AMERICAN BEER COLUMN #22 -「アメリカビール好きはすごくポジティブ!」編-
TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.29(2021)
2020 年は感染症に翻弄された1年、と言えるだろう。世界中の人々の記憶に新しい「第46 代アメリカ大統領選挙」は、感染症対策と激化する人種差別運動に加え、2 期目を目指す現職大統領やその側近が感染し、衝撃を与えた。また、日本ではあまり報道されていないが、カリフォルニア州の山火事は400 万エーカー(約1 万7千㎢)を超え、過去3 年間の合計を上回る面積を焼失。多くの人々は家や職を感染症と自然の猛威により失った。自然環境の変化と未曽有の感染症による経済の停滞に翻弄された2020 年が終わり、新しい2021 年を迎える。多くの人々が厳しい状況下でも、「今できること」を見つけて立ち向かい、ささやかなことに笑顔を向け、お互いを思いやり、明日へ、新しい年への希望をつなぐのだろう。
<地元のレストランを支援!合言葉は「BYOB !」>
ロサンゼルス南部Lomita にあるブリュワリーパブBurnin Daylight Brewing のオーナーBob Lake は、まだ開店させ たばかりの真新しい店舗で、状況の厳しさを実感している。 機材や店舗内装を経てようやくオープンを迎えられた直後、 感染症拡大による制限付きの営業を余儀なくされた。一時よ りは緩和されたが、再拡大による制限付きの営業は頭を悩ま せることも多い。新規店舗にも関わらず、飲食店検索サイト 「YELP」にて多くの高評価のレビューを獲得。条例で店内飲 食はできないものの、唯一使用できる屋外テラス席は地元の 人々にも人気だ。
そもそも、年間を通じて温暖な気候のロサンゼルス地域で は、テラス席は以前から人気。昼間は小春日和を感じる気温 で、シャツ1 枚くらいでも快適。太陽が沈んで気温が下がっ てもガスストーブやブランケットを活用しながらテラス席で ビールや食事を楽しむ人が多かった。屋外テラスで安全に楽 しむには・・・そこで生まれた最近の合言葉が「BYOB=Bring Your Own Blanket(自分のブランケットを持参しよう)」。 不特定多数の共有による感染を防止しながら、冬でもテラス でおいしく楽しい時間をすごそう!という策。大手のスーパー や生活雑貨店には大きさや柄はもちろん、「Bigger is Better (大きいことはいいことだ!)」を信条のアメリカ人がよく持っ ている大きなサイズだけでなく、持ち運びに便利なサイズな どの様々なブランケットが並び、人気とのこと。これは日本 でもできそうですね!
<ビール好きなら欲しい!ブリュワリーマスクやバフが大人気>
アメリカのビールギークの間で話題なのがブリュワリーの オリジナルデザインのマスクや首からすっぽりと隠れるバ フ。原則としてタップルームで販売されているが、ブリュ ワリーでも発売即完売。こうなるとビールより入手困難かも。弊社でも激戦の末に確保できたStone Brewing のマスクは発売開始後、数日で即完売したほど。もちろん、日本のビール好きのために今後もStone だけでなく、Revision,Maui Brewing, New Belgium も続々と入荷予定なのでぜひ要チェック!まだまだマスクが手放せない状況だからこそ、レアマスクを入手してクラフトビール愛をアピールするのもいいかと。完売の際はご容赦を。
<狂ったコンビニやスーパーが続出!>
アメリカならまだしも、日本のビール売り場に、ずらりと 数十種類ものクラフトビールが冷蔵棚を埋め尽くして圧巻の 品ぞろえで思わず「ここはクラフトビール屋?」とつぶやか れるコンビニやスーパーが今、注目されているのはご存じだ ろうか。「#狂ったコンビニ」「#狂ったセ〇ン」がコロナ禍真っただ中の今年春ごろから話題になり始めて以降、弊社のある横浜だけでなく、千葉、埼玉、静岡や仙台、さらには島根と いった東京以外のスーパーやコンビニが次々と狂い始めてい る。それまでコンビニやスーパーと言えば、どの店でも同じ ような大手メーカーの商品や「クラフト」を謳う商品が数種 類並ぶ程度置。