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藤田こういちのベルギービール新書1 -ベルギービール、トラディショナルとクラフトの波-

TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.15(2017)

2022年 11月 14日 10時 03分 投稿 23 Views

 ベルギービールと言うとどちらかというと、トラディショナルなイメージを持っている方も多いのではないかと思いますが、ここ最近のベルギービール事情はどんどんボーダレスに様変わりしていて本当に面白いのです。私はもともとブラッセルズの店舗で勤務したのち、輸入部としてベルギーに足を運ぶこともしばしば、今でも年に数回はベルギーを訪れています。もちろん昔ながらに評価の高いベルギービールは山のようにあるし、歴史や地域などに焦点をあてたものも書きたいのですが教則本のようなことを書いても面白くないので、あまり日本では感じることのないであろう、リアルなベルギーの現状やブリュワーのキャラクター、もちろん大好きな「セゾン」や「ランビック」のこと等々、現地に足を運んだからこそ分かることを読者の皆さまに広く知っていただければ、ベルギービールやクラフトビールがより楽しいものになればいいなと思っています。どうぞよろしくお願いします。

 最初にベルギービールに出会ったきっかけは、約15年ほど前ブラッセルズ系列ではない某お店。確か初めに飲んだのはシメイやヒューガルデン、今思うとブーンクリークのようなフルーツビールもいくつか飲んだ記憶が。どんな状況だったかはあえて言いませんが、まあ甘いビールを飲んだりと言うところで想像してください、笑。当時いわゆるビール党ではなく、初めの印象は美味しいよりも、何なんだろうこれはというイメージ。

 それからほどなく、ベルギービールの認識はあったもののさほど興味があるわけではなかったのですが、前職のアフリカ料理店を退職した私に先輩から夏の間忙しいから手伝ってくれと声をかけてもらったんです。それでカフェヒューガルデン新宿でアルバイトをし始めたのが最初。この号が出るころにはBrusselsBeerProject新宿として営業しているわけなのですが。もともと文化的なものが好きだったので、何かピンと来るものは少なからずあったんです。当時飲食店をいくつか経験していたのでそこそこ動ける自信はありました、でもかなり忙しかったのを覚えています。

 そして「セゾンデュポン」が人生を変える1本になりました。他にもたくさんあるのですが初期に感動したのはランビックの「ブーングーズマリアージュパルフェ」、トラピストの「オルヴァル」このあたりが私を大きくベルギービールの世界に引き込んだものたちです。もちろんそこからベルギービールにはまったのは言うまでもありませんし、未だに様々な発見や驚きもあり、常に刺激を受けています。

 昨年の11月ベルギービールがユネスコの世界文化遺産に登録されました。文化と言うと堅く聞こえるかもしれないのですが、要はビールが生活に密着していて、身近なものであるという事。ベルギーには「ビアカフェ」が至るところにあり、いつでもビールが飲めます。なんていい国なんでしょうね。およそ九州ほどの小さな国土の中で、それぞれの地方が地元のビールを飲んでいて、そこにはビアカフェがありコミュニティがある。現在約160の醸造所、委託醸造も増えビールの数は1500種とまで言われるようになりました。ビアカンパニーなどと呼ばれるいわゆる醸造所を持たないファントムブリュワリーも増えています。

 確かにビールは嗜好品、なくても生きていけるかもしれない。しかしベルギーや他のクラフトビールが盛んな国はどうだろうか。私は少なくとも生きていけない、だって仕事にしているんだし、笑。生業であるわけで。ビールがある事で少し豊かになり、コミュニティーが生まれていく。ビールの良いところはよりデイリーに飲めるところ。コミュニケーションの良い潤滑油でもあるし、やはりなくてはいけないものだと思う。何より多様性があって、美味しくて楽しいし。

