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植竹的視点 Season2 -ホップ製品進化論-

2022年 11月 14日 10時 04分 投稿 50 Views
 ただいま出張で鶴居村に来ています。鶴居村にブルワリーを立ち上げるため、ただいま全速力で準備を進めています。
今回のプロジェクトは単にブルワリーを設立するに留まらず、次世代のブルワーを育てるというコンセプトや、廃校となった小学校の体育館の活用、設備面やソフト面でも「こうすればもっと効率良く出来るのに」という長年蓄積したアイデアをすべて盛り込んだかなり面白いプロジェクトになっています。しかしながら新しいことを構築するためには、たくさんの「初めて」をクリアしてゆかなければならない訳で、まだまだ越えなければならないハードルがたくさんあります。大変なことも多いですが、自分がやりたくてはじめたことですから、毎日少しずつでも前進出来るよう頑張っていきますので引き続きのご支援をよろしくお願い申し上げます。

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引き続きビールの原料の話をしましょう

 前号は麦芽、前前号は酵母、そして更にその前は水のお話をいたしました。そして今回はホップのお話をさせていただこうと思います。ビールの4大原料は水、麦芽、酵母そしてホップです。今回でビールの4大原料をひとまず網羅したことになります。なんだかしょっちゅうホップのお話をしているような気がしていたのですが、どうもトランスポーターにホップのお話を書くのはおよそ5年振りだったようです。というわけで、今回はホップについてのお話をさせていただこうと思います。

進化しまくりのホップの現在

 ビールの4大原料のうち、最も進化が著しいのは間違いなくホップでしょう。というのも、現在のクラフトビールにおいては相変わらずホップの特徴を全面に押し出したスタイルが主流だからです。相変わらずというよりも、ヘイジーIPAの誕生によってより顕著にホップフォワードとも言えるビールが隆盛を極めているように思えます。

 これはずっと前からの流れではありますが、アメリカンスタイルペールエール、そしてIPAの誕生によってホップの特徴を全面に押し出したビアスタイルが流行するようになりました。当然ブルワーはより華やかで特徴的な香りを持つホップを所望するようになり、新品種の開発がすごいスピードで行われるようになったのです。

 近年市場にリリースされた品種の中ですでに広く使われるようになった品種は、例えばシトラ、アマリロ、エクアノット、モザイクなどでしょうか。すでに広く使われていますので最新のというよりは、すでにお馴染みのという印象ではありますね。その他毎年新しい品種がリリースされていますので、もはや追いきれていない気もします。

 それから忘れてはならないのはニューワールドホップの存在です。元々アメリカやドイツ、チェコなどが主なホップの産地でしたが、ニュージーランドやオーストラリアなどいわゆるニューワールドと呼ばれる国々からもユニークな特徴を持ったホップが続々とリリースされるようになりました。代表的なのはギャラクシー、ネルソン・ソーヴィン、モトゥエカ、ヴィクトリア・シークレットなどです。さらには今まで伝統的なホップを主に栽培していたドイツやスロヴェニアでも、今までとは一線を画す特徴的なホップがリリースされるようになりました。

 共通しているのは、フルーティな特徴を全面に押し出した品種が好まれ ている傾向です。一昔前はアメリカンスタイルといえばシトラスを連想さ せる香りだったのですが、流行のスタイルが変化したためか、現在はフルー ティな香りが好まれるようです。これはアメリカだけではなく、その他の 国々でも共通する特徴です。

これから先はよりユニークな香りを持つホップがリリースされると思い ますので、果たしてどんなホップが登場するのか楽しみですね。

進化しているのは品種だけじゃない

次々に新たな品種のホップが登場しているというのはクラフトビール ファンにとってはご存知のことだと思いますが、ホップの加工の仕方にも 新たな動きがあるというのはご存知でしょうか。

