transporter

AMERICAN BEER COLUMN #2 -クラフトの競争編-

2022年 11月 14日 10時 03分 投稿 19 Views
周りの誰かが「クラフト」と言えば、その後に続く言葉も発想されるイメージもTRANSPORTER 読者であれば大多数が「クラフトビール」と続けるだろう。日本に一時帰国した時、小学生の娘が学校生活について「クラフトの時間がね・・・」と発言した瞬間、周りの大人達が一斉に「小学校でビールを習うの?? さすがアメリカ!!」と驚かれたが、いくらアメリカでも子供にビールは教えはしない( 笑)。日本でも「クラフト○○」という手芸用品店などがあるのをご存知の方も多いはず。アメリカでも「クラフト」と言えば日曜大工やキルト、 子供に至っては工作( 図工) を意味しており、「手作りの」ビールもその一つである。「クラフト」はそれを造るために要した時間や手間を感じるからこそ古くから人を惹きつける要素がある。最近「クラフトビールブーム」と言われている傾向があるが、本来クラフトは「ブーム」の対象にはならない事象なのではないか?

 ご存じの通りアメリカにおいて、自家醸造(=ホームブルーイング)は合法。オバマ米国大統領がホワイトハウスで自家醸造をしていることはご存知の方も多いだろう。自宅で造る「自家醸造家」にとって羨望の対象が、いわゆる「プロ」のブルワー。アメリカでは近所のスーパーでも見渡す限りの「クラフトビールコーナー」があり、その棚に並ぶ「プロ」のブランドの中でも、まずは地元「Local」が特等席に陳列される。私の住むカリフォルニアでは最近その棚の様子が気忙しい。日本でも通好みとして知られているブランドも、ほんの2 年程前までは普通にデフォルトのように並んでいたはずが、相次ぐ新しいブリュワリーの進出による棚への生き残り、場所取り競争により陳列されない商品も出てきているのだ。例えばアメリカを代表する王者「シエラネバダ」の印象的なグリーンの缶はカリフォルニアに限らず、常に店頭に並んでいる不動の人気。看板のシエラネバダペールエールやトルピードは常に外せない商品なので陳列は動かない。

 

シエラネバダの陳列場所はいつも特等席。

そこに限定商品や季節商品が発売されると他のブランドから姿を消す。店頭の冷蔵陳列スペースが市場の拡大と共に広がっていることは顕著だが、新規ブルワリー、季節商品、限定商品が発売されるペースには追い付いておらず、結果として何かが増えると何かが陳列から外れるのは当然だ。

見る限りの陳列はすべてクラフトビール。もちろん冷蔵陳列棚。

 もう一つ大きな例を挙げよう。季節商品の中でも最大市場といっても過言ではない秋冬商材の「パンプキンビール」。弊社が事業を始めた頃にはまだまだ少なかったが、今やビール界のオリンピック「ワールドビアカップ」でも「パンプキンビール部門」があるほど。パンプキンビールは、10 月から1 月ごろがマーケットでの販売時期とされており、従来10 月1 週目辺りでの発売開始が多い。ところが最近は発売時期が明らかに早まっている。早いところでは8 月下旬から、多くが9 月下旬頃にはすでに販売開始される。他社よりも早く季節商品を発売し、商品をできるだけ長く大きく陳列スペースを確保する。

 棚競争における勝者の大前提は「人気があること」「美味しいこと」はもちろん「、商品のこだわりやブランド価値を保つ努力」「販促努力」もある。

缶のセレクションの充実ぶりも最先端カリフォルニアらしい。ボトルから缶へ急速に移行している。

 その「競争」には日本人が思い描く「クラフト=手作り」というほんわかしたイメージよりも、同じブルワリーの中でもアイテムごとの「競争」というアメリカ人気質な構図もある。そしてそれを支えているのがクラフトビール業界に急増中の「優秀な人材」である。

 現在アメリカでは、ブルワーズアソシエーションによる「ブルワリー」は登録数のみで4000 社を超えるが、実際には定義を超えるブリュワリーや地域限定の未登録ブリュワリーを含めると5000とも6000とも言われるほどに成長しており、クラフトビール業界の求人もその数に比例して増えている。大きなブリュワリーで働いていたスタッフの一人が突然新設ブリュワリーの営業責任者として抜擢され、中には「今までにはそんな力があったなんて! 」と唸らせるほどの手腕を発揮する人もいる。最近では女性の活躍も目覚ましい。その熾烈な「競争」の現場も、消費者の側に立つと、180 度違う。個人的に顔馴染みになったスタッフから「新しいブランド、新しい商品ってワクワクするね。日本もそう? 」とはじける笑顔で話しかけられると、なんとなく「クラフト」には「競争」より「温かさ」を感じる事ができる。

 最後に蛇足を。冒頭で紹介した娘の発した一言に関連してだが、アメリカではお酒は21 歳から。日本で認められている20 歳もまだ飲酒は厳禁。飲食店では明らかに30 歳以上であっても身分証を提示が必要な場合もあるので学生さんが卒業旅行で行くならば一般的に日本人は若く見られがちなのでご注意を。ご旅行が難しい皆さんは横浜にある弊社の直営ショールームショップ「アンテナアメリカ」にて。遠い方にも宅配で(!)いつでもおいしい「アメリカ」をご紹介中! Cheers!

大平朱美akemiohira
( 株) ナガノトレーディング代表取締役
アメリカビール冷蔵管理輸入のパイオニア。アメリカ食文化情報発信基地として横浜関内に直営店Antenna America を運営。カリフォルニア在住。
※TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.9(2016)より掲載
     

その他の記事