植竹的視点 Season2 -ホップ製品進化論-
ただいま出張で鶴居村に来ています。鶴居村にブルワリーを立ち上げるため、ただいま全速力で準備を進めています。
今回のプロジェクトは単にブルワリーを設立するに留まらず、次世代のブルワーを育てるというコンセプトや、廃校となった小学校の体育館の活用、設備面やソフト面でも「こうすればもっと効率良く出来るのに」という長年蓄積したアイデアをすべて盛り込んだかなり面白いプロジェクトになっています。しかしながら新しいことを構築するためには、たくさんの「初めて」をクリアしてゆかなければならない訳で、まだまだ越えなければならないハードルがたくさんあります。大変なことも多いですが、自分がやりたくてはじめたことですから、毎日少しずつでも前進出来るよう頑張っていきますので引き続きのご支援をよろしくお願い申し上げます。
そうそう、Facebook やInstagram、Twitter でもBrasserie Knot のことをこまめに発信しておりますので、ぜひフォローをよろしくお願いいたします。
Facebook https://www.facebook.com/Brasserie.Knot
Instagram @Brasserie.Knot
Twitter @BrasserieKnot
引き続きビールの原料の話をしましょう
前号は麦芽、前前号は酵母、そして更にその前は水のお話をいたしました。そして今回はホップのお話をさせていただこうと思います。ビールの4大原料は水、麦芽、酵母そしてホップです。今回でビールの4大原料をひとまず網羅したことになります。なんだかしょっちゅうホップのお話をしているような気がしていたのですが、どうもトランスポーターにホップのお話を書くのはおよそ5年振りだったようです。というわけで、今回はホップについてのお話をさせていただこうと思います。
進化しまくりのホップの現在
ビールの4大原料のうち、最も進化が著しいのは間違いなくホップでしょう。というのも、現在のクラフトビールにおいては相変わらずホップの特徴を全面に押し出したスタイルが主流だからです。相変わらずというよりも、ヘイジーIPAの誕生によってより顕著にホップフォワードとも言えるビールが隆盛を極めているように思えます。
これはずっと前からの流れではありますが、アメリカンスタイルペールエール、そしてIPAの誕生によってホップの特徴を全面に押し出したビアスタイルが流行するようになりました。当然ブルワーはより華やかで特徴的な香りを持つホップを所望するようになり、新品種の開発がすごいスピードで行われるようになったのです。
近年市場にリリースされた品種の中ですでに広く使われるようになった品種は、例えばシトラ、アマリロ、エクアノット、モザイクなどでしょうか。すでに広く使われていますので最新のというよりは、すでにお馴染みのという印象ではありますね。その他毎年新しい品種がリリースされていますので、もはや追いきれていない気もします。
それから忘れてはならないのはニューワールドホップの存在です。元々アメリカやドイツ、チェコなどが主なホップの産地でしたが、ニュージーランドやオーストラリアなどいわゆるニューワールドと呼ばれる国々からもユニークな特徴を持ったホップが続々とリリースされるようになりました。代表的なのはギャラクシー、ネルソン・ソーヴィン、モトゥエカ、ヴィクトリア・シークレットなどです。さらには今まで伝統的なホップを主に栽培していたドイツやスロヴェニアでも、今までとは一線を画す特徴的なホップがリリースされるようになりました。
共通しているのは、フルーティな特徴を全面に押し出した品種が好まれ ている傾向です。一昔前はアメリカンスタイルといえばシトラスを連想さ せる香りだったのですが、流行のスタイルが変化したためか、現在はフルー ティな香りが好まれるようです。これはアメリカだけではなく、その他の 国々でも共通する特徴です。
これから先はよりユニークな香りを持つホップがリリースされると思い ますので、果たしてどんなホップが登場するのか楽しみですね。
進化しているのは品種だけじゃない
次々に新たな品種のホップが登場しているというのはクラフトビール ファンにとってはご存知のことだと思いますが、ホップの加工の仕方にも 新たな動きがあるというのはご存知でしょうか。
元々ホップは収穫されてそのまま使うものではなく、フレッシュホップ の例外はありますが基本的には加工されて使用されます。単に乾燥させた だけのホールホップ、乾燥させたホップを細かく砕き圧縮したペレット ホップなどはブルワリーでの使用頻度が高く、ホップの加工品としてはお 馴染みとなっています。
様々なホップの加工品についてはそれぞれメリット・デメリットがあり ブルワリーはそれらを加味して使用するホップ製品を選んでいるわけです が、近年は作り出されるビアスタイルにより適合した加工方法が生み出さ れるようになりました。
