Ryo’s EYE -From issue 18-
TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.18(2018)
New England IPA の種類について
どうもこんにちは。今日は、みなさんの大好きなNew England IPA(以下NEIPA と称す)について少しお話させていただこうかなと思います。
とはいえ、ある程度のことはだいたい皆さん知っているでしょうから、NEIPA と言いつつ、オリジナルのそれとはまた違った個性を持ったビールを中心にお話しできればなと思います。今回は私とNEIPAのストーリーをベースにお送りします( 笑)
初めてこの類のビールを飲んだのはやはりAlchemistのHeady Topper。言わずと知れたNEIPA の元祖といわれるビールです。その当時(おそらく6年前くらい)はそういった概念は全くなく、ただただその尋常じゃないアロマと8%とは思えないスムースさに圧倒された記憶があります。そして2015 年の秋にNew England 地方へとビール旅に出かけます。
そのころは今のように業界を席巻しているほどではなく、アメリカで急速に盛り上がりを見せている時期ではありましたが目的はNEIPA ではなく、世界最高峰ブルワリーのひとつであるHill Farmsted に行くことでした。しかし結果的にその旅で訪れた数々のブルワリーで、ことごとくNEIPA と出会います。Alchemist, Hill Farmsted,
Tree House, Night Shift, Trillium, Other Halfなどなど、今やNEIPA の代名詞ともいえるブルワリーばかりです。
しかし当時の印象はというと・・・
正直なところ、あまりいい印象ではありませんでした。美味しいことには美味しい・・・んだけれど瓜っぽさ、草っぽさ、渋み、樹脂感がどうしても気になってしまったのです。もともとクリアでクリーンなビールが好きな私からすると、その液体は真逆の存在。第一印象が良くなかったのも無理はないのかもしれません。(もちろん、その後いろいろと数を飲んでみてこれはおいしいなあ、というのにもいくつか出会いました。)
帰国後、そんな中で私が出会ったのがModern TimesのOrderville。都内のビアバーでそれを飲んでみると、あまり好きではなかった嫌な感じがしないではありませんか。これもNew England IPA なんだよな?と疑問に思いつつも、おいしくいただくことができました。
その後ちょうど1 年前にロサンゼルスとサンディエゴを訪れる機会がありました。このころになると日本でもNEIPA がよく造られるようになってきており、周囲の関心が向けられている状態でした。そんな中訪れた西海岸のNEIPA を代表とするブルワリー、Monkish やModern Times で作り方などいろいろと話を伺い納得することとなるのです。
そう、ここでお話しすることが今回の主題となるわけですが、肝心な内容に関してお話しする前に簡単にNEIPAについておさらい。
NEIPA といえば・・・
● 濁っている
● ハイアルコールを感じさせないスムースな口当たり
● とにかくホップの香りがすごい!
● 苦くない
● オーツ、ウィートなどたんぱく質の多い原料を使用
● 従来とは少し変わったドライホッピングスケジュール(麦汁発酵開始時にドライホップ、その後1〜3回ドライホップ)
● NEIPA 用のイーストを使用(London3, Connan yeast, Vermont Ale yeast などなど)
● 塩化物イオン多めの水質調整(硫化イオン:塩化物イオン=1:2or 3)
といったことが代表的なところでしょうか。これに対して私が見聞きしてきたカリフォルニアのブルワリーの造っているNEIPA はというと。
● 濁ってる
● ハイアルコールを感じさせないすっきりとした口当たり
● とにかくホップの香りがすごい!
● ある程度苦い
● オーツ、ウィートなどたんぱく質の多い原料を使用
● 従来のIPA と同じドライホップスケジュール(醸造所によって異なる)
● イングリッシュエールイーストを使用(明確にそれ用のものを使用しているわけではない、場所によっては数種類の酵母をブレンドして使用しているところも。)
● 従来のIPA と同じ硫化イオン:塩化物イオン=1〜3:1
それぞれの項目について話していくと大学の講義くらい長くなってしまうので、ざっくりとした違いだけ説明すると。New England のブルワリーが造るNEIPA は、ボディに厚みがあってハイアルコールなのにそれを感じさせないスムースな口当たり、そして圧倒的なホップの香り。いわばネクターのような飲み物。対してカリフォルニアのブルワリーが造るものは、ボディはややすっきりめでさらっと飲める、苦みはある程度しっかりしていてホップの香りがすごい。「IPA」を感じさせる飲み物。
某有名ブルワリーのオーナーブルワーに話を聞いたところ、彼ははっきりとこういいました。「うちはあくまでウェストコーストスタイルのIPA をベースにしている。もちろんNEIPA のいいところも吸収したうえでだけれどね。」そう、これはカリフォルニアの土壌だからこその産物なのかもしれない。個人的にはカリフォルニアの陽気な風土には本家NEIPA は重いのかな、と思います。ウェストコーストIPA が育った土地で、ウェストコーストIPAが好きな人たちにはこっちのほうが好ましい味わいなのかな、と思います。逆に寒いNew England 地方だとこのくらいのネクター感がちょうどいいのだろうし。
ここでひとつ胸にとどめておいてほしいのが、New England 地方で” カリフォルニア式” のNEIPA を造っているところもあるだろうし(実際Heady Topper なんかはそこまでトロっとした口当たりではなく苦みもしっかりついている)、カリフォルニアで本格NEIPA を造っているところもあると思います。現状、その2者は特に区別されることなくNew England IPAと称されていることが多いです。ブルワリーによっては、Hazy IPAとだけ呼んで差別化しているところもあります。
つまり、あなたが目の前にしたNew England IPA が苦かったからと言って、こんなのNEIPA じゃない!なんて目くじらを立てずに、フィルターをかけずにただ目の前にあるビールを楽しんでください。もちろんおいしくないビールは世の中の敵ですよ。それは論外です。
西海岸へ行った数か月後、Craft Brewer’s Conferenceに参加した際に、首都ワシントンDC には数多くのNew England IPA が集結しており、その中にはもちろん地域を問わず様々なNEIPA がありました。その中において、ブルワーたちはお互いを尊重しあうし、お客さんもこれはこれでうまいね、みたいな感じで分け隔てなく飲んでいました。そもそも枠にきっちりはめちゃうなんてクラフトビールらしくないですよね。
この記事がNEIPA って一口にいっても色んな差があるんだ、というのを理解するきっかけになると嬉しいです。なんだか偉そうなことを書き綴ってしまいましたが、粗さがしとかしてたたかないでくださいね。私自身そこまでNEIPA のファンじゃないので(笑)時代はやっぱりクリアネス!!
鈴木 諒
Ryo Suzuki
DevilCraft brewery brewer
http://www.devilcraft.jp/
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