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藤田こういちのベルギービール新書 2 -ALL AROUND SAISON セゾンビールのホント?のところ-

TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.16(2017)

2022年 11月 14日 10時 03分 投稿 320 Views

 最近でこそセゾンという言葉をよく耳にするようになりましたし、何よりも知っている人が増えましたね、本当に嬉しいことです。なぜなら私がこの業界に入ったきっかけのひとつが「セゾンビール」だったからです。セゾンデュポンを飲んだ時にこれは美味しいなと素直に思えたビールでした。ブラッセルズで働き始めた頃はセゾンと言ってもほとんど知ってる人もなく、セゾン?カード?などと言われる始末、本当ですよ。それが今となっては大手ビール会社もセゾンを冠したビールを造っています。

 そもそもセゾンビールって何?と思っているかたも多いと思うので、私がルーツと言われるベルギー南部のエノー州を訪れ見て感じたことや、ルーツに少し迫ってみたいと思います。

 元々はベルギー南部のエノー州一帯で、夏の間に働く季節労働者のために造られていたビールでした。暑さの中、厳しい農作業で渇いた喉を潤し、疲れを癒すために飲まれていました。ピンと来ないかもしれませんがこの地域では農家がビールを造るのはあたりまえでした。うちは働いてくれたら何リットルビールを出すよという報酬のような意味合いもあったそうです。味も農家によって様々、ごくごく飲めるようにアルコール度数は低めだったと思われます。冷蔵技術や、醸造技術が乏しかった時代、冬場に仕込んで夏まで保存しておくために、木樽での貯蔵や瓶内二次熟成(ボトルコンディション)を行い、アルコール度数をあげずに保存性を高めるためホップの他にも、スパイスやハーブ、乳酸菌なども使っていたと言われています。セゾンとは「Saison」シーズン、すなわち季節の意味です。

 ここまではよくある話なのですが、Saisonは味付けする、調味するというような意味もあります。(フランス語だとアセゾネassaisonner)シーズニングソースとかシーズニングスパイス等の商品を見ることがありますが、昔のセゾンビールは今とは違い、様々なスパイスでシーズニング(味付け、香りづけと言ったところでしょうか)された、酸味のある、赤褐色のビールだったというのが実は定説です。Saisonの由来はこの味付けをするという意味もあったという謂れもあるそうです。

 私が以前訪れた場所にBrasserie Vapeur(ヴァプール醸造所)というところがあります。ヴァプールは水蒸気という意味なのですが、文字通り醸造設備が蒸気を使ったシステムで動いています。動き出す前にはシュッ、シュッと蒸気機関車が走りだすような音がします、これは一見の価値あり。ここが造るSaison de Pipaixセゾンドピペが一番昔のセゾンビールに近いのかなと想像させました。現在は残念ながら日本未輸入ですが、琥珀色、若干ランビックを思わせるような香り、酸味もあり、スパイスも強い、正直賛否両論分かれるビールだと思います。私が訪れた時は全く売れる気がしなかったのですが、笑、ランビックやサワーが人気が出てきている今なら輸入してみようかな。万人受けしないのは分かってます、クセがつよい、笑。こんなこと書くと飲みたくなるでしょう、頑張りますね。

 

 輸入の大変なところはある程度売れないと(お客様に飲んでもらわないと)次に続かないという事です。個人的に入れたいと言う想いだけでは難しい。かと言ってビジネスだけに焦点を当てた輸入は絶対にしないですけども。このヴァプールのジャン=ルイもデュポン醸造所の影響を大いに受けているし、他の醸造家に影響を与えているような人なのですが、そんな昔ながらの酸味のある、ひとくせあるようなセゾンビールをポップの効いた、世界のお手本になるようなスタンダードにしたのがデュポン醸造所、セゾンデュポンです。マスターブリュワーのオリビエドゥデケールは現在4代目。初代が1759年から続くセゾンビールとハチミツビールで有名だったリモーデリダーという農場醸造所を買収し1920年からデュポン醸造所として創業しました。デュポン醸造所とブラッセルズとは本当に長いお付き合いです。彼はとても真っ直ぐで穏やかな人ですが、ことビールに関しては熱く語ります。未だに直火を使用するマッシュタンは麦汁に独特なボディを与えることができます。四角い発酵タンクに1メートルしかビールを入れず酵母にストレスを与えないことで、代々使っているハウスイーストがよりエステル香を出すのだそう。またボトルコンディションに対するこだわりもすごいです。そこには脈々と受け継いできた伝統があり、やはり唯一無二のセゾンでどこにも真似のできない味なんですね。