 カテゴリーというのではないのですが、ベルギーでの会話の中では①インダストリアル②トラディショナル③アルティザナル④クラフトの4つがよく出てきます。クラフトと言われ始めたのはここ数年。①は悪名高い?大量生産もの。とはいえ、価格の安いビールでもクオリティが高いので、ベルギーに行くことがあればぜひ大手のビールも飲んでみてください。②はトラピストのような歴史のある醸造所や、また家族何代かで営んでいたりそこそこ規模の大きなところ。最近はアメリカを筆頭に世界中への輸出が伸びていて、新しい設備の導入や新商品の開発など、Innovationの波が押し寄せています。今必要なのはTraditionよりもその伝統を踏まえつつもInnovationなのだと感じます。ベルギーにはなじみのなかった柑橘系のホップを使ったIPAが増え、特に若い人には新鮮に受け取られています。輸出が増えるにつれいかに品質を保つか葛藤をしているところも。③は職人が黙々とビールを造るマイクロブリュワリーな感じ。ブリュワー同士は盛んな交流もあり、そのことで多様なベルギービール文化が作られたわけですが、最近ではアメリカ、ヨーロッパ諸国との交流も盛んに行われている。そのあたりの流れが最近のクラフトな醸造所に多いが、明確な境目があるわけではない。

 ここ数年の流れで一番最初に驚いたのは、ランビックの雄、カンティヨン醸造所のRussianRiver、Allagashとのコラボレーションだった。カンテサンス(真髄)というカンティヨン主催のこのイベントの数日前にどうしても日本へ戻らねばならなかった私は、当時ベルギーのギークな友人や醸造所の人に、なんで帰るんだ!と怒られたことがある。今でもこのイベントはいっておくべきだったと後悔しています。だってかのPliny the Elderや100% Brett発酵のSanctification、Coolship Redなんかがカンティヨンと一緒に飲めたわけで。また比較的早かったのがサンフーヤン醸造所とGreenFlashBrewingのコラボ。WestCoastIPAが有名だが、当時のブリュマスターが得意としていたオートミールスタウトとセゾンをミックスさせたビールを造ってみたり、ベルジャンイーストで醸すWestCoastStyleのIPA等々興味を持たざるを得ないワクワクする内容でした。セゾンビールの源流を作ったデュポン醸造所はLostAbbeyと、フランス国境沿いのこちらもセゾンの造り手ブロウジ醸造所はHillfarmstead、オルヴァルはNewBelgium、ファントム醸造所とJesterKing、コラボの相手はアメリカのトップブリュワリーばかり。

 ランビックブレンダーのTilquinがオーガナイズするティルカンイングリッシュビアフェスティバルでは、Kernelを筆頭にバーモンジー周辺の新進気鋭のブリュワリー、そして日本でも馴染み深いソーンブリッジが参加していて盛り上がりを見せていた。

 初期はファントムブリュワリーとしてセンセーショナルに登場したミッケラー。最近はランビック専門店をオープンしたり、ブーンやリンデマンとのコラボも記憶に新しいですが、好きな理由の一つに、彼らのベルギービールに対するオマージュがあるんです。例えばスポンタンシリーズは、ランビックで使われる自然発酵の意、Spontanious Farmentationから由来するネーミング。この単語、ランビックの話をするとき以外に使ったことがありません。そんなマニアックながら茶目っ気溢れるネーミング。他にも随所にベルギービールを感じさせニヤリとしてしまうものがたくさんちりばめられている。日本でミッケルさんに会う機会に恵まれたが、腕にはオルヴァルのタトゥー、ランビック好き、共通項を感じすぐにファンになってしまった。あまり笑わない感じもよくて、笑。よくありますが海外のブリュワーと話すときはビールが共通言語になることが多い。

 こういったよりボーダレスな状況は今後ベルギーだけではなく各所で起こっていくのではないのだろうか。良いビールに国境はないのだから。今のベルギービールはトラディショナル、アルティザナル、クラフトがそれぞれ近い位置にある気がしていて、その境目は明確ではないものの、今後こういった影響を受けどんなビールがベルギーから生まれてくるのか楽しみでならない。

 今回あまりベルギービールの話をしていないので、笑。次回は最近日本でも注目されている「セゾンビール」やその周辺に関して少し書いてみようかと思っています。

 

藤田 孝一
Koichi Fujita
セゾンデュポンなど数多くのベルギービールを輸入するブラッセルズ株式会社 取締役
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【輸入部オンラインカタログ】http://www.brussels.co.jp/import-c/
     

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