transporter

ベルギーに「インスパイア」されたビールとは?

TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.4(2014)

2022年 08月 02日 20時 40分 投稿 378 Views

クラフトビールへの興味の扉をあけてくれたのはベルギービールだったという人は多いのではないかと思う。
私も初めてベルギー ビールを飲んだ時の驚きはいまだに覚えている。なんとも言えないあのヨーロッパの香りと、 深い味わいの印象は強烈だった 。

ヨーロッパだけでなく世界中においてベ ルギービールに 「インスパイア 」 されたというのは率直に言うとベルギービールを「尊敬」しているという事だと私は思う。人間も、 尊敬する人になるべく近づきたいと努力す る。それと同じことなのではないだろうか? ベルギービールには揺らぎない 「歴史」 が あって、今から超えることは不可能に近い。 最近人気のイタリアビールは、ワインのように 、 歴 史にとら れることなくイタリア人のもつ自由な発想で醸造しているところが 良いと言われる。ただ裏をかえせばイタリアワインの歴史にはどうしても太刀打ちでき ない。だから斬新なアイディアで勝負というところがある。ベルギービールはその歴史 を 、 伝 統 を 受け継いできた姿勢が 尊敬されるのだろう。

その歴史と技術から仕上がったビールには、なんとも言えない複雑味、 口の中や 舌にのこる長いアフターテーストを楽しむことができる。その幅広い味わいは、 様々な 料理と合わせて楽しむ事ができる。イタリ アにまだクラフトビールがなかった頃もちょっ とイケてるバールにはベルギービールは提 供されていたし、ところによってはイタリア ンレストランで提供されている事もあった。

今年の夏に訪れたイタリアワインで有名なキャンティにある La Birroteca di Greve in Chiant。ここにはキャンティらしい発想 のビールがあった。「キャンティの樽で熟成 さ せ た ビ ー ル と か 、 モ スト ( 絞 っ た 後 ま だ 発酵する前の果汁のこと)を使ったビール もあるわよ。もちろん IPA を造る醸造所も 沢山あるけど、 最近はイタリアワインとの 融合、というビールも沢山でてきているの よ。」とオーナーのミケーラが話してくれた。

ベルギービールはその歴史と伝統を受け継いできた姿勢が尊敬されつつも、イタリ アビールのように新しい形でそれらを伝えようとしているビールが造られてきているのではないだろうか。

醸造技術に関してはどうだろうか。 例えば ベルジャンイースト 。 使 い 方 次 第 で ベ ル ギービール独特のフルーツやスパイス感を 出すことができる。また糖類を加える事で 発酵がしっかりとなされて長期熟成にも耐 えるビールをつくることができるのだろう。ボトルコンディションのビールはベルギービー ルの特徴とも言える。ビールのカーボネーションをつくるだけでなくビールにキャラク ターを吹き込むことが出来るができる。

私が輸入しているスイスの醸造所 BFM こと「Brasserie des Franches- Montagnes」 でもサワーエールを除く全てのビールに 使われているのはベルジャンイースト 1 種類のみである。「面倒なことを するのが苦手なんだよね」という醸造責任 者のジェロームだが、1 種類のイーストを巧 みに使い、ビールによって全く違う特徴を 出す事が出来ているのは驚きだ。 彼の技 術は勿論素晴らしく、そして多面性を持つ ベルジャンイーストも凄い。

同じ経験をしただろう様々な国の醸造責任者が、ベルギービールやそれに携わる人 達を尊敬して「インスパイア」という言葉 を使いベルギービールに自分なりのエッセン スを加えている。 今、そんなビールを飲むことのできるいい時代なのかもしれない。 そこからまた新しいビール達が生まれてく ると考えたら、なんだか楽しくなってくる。

 

杉山 弥保 Mho Sigiyama
The Counter 代表取締役
「ビールの本当の美味しさや、面白さを発見してもらい、楽しんでもらう」というコンセプトの元、 イタリアとスイスを中心に伝統やオリジナリティ のあるビールを扱う次世代インポーター
http://www.thecounter.jp/
     

その他の記事