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植竹的視点 Season2 -醸造設備についてのアレコレ-

2022年 11月 14日 10時 04分 投稿 26 Views

 お盆が過ぎ、少しずつ秋らしい気候になってきました。北海道というとどこでも涼しいというイメージがあるかもしれませんが、私が住んでいる富良野は盆地ですので、夏は意外と暑くなります。気温30度を超す真夏日が連日続くこともあり、仕込みをしていると室内の温度は45度を超すことも。とはいえ朝夕は気温がグッと下がり、湿度も低いことから過ごしやすい気候ではあります。そんな夏の終りの気配を感じる富良野から今号もお届けします。

 今回のテーマはズバリ醸造設備についてです。隠していたわけではないのですが、私はブルワリーに所属してビールを作る傍ら(現在は上富良野町の忽布古丹醸造に在籍しておりますよ)ブルワリーの立ち上げやビールの品質改善、生産効率の改善などの相談を受ける醸造コンサルタントとしても仕事をしています。ここのところいただくお仕事は設備関係の案件が多く、新たな気づきが沢山あったのでそれをお伝えしたいと思います。

 さて皆様、ブルワリーの設備と聞いてどんなものをイメージされますか?一口に醸造設備にといっても、ブルワリーの規模によっても見た目は大きく変わりますし、構造や配置も様々ですが、多くの方はステンレス製のどっしりと構えた仕込み設備(ブルーハウスと呼んだりもします)と整然と並ぶタンクを想像されるのではないでしょうか。確かにそれらはブルワリーの顔となる設備でビールづくりの最重要とも言える設備であることは間違いないのですが、実はブルーハウスとタンクだけではビールを作ることはできません。例えばボトルや缶に充填するためのフィラー、樽の洗浄機、タンクを洗浄するためのCIPポンプやCIPユニット、タンクを冷却するためのグライコールタンク、チラー、空調設備、給排水に関わるユニットから、炭酸ガス、酸素の供給システム、コンプレッサー、配管類、濾過器、そしてそれらを動かすための電気設備など、列挙に暇がありません。

 実際のところ、ビール作りというのはシンプルなもので、ご家庭にある鍋やバケツでも工夫すれば作ることができてしまいます。それこそ諸外国ではそうやってホームブリューイングが行われていることが何よりの証拠です。ビールはその歴史を遡ると、一説ではなんと紀元前8000年から4000年頃に誕生したと言われています。当然電気などまだない時代ですし、金属も限定的にしか使用されていなかった時代ですから、現代の醸造設備のような大型の金属製タンクなどは存在しませんでした。それでも現代に通ずるビールが醸造されていた事実は、実はビールづくりのプロセスそのものは、非常にシンプルで原始的だという事実を示しています。とはいえ、古代のビールづくりは大変な重労働だったことは想像に難くありません。現代では電気のちからで簡単に済ませられる、混ぜたり、液体を移動したりという工程をすべて人力で行っていたわけですから。ちなみにもし私が1000Lクラスの仕込みを電気の力に頼らずやってみてくれと言われても、それは断固として拒否すると思います。それほどの重労働です。それ程の重労働でもなおビールを造り続けた古代の人々のビールに対する情熱は如何ほどかと、頭が下がる思いです。

 古代の大変な労働だったビールづくりは、設備の進化や科学の発展によって徐々に様相が変わってきます。醸造設備の進化とはつまり、ビールを「より効率的に」「より安定的に」「より高品質に」作るための試みだったに違いありません。ビールを醸造する上で発生する様々な問題を設備の面から解決しようとした歴史は、なかなかに興味深く面白いものです。インターネットで調べると、日本における明治以降のビールづくりや醸造設備についての資料は沢山見つかりますので、興味がある方はぜひ調べてみてください。

 さて、醸造設備の歴史を紐解くと、より効率良く、高品質なビールを作るために進化してきたことがわかりますが、つまり現代に使用されている設備は、その形状である理由があるということです。例えばよく見るタンクの底面が逆円錐形になっているタンクはシリンドロコニカルタンクと呼ばれ、主にビールを発酵させる工程で使用されます。このタンクの発明はちょっとした、いや、かなり大きな革命で、このタンクが誕生してから発酵を終えたビールからの酵母の回収が容易になり、完全に密閉された環境で一次発酵工程と二次発酵工程が連続して同一タンクで行えるようになり、さらにタンク内で適度な対流が生じることから酵母へ余計な圧力がかからず、タンクを大型にすることができたりと、現代ビール醸造においては絶対に外せない設備の一つとなっています。もちろんあえてオープンファーメンターというある意味では古い時代のタンクを使用するブルワ リーも未だに多くあり、タンクの形状によってビール品質の良 し悪しが決まるというわけではありません。それぞれメリット、 デメリットがありますので、重要なのはそれぞれの利点をしっ かりと把握した上でどの様な設備を選択し使用するのか、そし てどう活かすのかということです。

 こういった設備の特徴はタンクに限らず、ブルーハウスの構 造でも、それこそ配管の引き方ひとつとっても「そうあるべき 理由」というか、定石が存在します。その定石に従うかどうかは、 最終的にはブルワー次第ではあるのですが、新しいブルワリー の立ち上げなどでは、よくよく考えて設計しなければなりませ ん。何しろ配管などは容易には変更できませんからね。  こういった膨大な量の定石や効率化がブルワリーにある全て の機器に詰まっているのです。ブルワーに求められるのは多く の場合、微生物の知識であったり、化学の知識だったりしますが、 実は機械や電気の知識も大いに役に立ちます。設備が故障した ときに自分で修理するなんていうのは日常茶飯事ですからね。

 これからブルワーを目指す方、機械や電気の知識を身につけ てから醸造に関する知識をつけてゆくという順番は大いにアリ です。何しろ醸造の知識をつけるための資料や書籍よりも、機 械や電気について学ぶための書籍の方が沢山存在しますし、学 校や職業訓練校でも体系的に学ぶことができます。あるいは、 今現在、機械や電気の仕事をしている方がブルワーに転身する、 なんていうのもかなり現実的にありうることだと思います。

 先に申し上げた通り、現在設備関係の仕事をたくさん頂いて おり、現場に行くたびに「もっと機械や電気のことを勉強せね ば・・・」と反省するばかりです。もはやブルワーというよりも、 ビールに関するなんでも屋さんになりつつあるような気がしま す。それはもちろん望むところなのですけどね。

 効率的に作業ができるよう配置をされた設備や、衛生的に ビールを輸送できるように施工された配管などを見ると、まさ に機能美ともいうべき美しさを持っています。これからブルワ リーを見学に行く機会があれば、ぜひそのあたりにも注目して みてください。きっと多くの工夫や努力の形跡が見つかるに違 いありません。それではまた次号でお会いしましょう。

 

植竹 大海(UETAKE HIROMI)
Godspeed Brewery のブルワー。
あまり一箇所に定住せず、あっちフラフラこっちフラフラしながら世界各地でビールを作る放浪ブルワー。
座右の銘は風の吹くまま気の向くまま。
※TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.28(2020) より掲載
     

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