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AMERICAN BEER COLUMN #3 「アメリ『缶』クラフトビール」

TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.10(2016)

2022年 11月 14日 10時 03分 投稿 18 Views
前提として私はビールを造るブルワーでもなければ批評家でもない。日本で10 年かけて「アメリカンクラフトビールを飲んでほしい!」と取扱商品に自信をもち「アメリカのトップランクのビールです!」と紹介しているが、日本に居てはそれが伝えきれないと判断。だからこそアメリカのビールはまだ進化しているという現実を誰もが実感できる地、南カリフォルニアに拠点を移しながら日本を行き来する生活。常にアメリカのビールに目を光らせ、いつでも面白くて美味しいアメリカを紹介したいと思っている。

 アメリカのビール市場は東京より5 年、10 年先を行っていると言われているが、実際、アメリカのクラフトビールシーンはより多くの一般消費者からの市民権を得て更に活気づいているといっても過言ではない。スーパーやコンビニエンスストアや飲食店だけではなく、街角の映画館やスポーツスタジアム、スペースの限られた飛行機の機内、今までは大手ビールしかなかった、いや、日本だけでなくアメリカでも数年前までは「入るはずがない!」と言われていた場所にまでクラフトビールは浸透してきている。そこで大活躍しているのは『缶』ビール。そして今年も缶商品をリリースするブルワリーが続出しているのだ。

 以前の缶は「ボトルよりも安いもの」という位置付けで「缶のビールってアルミの味がするよね」とか「缶はボトルよりも安っぽいよね」といった声が大多数だった。ところが実際、弊社のようにブルワリーから仕入れる立場にある人間にとっては「缶のほうが高い」もしくは、「缶もボトルも同じ値段」というのが常。というのも缶の製造工程にかかるコストはボトルラインと比べると消費者が想像する以上に高い。しかし缶はクラフトビールの進化と同じくして改良が重ねられ、品質も劇的な進化を遂げている。弊社が初めて「缶」ビールを扱ったのがハワイ・マウイブルーイングの缶。黄色の背景にアロハガールが描かれたデザインは当時としては斬新そのものだった。その時の缶商品はアメリカではオスカーブルース(コロラド州)のデールズペールエールが有名だったとはいえアメリカでもまだまだ少なかった。さらに当時の日本のマーケットはクラフトビール自体がまだマーケットにそれほど入っていないという事もあるが、缶のクラフトビール商品はほぼなかったように思う。とにかくマウイは缶であるがために苦戦した。ブルワリーに「ボトルにしてくれたら数倍売れる」と何度も直談判した。それでもマウイは「缶だからこそ意味がある」「僕達はこの路線を曲げない」と言い張ったのをよく覚えている。そこから数年、アメリカ市場のクラフトビール業界では缶商品がそれこそ「急激に」「あっという間に」増えていった。クラフトビールのトップ中のトップブランド、シエラネバダはパッケージ商品の売上の半分以上は缶商品が占め、その割合は徐々にボトルから缶商品にシフトしていっている。

 日本のクラフトビールメーカーでも缶商品が増えてきているので、昨今では違和感なく見かけるが、缶にするメリットは多くある。

●日光を完全に遮断
●酸化を防止
●輸送コスト・スペースの削減
●環境に優しい

これに加えて実はもう一点

● 360 度ラベルとして使用可能

 

言われてみれば「なるほど」という事かもしれないが、実はこの点が非常に大きなポイント。ボトルのラベルは基本的に紙状のものを貼り付けることが多い(最近はボトルでも360 度印字するスクリーンプリンティングも多いが)。それに対して缶の場合は360 度使え、更にスピークイージーのようにプルトップにまでマークを入れるなど、ブルワリーの方針やその商品への思い入れなどを直接的に消費者に伝えられるスペースが存分にある。また、イメージカラーを全面に配置する事でインパクトは絶大。前述のシエラネバダのペールエールは鮮烈なグリーン、トルピードは深いグリーン。ニューベルジャンも看板商品のファットタイアにはネイビーブルーを配置。そして店頭の棚でもスタッキング(重ねた陳列)ができる缶商品は省スペースで多くの商品を並べる事が出来る。

 ビール界のオリンピック、ワールドビアカップでブルワリーチャンピオンに輝いたコロナドも今年春には缶商品が発売され、また同じくチャンピオンに輝いたバラストポイントは既に缶商品を拡大中。以前バラストポイントにてスペシャルティブルワーのコルビー・チャンドラーと同じバッチでボトリングされた22 オンス(大瓶)、12 オンス(小瓶)、12 オンス(缶)を同じ環境下で保管したビールを飲み比べるという貴重な体験を共有した事があるのだがコルビーが指した「最も状態が保たれていておいしい」と感じたビールは、12 オンス缶だった。

 そしてこの缶ビール競争に新たに名乗りを上げたサンディエゴのストーンブルーイングは今年夏にIPA などの缶商品を初めて発売することを発表。共同創業者のグレッグ・カッチはこっそり教えてくれた。「その昔、缶商品を出していたオスカーブルースに『せっかく美味しいビールを造っているのに缶にパッケージするなんて君のビールの価値が下がる! 君は間違っている!』と訴えたが今となっては間違っていたのは僕のほうだった。彼らは何も間違っていなかった。缶商品は素晴らしい!」

 と、ここまでグレッグに言わしめるのだから期待は高まるばかり。今年も続々と発売されるアメリ『缶』クラフトビールに是非注目して欲しい。

大平朱美akemiohira
( 株) ナガノトレーディング代表取締役
アメリカビール冷蔵管理輸入のパイオニア。アメリカ食文化情報発信基地として横浜関内に直営店Antenna America を運営。カリフォルニア在住。
     

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