Ryo’s EYE -From issue 17-
TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.17(2018)
どうもこんにちは。今回は今年一年の総括をして いきたいと思います。
まずは個人的なことについて。今年うちで製造し たビールは、約95バッチ、量にして55KL程度です (12月末までの予想値を含む)。作り始めて2年半ほ どになりますが、昨年度と比べると3割くらいアッ プしています。かなり作るペースが上がりました。 もうぼちぼち現設備での稼働率がいっぱいになりそ うです。
その中で、自分でイチからレシピを組んだものが 3つ、主導で調整したものが2、3。こうしてみると、 もっと主張してかなきゃなと思います。月イチくらいでなんかやれればなー。なんて。
製造の技術に関しても、だいぶ変わってきた部分 もあります。やはり、数々のコラボレーション、国 内外のブルワーとの情報交換、CBCなどの遠征に よって得る情報はとても貴重ですし、取り込めるも のはどんどん取り込んでいます。いままで使用して いなかった機材を入れてみたり、作業の方法を変え てみたり。実際、クオリティにも反映されてきてい るのではないでしょうか。
また、今年ははじめて助手というか、研修生がつきました。いままでほぼ一人で作業していたことも あり、自分ひとりでは気づかなかったことや、人に 説明することで改めて考えるきっかけにもなりました。うまく説明できず自分の未熟さを再認識する、 なんていうこともあったり。学校で基礎から勉強しているわけではないということもあり、しっかりイ チから理解していることによってのちの人材育成に 響いてくるんだなと実感しました。それが造りにもより一層影響するのはいわずもがな。ルーティーン ワークがゆえに作業がマンネリ化しやすい仕事なので、こういう機会を与えてもらって非常にいい刺激 になりました。
さて、次はここ1年の世界のビール業界の流れを振り返ってみようと思います。
今年は何といってもNew England IPAの日本上 陸、席巻が著しかったですね。これをどう定義付けるか、濁ってればいいんでしょ、とかいう話はそれ で長くなるし、私よりもよっぽど詳しい方が多いと思いますのでここでは割愛させていただきます。 思えば2年前の11月にかのNew England地方 (①)を訪れ、それこそこのタイプのビールが現地 でかなり盛り上がっている時期だったのでとても多 くの種類のものを飲みました。
マサチューセッツ州にある Tree house brewing
正直に言うと、私はクリア&クリーンなビールのほうが好みなので、言うほど刺さらなかったです。 贅沢な話ですね。もちろんたくさん飲んだ中で群を 抜いているものもいくつかありました。そこまで突 き抜けたものは好きです。美味しいものは得意じゃ ないスタイルでもおいしいのです。
今世界中を席巻しているのは、そのさらに上を行 くMilk Shake IPAになるんでしょうかね。NE IPA にラクトース(乳糖)を加えることで甘味をつけ、 より一層濃厚な、名前の通りミルクシェイクのよ うな味わいを表現するものです。さらにここにココ ナッツやマンゴー、パッションフルーツなどのトロ ピカル系のフルーツを加えることによって究極に濃 厚な大人のミックスジュースを造るブルワリーが最近非常に多くあります。ミルクシェイクの生みの親 とも称されるスウェーデンのOmnipolloやフィラデ ルフィアのTired Hands(②)がとても有名ではあ りますが、そこを起点にアメリカ、ヨーロッパ各国 でこぞって作っているところが多いようです。先日 うちに訪問したブルガリアのビール関係者もすごく 流行っているといっていました。これから日本でも 飲める機会が増えるかもしれませんね。
さて、こういった小規模、ローカルでの販売を軸 に生産されているものとは対照的に、クラシックな スタイルに注目が集まっているところもあります。 そう、私の大好きなピルスナーですね。日本は4大 メーカーをはじめドイツのビールを基礎としている ブルワリーが多いこともあり良質なピルスナーがと ても多いのですが、アメリカの場合はキレのある爽 快なラガーが多く、大手メーカーがピルスナーを 造っている場合は少ないです。そうした背景もあり、 クラフトビール会社がIPA、ペールエールだけでな く、ピルスナーでもそれぞれの個性を十二分に発揮 することができるのです。
非常に繊細で造るのが難しいこの系統のビール を、古典的な作り方を踏襲しつつも現代風にアレン ジしたピルスナー。キャラクターも立っていて、そ れでいて何杯でも飲めてしまう軽快さ、何も考え ることなく気が付いたらグラスが空になっている不 思議。非常にクオリティが高いです。また、ピルス ナーに限らず、ケルシュやヴィエナラガー、メルツェ ンなんかも人気です。これらも尋常じゃないクオリ ティのところが多い。
日本に輸入されているブルワリーでも、最近よく ピルスナー(③)とかクラシックなスタイルのビールが入ってきていますね。たまにはこういったものも騙されたと思って買ってみてください。きっとまたいつもとは違った出会いがあるかもしれませんよ。
②その名の通りミルクシェイクのような味わいの 甘くて苦いIPA ③カリフォルニア州Firestone Walker BrewingのPIVOピルスナー
ちなみにこの流れに関しては、前述したとおり日 本においてはまったく状況が異なるためそうはならないのかなとは思います。
少規模・フレッシュな味わいの特別なビールと、 大規模・クリーンでドリンカブルなビール。クラフ トビール会社が乱立し、それ自体の規模にかなりの 差がある現状において、この2極化が表面化してき たのも不思議ではないのかもしれません。 あとはサワーエールとか、新種のホップ、クラフ トビール新興国などいろいろと話すことは尽きない ですがページの関係で今回はここまで。 お付き合いいただきありがとうございました。 DevilCraft Brewery 鈴木 諒
