
09 Oct 2026 vol.331
2026年のアメリカを見ていると、ビールそのものだけではなく、原料、飲み方、ブランド、地域性、アルコール度数、さらには“選ぶ体験”まで商品になっている。
アメリカのクラフトビールを見ていると、ふと考える。「今、アメリカでは、どんなビールが面白いのか?」
IPAなのか。Hazy IPAなのか。ラガーなのか。もちろん、それだけではない。
そこで今回は、現在アメリカで注目されているビールや商品を実際に追いながら、今のクラフトビールの面白さを考えてみたい。
Lager Mystery Box。
KCBC。
Mount Holly Beer。
Geisthaus。
Elysian。
Stone。
そして、最後はビールですらない「8 Sips Glass」。
バラバラに見える。
しかし、並べてみると、2026年のアメリカのクラフトビールが向かっている方向が見えてくる。
まずはRaR Brewing。Untappdには1,000種類以上のビールが登録されている。

最初に気になったのが、メリーランド州のRaR Brewing。2013年創業で、Untappdには1,000種類以上のビールが登録されている。
今回注目したいのは、その中から選ばれた6本のセット。
RARといえば「Out of Order」のスムージーサワーや「House Saturated IPAs」などが知られているほか、American IPA、NZ Pilsner、日本のRice Lagerなど、幅広いビールを手掛けている。
ここで面白いのは、単に「いろいろなスタイルを造っている」ことではない。
「House Saturated IPA」という、自分たちの言葉を持っていることだ。
IPAという巨大なカテゴリーの中に、自分たちなりのカテゴリーをつくる。
これは、以前から気になっていたテーマでもある。
「IPAを造っています」ではなく、「うちのIPAは、こういうIPAです」まで言えるか。
スタイル名だけではなく、自分たちの言葉で商品を説明する。そこにブランドが生まれる。
Mortalis――サワーではなく「世界観」を飲ませる

続いてMortalis。
Mortalis、独自の世界観を持つブランドサワーというスタイル自体は珍しくない。
フルーツサワーも、スムージーサワーも、今では多くのブルワリーが造っている。だからこそ、「サワーが美味しい」だけでは差別化しにくい。そこで重要になるのがブランドだ。
Mortalisだから飲む。Mortalisだから、次も試してみたい。
ここまで来れば、スタイルそのものがブランドの入口になる。
Lager Mystery Box――「選ぶ」ことまで商品にする

次に面白いのがLager Mystery Box。複数のラガーをまとめたミステリーボックが販売されている
ラガーは決して新しいスタイルではない。むしろ、ビールの王道だ。しかし、「どのラガーを飲めばいいのか?」という消費者の問題に対して、「こちらで選びました」という商品をつくる。
これは面白い。
売っているのは、ラガーだけではない。「何が入っているのだろう?」という期待。つまり、ビール+発見。
商品そのものではなく、買う瞬間の体験まで商品化している。
KCBC――Rauchbierをもう一度面白くする

KCBC(Kings County Brewers Collective)の「As the World Burns」はRauchbier(アルコール度数5.2%のラウホビール)
ミュンヘンモルト、バンベルクのスモークモルト、ドイツ産Perleホップを使った、伝統的なスモークビールだ。Hop Cultureでは、キャンプファイヤー、ベーコン、焦げた木、トーストしたパンなどを連想させる味わいとして紹介されている。
Rauchbierは新しいスタイルではない。しかし、古いスタイル=古い商品ではない。
「As the World Burns」という名前を与え、現代的なパッケージとストーリーで見せる。
これだけで、もう一度飲んでみたくなる。クラフトビールのイノベーションは、新しいスタイルを発明することだけではない。
昔からあるものに、新しい飲む理由を与える。これも立派なイノベーションだと思う。
Mount Holly Beer――ビールのために大麦を探しに行く

ここから、少し方向が変わる。
バーモント州のMount Holly Beer。2026年に注目するブルワリーの一つとして挙げているが、面白いのはビールそのもの以上に、原料の探し方だ。
創業者Dan Tillyは、北欧で使われてきた古い大麦品種「Balder」※を求めてフィンランドまで足を運び、その大麦を入手してバーモントまで運んだ。
そして、その大麦を使って造ったのが「Sauna Snacks」というピルスナーだ。Hop Cultureはこのビールを2025年に飲んだ注目ビールの一つとしても紹介している。(Hop Culture)
ここで売っているのは、「ピルスナーです」だけではない。「この大麦はどこから来たのか?」という物語がある。
大麦一つで、ビールの背景が変わる。
原料はレシピの一部ではなく、ブランドストーリーそのものになる。
※スウェーデンを起源とする歴史的な二条大麦(ビール醸造用麦芽向け)の品種です。主に1940年代〜1950年代にかけてヨーロッパで広く栽培され、当時の高品質なビール麦として高く評価されました。
Geisthaus――ラガーだけをやる

もう一つ気になるのが、カリフォルニア州サクラメントのGeisthaus Brewing。
2025年にオープンし、ラガーに特化したブルワリーとして注目されている。
その代表的なビール「Progenitor」は、2026年のBest of Craft Beer AwardsでもGerman Pilsner部門の金賞として紹介された。