元々ホップは収穫されてそのまま使うものではなく、フレッシュホップ の例外はありますが基本的には加工されて使用されます。単に乾燥させた だけのホールホップ、乾燥させたホップを細かく砕き圧縮したペレット ホップなどはブルワリーでの使用頻度が高く、ホップの加工品としてはお 馴染みとなっています。

様々なホップの加工品についてはそれぞれメリット・デメリットがあり ブルワリーはそれらを加味して使用するホップ製品を選んでいるわけです が、近年は作り出されるビアスタイルにより適合した加工方法が生み出さ れるようになりました。

例えば代表的なものはルプリンパウダーです。ビールにホップを使用す る目的は苦味と香りを付与するためなのですが、苦味成分、香気成分とも にホップ全体に含まれているわけではなく、ルプリンと呼ばれるホップの 樹脂に含まれています。より強い苦味、香りを出すために多量のホップを 加えてビールを作ると、それだけビールのロスも多くなってしまいます。 そこで必要な成分が含まれるルプリンを濃縮すれば、もっと効率よくビー ルが作れるじゃないか!という発想の元に生まれたものがルプリンパウ ダーというわけです。

その他にも苦味成分となるα酸と芳香成分であるオイルを二酸化炭素の 超臨界体で抽出したCO2エキストラクトや、そこから更に精油成分だけを 分離精製したホップオイルなどなど、ホップの加工形態は実にバラエティ 豊かになってきました。とはいえ、実はホップエキストラクトやホップオイルは新しいものではなく、ずっと昔から使われていたものだったりしま す。意外だったのはホップエキストラクトがビール純粋令の国、ドイツで も広く使用されていることです。確かにホップの成分を抽出しただけのも のですから、純粋令に抵触することはないのですが、どちらかといえば伝 統を重んじる国だと思っていたので、エキストラクトのような加工品が使 われているのが意外だったのです。ドイツといえば合理化の国でもありま すので、製造過程でより合理的な製品が出てくれば躊躇なく使用すること もあるのでしょうか。ちょっと余談でした。

重要なのは製品の特徴を捉えてビールを作ること

様々なホップの加工形態があることをご紹介しましたが、では新しく市 場に出回るようになったホップの加工品を使用すればすなわち良いビール が作れるのでしょうか。答えはNOです。どんな製品にも良い面と悪い面 が必ずあります。  例えば先にご紹介したルプリンパウダーですが「これでもっとド派手な ビールがロスを少なく作ることが出来るぜ!」と喜び勇んでホップペレッ トから100%置き換えて作ってみるブルワリーが続出したそうですが、結 果は「なんか違う・・・」という事になってしまったようです。結論から お伝えすれば、ルプリン意外の部分にもホップのフレーバーや香りに関与 する成分が含まれており、ルプリンだけビールに用いても深みのない味わ いになってしまうそうです。そこで現在はペレット半分、ルプリンパウダー を半分という使い方をするブルワリーが多く、ホップメーカーもそれを推 奨しています。

ホップエキストラクトにしても、ホップオイルにしてもそれぞれ一長一 短あるのです。ですから、最新のものを使用すれば必ずしも良いビールに なるとは限らず、重要なのはそれぞれの特徴を見極めて最も適した方法で 使用する、という結論に至ります。新しいものが良さそうに見えるという のも良くわかりますけどね。ちなみに私はスマホのOSもWindowsアップデートもしばらく様子を見てから行う慎重派です。これはビールの原料も 同じで、みんなが使って結果が出始めてから「どれどれ」と使ってみる傾 向にあります。先駆者達に感謝しつつ、また次号でお会いしましょう。それでは。

植竹 大海(UETAKE HIROMI)
Godspeed Brewery のブルワー。
あまり一箇所に定住せず、あっちフラフラこっちフラフラしながら世界各地でビールを作る放浪ブルワー。
座右の銘は風の吹くまま気の向くまま。
※TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.31(2021) より掲載
     

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