03 September 2026 vol.263

アメリカの「アルミ関税は日本のブルワリーには関係ない。」 そう思う人いませんか?

世界初のリサイクルアルミ100%使用飲料缶を実現、CO2排出量を60%減(2022年/東洋製罐グループホールディングス株式会社)

 「アメリカ製のアルミ缶を買っているわけじゃないから、アメリカのアルミ関税は日本のブルワリーに は関係ない。」 そう思う人もいるかもしれない。 でも、アルミ缶のサプライチェーンを少し掘ってみると、話はそんなに単純ではない。 むしろ、日本のクラフトビール業界にとって重要なのは、 「その缶はどこで作られているのか?」 だけではなく、 「その缶に使われているアルミは、どこから来ているのか?」 ということだ。 

日本のクラフトビールは、どこの缶を使っている?

⸻ 日本のクラフトビールは、どこの缶を使っている?

日本のブルワリーが使用するアルミ缶は、基本的には日本国内の製缶会社から調達するケースが中心だ。 国内には、

* 東洋製罐(1917年創業)

* 大和製罐1939年創業)

* アルテミラ製缶(1972年創業)

* 武内プレス工業(1873年創業)

などの多数のアルミ缶関連企業が存在する。

日本製缶協会にも、アルミ缶製造企業としてアルテミラ製缶、アルテミラ、武内プレス工業、日本ナショナル製罐が掲載されている。

例えば日本ナショナル製罐は、アルミニウム缶の製造・販売を行う会社で、現在は東洋製罐が100%株主となっている。1970年代からアルミ缶を製造しており、アルミ缶は一枚のアルミシートから成形されることも同社が説明している。

つまり、 「日本のブルワリー → 日本の製缶会社 → 日本製のアルミ缶」 という流れは、決して特殊なものではない。

例えば年間100万本の缶を使用するブルワリーなら、仮に缶のコストが1本あたり数円変わるだけでも、年間では数百万円単位の差になる。

⸻ でも、ここからが本題だ。 缶は日本で作っている。 では、その「アルミ」は? アルミ缶の製造工程を遡ると、

巨大なサプライチェーンにつながっている。 つまり、 缶を日本で作っていることと、アルミのサプライチェーンが日本国内だけで完結していることは、まったく別の話なのだ。

日本のアルミ缶業界は、実は「循環型産業」でもある

ここで面白いのが、アルミ缶のリサイクルだ。

例えばアルテミラグループは、1970年代からアルミ缶リサイクルに取り組み、2001年には使用済み飲料缶(UBC)の回収から缶材、アルミ缶製造までをつなぐ一貫処理システムを構築している。 つまり、 飲み終わった缶 ↓ 回収 ↓ 溶解・鋳造 ↓ 缶材 ↓ 新しいアルミ缶 ↓ またビールを入れる という「CAN to CAN」の循環が可能なのだ。 しかもUBCから再生材を作る場合、新地金の製造に比べて必要なエネルギーは約3%とされる。 これはアルミという素材の大きな強みだ。

アルテミラグループでのアルミ缶胴の製造工程をご紹介

https://www.altemiracan.co.jp/product/technology.html

⸻ それでも「リサイクルだから関税とは無関係」ではない ここが今回、一番考えたいところだ。 アルミ缶には、 再生アルミだけが使われているわけではない。 アルミ地金、再生材、製造工程で発生するスクラップなど、複数 の原料が関係する。 アルテミラ製缶では、アルミ地金に占めるリサイクル材の使用率を高めており、同社公表資料では2013年の67%から2022年には74%まで上昇している。

つまり、日本のアルミ缶はかなりの割合で「循環するアルミ」から作られている。 しかし、それでも市場価格から完全に切り離されているわけではない。

アルミ価格は「世界」で決まる。ここがクラフトビール業界が理解しておくべきポイント。日本で缶を作っている」 = 「日本だけで価格が決まる」ではない

アルミは世界的なコモディティ(Commodityとは、日本語で「商品」や「日用品」を意味する)だ。 一次アルミの価格、エネルギーコスト、輸送費、為替、スクラップ価格、需給、そして各国の貿易政策。 こうした複数の要素が、最終的な缶価格に影響する。

