藤田こういちのベルギービール新書 11 -ローカルの行方-
TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.25(2020)
ベルギーに行くと必ずと言っていいほど行くビアカフェがいくつ かあります。人口に対してのビアカフェの数は世界一とも言われて いるベルギー、一言でビアカフェと言っても本当に様々。ブリュッ セルや街中に多い若者が集まるモダンな場所もあれば、昔ながらの ビアカフェも。ビールの品揃えも店構えもスタッフもそれぞれなの で、自分にあったところを見つけるのも楽しいものです。比較的、 地方にあるカフェは、地元色の強いビールが多かったり、年配の方やファミリー層も多くアットホームな雰囲気のところが多くなるよ うに思います。どこを選ぶかは人それぞれですが、ベルギービール がユネスコの無形文化遺産にもなっている要因はまさに、こう言ったローカルな街のビアカフェがあり、みんなが地元のビールを飲ん でいることが一つあると感じます。ただ地方に行くとヘンテコなカ クテル売っているお店がものすごく流行っていたりすることもある のが面白いところですが、笑。

ここ数年のクラフトビール需要で、都市部から離れた醸造所でも 輸出が伸び、こぞって醸造所は拡大傾向にあります。私が知ってい る範囲でも、年々輸出が増えている醸造所が多く、国内消費よりも 輸出が上回ったとの話も聞くようになりました。ただ少し心配のタ ネが最近出てきました。欧米への輸出が伸びていることはとても良 いことだとは思いますが、輸出先の国でもベルギービールのような クラフトビールがたくさん作られるようになってきています。当初、 特にアメリカを中心に輸出が伸び、醸造所を拡大したものの、それ以降なかなか伸びていかないといった流れも起きている気がしてい ます。アメリカではすでに醸造所が9000 とも言われ、本家ベルギーに負けずとも劣らないランビックのようなビールやセゾンなどなど、ベルジャンタイプのビールを自国で多く造るブリュワリーが 増えているという話も聞きます。
最近はアジアのマーケット、特に規模が大きい中国に輸出するかしないかがが一つ大きな課題になっているようですが、今後規模を拡大した醸造所の経営が厳しくなるというような状況が起きないことを祈るばかりです。
日本に対してはとてもありがたいことに、輸出をしたいと声がかかることがとても多いのですが、無責任に輸入はできないですし、 パートナーとして徐々にでもお互いに伸ばしていかないといけない ことを考えると、むやみやたらに輸入をすると後々うまくいかなくなってしまうものです。最近はインポーターも増えているように感じるのですが、同じお客さんを食い合ってしまっては元も子もありません。せっかくの思いを込めてインポーターが輸入してきたビール、ですが提供してもらえる場所がある程度限られてしまっているのが現状ではないでしょうか。
日本では最近醸造所もいろいろな場所で増えてきました。しかし お店がどうしても都市に集中してしまっている印象があります。飲 みたくても飲めないという状況もまだまだあると感じるので、もっ とローカルな地域に通いたくなるようなビアカフェがあったらいい のになと思います。非日常を演出するお店もいいのかもしれないで すが、日々ふらっと寄れるのがビアカフェのいいところ。クラフト ビールは地域密着型のお店が増えていくことも、広がる一つの要因 かなと思います。今までにないようなレストランで提供されたり、 意外な食事との組み合わせも面白いですね。
こんなことを言っていて、ブラッセルズが都心にしかお店がないのであまり説得力がないですが、土地代が安ければよりお求めやすい価格でビールを提供できますし、地元のコミュニティも作れると思います。地元の美味しい素材を調達できますし、飲食店としても 魅力のあるお店ができそうです。
あとは学べる環境でしょうか。飲食店としても、クラフトビール の知識にしても学ぶ場所が少なく、わからないしお客様に来ていた だけるかどうか不安もあるとなかなかビールで独立しようとは思わ ないですよね。ビールが好きな人が学べて、働ける環境作りもこれ からのクラフトビールには必要だと考えます。
ベルギーに行くと、普通のおばちゃんが(すいません、ちょっと 失礼ですが)カウンターに立ってビールを注いでたりしますし、気 楽に食堂のような感じで営業しています。老若男女いろいろなお 客さんがいます。それできちんと継続性のあるビジネスとして成り 立っている、そこもすごいと思うのですが、やはり日々ローカルで 飲まれている環境があるのは強いです。

輸出が伸びているベルギービールではありますが、こう言った ローカルなビアカフェが支えになり、ビールが文化にまでなってい るのでしょう。でも文化と言えど気軽さ、身近さはビールだからこ そのもの。日々の生活に近いからこその文化。そこもいいですよね、 とりあえず1 杯飲もうよとなりますし。
クラフトビールを冠するビールがコンビニにも並ぶ時代、(クラ フトかどうか議論の余地はありますが)まだまだ、美味しいビール を飲みたい人は沢山いるのではないかと思います。日本もどこに 行っても、美味しいビールが気軽に飲める環境になるといいです ね!と、希望と期待を込めて。最近はベルギービールの普及活動は もちろんですが、そういったお手伝いもできればとつくづく感じて います。


藤田 孝一 Koichi Fujita
セゾンデュポンなど数多くのベルギー ビールを輸入するブラッセルズ株式会社 取締役
【Facebook】 https://www.facebook.com/brussels.jp/
【Beer Bar BRUSSELS】 http://www.brussels.co.jp/