鈴木 諒 suzuki ryo
DevilCraft brewery brewer
http://www.devilcraft.jp/
その他の記事
-
植竹的視点 – “コラボレーションの定義” –
-
植竹的視点 -“ホップの香味について再検証”-
-
植竹的視点 -“ポスト・ホップ”を探せ-
-
植竹的視点 – “クラフトビールの定義” –
-
植竹的視点 Season2 -麦酒と書いてビールと読む。ビールは麦のお酒。-
-
植竹的視点 Season2 -ホップ製品進化論-
-
植竹的視点 Season2 -ブルワーってどんな仕事?-
-
植竹的視点 Season2 -もうすぐ工事着工です-
-
植竹的視点 -“クラフト” はどこまでサイエンスに歩み寄れるか-
-
植竹的視点 -クラフトビールの価格について再検証-
-
植竹的視点 -「一年が経過してみて」-
-
植竹的視点 -「表現型としてのビール作り それに至る思想」-
-
植竹的視点 -「足るを知れば今日より明日は ちょっとイイ日になる」-
-
植竹的視点 -「試される大地からの挑戦」-
-
植竹的視点 -「綺麗なビールとはなんぞや? 再考クリアネス」-
-
植竹的視点 -「地ビールはクラフトビールへと進化し、 そして再び地ビールに回帰する、かも?」-
-
植竹的視点 – 「切っても切れない水とビールの関係性」-
-
植竹的視点 season2 -トロントからの現地リポート-
-
植竹的視点 season2 -改めて感じるブランディングの重要性-
-
植竹的視点 Season2 -もしかすると “ビールを作るのは難しい” という時代は終わったのかもしれない-
-
植竹的視点 Season2 -日本に帰ってきました-
-
植竹的視点 Season2 -醸造設備についてのアレコレ-
-
植竹的視点 Season2 -絶対に忘れちゃいけないのは、ビールは酵母が作るということ-
-
AMERICAN BEER COLUMN #1 スーパーマーケット編
-
AMERICAN BEER COLUMN #6 -「どうなる?アメリカクラフトビール2017」-
-
AMERICAN BEER COLUMN #7 -「アメリカ西海岸ビールのススメ」-
-
AMERICAN BEER COLUMN #8 -ビールの入れ物の話-
-
AMERICAN BEER COLUMN #9 -アメリカビール片手にアメリカ式BBQのすすめ-
-
AMERICAN BEER COLUMN #10 -時代は缶ビール!<缶ビールの裏話編>-
-
AMERICAN BEER COLUMN #11 -クラフトなレストラン-
-
AMERICAN BEER COLUMN #12 -アメリカンフードトラック-
-
AMERICAN BEER COLUMN #13 -アメリカ式BBQ伝授編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #14 -『Meet the Brewer』には参加してみよう!編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #15 -アメリカのブリュワリーを日本から応援しよう!編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #16 -アメリカで流行中!りんごのお酒「サイダー」に注目!編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #17
-
AMERICAN BEER COLUMN #18 -年明けからHazy に埋もれよう!-
-
AMERICAN BEER COLUMN #19 -「アメリカ最先端を楽しむ」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #20 -「アメリカのブリュワリーの今」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #2 -クラフトの競争編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #3 「アメリ『缶』クラフトビール」
-
AMERICAN BEER COLUMN #4 「アメリカ式クラフトビールイベント事情」
-
AMERICAN BEER COLUMN #5「休日スタイル」
-
藤田こういちのベルギービール新書1 -ベルギービール、トラディショナルとクラフトの波-
-
藤田こういちのベルギービール新書 2 -ALL AROUND SAISON セゾンビールのホント?のところ-
-
藤田こういちのベルギービール新書 3 -「BXL Beer festレビュー」新たな一歩-
-
藤田こういちのベルギービール新書 4 -地味なビールの話 Forward to the Basic-
-
藤田こういちのベルギービール新書 5 -(ベルギービールの)真骨頂ランビックとその未来-
-
藤田こういちのベルギービール新書 6 -今だから、トラピストビール-
-
藤田こういちのベルギービール新書 7 -ベルギー出張 珍道中? 【前編】-
-
藤田こういちのベルギービール新書 8 -ベルギー出張 珍道中? 【後編】-
-