例えば代表的なものはルプリンパウダーです。ビールにホップを使用す る目的は苦味と香りを付与するためなのですが、苦味成分、香気成分とも にホップ全体に含まれているわけではなく、ルプリンと呼ばれるホップの 樹脂に含まれています。より強い苦味、香りを出すために多量のホップを 加えてビールを作ると、それだけビールのロスも多くなってしまいます。 そこで必要な成分が含まれるルプリンを濃縮すれば、もっと効率よくビー ルが作れるじゃないか!という発想の元に生まれたものがルプリンパウ ダーというわけです。
その他にも苦味成分となるα酸と芳香成分であるオイルを二酸化炭素の 超臨界体で抽出したCO2エキストラクトや、そこから更に精油成分だけを 分離精製したホップオイルなどなど、ホップの加工形態は実にバラエティ 豊かになってきました。とはいえ、実はホップエキストラクトやホップオイルは新しいものではなく、ずっと昔から使われていたものだったりしま す。意外だったのはホップエキストラクトがビール純粋令の国、ドイツで も広く使用されていることです。確かにホップの成分を抽出しただけのも のですから、純粋令に抵触することはないのですが、どちらかといえば伝 統を重んじる国だと思っていたので、エキストラクトのような加工品が使 われているのが意外だったのです。ドイツといえば合理化の国でもありま すので、製造過程でより合理的な製品が出てくれば躊躇なく使用すること もあるのでしょうか。ちょっと余談でした。
重要なのは製品の特徴を捉えてビールを作ること
様々なホップの加工形態があることをご紹介しましたが、では新しく市 場に出回るようになったホップの加工品を使用すればすなわち良いビール が作れるのでしょうか。答えはNOです。どんな製品にも良い面と悪い面 が必ずあります。 例えば先にご紹介したルプリンパウダーですが「これでもっとド派手な ビールがロスを少なく作ることが出来るぜ!」と喜び勇んでホップペレッ トから100%置き換えて作ってみるブルワリーが続出したそうですが、結 果は「なんか違う・・・」という事になってしまったようです。結論から お伝えすれば、ルプリン意外の部分にもホップのフレーバーや香りに関与 する成分が含まれており、ルプリンだけビールに用いても深みのない味わ いになってしまうそうです。そこで現在はペレット半分、ルプリンパウダー を半分という使い方をするブルワリーが多く、ホップメーカーもそれを推 奨しています。
ホップエキストラクトにしても、ホップオイルにしてもそれぞれ一長一 短あるのです。ですから、最新のものを使用すれば必ずしも良いビールに なるとは限らず、重要なのはそれぞれの特徴を見極めて最も適した方法で 使用する、という結論に至ります。新しいものが良さそうに見えるという のも良くわかりますけどね。ちなみに私はスマホのOSもWindowsアップデートもしばらく様子を見てから行う慎重派です。これはビールの原料も 同じで、みんなが使って結果が出始めてから「どれどれ」と使ってみる傾 向にあります。先駆者達に感謝しつつ、また次号でお会いしましょう。それでは。
植竹 大海(UETAKE HIROMI)
Godspeed Brewery のブルワー。
あまり一箇所に定住せず、あっちフラフラこっちフラフラしながら世界各地でビールを作る放浪ブルワー。
座右の銘は風の吹くまま気の向くまま。
※TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.31(2021) より掲載
その他の記事
-
植竹的視点 – “コラボレーションの定義” –
-
植竹的視点 -“ホップの香味について再検証”-
-
植竹的視点 -“ポスト・ホップ”を探せ-
-
植竹的視点 – “クラフトビールの定義” –
-
植竹的視点 Season2 -麦酒と書いてビールと読む。ビールは麦のお酒。-
-
植竹的視点 Season2 -ブルワーってどんな仕事?-
-
植竹的視点 Season2 -もうすぐ工事着工です-
-
植竹的視点 -“クラフト” はどこまでサイエンスに歩み寄れるか-
-
植竹的視点 -クラフトビールの価格について再検証-
-
植竹的視点 -「一年が経過してみて」-
-
植竹的視点 -「表現型としてのビール作り それに至る思想」-
-
植竹的視点 -「足るを知れば今日より明日は ちょっとイイ日になる」-
-
植竹的視点 -「試される大地からの挑戦」-
-
植竹的視点 -「綺麗なビールとはなんぞや? 再考クリアネス」-
-
植竹的視点 -「地ビールはクラフトビールへと進化し、 そして再び地ビールに回帰する、かも?」-
-
植竹的視点 – 「切っても切れない水とビールの関係性」-
-
植竹的視点 season2 -トロントからの現地リポート-
-
植竹的視点 season2 -改めて感じるブランディングの重要性-
-
植竹的視点 Season2 -もしかすると “ビールを作るのは難しい” という時代は終わったのかもしれない-
-
