What Japanese alcoholic beverages are being sold in the U.S.? Examining the overseas strategies of Japanese liquor manufacturers and craft beer producers in light of the expanding RTD market.

12 Oct 2026 vol.335
国内市場の縮小、アメリカで広がるRTD、そして日本のクラフトビールが世界で生き残るために必要なこと。

日本の酒類メーカーが、アメリカ市場への進出を加速させている。
2026年10月9日付のThe Japan Timesは、日本の酒類メーカーが米国のRTD(Ready-to-Drink)市場に参入し、販売基盤の構築を進めていると報じた。サントリー、アサヒ、キリンといった大手メーカーが、それぞれ米国市場を意識した商品展開を進めている。
背景にあるのは、日本国内の酒類市場が抱える構造的な問題だ。人口減少、飲酒習慣の変化、健康志向の高まり。これまで国内市場を支えてきた消費のあり方が、少しずつ変化している。
一方、海外に目を向けると、アメリカではアルコール市場全体が伸び悩むなか、RTDというカテゴリーが存在感を高めている。日本のお酒にとって、海外進出は新たな成長の機会となるのか。そして、この動きはクラフトビール業界にどのような示唆を与えるのだろうか。
1.アメリカでは、アルコール消費が減っても伸びるカテゴリーがある
英国の市場調査会社IWSRのデータとして、紹介した数字は興味深い。
2015年から2025年にかけて、アメリカの年間アルコール消費量は平均で年1%減少した。一方、RTDの消費量は同じ期間に平均で年14%増加したという。
2025年には、RTDが米国のアルコール飲料全体の飲用機会に占める割合は8%に達し、市場規模は約220億ドルとなった。2015年の2%から大きく拡大している。
ここで重要なのは、アメリカ人が単純にお酒を飲まなくなったわけではない、という点だ。
飲酒量を抑えようとする動きや健康意識の高まり、生活費の上昇などを背景に、消費者は飲むものや飲む場面を選び直している。そのなかで、手軽に飲めて、味わいが分かりやすく、購入後すぐに楽しめるRTDが支持を集めている。
この市場を押し上げた商品の一つが、ハードセルツァーだ。炭酸を含み、比較的すっきりとした飲み口を持つアルコール飲料で、従来のビールとは異なる選択肢として市場に広がった。
さらに、蒸留酒をベースにした缶カクテルも成長している。米国の蒸留酒業界団体DISCUSによれば、蒸留酒ベースのRTDを含むプレミックスカクテルの売上高は、2025年に前年比16.4%増の約38億ドルとなった。
ただし、RTD市場のすべての商品が同じように成長しているわけではない。商品のベースとなる酒類や流通経路、価格帯によって状況は異なる。RTDというカテゴリーの拡大を、そのまま酒類市場全体の成長と捉えることはできない。
それでも、消費者の変化に合わせてカテゴリーそのものを再設計することが、成長につながる可能性を示している。
2.日本の大手メーカーは、なぜ今アメリカを目指すのか
日本国内では、酒類市場の縮小が続いている。
カナダ政府が2026年に公表した日本の酒類市場に関する分析によると、日本の酒類販売量は2019年の約86億リットルから2024年には約80億リットルへ減少した。特にビールは、同期間に年平均3.1%のペースで販売量が減少している。一方、国内のRTD販売量は年平均5.3%増加した。
国内市場に変化が起きていることは明らかだ。
こうしたなか、日本の大手メーカーは、国内で培った商品開発力やブランド資産を海外で生かそうとしている。
サントリーは2023年、缶チューハイブランド「-196」の米国向け商品を一部の州で販売し、2025年には全米展開へと拡大した。アサヒは米国市場向けの「贅沢搾り」を、キリンは「氷結」の一部商品を展開している。

これらの取り組みから見えてくるのは、単に日本で売れている商品を輸出するのではなく、米国の消費者に合わせた商品づくりと販路の確立を進めているということだ。
ただし、海外市場に参入すれば自動的に成功できるわけではない。
RTD市場は成長分野である一方、競争も激しい。すでに多くのブランドが存在し、消費者の選択肢は増えている。認知を獲得し、店頭に並べ、継続して購入してもらうためには、商品そのものの魅力だけでなく、流通、価格、マーケティングへの投資が必要になる。