AMERICAN BEER COLUMN #21 -「アメリカの今・どうなるコロナ禍での生活」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #22 -「アメリカビール好きはすごくポジティブ!」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #23 -「ビール界の女子パワー」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #24 -「気分はアメリカ★ 夏とハードセルツァーが楽しみすぎる」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #25 -「チーズ作りの隠し味がビール?!」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #26 -「日本のスーパーがアメリカの品揃え?! キーワードは「種類」だ!」編-
-
藤田こういちのベルギービール新書 11 -ローカルの行方-
-
藤田こういちのベルギービール新書 9 -ベルギービールの賞味期限〜ボトルの美味しさ〜-
-
藤田こういちのベルギービール新書 10 -ビール と 人-
-
藤田こういちのベルギービール新書 12 -意識して飲むということ-
-
藤田こういちのベルギービール新書 13 -ビールは死なない-
-
加地争論 KACHI SOURON!! -第一回「作り手と売り手」-
-
Ryo’s EYE -From issue 15-
-
Ryo’s EYE -From issue 16-
-
加地争論 KACHI SOURON!! -第三回「IS THAT REAL JUDGEMENT?」-
-
加地争論 KACHI SOURON!! -第四回「Monster Beer Geeks」-
-
SUB CULTURE -思い立ったら旅にでよう-(From Issue14)
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅にでよう -From issue 15-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅にでよう -From issue 16-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう(海外編) -From issue 17-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう(国内編)-From issue 17-
-
Ryo’s EYE -From issue 18-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 18-
-
Ryo’s EYE -From issue 19-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 19-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう(海外編) -From issue 20-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 21-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 22-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 23-
-
『クラフトビールを学ぶ旅』 -From issue 22-
-
ミッドナイトシャッフル -From issue 22-
-
『クラフトビールを学ぶ旅』 -From issue 23-
-
昼からBeer Talk!! #2 Edited by Europe -From issue 04-
-
『クラフトビールを学ぶ旅』 -From issue 24-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 24-
-
昼からBEER TALK!! #3 Edited by Beer Pub -From issue 05-
-
『クラフトビールを学ぶ旅』-From issue 25-
-
B 〜美味しいビールが引き寄せる ローカルコミュニティとしての 大人の社交場〜 -From issue 28-
-
昼からBEER TALK!! -From issue 06-
-
“GO TO BRUSSEL” -ブリュッセルに行こう!-
-
New England Area Beer Trip -From issue 14-
-
BREWDOG HISTORY 10th Anniversary -クラフトビール界の革命児と言われたジェームズワットの10年の軌跡-
-
GO TO BELGIUM! -伝統と革新の国ベルギー!-
-
一人旅をしよう ソウル編
-
「そうだ!タンパに行こう」 -From issue 26-
-
北出食堂 -From issue 27-
-
「そうだ!ウエストコーストに行こう!」-From issue 27-
-
「そうだ!イギリスに行こう!」-From issue 28-
-
ヨーロッパ最前線
-
CBC & WBC -CRAFT BEER CONFERENCE & WORLD BEER CUP-
-
Beer Festival & BIJ Summary -From issue 13-
-
心赴くままにロンドンへ・・・前編
-
PORTLAND OREGON USA
-
PORTLAND OREGON USA -SOUR SOUR SOUR-
-
European NOW!! -“ヨーロッパの今”-
-
1 BEER × 1 FOOD
-
PORTLAND OREGON USA -DO YOU KNOW GROWLER?-
-
COEDO Craft Beer 1000 Labo
-
加地争論 KACHI SOURON!! -第二回「樽返却から見る常識・非常識」-
-
ベルギーに「インスパイア」されたビールとは?