植竹的視点 Season2 -日本に帰ってきました-
-
植竹的視点 Season2 -醸造設備についてのアレコレ-
-
植竹的視点 Season2 -絶対に忘れちゃいけないのは、ビールは酵母が作るということ-
-
AMERICAN BEER COLUMN #1 スーパーマーケット編
-
AMERICAN BEER COLUMN #6 -「どうなる?アメリカクラフトビール2017」-
-
AMERICAN BEER COLUMN #7 -「アメリカ西海岸ビールのススメ」-
-
AMERICAN BEER COLUMN #8 -ビールの入れ物の話-
-
AMERICAN BEER COLUMN #9 -アメリカビール片手にアメリカ式BBQのすすめ-
-
AMERICAN BEER COLUMN #10 -時代は缶ビール!<缶ビールの裏話編>-
-
AMERICAN BEER COLUMN #11 -クラフトなレストラン-
-
AMERICAN BEER COLUMN #12 -アメリカンフードトラック-
-
AMERICAN BEER COLUMN #13 -アメリカ式BBQ伝授編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #14 -『Meet the Brewer』には参加してみよう!編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #15 -アメリカのブリュワリーを日本から応援しよう!編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #16 -アメリカで流行中!りんごのお酒「サイダー」に注目!編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #17
-
AMERICAN BEER COLUMN #18 -年明けからHazy に埋もれよう!-
-
AMERICAN BEER COLUMN #19 -「アメリカ最先端を楽しむ」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #20 -「アメリカのブリュワリーの今」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #2 -クラフトの競争編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #3 「アメリ『缶』クラフトビール」
-
AMERICAN BEER COLUMN #4 「アメリカ式クラフトビールイベント事情」
-
AMERICAN BEER COLUMN #5「休日スタイル」
-
藤田こういちのベルギービール新書1 -ベルギービール、トラディショナルとクラフトの波-
-
藤田こういちのベルギービール新書 2 -ALL AROUND SAISON セゾンビールのホント?のところ-
-
藤田こういちのベルギービール新書 3 -「BXL Beer festレビュー」新たな一歩-
-
藤田こういちのベルギービール新書 4 -地味なビールの話 Forward to the Basic-
-
藤田こういちのベルギービール新書 5 -(ベルギービールの)真骨頂ランビックとその未来-
-
藤田こういちのベルギービール新書 6 -今だから、トラピストビール-
-
藤田こういちのベルギービール新書 7 -ベルギー出張 珍道中? 【前編】-
-
藤田こういちのベルギービール新書 8 -ベルギー出張 珍道中? 【後編】-
-
AMERICAN BEER COLUMN #21 -「アメリカの今・どうなるコロナ禍での生活」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #22 -「アメリカビール好きはすごくポジティブ!」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #23 -「ビール界の女子パワー」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #24 -「気分はアメリカ★ 夏とハードセルツァーが楽しみすぎる」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #25 -「チーズ作りの隠し味がビール?!」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #26 -「日本のスーパーがアメリカの品揃え?! キーワードは「種類」だ!」編-
-
藤田こういちのベルギービール新書 11 -ローカルの行方-
-
藤田こういちのベルギービール新書 9 -ベルギービールの賞味期限〜ボトルの美味しさ〜-
-
藤田こういちのベルギービール新書 10 -ビール と 人-
-
藤田こういちのベルギービール新書 12 -意識して飲むということ-
