AMERICAN BEER COLUMN #23 -「ビール界の女子パワー」編-
TRANSPORTER BEER MAGAZINE No.30(2021)
毎年3 月8 日は女性の権利と世界平和を掲げる「International Women’s Day =国際女性デー」。この日にあわせ、ビール業界の女性達が「女性による女性のためのビール」を世界各国で発表するのをご存知だろうか。アメリカだけでなく世界の女性ブリュワーや女性のビール関係者によって組織されるPink Boots Society(ピンクブーツソサエティ)という非営利チャリティ活動。この「国際女性デー」は、そんな彼女たちがPink Boots Collaboration Brew Day(ピンクブーツ・コラボレーションブリューデー)として女子パワーを一段と発揮する日でもある。
< Maria Stipp / Stone Brewing CEO >
今私が1 番注目している気になる存在、カリフォルニア州サン ディエゴにあるストーンブリューイングのCEO マリア・スティッ プ。彼女がストーンのCEO を引き継いだのは2020 年9 月のこ と。新型コロナ感染拡大が続き、クラフトブリュワリーだけでな く多くの製造企業が未曾有のダメージを受けているまさにほんの 半年ほど前。さらに就任直前の彼女の前職は、なんと犬のマーク でおなじみのラグニタス・ブリューイングのCEO。だからこそ ラグニタスでの活躍を知る業界関係者は一様に驚いた。なぜなら 彼女が就任してからブリュワリーのサイズは2倍、アメリカでの 「Lagunitas IPA」の売り上げは他を引き離し、国外への輸出も 37 か国へとジャンプアップさせた実績が物語る。一言で言うな ら「やり手」だろう。ビール情報サイト『Brewbound』でも就任 直後から特集を組んで注目するなど、業界としても大きな話題と なっている。弊社はラグニタスともストーンとも長い取引の歴史 があり、創業者、CEO、COO、さらに営業総責任者から輸出担 当者まで、異動や交代などはあっても長年にわたり交流してきた。 だからこそ、ストーンからこの一報を受けたとき、本当に驚いた のと同時に、ストーンの本気度とこれからのストーンの成功を確 信しているが、このコロナ禍からどんな手腕を見せてくれるのか 楽しみだ。マリアは本物の成功請負人なのだから。
< Laurie Porter / Smog City Brewing Co-Founder >
夫のジョナサンと一緒にロサンゼルスでスモッグシティ・ブ リューイングを創業したローリー・ポーター。夫がブリューマス ターとしてビール造りに専念できるのも、次々に新しいビールを 造り出せるのも、妻でありベストパートナーのローリーがいるか らこそ。創業当時、彼女はポーターの作ったビールを自分で車に 乗せて配達に行く際、まだ幼い息子も車に乗せて営業先に出向い ていた。今も営業から広報、タップルーム運営から財務管理に至 るまで運営を一手に引き受ける。こまやか、かつ正確さを要求さ れるような仕事もさらりとこなす一方で、人々を束ねてリーダー シップを発揮するようなこともスマート。さらに、そのリーダー シップはスモッグシティの社内だけに留まらない。ロサンゼルス 地域のブリュワリーの活性化のため、ロサンゼルスカウンティー の醸造家協会やカリフォルニア地域のクラフトブリュワーズ協会 の理事に加わるなど積極的かつ社交的。ここまで来ると天は二物 どころか三物も四物も与えていると思わざるを得ないほど。そし ていつも笑顔、笑顔、笑顔。経営者たるもの、母たるもの、妻た るもの、なかなかの両立ぶりにはいつも感服する。そしてそのい くつもの役回りを楽しそうにこなし、またおいしいビールを広め る。今、あなたの手にスモッグシティのビールがある?それなら 今あなたは笑顔になっているはず!