【輸入部オンラインカタログ】 https://www.brussels-import.com/
その他の記事
-
植竹的視点 – “コラボレーションの定義” –
-
植竹的視点 -“ホップの香味について再検証”-
-
植竹的視点 -“ポスト・ホップ”を探せ-
-
植竹的視点 – “クラフトビールの定義” –
-
植竹的視点 Season2 -麦酒と書いてビールと読む。ビールは麦のお酒。-
-
植竹的視点 Season2 -ホップ製品進化論-
-
植竹的視点 Season2 -ブルワーってどんな仕事?-
-
植竹的視点 Season2 -もうすぐ工事着工です-
-
植竹的視点 -“クラフト” はどこまでサイエンスに歩み寄れるか-
-
植竹的視点 -クラフトビールの価格について再検証-
-
植竹的視点 -「一年が経過してみて」-
-
植竹的視点 -「表現型としてのビール作り それに至る思想」-
-
植竹的視点 -「足るを知れば今日より明日は ちょっとイイ日になる」-
-
植竹的視点 -「試される大地からの挑戦」-
-
植竹的視点 -「綺麗なビールとはなんぞや? 再考クリアネス」-
-
植竹的視点 -「地ビールはクラフトビールへと進化し、 そして再び地ビールに回帰する、かも?」-
-
植竹的視点 – 「切っても切れない水とビールの関係性」-
-
植竹的視点 season2 -トロントからの現地リポート-
-
植竹的視点 season2 -改めて感じるブランディングの重要性-
-
植竹的視点 Season2 -もしかすると “ビールを作るのは難しい” という時代は終わったのかもしれない-
-
植竹的視点 Season2 -日本に帰ってきました-
-
植竹的視点 Season2 -醸造設備についてのアレコレ-
-
植竹的視点 Season2 -絶対に忘れちゃいけないのは、ビールは酵母が作るということ-
-
AMERICAN BEER COLUMN #1 スーパーマーケット編
-
AMERICAN BEER COLUMN #6 -「どうなる?アメリカクラフトビール2017」-
-
AMERICAN BEER COLUMN #7 -「アメリカ西海岸ビールのススメ」-
-
AMERICAN BEER COLUMN #8 -ビールの入れ物の話-
-
AMERICAN BEER COLUMN #9 -アメリカビール片手にアメリカ式BBQのすすめ-
-
AMERICAN BEER COLUMN #10 -時代は缶ビール!<缶ビールの裏話編>-
-
AMERICAN BEER COLUMN #11 -クラフトなレストラン-
-
AMERICAN BEER COLUMN #12 -アメリカンフードトラック-
-
AMERICAN BEER COLUMN #13 -アメリカ式BBQ伝授編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #14 -『Meet the Brewer』には参加してみよう!編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #15 -アメリカのブリュワリーを日本から応援しよう!編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #16 -アメリカで流行中!りんごのお酒「サイダー」に注目!編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #17
-
AMERICAN BEER COLUMN #18 -年明けからHazy に埋もれよう!-
-
AMERICAN BEER COLUMN #19 -「アメリカ最先端を楽しむ」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #20 -「アメリカのブリュワリーの今」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #2 -クラフトの競争編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #3 「アメリ『缶』クラフトビール」
-
AMERICAN BEER COLUMN #4 「アメリカ式クラフトビールイベント事情」
-
AMERICAN BEER COLUMN #5「休日スタイル」
-
藤田こういちのベルギービール新書1 -ベルギービール、トラディショナルとクラフトの波-
-
藤田こういちのベルギービール新書 2 -ALL AROUND SAISON セゾンビールのホント?のところ-
-
藤田こういちのベルギービール新書 3 -「BXL Beer festレビュー」新たな一歩-
-
藤田こういちのベルギービール新書 4 -地味なビールの話 Forward to the Basic-
-
藤田こういちのベルギービール新書 5 -(ベルギービールの)真骨頂ランビックとその未来-
-
藤田こういちのベルギービール新書 6 -今だから、トラピストビール-
-
藤田こういちのベルギービール新書 7 -ベルギー出張 珍道中? 【前編】-
-
藤田こういちのベルギービール新書 8 -ベルギー出張 珍道中? 【後編】-
-
AMERICAN BEER COLUMN #21 -「アメリカの今・どうなるコロナ禍での生活」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #22 -「アメリカビール好きはすごくポジティブ!」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #23 -「ビール界の女子パワー」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #24 -「気分はアメリカ★ 夏とハードセルツァーが楽しみすぎる」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #25 -「チーズ作りの隠し味がビール?!」編-