ただ、今言及しているのは、単に多くの種類 が並んでいるから狂っている、のではない。オーナーやバイ ヤーが主体的に、選りすぐりの品質の高い本物の「クラフト ビール」と呼べるラインナップを揃えた「狂って」いる売り 場づくりをしているのだ。普段このコラムには日本のマーケットについて書かないようにしている私が言及したのは、アメ リカでのスーパーやコンビニでのラインナップ、並べ方に似 てきたような気がするからに他ない。「日本のビールだから」 「海外ビールだから」、ではない。世界が「おいしい」と認め る商品が並んでいるから「狂って」いるのだ。日本のこの事態の一方で、ロサンゼルス在住の某ビアギークによると、コロナ禍の影響でアメリカでも「狂っている」らしい。ちなみに、 アメリカではどんなスーパーでもコンビニでも、クラフトビールが販売されており、その種類は小さな店でも10 種類以上、 大きなスーパーになれば100 種類以上あっても普通なので、 種類があるからといって「狂っている」とは言わない。
< LA からレポート: アメリカの「狂った」スーパーはここがすごい!>
LA ではコロナ禍以降、スーパーで扱われるクラフトビー ルの数が増えたという。屋外飲食ができるとはいえ、外食産 業の樽需要の激減は死活問題。そのためブリュワリーが生き 残り策として商品をパッケージ化する動きが加速している。 そういった商品が直営タップルームからのテイクアウト需要 にとどまらず、地域のスーパーやコンビニなどに並べられる ようになった。スーパーの担当者によると、コロナ禍以前よ りもクラフトビールの需要は伸びているらしい。実際、在庫 数量は増え、店頭陳列はスペースも種類も増えている。特筆 すべきは、単に売り上げが上がっているのではなく、圧倒的 にコロナ禍よりも商品の回転率が高いという。その証拠に、 店頭に並ぶ多くの商品のデイトコード(製造年月日)は新し い。コロナ禍において外出を控えた人々がいつもより少しだ け多い本数のビールを手に取り、日常的に家庭でクラフト ビールを楽しんでいる。スーパー、コンビニのオーナーやバイヤーが、普段はブリュワリーでしか入手できなかったレア 商品も含めて陳列販売したことで、消費者により一層の魅力 を与え、売上アップと回転率アップの両方を実現したアメリ カでの「狂った」状況。さすが!
<コロナ禍に立ち向かうアメリカ版「アマビエビール」>
Quarantine とは防疫、検疫の意味。コロナ禍収束への 想いを馳せる商品が発売されている。ネバダ州Revision Brewing が発売したQuarantine Dreams (NE-style Hazy Double IPA) は、暗いニュースが多い中「やっぱりこの刺激がいい!」と感じる柑橘系のガッツリテイスト。LA の Smog City はQuarantine Machine を発売(現地販売のみ)。 Smog City のLaurie Porter は、コロナ禍を『「発想の転換、 独創力、適応能力」が試されている』と感じている。それは、 ブリュワリーが生き残るためにも、支援してくれるファン、 新しい商品を心待ちにしてくれているファンと一緒に、前例 に捕らわれず今できることを躊躇なく挑戦することだという。 弊社でもこの状況でなければ挑戦しなかったことの多い1 年 だったと思う。失ったものも多いけれど、得られたもの、学 びも多かった1 年でもある。
医療従事者の皆様には心から感謝申し上げます。また、感染発症された皆様の早期回復をお祈り申し上げると共に、コロナ禍の影響により事業産業に影響を受けていらっしゃる皆様には心よりお見舞い申し上げます。2021 年は平和で健康な日常が送ることができる1 年になりますよう、心から祈ってやみません。皆様もどうぞお体大切になさってください。
大平 朱美
akemi ohira
( 株) ナガノトレーディング 代表取締役
アメリカンクラフトビール冷蔵管 理のパイオニア。アメリカ食文化 発信基地Antenna America(品 川・横浜・関内)を展開。夫は 創業者 Andrew Balmuth。
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