 他のセゾンも素晴らしいものがたくさんあります。伝統的なセゾンシリー、エルダーフラワーを使用したセゾンカズー、リバイバルさせてアメリカ、日本で人気を博したサンフーヤンセゾン、新興ながら評価の高いブロウジ醸造所のセゾンデポートル、最近のベルギーではエノー州に限らずセゾンはあって、休日の度にワロンにセゾンを飲みに行っていたというグラゼントーレン醸造所のジェフが造るセゾンデルポメール、ブレタノマイセス酵母を使ったアルデンヌセゾン、柑橘系のホップやオレンジピール使用したセゾンもあります。アメリカや他のクラフトビールが盛んな国でもセゾンやファームハウスエールと呼ばれるものをたくさん造っていますし、フルーツセゾンなんて言うのもありますね。すごいなと思うのはもっとベルギーのエノー州より狭い範囲で飲まれていて、セゾンビールに似てはいますが、少し軽くてドライだったと言われる、グリゼットのようなスタイルもリバイバルして造ったりしているところもあります。本当にクラフトビールが盛んな国は探究心旺盛、素晴らしいですね。要はベルギー国内でもセゾンは様々です。

 さて、ようやくここで何をもってセゾンビールなのか?というところですが、本来であればエノー州一帯で冬に仕込まれて夏に飲まれるビール。しかしそんなビールは今やおそらく一つもなく、通年で造っていますし飲んでいます。味も全て違います。セゾンイーストを使えばセゾンなのか?とそれもアリな気がしますし、もちろん何かのセゾンビールをオマージュして作ったものもセゾンでしょう。でもそもそも昔そうであったように、それぞれの農家が工夫を凝らしてそれぞれのビールを造る、現在のセゾンビールには型にはめず、そんな自由な考え方があうのかなと思ったりもしています。

 ベルギービールにはランビックやフランダースレッドのような特徴的で明確なカテゴリーはもちろんありますが、あまりカテゴリーやスタイルにこだわらないほうが面白い時もあります。現にスペシャルビールという、正直よくわからないカテゴリーもあります。ある種オールマイティーのような、笑。個人的にはローカルなカフェで地元の人が飲んでいるような、ある種地味なビールがとても好きです。そういうビールもカテゴライズされない普通のブロンドエールや、アンバーエールだったりします。

 ビールはもっと自由でいいものです。誰かが美味しいと言うから美味しいのでなくて、飲む人自身が決めていいものです。ベルギーでは自分の好きなビールを皆それぞれに楽しんでいます。セゾンを造る人はもちろんベルギー発祥だという事は知っているでしょう。日本でもセゾンビールがこれからもっと出てくると思います。セゾンビール見つけたらどんどん飲みましょうね。そこには自由な発想と工夫と造り手の想いもスパイスとしてSaisonされているでしょうから。あなたの好きなセゾンぜひ見つけてみてください。

 

藤田 孝一
Koichi Fujita
セゾンデュポンなど数多くのベルギービールを輸入するブラッセルズ株式会社 取締役
【Facebook】https://www.facebook.com/brussels.jp/
【Beer Bar BRUSSELS】http://www.brussels.co.jp/
【輸入部オンラインカタログ】http://www.brussels.co.jp/import-c/
     

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