How would one design a Japanese craft beer using honey? — Shifting from "honey for sweetness" to "honey that lets you taste the land."

15 September 2026 vol.296
「その土地で咲いた花」まで、原料にできるのが日本のクラフトビールの醍醐味

蜂蜜をビールに入れる。 一見すると、ものすごく簡単そうだ。 「蜂蜜=甘い」 だからビールに入れれば、甘くて飲みやすいビールになる。 ……と思ったら、実はそう簡単ではない。 むしろ蜂蜜は、かなり難しい原料だ。 蜂蜜の糖分は酵母にとって非常に発酵しやすい。つまり、ビールに入れた蜂蜜はかなりの部分がアルコールとCO₂に変わってしまう。 結果、 「蜂蜜をたくさん入れたのに、蜂蜜の味がしない」 ということが普通に起こる。 BJCPも、蜂蜜などの発酵性糖類はビールのボディを軽くする場合があると説明している。 では、日本のブルワリーは蜂蜜をどう使えばいいのか。 答えは、 「蜂蜜を砂糖として考えないこと」 だと思う。
1.まず「何のために蜂蜜を入れるのか?」
1.まず「何のために蜂蜜を入れるのか?」 ここを決めないとレシピが作れない。 蜂蜜には大きく3つの使い方がある。
① アルコールを上げる 一番簡単。 麦芽の一部を蜂蜜に置き換える。 例えば、 麦芽由来80~90% 蜂蜜由来10~20% くらい。 蜂蜜は発酵するので、ビールを軽く、ドライにしながらアルコールを上げられる。 これは昔から使われている方法だ。 ただし、この方法だけでは、 「蜂蜜を使ったビール」なのに蜂蜜を感じない 可能性が高い。
② 蜂蜜の香り・個性を残す こちらが面白い。 蜂蜜には花の種類や産地によって、かなり違った香味がある。 例えば、 アカシア そば みかん 栗 百花蜜 レンゲ クローバー など。 BJCPのミードガイドラインでも、蜂蜜の種類によって香り・味・色・酸味などのキャラクターが異なり、オレンジブロッサムやBuckwheat(そば)などは比較的特徴を認識しやすい蜂蜜として扱われている。 つまり、 「蜂蜜を入れました」ではなく、 「この蜂蜜だから、このビールを作りました」 という設計にする。 ここが日本ではまだまだ掘れる。
2.日本なら「蜂蜜×土地」で考えたい
例えば、
福岡 みかん蜂蜜 × Blonde Ale
長野 そば蜂蜜 × English Bitter
和歌山 みかん蜂蜜 × Saison
熊本 百花蜜 × Amber Ale
北海道 クローバー系蜂蜜 × Helles
山梨 果樹系蜂蜜 × Belgian Blonde という具合。
重要なのは、 蜂蜜の個性を消さないビールを選ぶこと。 例えば、猛烈なWest Coast IPAに蜂蜜を入れても、ホップに蜂蜜の繊細な香りが負けてしまう可能性が高い。 一方、 Blonde Ale Kölsch Saison Bitter ESB Belgian Blonde Wheat Beer などなら、蜂蜜のキャラクターを受け止めやすい。
3.僕なら日本で最初に「そば蜂蜜」をやる

