AMERICAN BEER COLUMN #7 -「アメリカ西海岸ビールのススメ」-
TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.14(2017)
年間を通じて多くの観光客を魅了してやまないアメリカ西海岸。暖かい気候、そして毎日降り注ぐ初夏のような日差し。ビーチには砂遊びに夢中の子供達を横目に沖ではサーフィンやボートを楽しむ老若男女。サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴに代表される西海岸は食文化流行発信地。もちろんクラフトビールを楽しむには十分すぎるほどのエリア。「今年おいしい旅行に行くなら!」と思っている皆さんへの「オススメ」を今回はピックアップ。
私が拠点を置く南カリフォルニアを代表するのは、一つの街に1軒以上のブリュワリーがひしめくと比喩されるビール天国サンディエゴ。15 年ほど前にできた数々のブリュワリーは今やサンディエゴのみならず、西海岸はもとより、アメリカを代表するブリュワリーにまで成長し、いまやほとんど全州で人気を博しているブリュワリーも数多い。中でもStone Brewing はアメリカ東海岸リッチモンドに新たな拠点を構えて東海岸の需要増に応えている。さらに、昨年秋にビール伝統国ドイツにヨーロッパ向けの生産拠点とその文化を発信するレストランも併設し、その大きな決断が業界に大きな衝撃を与えたのは記憶にも新しい。
ストーンは大手が占める酒類業界にクラフトビールの為の風穴をあけるべく卸業社「StoneDistribution」を設立。西海岸のクラフトビール普及に大きな貢献を遂げた。
北カリフォルニアの大都市サンフランシスコにはSierra Nevada Brewing、Lagunitas といった実力を兼ね備えた食文化発信力を持つ威厳あふれる巨匠たち。特に絶大なカリスマ性を備えたSierra Nevada Brewing 創業者のケン・グロスマンはBeer Camp と銘打ったプロジェクトでアメリカ国内外のブリュワリーとの異色のコラボレーションで業界の発展、技術力の向上に大きく貢献し、その信頼感は絶対的なものがある。揺るがない存在感はカリフォルニアではもちろんのこと、大都市ニューヨークやシカゴといったアメリカ中東部でも絶大なファンを持つ、いずれも「アメリカビール」を語る上で欠かせないことは本誌をご覧の皆様ならすでにご存知だろう。
さて、北のサンフランシスコ、南のサンディエゴに挟まれたロサンゼルスはビバリーヒルズやダウンタウンなど、エンターテインメントとしても人口としても世界を代表する大都市圏でありながら「クラフトビール不毛の地」とまで揶揄されていたのはほんの数年前。ただ、それまでクラフトビール好きなロサンゼルス住民は、車を駆使すれば美味しいビールにたどり着けた。南のサンディエゴ方面には、車で2時間弱あればトレンド感あふれるModern Times やビーチサイドが魅力のPizza Port Brewing、もう少しCoronado Brewing のあるコロナド半島まで行ったとしても2時間半はかからない。もしくはロサンゼルスから東に40 分ほどのアナハイムに行けばマニアには嬉しいThe Bruery、Bottle Logic Brewing、Phantom Ales があり、北に進んでカリフォルニア中部パソロブレスにあるFirestone Walker Brewing やBarrel Works までは車で3時間ほど。そんなロサンゼルスの地が車を飛ばさなくても楽しめる「今まさにクラフトビール的に旬な」非常に熱い地域として、流行に敏感な西海岸の人たちに大注目なのである。
西海岸にあるブリュワリーを紹介するフリーペーパーとしてよく知られている『West Coaster』(主に南カリフォルニア)だが、ロサンゼルス地域のブリュワリーやビール情報を紹介するローカルフリーペーパーその名も『Beer Paper LA』。この情報がまたビール好きにはいてもたってもいられなくなるような、毎月様々な「ロサンゼルス」でのビール情報が掲載され、数多くの地元に根付くブリュワリーやブリュワリーパブが紹介されている。
LA のビール事情が載るフリーペーパー『Beer Paper LA』。なかなか濃い内容ながらも幅広く網羅されている。
