
11 JUNE 2026 vol.112
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アメリカンクラフトビール史に残る名作「90 Shilling Ale」
90 Shilling Aleとは何か?
クラフトビールファンなら一度は耳にしたことがある「90 Shilling Ale」。
特にコロラド州の Odell Brewing Co.が造る「90 Shilling」は、アメリカンクラフトビール史に残る名作です。1989年の創業時から続くフラッグシップであり、現在でもOdellの看板商品として販売されています。
そもそも「Shilling Ale」とは? Shilling(シリング)はかつてのイギリス・スコットランドの通貨単位です。 19世紀から20世紀初頭のスコットランドでは、ビール樽1バレルあたりの販売価格をシリングで表記していました。
60/-(60シリング)=軽いセッションエール
70/-(70シリング)=中程度
80/-(80シリング)=プレミアム
90/-(90シリング)=高価格帯・高品質ビール という区分が一般的でした。
現代では「90/-」という名称は強いスコッチエールやスコティッシュエールを指すことが多くなっています。 アメリカに渡ったShilling Ale 興味深いのは、アメリカのクラフトブルワーたちがこのスタイルをそのままコピーしなかったことです。
1980〜90年代のクラフトビール黎明期、アメリカではまだIPAブームが到来しておらず、多くのブルワリーがイギリスやスコットランドの伝統スタイルを研究していました。
Odell Brewing創業者のDoug Odellも英国旅行中にリアルエール文化に感銘を受けています。
アメリカの自由な発想が誕生させたアンバーエール
そこで誕生したのが90 Shilling。 しかしOdellは伝統的なスコッチエールをそのまま造るのではなく、 「もしスコティッシュエールを軽やかにしたら?」 という発想でレシピを開発しました。
結果として生まれたのは、 スコットランド由来のモルト感 アメリカ人向けの飲みやすさ 適度なホップバランス を持つアンバーエールでした。 実際、現在のBJCP的な分類で見ると、Odell 90 Shillingは純粋なScottish Aleというよりも「American Amber Ale」に近い存在と評価されることもあります。
Shilling Aleはなぜ消えたのか? 2000年代に入ると状況が一変します。 West Coast IPA Double IPA Hazy IPA Pastry Stout などの派手なスタイルが市場を席巻。
アメリカのクラフトビール市場は「伝統」よりも「新商品」を求めるようになりました。Redditのビールコミュニティでも「今はフラッグシップより限定ビールが売れる」という声が多く見られます。 その結果、 Scottish Ale English Bitter Mild Ale Brown Ale といった英国系スタイルは市場から徐々に姿を消していきました。
現在もShilling Aleを造り続けるブルワリー 完全に絶滅したわけではありません。 Odell Brewing Company 代表格。

90 Shillingは現在も年間販売されるフラッグシップ。Odell自身も「1989年から続くクラシックなアンバーエール」と位置付けています。 Odell Brewing Company 90 Shilling また米国内では、 80 Shilling Ale Wee Heavy Scottish Export Ale を季節醸造しているブルワリーも散見されますが、常時販売は非常に少数派になっています。
アメリカンクラフトビールが最も自由だった時代の象徴。
近年は「Scottish Ale」カテゴリー自体がニッチな存在です。 Transporter Beer Magazine向け視点 今のクラフトビール市場で90 Shillingが面白いのは、 「流行に勝てなかったビール」ではなく、 「流行を生き延びたビール」だからです。
Hazy IPAが次々と現れては消えていく中、1989年から同じ名前で愛され続ける90 Shilling。
実際にコロラドのビールファンの間では、 「Odellと言えば90 Shilling」 という声が今でも多く見られます。 90 Shillingの価値は、「昔ながらのビール」であることではない。 むしろ逆だ。 このビールはアメリカンクラフトビールが最も自由だった時代の象徴である。 スタイルガイドに縛られず、 市場調査に振り回されず、 自分たちが飲みたいビールを造った時代。 その精神が今もグラスの中に残っている。 Hazy IPAが悪いわけではない。
最新トレンドを追うこともクラフトビールの楽しみのひとつだ。 しかし、もし次にアメリカへ行く機会があるなら、ぜひ90 Shillingを手に取ってほしい。 そこには派手な驚きはない。 だが、クラフトビールが本来持っていた「日常を豊かにする力」が確かに詰まっている。 そしてそれこそが、30年以上生き残った理由なのかもしれない。
流行は移り変わる。 しかし、本当に良いビールは残り続ける。 90 Shillingは、そのことを静かに教えてくれる一杯なのである。 信じるか信じないかはあなたの捉え方次第です。

この「TAJI JARNAL」とマークされているテキストは 本誌編集長田嶋伸浩が執筆しております。

【略歴】
2013年よりクラフトビール専門誌『TRANSPORTER BEER MAGAZINE』発行人となる。
2017年ベルギー発修道院ビール『CHIMAY』と契約、ジャパンマーケテングを担当。その後もクラフトビール業界において幅広く活動、会社顧問商品開発、店舗開発,コンサルティング、ブランドプロデユース、デザイン、広告、関連の仕事を数多く行なっている。
2018年伊勢角屋麦酒顧問就任
2019年FAR YEAST BREWINGアドバイザリー就任
2021年鎌倉ビール顧問就任
FAR YEAST BREWING TOKYO 店舗開発
伊勢角屋麦酒 八重洲店・新宿店・新橋店 店舗開発
株式会社なんつね飲食部門オリジナルビール企画店舗監修
BLACK TIDE BREWING 合同会社 代表社員
株式会社FUKUOKA CRAFT 代表取締役
株式会社ライフコーポレーションでのオリジナルビール企画、デザイン。
スーパーマッケット オオゼキでのオリジナルビール企画
株式会社RETTY でのクラフトビールイベント企画。
株式会社日テレ7でのオリジナルビール企画、アドバイザリー。