僕なら日本で最初に「そば蜂蜜」をやる これはかなり面白い。
「Buckwheat Honey ESB」 そば蜂蜜は普通の蜂蜜とは違う。 香りが強く、土っぽさ、濃厚さ、スパイシーさなど、かなり個性的。 だから淡いLagerに入れて「蜂蜜ビール」にするより、 English ESBの麦芽感とぶつける。
イメージとしては、 Maris Otter +少量のCrystal +そば蜂蜜 +Fuggle系ホップ +English Ale Yeast 。 これは先ほどの記事の考え方とも非常に相性がいい。 蜂蜜を主役にするのではなく、 「麦芽・酵母・ホップ・蜂蜜の4つで一つの味を作る」 わけだ。
4.蜂蜜を「いつ入れるか」が重要 ここが醸造上のポイント。
蜂蜜の香り成分は熱や激しい発酵によって失われやすい。
AHAも、蜂蜜を煮沸すると香りが飛びやすいため、煮沸終了間際や発酵中・発酵後の添加によって蜂蜜のキャラクターを残す方法を紹介している。 つまり、 最初から釜に入れて1時間煮る という考え方ではなく、 目的によって添加場所を変える。 ただし、発酵後半に蜂蜜を入れる場合は、発酵が再開することを前提に設計する必要がある。
5.「蜂蜜10%」ではなく「蜂蜜由来の糖10%」と考える
ここも重要。 例えば100L仕込みで、 OG 1.050 を狙う。 そのうち、 10~15%程度を蜂蜜由来の発酵性糖にする。
すると、麦芽だけで作るビールとは違って、 ボディが軽くなる ドライになる アルコールが上がる フィニッシュがシャープになる という変化が出る。 だから蜂蜜を増やすなら、 麦芽側でボディを設計し直す。 これがポイント。
6.「蜂蜜を入れたら甘くなる」は逆 ここが一般消費者との最大のギャップだ。
蜂蜜を入れたからといって、必ずしも甘いビールにはならない。
むしろ発酵させれば、 〈蜂蜜 ▶︎糖 ▶︎アルコール+CO₂ 〉となり、 ドライなビール になる可能性が高い。 だから、 蜂蜜ビール=甘い ではない。 むしろ、 蜂蜜ビール=ドライなのに、蜂蜜由来の香りがある という方向が面白い。
BJCPも、完全発酵する糖類はフィニッシュを薄くする可能性があるとしています。
7.日本でやるなら「蜂蜜を使った理由」をラベルに書く
ここが商品設計(product design)。
例えば、 「FUKUOKA MIKAN HONEY BLONDE」 では弱い。
それより、 「福岡・??の蜜柑蜂蜜を使ったBlonde Ale」 とする。
さらに、 蜂蜜を甘味料としてではなく、
『福岡の蜜柑畑の香りをビールに移すために使用。』 と説明する。
これなら消費者にも意味が伝わる。
8.そして、もっと面白いのが「蜂蜜×ホップ」
例えば、 みかん蜂蜜 × Mandarina Bavaria
そば蜂蜜 × Fuggle
栗蜂蜜 × East Kent Goldings
百花蜜 × Cascade というように、 蜂蜜の香りとホップの香りをペアリングする。 ここまでやると、単なる「ハニーエール」ではなくなる。
9.transporterなら3種類を同時に仕込む
日本のブルワリーが商品開発するなら、むしろこれをやりたい。
A HONEY BLONDE 蜂蜜10% 軽く、ドライ。 蜂蜜の存在は控えめ。
B HONEY SAISON 蜂蜜15% Saison yeastのスパイシーなエステルと蜂蜜。 炭酸高め。 ドライフィニッシュ。
C BUCKWHEAT HONEY ESB そば蜂蜜10~15% Maris Otter +Crystal +Fuggle +English Ale Yeast。 これは完全に「大人の蜂蜜ビール」。
10.そして日本には、アメリカにはない武器がある
それは、 「地域の蜂蜜」 だ。
アメリカでも蜂蜜の品種・産地は重要な要素になっているが、日本にはさらに面白い可能性がある。
桜 みかん 栗 そば りんご 柑橘 山の百花蜜 など。 これをブルワリーの所在地と結びつける。
すると、 「クラフトビールを飲む=その土地を飲む」 という商品になる。
蜂蜜ビールを、 「蜂蜜を入れたビール」 として考えると、つまらない。 そうではなく、 「蜂蜜という土地の香りを、ビールという発酵飲料にどう翻訳するか?」 と考える。 これなら日本のクラフトビールにまだ大きな余白がある。
そして、僕が一番やってみたいのは、 「日本の蜂蜜 × 日本のクラフトビール」 を全国のブルワリーでシリーズ化すること。
福岡=みかん蜂蜜
長野=そば蜂蜜
和歌山=柑橘蜂蜜
北海道=クローバー系蜂蜜
というように、 「Honey Terroir Beer」 を作る。 ビールの原料は麦とホップだけじゃない。 その土地で咲いた花まで、原料にできる。 これが蜂蜜を使う最大の面白さだと思う。

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