-
AMERICAN BEER COLUMN #26 -「日本のスーパーがアメリカの品揃え?! キーワードは「種類」だ!」編-
-
藤田こういちのベルギービール新書 9 -ベルギービールの賞味期限〜ボトルの美味しさ〜-
-
藤田こういちのベルギービール新書 10 -ビール と 人-
-
藤田こういちのベルギービール新書 12 -意識して飲むということ-
-
藤田こういちのベルギービール新書 13 -ビールは死なない-
-
加地争論 KACHI SOURON!! -第一回「作り手と売り手」-
-
Ryo’s EYE -From issue 15-
-
Ryo’s EYE -From issue 16-
-
加地争論 KACHI SOURON!! -第三回「IS THAT REAL JUDGEMENT?」-
-
加地争論 KACHI SOURON!! -第四回「Monster Beer Geeks」-
-
SUB CULTURE -思い立ったら旅にでよう-(From Issue14)
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅にでよう -From issue 15-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅にでよう -From issue 16-
-
Ryo’s EYE -From issue 17-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう(海外編) -From issue 17-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう(国内編)-From issue 17-
-
Ryo’s EYE -From issue 18-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 18-
-
Ryo’s EYE -From issue 19-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 19-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう(海外編) -From issue 20-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 21-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 22-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 23-
-
『クラフトビールを学ぶ旅』 -From issue 22-
-
ミッドナイトシャッフル -From issue 22-
-
『クラフトビールを学ぶ旅』 -From issue 23-
-
昼からBeer Talk!! #2 Edited by Europe -From issue 04-
-
『クラフトビールを学ぶ旅』 -From issue 24-
-
SUB CULTURE 思い立ったら旅に出よう -From issue 24-
-
昼からBEER TALK!! #3 Edited by Beer Pub -From issue 05-
-
『クラフトビールを学ぶ旅』-From issue 25-
-
B 〜美味しいビールが引き寄せる ローカルコミュニティとしての 大人の社交場〜 -From issue 28-
-
昼からBEER TALK!! -From issue 06-
-
“GO TO BRUSSEL” -ブリュッセルに行こう!-
-
New England Area Beer Trip -From issue 14-
-
BREWDOG HISTORY 10th Anniversary -クラフトビール界の革命児と言われたジェームズワットの10年の軌跡-
-
GO TO BELGIUM! -伝統と革新の国ベルギー!-
-
一人旅をしよう ソウル編
-
「そうだ!タンパに行こう」 -From issue 26-
-
北出食堂 -From issue 27-
-
「そうだ!ウエストコーストに行こう!」-From issue 27-
-
「そうだ!イギリスに行こう!」-From issue 28-
-
ヨーロッパ最前線
-
CBC & WBC -CRAFT BEER CONFERENCE & WORLD BEER CUP-
-
Beer Festival & BIJ Summary -From issue 13-
-
心赴くままにロンドンへ・・・前編
-
PORTLAND OREGON USA
-
PORTLAND OREGON USA -SOUR SOUR SOUR-
-
European NOW!! -“ヨーロッパの今”-
-
1 BEER × 1 FOOD
-
PORTLAND OREGON USA -DO YOU KNOW GROWLER?-
-
COEDO Craft Beer 1000 Labo
-
加地争論 KACHI SOURON!! -第二回「樽返却から見る常識・非常識」-
-
ベルギーに「インスパイア」されたビールとは?