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AMERICAN BEER COLUMN #21 -「アメリカの今・どうなるコロナ禍での生活」編-

TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.28(2020)

2022年 11月 14日 10時 03分 投稿 21 Views
 新型コロナウィルス感染症による死者が18 万人を超えたアメリカにも新学期の季節がきた。東海岸の州では徐々に日常生活を含む経済活動が取り戻されている一方で、反対側の西海岸、特にロサンゼルスは、感染拡大が進む「ホットスポット(警戒地域)」とされており、収束の兆しも見えないため、すべての学校がオンライン授業による再開のみに制限されている(8 月現在)。ロサンゼルス近郊に住む私の友人家族の子供たちも遊びらしい遊びもできないまま、旅行や独立記念日のホームパーティーもしないまま、あっという間の「経験したことのない夏」が終わった。楽しみにしていた新学期直前に、学校から「当面登校は中止、オンライン授業で開始する」との連絡があり、クラスメートにも会えない寂しいスタートになったという。こういった状況に、今、カリフォルニア州から離れて行く人が増えているらしい。オンライン授業とはいえ、教育環境はままならず、「子供たちにはきちんと学校へ通える環境を与えたい」と心配する親は多い。ただ、問題はそれだけではない。コロナ禍により仕事が減ったり職を失う人が急増、もともと税金も物価も高いカリフォルニア州から安い地域・州に、というのが大きな理由とされる。他にも、州知事によるコロナ対策に対する不満から移住を決める富裕層も増えているとのこと。人々の生活も殺伐としている。多くのスーパーや飲食店ではマスク着用が義務付けられている。(一部では罰金規定も検討されているとか!)ただ、マスク無しでの来店客が「マスク着用の有無は個人の自由でその自由を制限する行為は人権侵害」と、店員と押し問答になることもあることから、入り口に屈強な警備員を配置する店舗も多い。トランプ大統領は、「新学期に学校を再開しなければ連邦政府としての補助金を打ち切り、税制優遇措置を見直しを検討する」として経済再開、日常生活再開に圧力を強めている。。

<飲食店での飲食は屋外がNew Normal !>

最近のキーワードはNew Normal(ニューノーマル)つま り「新しい日常」。一時はすべての経済活動がロックダウン して大きな影響を受けた(今も復活しているとは言い難いが) アメリカだったが、その反動からかいろいろな新しい日常が 作られつつある。カリフォルニア州全域ではロックダウン後、 一度は再開が認められたものの、再び感染が拡大、感染者は 70 万人を超え、死者も1 万3千人にもなり収束が見られな い状況となった。カリフォルニア州のニューソム知事は7 月 13 日から再び飲食店小売店等の営業停止措置に踏み切った が、屋外の席での営業は認められたため、店内のテーブルを 店の外に持ち出したり、テラス席を持つ店はまさにフル活用。 もともと雨の少ない南カリフォルニアでは、コロナ禍になる 前から屋外のテラス席を好み、燦々と降り注ぐ太陽のもとで 食事を楽しむ人が多い。一見すると今までと変わらなさすぎ てあまり違和感なさそうにも感じられるが、New Normal に より、野外や屋外、テラス席での飲食店展開に新しいビジネ スチャンスがもたらされている。例えば、アメリカ人が大好 きなフードコートのあるショッピングモール。フードコート やショッピングモール内での飲食店は当然「屋外」がないが、 ショッピングモールの駐車場の一部をフードコートの飲食ス ペース用に開放!家族連れや新たな外食スポットして受け入 れられているという。New Normal では、駐車場で買い物客 の車を見ながら食事をするのがスタンダードになるのかも。 蒸し暑い日本では考えられないが、広大な駐車場を持つアメリカならでは。

<セルツァー、休み知らず>

New Normal の話題の中で必ずと言っていいほど出てくる のがセルツァー、ハードセルツァー。特にグローセリー(スー パーマーケット)の売り上げがアップしているサトウキビを原料とした清涼飲料水。ノンアルコールのセルツァーとアルコール入りのハードセルツァーがある。低アルコール低カロリー、糖質ゼロという切り口が、西海岸のセレブや健康志向の人々によって人気に火がつき、全米での大ヒット飲料としてコロナ禍前から注目のアイテムだった。それが、コロナ禍での自粛生活により、運動不足で「コロナ太り」が気になる人々にも絶好の商品としてさらなる人気がアップ。ビール業界情報サイトBrewbound によると、3 月7日から8 月8 日のコロナ禍における売り上げは驚きの20 億円を突破。直近4 週間の売り上げについても、昨年と比べて131%の伸びを示すなど、この数字の勢いは止まらない。さらに驚くべきことに、シェルフからハードセルツァーを手にする際、それがクラフトメーカーなのかどうかを選ぶ基準としている人が多いという。

 観光大国ハワイもコロナ禍により大きくダメージを受けた場所の一つ。オアフ島では8 月27 日から3 月に続き2度目のロックダウンが宣言されレストランや小売店も閉鎖された。ちなみに、日本でお馴染みのMaui Brewing の本拠点があるマウイ島は現時点では感染者は出ていない。感染者は出ていなくても、観光客は激減、経済は大変な状態。その状況の下、Maui Brewing もハードセルツァーを発売!カリフォルニアをはじめとしたメインランドでも人気あるマウイブリューイングはセルツァーも上々な評価を獲得!日本にも9月中旬入荷予定だ。セルツァーからますます目が離せない!

