植竹的視点 -「綺麗なビールとはなんぞや? 再考クリアネス」-
いよいよ秋深まり、というかすでに冬に突入している感のある北の大地から今号もお届けいたします。噂には聞いて入りましたが、北海道の秋は本当に短い。あっという間に紅葉になり、あっという間に冬になりました。紅葉の本当のピークはたった数日しかなかったように思われます。またその刹那の美しさも儚げで良いものだと感じられるわけですが。これから長く辛い冬が訪れます。雪国で生活するのがはじめての植竹は戦々恐々としております。なにしろ雪道で車運転したことないですし。
さて、今回のテーマは綺麗なビールについて。綺麗なビール、一部のブルワーやビアパブのスタッフさんの間では“ クリアネス” と呼ばれたりもするのだが、これはビールの見た目を指してクリアと言っている訳ではない。クリアネスとは見た目のクリアさとも、苦味の強弱や、モルト風味の強弱、もちろんアルコール度数や色味、そのどれとも相反するものではなく、ひたすらクリアだと感じられるテイストを指す概念だ。つまりビアスタイルは一切関係ない。見た目が濁っているヴァイツェンやヘイジーIPAにだってクリアネスというテイストは適応される。特定のナニカの香味について論じているわけではないので味わいのイメージが非常に伝わりづらいとは思うのだが、単に“ 綺麗な味” というよりも個人的にはクリアネスという表現のほうがしっくりくるので、こちらを使っている。強いて日本語訳をするなら“ 透明感のある味” という表現になるか。
このクリアネスという概念、植竹がブルワーとして追求するテーマであると同時に、最も好きなビールの味わいの特徴だ。よく「どんなビールが好きですか?」と質問されることがあるのだが、正直に申し上げて特定のスタイルや銘柄を好きなビールとして挙げることは難しい。何しろ好きなスタイルもたくさんあるし、飲む場所や時間、季節などによって選ぶものが変わるからだ。しかしながら、唯一共通点を挙げるとするとそれはクリアネスなビール、ということになる。
クリアネスであるということは言い換えるなら、余分なものが何もなく、かつ過剰なものも何もないということだ。そういった絶妙なバランスの上に成り立つビールはひたすらドリンカビリティが高い。また飲んでいて心地よい。全てのスタイルにおいて当てはまるわけではないが、ビールというお酒の特徴のひとつはアルコール度数が低いことだ。つまり量がたくさん飲めるお酒であると言える。その特徴を最大限活かし切るためにはドリンカビリティを下げる雑味やオフフレーバー、そして過剰なナニカ、不要なナニカをとにかく排除するべきという個人的な考えに基づいてクリアネスなビールを推している。こうして文章にしてみると、ビールを作る上で当たり前のように感じられるかもしれないが、これがなかなか難しいのである。
例えばホップを大量に使うIPA。アメリカンIPAの隆盛以降、どれだけ豊かにホップのアロマを乗せられるかという試みが延々と試されているわけだが、単純な話をすれば香りを強く出すためにはホップをたくさん使えば良いのである。他にも豊かなホップのアロマを得るための要素は色々あるのだが、量というのは一つの揺るぎないファクターだ。しかしどんなホップにも必ず好ましい香りとそうではない香りが共存している。ホップを大量に使えば確かにアロマは得られる。ところが、ただ使用量を増やしただけではその分余分な香りも引き出してしまうのだ。クリアネスを目指す上では、この余計な香りをいかに排除するかが重要になる。言うは易しで、これがとても難しい・・・。
ビールのレシピを作成するときはまず、素材の足し算をしていく。どのくらいのアルコール度数にするのか、モルト感は、ボディは、苦味は、香りは・・・という具合に。全体の設計が出来上がったら今度はひたすら引き算、引き算、引き算。何がクリアネスを邪魔するのか分析して、それを取り除くためにはどうすれば良いのか考え、対処を行う。
先にホップの例を挙げたが、好ましい香味と好ましくない香味が共存するのはホップだけではない。モルトにも、酵母にもそれぞれプラスとマイナスの面があるのでそれも考慮しなければならない。ひたすら地味な作業を積み重ねる訳だ。
と、クリアネスなビールを作るためには意外(?)に地味な苦労が多いのだが、実際のところクリアネスなビールが評価されることはあまり多くないように思う。というのも、どれだけクリアネスであろうとも、それはストレートに味わいのインパクトにはつながらないからだ。邪魔なものがないというテイストはある意味では意識しなければわからないことなのかもしれない。
ではなぜクリアネスなビールにこだわるのかというと、やはりそれは自分が好きだからということに収束する。皆さんもクリアネスという概念を頭に入れてビールを飲んでみてはいかがだろうか。意識することによって、よりはっきりと自分の好きなスタイルが見えてくるかもしれない。
UETAKE HIROMI
植竹 大海
忽布古丹醸造ヘッドブルワー。 あまり一箇所に定住せず、あっちフラフラこっち フラフラしながら世界各地でビールを作る放浪ブルワー。
座右の銘は風の吹くまま気の向くまま。
https://www.facebook.com/HOPKOTAN/
※TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.21 より掲載
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