藤田こういちのベルギービール新書 9 -ベルギービールの賞味期限〜ボトルの美味しさ〜-
TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.23(2019)
日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、ベルギーに行くと年代のついたヴィンテージ、もしくは数年寝かせたビールを飲むことがあったり、そこに特化して飲ませてくれるお店があったりします。ベルギーでは地下のある建物が多いので、だいたいビールのストックが多いお店は地下にセラーがあり、そっと丁寧に持ってきておりを入れないようにサービングしてくれます。ベルギービールはボトルコンディション(瓶内熟成)が非常に重要なファクターです。多くの醸造所にはボトリング後に瓶内二次熟成をさせるためのセラーがあり、ボトリングの際に瓶内熟成を促すプライミングシュガーと酵母を入れて栓をします。その後20 ~ 25 度くらいのセラーで、数週間の熟成を経て出荷ということになります。
日本ではボトルと樽生があると樽のほうが美味しいというイメージがありますよね?おそらく大半の人がそうかと思います。もちろんビールのスタイルにもよって違うので、フレッシュなうちに飲んだほうがいいものもたくさんありますし、ボトルと樽生があれば樽生を選ぶというのは自然な流れです。ただベルギーでは日本とは逆で樽生よりもボトルのほうが美味しくなる、クオリティが高くなると言う人が多いです。
そもそも賞味期限って、美味しく飲める期限?ベルギービールに関していえばそんなことはありません。もともとベルギービールには賞味期限の表記はありませんでした、EU 加盟後に義務付けられたものです。熟成に向くものは比較的ハイアルコールでボリュームのあるもの、ブラウンタイプのもの、ランビック(特にグーズ)だったりだと思いますが、それに当てはまらないものもありますし、実際に時間をおいてみて、飲んでみないとわからない話。
私が最高に驚いたのは、かの有名なカンティヨンのグランクリュブルオクセラというランビック。もともとはストレートランビックで泡の全くたたないフラットなものなのですが、そのおそらく20 年近く経ったものを開けた際に元気よく発泡していて、しかもものすごく美味しかったこと。こんなこともあるんだなと思いました。グーズランビックに関して言えば、だいたいですが、ボトリング後20 年の賞味期限がついています。これ、仮に過ぎたとして味が落ちると思いますか?そこまで持っているのも大変ですが(笑)20 年と21 年に大きな変化が、ましてや飲めなくなるほど味が落ちるとかは考えにくいですよね、むしろ賞味期限が「あってないようなもの」と考えたほうが良いでしょう。ただ醸造所の人の中にはフルーツランビックは置いておくと風味がとんでしまうから早く飲むのも美味しいよ、と聞いたこともあります。
ビールは嗜好品です。もちろん好みがありますが、熟成していくビールをどのタイミングで飲むかはなかなか難しいもの。もしそういうビールをお持ちでしたら、何人かでシェアして飲んでみることをおすすめします。仮に美味しくても美味しくなくても、その体験をした人たちはもう仲間です。私はそういうビールは勿体なくて一人では飲めないので、人が集まるときに開けて誰かと飲む、体験を共有するようにしています。そのほうが楽しいんですよね。そうするとなぜか仲間意識が生まれるというか、勝手に友達になった気になります(笑)一期一会のビールを一緒に飲む、そう言ったところもビールの楽しいところの一つだと思います。
個人的な経験からいうと、日本でベルギービールを熟成させる場合しっかり温度管理されて輸入されたものであれば「伸びる」と思います。反対に輸入時のダメージがあるものや保管状態の悪いものはおそらく「落ちる」劣化の方向に向かうのではと思います。もともとのビールのポテンシャル、熟成に向くかどうかももちろん重要です。保管の際はワインセラーであれば問題ありませんが、なかなか家庭にあるものではないと思うので、温度変化の少ない冷暗所に保管してください。冷蔵庫に長く入れておくのはおすすめしません。
デュポン醸造所のボンヴーというビール、自分も大好きですが、その昔ドライコンテナで輸入されたかなり古いボトルを飲む機会がありました。残念ながら飲めたものではありませんでした。その時の味わいは埃っぽいというかカビ臭いというか、誰が飲んでも不味いと感じるものだったかと思います。しかしある時、別の機会に同じように少し時間が経ったもの、おそらく期限を過ぎて5 年くらい経ったものだと思いますが、前回飲んだような風味はなく、熟成感がありとても美味しかったことがありました。
数年前、私がベルギーに名誉騎士の任命式で招待された時に、京都醸造のポールさんとクリスさんが同じタイミングでブラッセルズビアプロジェクトが主催するビアフェスに参加するために、ベルギーを訪れていました。彼らのリスペクトする醸造所の一つがデュポンであることを公言してくれていたこともあり、デュポン醸造所に行ってもらうことになりました。(※現在は通常月に1 回のオープンデイ以外は見学できません)そんな時ポールさんとの会話で、現地でボンヴーを飲んだけれども、日本で飲むボンヴーのほうが好きかもしれない。そんな話を聞いて、私も全く同じような経験があり、共感したのを覚えています。初めてベルギー、デュポン醸造所を訪れた際、大好きなセゾンデュポンを現地で飲めると思って意気揚々と興奮していました。醸造責任者のオリビエさんが注いでくれたセゾンデュポンを飲んだのですが、あれ?もちろん素晴らしいビールには違いありません、でも明らかに若いんです。デュポンの特徴として瓶内熟成を非常に重要視しているので、ボトル特に大瓶で熟成されたものは、樽生やボトルに詰めたてのものとは明らかに違います。簡単にいうと角が取れてまろやかになり、深みが出ます。
それからブラッセルズ大手町で、モアネットブロンドという銘柄の樽詰めから3 年近い樽を飲む機会がありました。1 本だけ実験的にとっておいたものです。定温倉庫で静置。すりおろしリンゴのようなフルーティーなエステルと滑らかなマウスフィール、絶品でした。この「すりおろしリンゴ」デュポンの状態の良いときに、私の尊敬する先輩がよく言っていた言葉、まさにその通りでした。このすりおろしリンゴに当たったらラッキーです。
ボトルも開けたときによって状態が違いますが、樽生ビールもその状態の違いが顕著に現れる時があります。注ぐ際、それぞれに状態が異なるので、ガス圧を変えたり、ラインを伸ばしたり、流量調整したりと色々とビールに合わせて調整をするのですが、大変な反面、そこが一番の醍醐味というか面白さだと思っています。今回の樽はこんな感じか。。。なんて合わせて調整してバチっと決まった時には嬉しいものです、設備等の違いもあるので、これが正解というものはなくそのシステムに合わせて、樽の内部の状態、置かれている状況などにも注意して注がなければならないのですが、そこはビアカフェの人たちの腕の見せ所。ビールを理解して、美味しいビールを注ぐ。1 杯1 杯表情が違うビールを注ぐこと、簡単なようで難しいんですよ。
ちょっと話はずれてしまいましたが、いずれにしてもビールは生き物、面白いんです。樽生もいいんですけど、もっとボトルビールも飲んでみてはいかがでしょうか。
藤田 孝一
Koichi Fujita
セゾンデュポンなど数多くのベルギービールを輸入するブラッセルズ株式会社 取締役
【Facebook】https://www.facebook.com/brussels.jp/
【Beer Bar BRUSSELS】http://www.brussels.co.jp/
【輸入部オンラインカタログ】https://www.brussels-import.com/
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