だから、 「日本で缶を作っている」 = 「日本だけで価格が決まる」 ではない。 むしろ、 日本で作っている缶だからこそ、その上流にあるアルミ市場を見なければならない。

⸻ そして、アメリカのアルミ関税につながる アメリカがアルミに関税をかける。 すると、直接的にはアメリカにアルミを輸出する企業や、アメリカ国内のアルミ加工・製缶企業が影響を受ける。 しかし市場はそこで終わらない。 アメリカ国内でアルミの需給や価格が変化すれば、世界のアルミ市場にも影響する可能性がある。 さらにアメリカでは、リサイクルアルミも重要な原料だ。 つまり、 一次アルミ + リサイクルアルミ + アルミシート + 製缶 というサプライチェーン全体を見る必要がある。 だから今回のテーマは、 「アメリカの関税で日本の缶が○%上がる」 という単純な話ではない。 もっと本質的な問題だ。

アルミ価格には世界の貿易政策が影響することを理解する必要がある

⸻ 日本のブルワリーは「缶を買っている」のではない ブルワリーからすれば、缶はただの包材だ。 しかし、その缶の価格には、 アルミ価格。 リサイクル市場。 エネルギー価格。 物流費。 為替。 製缶会社の設備投資。 そして世界の貿易政策まで入っている。 例えば年間100万本の缶を使用するブルワリーなら、仮に缶のコストが1本あたり数円変わるだけでも、年間では数百万円単位の差になる。 クラフトビールは、原材料費だけでなく「包材費」も利益を左右する産業なのだ。

経営者にとっては「缶の価格交渉」だけでは足りない。「サプライチェーンを読む力」が重要になっていく。 

だから「缶の価格交渉」だけでは足りない。

これからのブルワリー経営で重要になるのは、 「どこの缶が一番安いか?」 だけではない。 むしろ、 「どのサプライチェーンが一番強いのか?」 を見る必要がある。 例えば、 * 国内缶メーカーとの長期契約 * 発注ロットの最適化 * 缶サイズの集約 * 在庫の適正化 * 軽量缶への切り替え * リサイクル材比率 * 缶・ラベル・印刷のコスト * 物流費 * 缶から樽への販売比率 まで含めて考える。 東洋製罐もアルミ缶の軽量化を進めており、材料使用量そのものを減らすことを重要な取り組みとしている。 つまり、これからは 「安い缶を探す」 より、 「少ないアルミで、効率よくビールを届ける」 という発想が重要になる。

安い缶を探すより、「少ないアルミで、効率よくビールを届ける」 という発想が重要になる。

クラフトビールの原価は、ホップだけでは決まらない

クラフトビール業界では、ホップの価格や麦芽価格の上昇には敏感だ。

しかし、缶の価格変動については、意外と深く考えられていない。

でも考えてみれば当然だ。

IPAを作るにはホップが必要。

ラガーを作るには麦芽が必要。

そして缶ビールを販売するなら、アルミ缶が必要だ。 そのアルミ缶は、 世界の資源市場につながっている。 ビールを作っているつもりが、 実は世界の農業、資源、エネルギー、物流、金融、貿易政策の上に立っている。

「日本製の缶だから安心」という時代ではない。

これは、アメリカのアルミ関税だけの話ではない。

これから世界では、上記のような過程を経て、ビール価格 という連鎖がますます重要になってくる。

日本のクラフトビール業界も、 「どこのホップを使うか」 だけではなく、

「どこから、どんなアルミが来て、その缶がどう作られているのか」

まで見なければならない時代に入っている。

1本の缶ビールは、世界経済の縮図だ

⸻ 1本の缶は、世界経済の縮図だ。

冷蔵庫からクラフトビールを1本取り出す。 

デザインされた缶。 中にはこだわりのビール。 でも、その缶をよく見てみる。

そこには、

アルミ資源。

リサイクル。

エネルギー。

製造技術。 物流。

為替。

そして世界の貿易政策。 が詰まっている。

「日本製の缶だから関係ない。」 そう考えるのではなく、 「その日本製の缶は、どこから来たアルミでできているのか?」 そこまで遡って初めて、クラフトビールの本当の原価が見えてくる。

これからのブルワリー経営に必要なのは、 ビールのレシピを読む力だけではない。 サプライチェーンを読む力だ

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