いのは、単に「人気ブルワリー同士が一緒にビールを作った」ことではない。 むしろ、 Other Halfが、von Trappの何を見ていたのか。 そこに興味がある。
なぜIPAではなく、Pale Aleだったのか?
⸻ なぜIPAではなく、Pale Aleだったのか?
ここが今回、一番面白い。 Other Halfといえば、誰もがまずIPAを想像する。 ところが、von TrappとのコラボではIPAを選ばなかった。 Pale Ale。 しかも5.6%。 これは偶然なのだろうか。 今回のレシピを見ると、ViennaとPilsnerモルトを使い、Chinook、Centennial、Nectaronをドライホップしている。つまり、von Trappらしいモルトの背景に、Other Halfらしい現代的なホップの考え方を重ねたとも読める。
つまり、 von TrappをOther Halfに寄せたのではない。 Other Halfをvon Trappに持ってきた。 そんな見方もできる。 これはクラフトビールのコラボレーションとして、かなり重要な考え方だと思う。 ⸻ 「有名なほう」が「無名なほう」を引き上げる。 クラフトビールのコラボでは、どうしてもこういう構図になりがちだ。 有名ブルワリーA × まだ知られていないブルワリーB そして記事には、 「AがBを見つけた」 と書かれる。 でも、本当にそうだろうか。 ビールを造っている人間なら分かる。
ブルワリーの価値とは?一杯飲んだときに、もう一杯飲みたくなるか。 そして、 何度飲んでも同じようにうまいか。
ブルワリーの価値は、Instagramのフォロワー数でも、Untappdのチェックイン数でもない。
一杯飲んだときに、もう一杯飲みたくなるか。 そして、 何度飲んでも同じようにうまいか。 さらに、 そのビールを飲むために、わざわざそこへ行きたくなるか。 2023年にvon Trappで僕が感じたのは、まさにそこだった。
⸻ von Trappには「分かりやすさ」とは別の強さがある von Trappは、派手なブルワリーではない。 でも、ラガーを造るということは、実はごまかしが効かない。 ホップを大量に使って香りを爆発させることもできない。 果物を入れることもできない。 強いアルコールで押すこともできない。 だからこそ、 水、麦芽、酵母、発酵、温度、時間。 その一つひとつがビールそのものになる。 そして、こうした技術は、IPAを造るブルワリーにとっても無関係ではない。 むしろ、Other Halfのようにホップを極限まで追求してきたブルワリーだからこそ、 「ホップをどう使うか」だけではなく、「ホップをどう支えるか」 に価値を見出している可能性がある。 今回のPale Aleは、その接点に見える。
⸻ そしてvon Trapp自身も変わっている 2026年現在、von TrappはOther Halfだけと組んでいるわけではない。
Collab Seriesでは、Jack’s Abby、

Barriehaus Beer Co.などともコラボレーションを展開している。

公式資料では、2026年のCollab SeriesにOther Halfが9〜11月の商品として組み込まれている。

さらに、オーストリアのHofstettnerとの国際コラボでは、歴史的な麦芽やホップを使い、von Trapp自身のオーストリアン・ヘリテージ(heritage)を掘り下げている。

つまりvon Trappは、 「昔ながらのラガーを造るブルワリー」 で止まっていない。
自分たちのルーツを持ちながら、外の世界と積極的につながり始めている。
そこにOther Halfとのコラボがある。
「Other Halfは、von Trappの何を評価したのか?」 ということだ。 そしてもう一つ。 「なぜPale Aleだったのか?」
⸻ だから、僕が知りたいのは「なぜコラボしたのか」ではない 本当に聞きたいのは、 「Other Halfは、von Trappの何を評価したのか?」 ということだ。
そしてもう一つ。 「なぜPale Aleだったのか?」 この二つを聞けば、今回のコラボレーションの本当の意味が見えてくる気がする。
2023年に僕がvon Trappを訪れたときには、まだ今ほど「知られた存在」ではなかった。
「Other Halfは、von Trappがずっと持っていたものを見つけたのではないか」
でも、ビールはすでにそこにあった。
美味しいビールは、人気になる前から美味しい。 評価される前から、技術は存在する。 そして、ときには世界的に知られたブルワリーが、そうした“まだ見つかっていない価値”を見つける。 ただし、それは「発見」というより、 同じものを見ている人間同士が、出会った というほうが近いのかもしれない。 Other Halfがvon Trappを発見した。 僕は、そうは思わない。 2023年にvon Trappで飲んだ一杯を思い出しながら、今回のコラボを見ると、 「Other Halfは、von Trappがずっと持っていたものを見つけたのではないか」 そう思えてくる。
コラボレーションは“有名になるための手段”ではなくお互いが持っている価値を再発見すること
クラフトビールの世界では、派手なブルワリーだけが進化しているわけではない。 静かに、丁寧に、うまいビールを造り続けているブルワリーもいる。 そして、その価値に気づくブルワリーが現れたとき、 コラボレーションは“有名になるための手段”ではなく、“お互いが持っているものを再発見する場所”になる。 今回のOther Half × von Trappは、そんなコラボレーションなのかもしれない。 だからこそ、飲んでみたい。 そして、もう一度von Trappに行ってみたい。
2023年に「うまい」と感じたあのビールが、2026年のOther Halfとの出会いによって、どんな表情を見せるのか。 そこに、今回のコラボの本当の面白さがある。
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田嶋伸浩

2013年よりクラフトビール専門誌『TRANSPORTER BEER MAGAZINE』発行人となる。
2017年ベルギー発修道院ビール『CHIMAY』と契約、ジャパンマーケテングを担当。その後もクラフトビール業界において幅広く活動、会社顧問商品開発、店舗開発,コンサルティング、ブランドプロデユース、デザイン、広告、関連の仕事を数多く行なっている。
2018年伊勢角屋麦酒顧問就任
2019年FAR YEAST BREWINGアドバイザリー就任
2021年鎌倉ビール顧問就任
FAR YEAST BREWING TOKYO 店舗開発
伊勢角屋麦酒 八重洲店・新宿店・新橋店 店舗開発
株式会社なんつね飲食部門オリジナルビール企画店舗監修
BLACK TIDE BREWING 合同会社 代表社員
株式会社FUKUOKA CRAFT 代表取締役
株式会社ライフコーポレーションでのオリジナルビール企画、デザイン。
スーパーマッケット オオゼキでのオリジナルビール企画
株式会社RETTY でのクラフトビールイベント企画。
株式会社日テレ7でのオリジナルビール企画、アドバイザリー。
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