The Japan Timesの記事で紹介されたIWSRの見解も、この点を指摘している。日本の酒類メーカーは日本食との結びつきをうまく活用してきたが、それだけでは十分ではない。メキシコのテキーラがメキシコ文化の象徴として認識されているように、日本の商品も食文化にとどまらず、映画や音楽などを含めた日本文化全体との結びつきを築けるかが課題となる。
つまり、海外で売るためには、商品を輸出するだけでは足りない。その商品が生まれた背景や文化まで含めて、消費者に伝わるブランドをつくる必要がある。
3.クラフトビール業界は、この動きをどう見るべきか
ここからは、クラフトビール業界の視点で考えてみたい。
RTDとクラフトビールは、製法もカテゴリーも異なる。RTD市場が伸びているからといって、クラフトビールも同じように売れるとは限らない。
しかし、共通する課題はある。それは、国内市場の変化に向き合いながら、消費者に選ばれる理由をつくり、販路を確保し、ブランドを育てていくことだ。
クラフトビール業界では、ホップの種類、醸造技術、発酵方法、限定商品の開発など、商品の個性を生み出すための挑戦が続いている。しかし、つくり手が考える商品の魅力と、消費者が実際に購入する理由は、必ずしも一致しない。
どれだけ優れたビールをつくっても、その存在を知られなければ飲んでもらえない。飲んでもらえたとしても、価格や購入場所、ブランドへの理解が伴わなければ、継続的な売上にはつながりにくい。
海外市場への進出でも、同じことが起きる。
日本のクラフトビールを海外に持ち込む際、「日本のクラフトビールだから珍しい」という理由だけで、長期的な市場を築くことは難しい。必要なのは、なぜそのビールを飲むべきなのかを、現地の消費者に伝えることだ。
例えば、日本の地域性を生かした原料や食文化、醸造家の考え方、地域の風土。こうした要素は、ブランドをつくるための重要な資産になる。ただし、それらを並べるだけでは十分ではない。味わいの特徴や飲む場面、料理との相性、ブランドの背景を、消費者が理解できる言葉に変換する必要がある。
日本らしさを押し出すことと、日本らしさを伝えることは違う。その違いを理解することが、海外戦略の出発点になるのではないだろうか。
4.海外進出は、輸出先を増やすことではない
クラフトビールメーカーが海外進出を考える際、まず話題になるのは、どの国に輸出するか、どのインポーターと組むか、どのイベントに出展するか、といった具体的な手段だ。もちろん、どれも重要である。
しかし、その前に考えなければならないことがある。自分たちは、誰に、何を、どのような価値として届けたいのか。
海外市場で継続的に販売するには、現地の輸入業者やディストリビューターとの関係構築に加え、商品規格、価格設計、物流、品質管理、現地の法規制への対応が欠かせない。ビールは温度や流通条件によって品質への影響も受けるため、輸出できることと、安定して販売し続けられることは別の問題だ。
また、現地で一度イベントに出展して商品を知ってもらうことと、その後も店頭やタップルームで選ばれ続けることの間には、大きな隔たりがある。イベントでの出会いを、継続的な取引やファンづくりにつなげられるか。ブランドのストーリーを伝え、現地の飲食店や販売店と一緒に市場を育てられるか。輸出を単発の取り組みで終わらせない仕組みが求められる。
大手メーカーと同じ資金力や販売網を持たないクラフトブルワリーだからこそ、すべての市場を狙うのではなく、自社の個性が評価される地域や販売チャネルを見極めることが重要になる。
例えば、現地のクラフトビール専門店、ビアバー、ボトルショップ、ビールフェスティバルなど、商品を理解してくれる人たちとの接点を起点にする方法がある。
最初から大きな販売量を目指すのではなく、少量でも継続的に購入される関係を築く。そこで得た評価や反応を商品開発と販売戦略に反映させる。海外進出を「出荷」で終わらせず、「市場づくり」として捉える視点が必要だ。
5.日本文化は、ブランドを強くするのか
海外で日本の商品を販売するとき、「日本産」「日本の技術」「日本の食文化」は、確かに強い訴求要素になり得る。しかし、それらは入口であって、最終的な購入理由とは限らない。
消費者が商品を選ぶとき、最初に目を引くのはデザインやブランド名かもしれない。購入を決めるのは味や価格かもしれない。そして、もう一度購入する理由になるのは、商品への信頼や、飲んだときの体験かもしれない。
日本文化をブランドに取り入れるのであれば、それを商品と切り離して考えるべきではない。地域の食材を使うなら、その食材が味わいにどうつながるのか。日本の食文化を伝えるなら、どの料理と合わせることで商品の魅力が引き立つのか。地域の物語を語るなら、その土地で醸造することにどのような意味があるのか。