大都市LA が大きくクラフトビールの拠点になりつつあることは、ロサンゼルス便が多く飛ぶ日本やアジアの国々からのビール好きな観光客にとって、間違いなく朗報。地元が驚くほど、小さなローカル向けのブリュワリーパブや品質を重視したクラフトビールレストランが雨後の筍のように毎月のように誕生していることからも、クラフトビール支持層が拡大していることは明白。Sierra Nevada Brewing が毎年各都市を回るBeer Camp Fest でも昨年は南カリフォルニアとしてLA(正確にはLong Beach で開催)が選ばれ、実際そのカリスマ創業者、ケン・グロスマンがビールをサービングする姿があることからも、LA を重要視している証拠でもある。
シエラネバダ主催のビアキャンプ・アクロスアメリカin LA での一コマ。カリスマ創業者、ケン・グロスマンのサーブしたビールを片手に話ができるなんて‼︎
そして忘れてはならない最近ホットスポットとして注目されるアナハイム。アナハイムと言えば観光客も多く訪れるディズニーカリフォルニア。ここは以前よりKarl Strauss Brewing やSierra Nevada Brewing、さらには人気の「カーズ」のアトラクション近くでカーレース繋がりのBear Republic Brewing のビールが飲める。さらにアナハイムはベースボールのエンジェルス(Angel Stadium of Anaheim)、アイスホッケーのダックス(Honda Center) の本拠地でもあることから各スタジアム内でもクラフトビールが飲めることは前に本コラムでもご紹介したが、昨年秋にエンジェルススタジアムの目の前にKarl Strauss Anaheimがオープン。エンジェルスのキャップが目印の入り口や壮大なスタジアムを見ながらテラス席でも楽しめるブリュワリーレストラン。もちろんスモールバッチのビールも。
個人的なオススメは、地元フリーペーパーで表紙を飾った経歴もあるBrouwerij West(ブリューリウェスト)。アメリカ最大級の港、ロングビーチ港を目の前に有するサンペドロエリアにある。思い起こすとサンディエゴに多くのブリュワリーができていた頃、その多くが「ビジネスパーク」と呼ばれる異業種のオフィスが連なる平屋のような場所に位置していたが、ここでもその雰囲気を感じた。ただ、大きく違う点は、ロケーションが「ビジネスパーク」ではなく「クラフトエリア」とも言えるような「手作り感」が立ち並ぶエリアであること。向かい側は大きな商業展示スペースとパーティーが可能な広い建物があり、商業スペースは小さく区切られたそれぞれのコマに、手芸作品や手製のジャムや蜂蜜、さらには芸術的な写真やビーチで収集された流木を使ったアート作品の展示即売までさまざまなジャンルの「クラフト」に出会える。そんな一区画に位置するクラフトブリュワリー。平日は会社帰りの若いビジネスマンたち、週末ともなるとロゴの入ったグラウラー(詰め替え容器)を持った比較的若い年齢層が多い。ブリュワリーのタップハンドルはレゴブロックで作るというどこまでも「クラフト」感があふれるこのブリュワリーは、ベリーや柑橘類のフルーツを使ったアメリカンベルジャンのスタイルを得意とし、少量ながら缶商品も生産。まもなく1周年を迎えるというこれからが楽しみなブリュワリー。
日本帰国前はロサンゼルス空港から20 分ほどのVenice Beach にできたFirestone Walker The Propagator に。西海岸のおいしい発信のツボは無限大。
アメリカではアルコールは21 歳から。どんな風貌であったとしても(!)ID を持参しないと飲酒できない場合があるのでご注意を。
ヴェニスビーチにあるThe Propagator。週末の午後からでも、のんびりフラッと立ち寄れる距離で安定したおいしさを満喫できる。
大平朱美 akemi ohira
( 株) ナガノトレーディング代表取締役
アメリカビール冷蔵管理輸入のパイオニア。アメリカ食文化情報発信基地として横浜関内に直営店Antenna America を運営。カリフォルニア在住。
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