-
藤田こういちのベルギービール新書 13 -ビールは死なない-
-
加地争論 KACHI SOURON!! -第一回「作り手と売り手」-
-
Ryo’s EYE -From issue 15-
-
Ryo’s EYE -From issue 16-
-
加地争論 KACHI SOURON!! -第三回「IS THAT REAL JUDGEMENT?」-
-
加地争論 KACHI SOURON!! -第四回「Monster Beer Geeks」-
-
SUB CULTURE -思い立ったら旅にでよう-(From Issue14)
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅にでよう -From issue 15-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅にでよう -From issue 16-
-
Ryo’s EYE -From issue 17-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう(海外編) -From issue 17-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう(国内編)-From issue 17-
-
Ryo’s EYE -From issue 18-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 18-
-
Ryo’s EYE -From issue 19-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 19-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう(海外編) -From issue 20-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 21-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 22-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 23-
-
『クラフトビールを学ぶ旅』 -From issue 22-
-
ミッドナイトシャッフル -From issue 22-
-
『クラフトビールを学ぶ旅』 -From issue 23-
-
昼からBeer Talk!! #2 Edited by Europe -From issue 04-
-
『クラフトビールを学ぶ旅』 -From issue 24-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 24-
-
昼からBEER TALK!! #3 Edited by Beer Pub -From issue 05-
-
『クラフトビールを学ぶ旅』-From issue 25-
-
B 〜美味しいビールが引き寄せる ローカルコミュニティとしての 大人の社交場〜 -From issue 28-
-
昼からBEER TALK!! -From issue 06-
-
“GO TO BRUSSEL” -ブリュッセルに行こう!-
-
New England Area Beer Trip -From issue 14-
-
BREWDOG HISTORY 10th Anniversary -クラフトビール界の革命児と言われたジェームズワットの10年の軌跡-
-
GO TO BELGIUM! -伝統と革新の国ベルギー!-
-
一人旅をしよう ソウル編
-
「そうだ!タンパに行こう」 -From issue 26-
-
北出食堂 -From issue 27-
-
「そうだ!ウエストコーストに行こう!」-From issue 27-
-
「そうだ!イギリスに行こう!」-From issue 28-
-
ヨーロッパ最前線
-
CBC & WBC -CRAFT BEER CONFERENCE & WORLD BEER CUP-
-
Beer Festival & BIJ Summary -From issue 13-
-
心赴くままにロンドンへ・・・前編
-
PORTLAND OREGON USA
-
PORTLAND OREGON USA -SOUR SOUR SOUR-
-
European NOW!! -“ヨーロッパの今”-
-
1 BEER × 1 FOOD
-
PORTLAND OREGON USA -DO YOU KNOW GROWLER?-
-
COEDO Craft Beer 1000 Labo
-
加地争論 KACHI SOURON!! -第二回「樽返却から見る常識・非常識」-
-
ベルギーに「インスパイア」されたビールとは?