文化を単なる装飾として使うのではなく、商品価値と結びつけることが大切だ。この点は、日本のクラフトビールにも大きな可能性を与えている。
クラフトビールは、地域の文化や食、人、音楽、アート、コミュニティとつながりやすい商品だ。醸造所を訪れる体験や、ブルワーとの会話、地域の飲食店とのペアリングなど、缶やボトルの中身だけでは完結しない魅力を持っている。海外でその価値を伝えるためには、商品を売るだけでなく、その商品を取り巻く体験まで設計することが重要になる。
6.これからのクラフトビールメーカーに必要な戦略
今回のRTD市場の動きから、クラフトビールメーカーが考えられる戦略を整理してみたい。
第一に、商品開発と市場分析を切り離さないこと。
ブルワーがつくりたいビールをつくることは、クラフトビールの根幹にある。しかし、それを継続的な事業にするには、誰が飲むのか、どこで飲むのか、どの価格帯で購入されるのかを考える必要がある。市場に合わせて個性を失うのではなく、個性が届く市場を見つけることが重要だ。
第二に、商品だけでなくブランドを育てること。
原料や製法の説明だけでなく、なぜそのビールをつくるのか、どのような地域や文化と結びついているのかを伝える。SNS、ウェブサイト、イベント、飲食店との連携など、複数の接点を通じてブランドへの理解を深めていく。
第三に、販売と醸造を一つのチームとして考えること。
営業が売上目標を追い、醸造が生産を担当するだけでは、需要の変化に十分に対応できない。販売予測、在庫、製造計画、商品開発を連動させ、どの商品を、いつ、どれだけつくるのかを判断する必要がある。海外展開を考える場合も、輸出先の需要や物流条件を踏まえた生産計画が欠かせない。
第四に、成長を売上だけで判断しないこと。
海外イベントへの出展数や輸出数量だけでなく、継続取引先の数、リピート率、利益率、ブランド認知、現地の販売パートナーとの関係なども確認したい。売上が増えても、物流費や販促費を含めると利益が残らないのであれば、事業として持続可能とはいえない。
そして最後に、短期的なブームに依存しないことだ。
RTD市場の成長は、新たな需要が生まれていることを示している。しかし、カテゴリーの成長だけを根拠に参入すれば成功できるわけではない。クラフトビールも同じで、流行のスタイルや話題性のある原料を追いかけるだけでは、長期的なブランドにはつながりにくい。自社が何を強みにし、どの顧客と関係を築き、どのように価値を届け続けるのか。その問いを持ち続けることが、持続的な成長の土台になる。
7.日本のお酒は、何を世界に届けるのか
日本の酒類メーカーによる米国RTD市場への進出は、国内市場の縮小を背景とした海外戦略の一つである。
しかし、今回の動きが示しているのは、単に海外へ販売先を広げる必要性だけではない。市場が変化するとき、企業は商品そのものだけでなく、消費者が何を求め、どのような場面でお酒を楽しみ、どんなブランドに共感するのかを考え直さなければならないということだ。
クラフトビール業界も例外ではない。
これまで培ってきた醸造技術や商品開発への情熱は、もちろん重要だ。しかし、それだけで市場が広がる時代ではなくなっている。商品をつくる力と同じくらい、その価値を伝える力、販売を設計する力、顧客との関係を育てる力が求められている。
日本のクラフトビールが海外で評価されるために、必ずしも日本らしさを強調し続ける必要はない。大切なのは、日本の地域や文化から生まれた個性を、現地の消費者にとって魅力的な価値として伝えることだ。
そして、海外進出を特別な挑戦として終わらせず、継続的な事業として成立させることだ。RTDが伸びているからRTDをつくる。海外市場が成長しているから海外に出る。そうした発想だけでは、競争のなかで選ばれ続けることは難しい。
必要なのは、流行を追うことではなく、変化する市場のなかで、自分たちが提供できる価値を見極めることだ。
日本のお酒が世界で存在感を高めるためには、何を輸出するかだけでなく、何を伝え、どのような関係を築き、どのように飲み続けてもらうのかまで考える必要がある。世界に届けるべきものは、缶やボトルに入ったお酒だけではない。その一杯を生み出した理由と、飲む人の記憶に残る体験まで含めて、ブランドなのだ。
国内市場の縮小を、ただの危機と捉えるのか。それとも、商品とブランド、そして販売のあり方を見直す機会と捉えるのか。
その選択が、日本の酒類メーカーとクラフトビールの未来を左右していくのではないだろうか