面白いのは、「何でも造れる」ことを強みにしないこと。むしろ、「ラガーしかやらない」という極端なポジションを取る。
クラフトビールというと、IPA、Hazy、Sour、Stout、Lager……と、どんどん種類を増やしていくイメージがある。
しかしGeisthausは逆方向。狭くすることで、深くする。
これは今後、日本のブルワリーにも重要な考え方になるかもしれない。
Elysian――人気IPAをノンアルにする

そして、もう一つ面白いのがElysian Brewing。
人気の「Space Dust IPA」シリーズに、2026年、ノンアルコール版の「Easy Dust IPA」を加えた。
グレープフルーツ、パッションフルーツ、パインのようなホップキャラクターを持たせ、アルコール度数は0.5%未満。
ここで重要なのは、「ノンアルビールを新しく造った」ということではない。すでにブランドとして知られている商品を、「別の飲み方ができるブランド」に広げたことだ。
Space Dustを知っている人に、「今日は飲まないけど、Space Dustの世界観は楽しみたい」という選択肢を与える。

これはブランド拡張として非常に分かりやすい。
Stone――「鮮度」をビールの商品価値にする

そして、アメリカのIPA文化を語るなら、Stoneも外せない。
2026年春には「Funky Fresh IPA」を発売。
Nelson、Motueka、Riwakaというホップを使った9.4%のDouble IPAで、「Enjoy By」シリーズの思想を引き継ぎ、鮮度そのものを商品価値としている。
これも面白い。普通なら、「新鮮なうちに飲んでください」は注意書きだ。Stoneは、それを商品にした。「Freshであること」そのものをブランドにした。ビールの弱点を隠すのではなく、逆に商品価値に変える。これはクラフトビールらしい発想だ。
今回、一番驚くのが「8 Sips Glass」。これはビールではない。グラスだ。

しかも、ただのグラスではない。8回の飲み方でポイントを競い、最大100点を目指すゲームになっている。(Hop Culture)つまり、「飲む」という行為そのものを商品化している。ビールを買う。グラスに注ぐ。飲む。
それだけではない。飲み方がゲームになる。友達と競争する。写真を撮る。SNSに投稿する。ここまで来ると、ビール=飲料という考え方を超えてくる。
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ここまで並べると、何が見えてくるのか?
RAR。Mortalis。Lager Mystery Box。KCBC。Mount Holly。Geisthaus。Elysian。Stone。8 Sips。
スタイルも違う。ブルワリーも違う。売り方も違う。しかし、共通していることがある。それは、「ビールだけを売っていない」ことだ。
RARは、自分たちのカテゴリー。Mortalisは、世界観。Lager Mystery Boxは、発見。KCBCは、伝統+現代的な物語。Mount Hollyは、原料のストーリー。Geisthausは、専門性。Elysianは、ブランドの別の飲み方。Stoneは、鮮度。8 Sipsは、飲む体験。
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「美味しい」は、もう入口にすぎないもちろん、最終的には美味しくなければいけない。これは変わらない。しかし、今のクラフトビール市場では、「美味しい」だけでは、選ばれる理由として弱くなっている。なぜなら、美味しいビールが多すぎるからだ。
だから、「何が入っている?」だけではなく、「なぜこのビールなの?」まで考える。
さらに、「なぜ今日飲むの?」まで考える。ここまで来ると、商品開発の考え方が変わる。
日本のブルワリーは、何を売っているのか?
日本でも新商品は次々に出ている。
新しいホップ。新しい副原料。限定ビール。コラボビール。地域素材。しかし、商品数を増やすことと、ブランドを強くすることは同じではない。大切なのは、「そのビールを飲む理由」をつくれているか。
例えば、「〇〇のビールだから」だけでは弱い。「なぜ、この〇〇のビールなのか?」まで必要になる。「このホップを使ったから」だけでは弱い。
「なぜ、そのホップを使う必要があったのか?」まで語る。「ラガーを造りました」ではなく、
「なぜ、このブルワリーがラガーを造るのか?」まで考える。そこまで行けば、ビールは単なる商品ではなくなる。
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2026年、アメリカから見えてくること今回取り上げたビールには、「新しいスタイル」という共通点はない。むしろ逆だ。
IPAもある。ラガーもある。ピルスナーもある。サワーもある。Rauchbierもある。ノンアルもある。そしてグラスまである。つまり、これからのクラフトビールの競争は、スタイルだけではない。
何を使うのか。誰が造るのか。なぜ造るのか。どう飲むのか。誰と飲むのか。どんな物語があるのか。どんな体験になるのか。その全部が商品になる。
今あるビールを、どうやって面白くするか。その発想が増えている。
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ビールを造る。その先に何をつくるのか。アメリカのクラフトビールを見ていると、「もっと新しいビールを造らなければ」という発想だけではないことに気付く。むしろ、今あるビールを、どうやって面白くするか。その発想が増えている。
昔からあるRauchbierに、新しい名前を付ける。ラガーをミステリーボックスにする。古い大麦を探してピルスナーを造る。人気IPAをノンアルにする。鮮度をブランドにする。そして、ビールを飲むこと自体をゲームにする。これは、ビールの進化というより、「ビールという商品の進化」なのかもしれない。
美味しいビールを造る。それは当然。その次に、「このビールだから飲みたい」をどうつくるのか。
2026年のアメリカのクラフトビールを見ていると、そこが次の勝負になっているように見える。
ビールを造る。そしてもう一つ、「飲む理由」を醸造する。これからのクラフトビールには、そんな発想が必要なのかもしれない。

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