Ryo’s EYE -From issue 16-
TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.16(2017)
ブルワリーの日常について。
早くも3度目の記事になりますね。過去2回はアメリカに行った際のことを紹介してきましたが、そろそろ醸造の話でもしようかな、なんて。あまり知られていないのかな、と思うので普段ブルワリーでどのような仕事をしているのか紹介していこうと思います。今回はあくまで日常をお伝えする、という感じであまり細かいところまでは突っ込まずにお話ししますのであしからず。
現在弊社ではオーナーたち3人と、私、イベント担当の5人が主に従事しています。その中での役割はというと、主にブルワリーの運営。もちろん醸造所ごとに規模も違えば設備も違うので、その分やるべき仕事も変わってはきますが、今回はあくまで私の話を。
❶ 仕込み
皆さんが一番よく想像するであろう仕込み。言わずもがな、麦汁を作る作業です。うちでは現在、週二回、シングルバッチとダブルバッチを1回ずつ仕込みます。ダブルバッチで仕込む際には、1日に2回仕込を行い、大きなタンクに1000Lほどの麦汁をタンクへと送ります。
❷ 移送
発酵、(する場合はドライホップ)が終了したのちに、ビールを発酵タンクから貯酒タンクへ移送します。その主な理由は、イーストやホップのかすを取り除き、クリーンな状態にすることや、ビールに炭酸を溶け込ますために行います。
❸ 樽詰め
十分にカーボネーションが付いたら、タンクから樽へ詰めていきます。
とまあ、この3つの作業が基本となるわけです。この基本の3つの作業を、流れにするとこんな感じになります。【仕込み→酵母抜き・ドライホップ→移送→炭酸ガス添加→樽詰め】全工程で約3週間。けっこう早い方だと思います。うちのブルワリーには、発酵タンク4本、貯酒タンクが3本ありますので、それぞれのタンク毎に上記の流れを経て、空いたタンクに次のビールを仕込んでいきます。では早速週2回仕込む場合の1週間を見てみましょう。
月曜日▶樽詰め、移送、仕込の準備
火曜日▶仕込み(ダブルバッチ)
水曜日▶樽詰め、移送、仕込の準備
木曜日▶仕込(シングルバッチ)
金曜日▶事務処理(帳簿付けなど)、樽洗浄
土曜・日曜▶休み、もしくはイベント出店
とまあこんな感じ。朝は基本9時くらい、帰るのは6時だったり9時だったり。割と健全です(笑)幸か不幸か?自社での消費がほとんどであるため、受発注業務や瓶詰め、缶詰めなどの作業がないぶん必要な人員、時間はかなり抑えられています。直営店舗への配達も少し前まではやっていましたが、現在は別の人間に引き継いでだいぶ余裕ができました。
さて、これらの中で重要になってくるのが、掃除(洗浄)と帳簿付けの作業。実際のところこの2つの業務が大きなウェイトを占めてきます。よく、ブルワーは綺麗好きが向いている、ブルワーの仕事は掃除をすること、なんて言われますが、まさにその通り。仕込設備やタンクの洗浄は、CIP(Cleaning In Place・定置洗浄)と呼ばれ、最新の注意を払い汚れを徹底的に取り除くことで汚染の危険から身を守ります。
ざっくり【リンス→アルカリ洗浄→リンス→酸洗浄(数回に1回)→リンス→殺菌→二酸化炭素充填】といった流れ。酵母などの汚れが十分に洗い切れていない場合、汚れのあるところに汚れが集まり、それはやがて酒石になります。酒石があると今度はそこに微生物が住み始め、最終的にはビールが汚染されることに。
これ、歯の話とほとんど同じような感じですね(笑)しっかり歯磨きしないと虫歯になるように、タンクもしっかり洗わないと虫歯どころか、歯がなくなってしまいかねないですからね。本当に重要です。週に何回も行う作業で、慣れが生じやすい作業ではありますが、キュッと気を引き締めタンクと会話をするように丁寧な仕事を心がけています。ちなみに、お店にあるビアサーバーに関しても同じようなことが言えますので、弊社店舗でも同様にアルカリと酸洗浄を定期的に実施しています。
そしてもう一つの重要な仕事、帳簿付け。ビールを造る際には、ほぼすべての作業においてその記録を取ることになっています。仕込によってできた麦汁の量、そこから抜いた酵母&ホップ、移送時・樽詰め時の欠減、そして結果的にどれだけ量のビールが商品として製造され、出荷されるか。このすべての流れをきっちり書いておくことで、自らの身を守 ることになります。税金を払っている以上、脱税の 疑いを常にかけられ、していないことを証明するた めに帳簿をつける。原料に関しても、いつどれだけ のモルト、ホップを使用し、現在どれだけの量の在 庫があるのか把握し、記しておく。ビール(発泡酒) 醸造に携わる者の責務として、きっちりこなすので す。とはいえ、15種類近くある帳簿を毎日きっちり 記帳していくのはなかなか大変な作業。誰か集中力 をわけてください。なんだか洗浄と帳簿の話しかし てない気もしますが、こんな感じで毎日元気に働い ております。
意外と地味な日々ですが、すべてはおいしいビー ルを造るため。そう考えれば、どんな苦労もなんの その。これからも日々精進していく所存であります。
今回も長文駄文にお付き合いいただきありがとう ございました。 DevilCraft Brewery 鈴木 諒
鈴木 諒suzuki ryo
DevilCraft brewery brewer
http://www.devilcraft.jp/
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