<史上最大の缶の大危機?!>

先述のMaui Brewing は創業当時からパッケージ商品は缶 を採用し、環境問題を提起してきた先駆者のひとつ。周りは ボトルばかり、さらに缶の製造ラインの導入は高価だったが 缶の大切さをずっと発信してきた。弊社の直営ボトルショッ プ「Antenna America」ではアメリカ産に限定した商品展 開をしているが、そのショーケース(冷蔵庫)に並んだビー ルは、2013 年オープン時は先述のMaui Brewing のみ(ア ンテナアメリカ関内店1 周年で初めてPizza Port の缶商品 が弊社ラインナップに加わった)。それが現在は実に冷蔵庫 の9割近くが缶商品になっている。アルミ缶は、サステナビリティをうたう社会情勢、そして品質劣化の原因とされる光 を100%遮断することから品質維持の方針、さらに輸送コス トの軽減という点からも全米だけでなく全世界的に、瞬く間 に広がっていった。

さらに、ブリュワリーのタップルームなどでマストアイテ ムだった「グラウラー」にも影響を及ぼしている。グラス製 が多い持ち帰り容器「グラウラー」に加えて、タップルーム の必需品に加わったのが「クラウラー」。グラス製容器では なく、缶の持ち帰り容器。タップルームといえばパッケージ 化されていない限定品の樽などが繋がっていることも多いこ とから、パーティー好きの人がわざわざタップルームに来て 持ち帰ることも多く、そのほとんどのサイズが32 オンス(2 パイント程度)。スタッフはシルバーのアルミ缶にブリュワ リーオリジナルのステッカーを貼り、そこに注文されたビー ルの名を書く。缶にガスが入れられて空気を追い出した後、 ビールが充填されて上部浮き上がるくらいまで注がれたら上 蓋をして機械にかけてシーリング。空気がほぼ入らないので グラスのグラウラーよりは味わいが長持ちするだけでなく、 容器がアルミで軽いため、数種類数本でも持ち帰りしたくな る。そういったことが流行の原動力となり、こちらのクラウ ラー用の缶の需要が急増しているのだ。 また、コロナ禍以前より小規模のブリュワリーが次々と誕生 していることもさらなる缶需要急増の理由の一つにある。小 規模のブリュワリーでは、タンクの量も限られ、少量生産し かしていないため、缶製造ラインを導入するには初期費用が 高いし、生産ロットも大きくできないために非常に非効率で 導入できない。その結果、自社のブリュワリーに併設したタッ プルームで樽ビール(ドラフト)として提供することが多い。 そういった小規模ブリュワリーをターゲットにした「移動式 缶製造ライン(通称モバイル缶)」が流行していた。この「移 動式」というのがポイントで、必要な時に少量のビールでも 缶商品化することを可能にし、ブリュワリーの大きな収入源 となっていることもあり、多くの小規模ブリュワリーが導入 していたことから、「缶」がトレンドになったとも考えられる。

 今回のコロナ禍がなくとも「缶」は間違いなく需要が急増し、新しく発売される商品は間違いなく「缶」という風潮だった。そしてそんな折にコロナ禍。しかも誰もが想像していなかった事態となっていた。

 樽で消費されるはずだったビールは、度重なる飲食店の営業自粛や休業閉鎖、タップルームの閉鎖により、販売ができなかったり激減するという事態。販路を閉じられたビールを急遽パッケージ化することで小売店への商材としたり、レストランやタップルームでグラウラーやクラウラーに詰めて持ち帰り対策とすることでブリュワリーは窮地を凌ぐより他に方法はない。ここでもアルミ缶の需要が急増。さらに追い討ちをかけたのが、前述にも出てきたセルツァー。自粛生活、健康志向による人々の関心事がセルツァーへの人気。脱プラスティックの風潮によりプラスティックを使うよりもリサイクル可能な缶の商品に集中したのだ。

 こうして現在ブリュワリーが直面しているのが「アルミ缶不足問題」。少なくともその材料となるアルミの原材料が米国内で足りていないがために、コロナ禍から経済再開をしたくても、容器としての缶が不足しており、当面缶商品を一旦中止し、ボトルに戻す決断をしたブルワリーも続々と出ている。缶不足問題とコロナ禍。今しばらくはアルミ不足問題、アルミ缶争奪戦が続くことになり、日本市場に輸入される商品もボトルが一時的に増えることが予想される。

明日、来月、来年が今よりも
平和で幸せな世界になることを願って。
大平 朱美
akemi ohira
( 株) ナガノトレーディング 代表取締役
アメリカンクラフトビール冷蔵管 理のパイオニア。アメリカ食文化 発信基地Antenna America(品 川・横浜・関内)を展開。夫は 創業者 Andrew Balmuth。
     

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