“コラボレーション”という言葉を辞書で引いてみると「協力」「協同」「共同研究」「合作」なんて書いてあるが、クラフトビール業界においては「自分達だけではなく他の誰かと一緒にビールを造る」ことを指す。
コラボレーションの基本はリスペクト

具体的には自家焙煎をしているコーヒー屋や、果物を作っている農家、時にはバンドとのコラボレーションをしているブルワリーもある。中でもクラフトブルワリーならではと言えるのはブルワリー同士でのコラボレーションではないだろうか。通常、同業者同士というのはライバルであり、時には売り上げやシェアを奪い合うものであるから、普通はあまり仲が良くないものである。しかしクラフトビールの業界はそうではない。ブルワリー同士非常に仲が良いのである。というのも、どのブルワリーも基本的に自分たちの造りたいビールを造るというスタンスであるから、お互いを尊敬こそすれ、あまり敵対するような事はないのである。また、すでに圧倒的なシェアを誇る大手ビールメーカーがいる為、小さなブルワリー同士で協力するという環境が自然と出来上がったのだろう。
コラボレーションの多様性
さて、そんなブルワリー同士のコラボレーションをコエドでは積極的におこなっている。
2012 年9 月にサン・ディエゴのブルワリーBallast Point Brewingのブルワーが来日し、初めてのコラボレーションを行ってから、翌2013 年4 月に今度は植竹が渡米し、サン・ディエゴの地で再びBallast Pointとコラボレーション。さらにその時の飲み会がきっかけとなった。
翌年2013 年9 月にはCoronado Brewingとコラボレーション。同年8 月には北海道のノースアイランドビールさんと、12 月には元Dieu du Ciel!のヘッドブルワー、現うしとらブルワリーのブルーマスターLuc Bim Lafontaine とコラボレーションしてビールを造っている。さらに、今年に入ってからは4 月にふたたびCoronado Brewingとサン・ディエゴで一緒にビールを造り、10 月にはシカゴのHalf Acre Beer Companyとビールを造り、コラボレーションを終えて帰国した。
植竹はコラボレーションについて様々な観点から非常に有意義な事であると考えている。もちろん有力なブルワリーとコラボレーションをすれば非常に大きなコマーシャルとなりうるし、セールスの面から言ってもポジティブである。しかし、もっとも大きな意義は技術やマインドの交換をできる点である。いくら同じビールを造っている人間同士であっても各々の嗜好や考え方には違いがあるし、技術や設備にも差がある。お互いの技術を隠すことなくさらけ出して、より良いものを造れるように高めあう事はブルワーとしての経験値を得るには非常に有効な手段だ。そしてなにより、違う環境の者同士が集まって一つのものを造り上げるという行為は非常にエキサイティングだし、面白いのだ。
今、植竹がアメリカンスタイルのビールを得意としているのも、間違いなくサン・ディエゴのブルワリー達とコラボレーションした経験があるからだと思っている。ホップの使い方に関しては、アメリカのブルワー達が世界一の技術を持っていると断言できる。
近頃コマーシャル的なコラボレーションが増え過ぎ、クラフトの理念と反するという批判もあるが、日本においてはまだブルワリー同士のコラボレーションは少ないし、技術的な交流という意味でも非常に有意義であると思う。是非もっと積極的にコラボレーションをして欲しいと思う。
さて、ブルワリー同士のコラボレーションの話を進めてきたが、先に述べたようにコラボレーションはブルワリー同士のみならず様々な形がある。
たとえばCOEDO で造っている紅赤というさつまいもを副原料に用いたビールも、地元農家の協力なしには造れないわけで、これもひとつのコラボレーションと言えると思う。また、シカゴにあるDark Matter Coffeeというコーヒー屋は同シカゴのHalf Acre やインディアナのThree Floyds といったクラフトブルワリーと積極的にコラボレーションしている。
エクストリームな実験
単純にコーヒーをビールに使用するだけにとどまらず、バーボンが入っていたバレルで豆を熟成し、その後の樽には自社のコーヒーを使ったコーヒースタウトを入れ、ビールの熟成が済んだ後は、またそのバレルで豆を熟成させるというような、非常にエクストリームな事をやっているのである。余談ではあるが、現地でバレルエイジングしたコーヒーを飲んできたが、非常に興味深いものであった。最先端の試みであるので荒削りな部分は見られたが、サードウェーブコーヒーが急速に浸透するなか、ビールと同じようにコーヒーにおいてもバレルエイジングという試みは盛んに行われるようになる事は想像に難くない。
話を元に戻そう。先のDark Matter Coffee の例は極端かもしれないが、よくよく考えてみれば意外とコラボレーションの敷居は低いものである。どのブルワリーも少なからずコラボレーションと呼べる事柄があるのではないだろうか。
単純に原料や製法での協力でなくても、例えば画家であったり、音楽家であったり、お互いの感性をぶつけ合い一つのものを造り上げれば立派なコラボレーションである。
他のお酒、料理、映画、小説、なんでもいい。また、別にビールを造ることだけがコラボレーションではない。レストランと共にビールに合う食事を一緒に考えることも立派なコラボレーションであるし、過去には映画に合わせてビールを楽しむという試みもあった。アーティスティックな感性を持つクラフトブルワーならば、きっと様々なことからインスピレーションを受けコラボレーションに発展させられるはずである。なにしろ多様性というのはクラフトビールの基本理念だ。そして多様性を獲得する手っ取り早い手段は、違う遺伝子を持つもの同士が、お互いの遺伝子を交換することである。ブルワーが己の感性を元に自由なビールを創造するように、コラボレーションの形も自由なのだ。
クラフトビールの未来において、どのような刺激的で独創的なコラボレーションが産まれるのか、植竹的にも非常に楽しみにしている。もちろん植竹は面白そうなコラボレーションのオファーをいつでもお待ちしています!
HIROMI UETAKE 植竹 大海

埼玉県出身。東京の専門学校(バイオテクノロジー科)で、微生物や発酵について学ぶ。ビール会社に就職後、
道内・国内でビール醸造所の立ち上げに関わる。2021年、家族で鶴居村に移住。
2022年、茂雪裡小学校跡に『Brasserie Knot(ブラッスリー ノット)』を開業する。
※TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.5 2015より掲載