< Kim Lutz / Maui Brewing Brewmaster >
ハワイの地元が誇る商品しか採用しないハワイアン航空で採用、提供されているブランド。それがマウイブリューイング。キム・ルッツはそのマウイブリューイングのブリューマスターだ。「オハナだから」とマウイブリューイングの創業者ギャレット・マレロはキム・ルッツのことを表現する。「オハナ」とはハワイ語で「家族」を意味する。カリフォルニア州パソロブレス(ファイアストーンがある場所!)のワイナリーでキャリアをスタートさせたキムはルームメイトが持っていた自家醸造キットをきっかけにクラフトビールにのめり込む。ハワイに渡り、まだ駆け出したばかりのギャレット率いるマウイブリューイングのブリュワーとして学びはじめると、彼女の探究心と向学心は上昇し続け、ブリュワーとしてわずか数年でリードブリュワーとして偉業を成し遂げる。キムがレシピを考えた「La Perouse」2010 年Great American Beer Festival(アメリカ最大のビアフェスティバル)、そして続く2012 年World Beer Cup(2 年に1 度開催される世界的権威のあるビール界のオリンピック)での連続受賞!受賞後、直向きで真面目なキムは「もっとビールを学びたい」と考え、ギャレットに相談し、クラフトビールの競合がひしめくサンディエゴで学ぶことを決心する。彼女は「大学に行って学んできたら、また戻ってくるわ!」と表現したという。サンディエゴに渡った彼女はSaint Archer Brewing のリードブリュワーとなり、さらなる知識と技術を身につけ、「故郷」に戻ってきた彼女をギャレットは「オハナだから」と、マウイブリューイングのブリューマスターとしてのポジションと共に迎え入れた、というわけだ。知識や技術に対しての評価におごることなく、相手や周囲に対して常に敬意を払い、いかなるステップでも人間関係を大事にする。少しシャイで照れ屋なキムだが、お手元に届くマウイビールを飲みながら彼女の勤勉さやひたむきさを感じてもらえたら。
< Valerie Hicks / Firestone Walker Brewing Brewer >
冒頭で紹介した「ピンクブーツソサエティ」のコラボレーショ ンブリューデーにLA 支部として参加しているのがファイアス トーンウォーカー・ブリューイングの唯一の女性ブリュワーでも あるヴァレリー・ヒックス。ヴァレリーは大学卒業後にファイア ストーンのタップルームのホールスタッフとして入社して1 年ほ どでブリューイングに興味を持 つようになり、ブリュワーとし てパートタイムで修行を始め、 今やグレートアメリカンビア フェスティバルでの受賞ビール に携わるなど、ブリュワーとし ては異色の経歴を持つ、貴重な ブリュワリー唯一の女性ブリュワーだ。ピンクブーツのコラボレー ションブリューに関して、LA 支部の最初のミーティングはファ イアストーンウォーカーのプロパゲーター・タップルームで行わ れた。「マッスル(筋肉)ビーチ」とも呼ばれるベニスビーチは元 カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガーも来 ていたボディビルダーやフィットネスを愛する人々の聖地。ちな みにゴールドジムの1号店、隣には「プロテインシェイク」のお 店もある。話を戻して。そんなちょっと個性的なビーチに近いファ イアストーンウォーカーのタップルーム「プロパゲーター」はパ イロットブリューイング(実験的に少量で造る施設)を備えてお り、そこで参加した女性達から様々な意見交換が行われ、コラボ レーションブリューが行われた。ヴァレリーは語る。「この業界で の女性は人数が少ないことから、やりがいがありながらも孤独に 陥ることもあります。仕事を成功させる能力があるというあなた の自信を、女性だからという理由で他の誰かが何かを言ったから といって妥協しないでください。不必要にへりくだる必要はありません。成功した結果がすべてを物語るはずです。そんなやりが いを私たちはビールで表現して女性を応援します!」
この業界にいる女性の一人として(国際女性デーでなくても!)活躍する世界の女性達に乾杯!
大平 朱美
akemi ohira
( 株) ナガノトレーディング 代表取締役
アメリカンクラフトビール冷蔵管 理のパイオニア。アメリカ食文化 発信基地Antenna America(品 川・横浜・関内)を展開。夫は 創業者 Andrew Balmuth。
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